ミルクティー

自販機で飲み物を買おうとしている時に「お、ミルクティー買うの?」と聞かれた。ドキッとした。父親を思い出したからだ。子どもの頃以来、父とは会っていない。聞いてきた人は、曖昧に記憶している父親と名前が同じで、なんなら見た目も髪型も似ている。こんな事あるのかと、今でも驚く様な気持ちでいる。 ミルクティーは、数少ない父親との思い出がある飲み物だ。寒い日に、隣町の漁港までドライブして自販機で缶の紅茶花伝のミルクティーを買ってもらった。たぶん、人生で初めて飲んだその缶のミルクティーが、とても美味しかった。それだけの思い出。寒いから持つと熱く感じたが、飲むとぬるかった事を覚えている。 父親との思い出を良いものとして記憶している事が、母を裏切っているような気がして何故か罪悪感がある。甘くて、美味しいのに少し罪悪感を感じる事を不思議に思いながら、やっぱり美味しいなと飲み干すのが私の飲み方だ。 ミルクティーは、甘くて美味しい。
野乃