トンボの子

トンボの子
 仕事帰り、僕は原っぱに挟まれた道を歩いていた。辺りは夕陽で赤みがかっていて、トンボがたくさん飛んでいる。  トンボを見上げながら僕は、子どもの頃のことを思い出した。  僕はよくこのあたりで虫捕りをして遊んでいた。バッタとかカマキリとかチョウとか。そして、秋になればトンボを捕まえた。  秋ごろのある日のこと。その日も、いつものように原っぱに来ると、知らない女の子がいた。  その子は、飛んでいるトンボを追いかけながら人差し指を上げていた。 「動いたら止まんないよ。」 僕がそう言うと、 「うるさい。知ってる。」 とその子は少しむすっとして言った。そして立ち止まると、指を上げてじっと動かなくなった。
須玖漠雨
須玖漠雨
小説書いてます。 Twitter : @sugubaku