野乃

3 件の小説

野乃

ミルクティー

自販機で飲み物を買おうとしている時に「お、ミルクティー買うの?」と聞かれた。ドキッとした。父親を思い出したからだ。子どもの頃以来、父とは会っていない。聞いてきた人は、曖昧に記憶している父親と名前が同じで、なんなら見た目も髪型も似ている。こんな事あるのかと、今でも驚く様な気持ちでいる。 ミルクティーは、数少ない父親との思い出がある飲み物だ。寒い日に、隣町の漁港までドライブして自販機で缶の紅茶花伝のミルクティーを買ってもらった。たぶん、人生で初めて飲んだその缶のミルクティーが、とても美味しかった。それだけの思い出。寒いから持つと熱く感じたが、飲むとぬるかった事を覚えている。 父親との思い出を良いものとして記憶している事が、母を裏切っているような気がして何故か罪悪感がある。甘くて、美味しいのに少し罪悪感を感じる事を不思議に思いながら、やっぱり美味しいなと飲み干すのが私の飲み方だ。 ミルクティーは、甘くて美味しい。

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トマト

「真っ赤だね。」 笑いながら、そう言われて更に顔が赤くなる。トマトを上手く食べられなくて、顔も服もベタベタになってしまった。ティッシュで拭いて、水で濡らしてまた拭いてある程度落ちたところで、 「川にいこ!」 そう言われて少し、いや結構テンションを下げたまま近くの川へ遊びに行った。 夏の暑い日。川に入りながら、トマトを持ってきて冷やせばもっと美味しかったかなぁと考えていたら、 「さっきのトマトとか、スイカとか持ってくれば良かったね。」 あ、好きだ。言われた瞬間に自覚した。トマトのシミが更に恥ずかしくなった。

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波打ちぎわ

空を見上げた。繰り返す波を見て、自分の毎日みたいだなって思った。同じ事を何度も何度も。 波を見ていると、だんだんと砂に埋もれた貝が出てきた。綺麗だった。 拾って帰りながら、波打ち際みたいな事を繰り返しても、時々綺麗な貝を見つけられたら、まあ、いいか。そう思った。

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