幸せなまぼろし
4 件の小説一秒
一秒あったらなに出来る 教室で貴方を見つけられる 一秒あったらなに言える 貴方への好意を呟ける 一秒あったらなに知れる 貴方の寝癖の具合が分かる 一秒あったらなに願う 貴方と友達になりたいと願う 一秒あったら目が合うね 恥ずかしくて顔は見れないの 一秒あったらどこに行く 貴方に向けて一センチ進む 一秒だけじゃ足りないよ それを望むことは許されない 叶わない恋なのだから 一秒くらいは許してよ
鳥
子供の頃に書いた『将来の夢』の作文。 そこには 鳥 と書かれていた。 昔から空を見上げる理由は 鳥が飛んでいたからだった。 大小関係なく、鳥を見ることが好きだった。 自由に空を飛び、天気と一体になる。 生きるために自力で餌を取る。 時には敵と戦うことだってあるだろう。 良い事ばかりでないなんて分かっていた。 それでも、鳥になりたかった。 鳥は 親に大事にされ愛されている。 鳥は 自分の家でないところでも生きる。 鳥は その羽根が折れない限り落ちることはない。 家族から愛されることなく 自分の家から出ることを禁じられ 痩せ細って傷だらけの身体で苦しむ自分。 鳥には到底及ばない。 だからこそ、鳥になることだけを夢見ていた。 夕暮時。 窓枠のキャンバスにある空には いつも烏がいた。 どんなに美しい鳥よりも 烏が魅力的だった。 あの黒さが この苦しみを飲み込んでくれる気がした。 あの羽根が 自分にも翼をくれる気がした。 あの集団が 自分が欲した愛を表現している気がした。 今日こそ。 今日こそ 生まれ変わるんだ。 我慢してきた。 言う通りにしてきた。 自分のためにしたことなんて一切ない。 ここまで他人に尽くした人間はいるはずがない。 だから 僕は 鳥に生まれ変わるんだ。 おやすみなさい。 僕が大嫌いな僕。
赤い糸
貴方は赤い糸を信じますか？ そうですか。 『信じない』と……。 信じられないかもしれませんが、 貴方の小指には三本の赤い糸があります。 はい。 貴方に運命が三回訪れる、ということです。 そんなはずない？ そう思うのも当然でしょう。 貴方の薬指には指輪が光っていますものね。 でも、よく思い返してみてください。 ……高校生のとき。 いませんでしたか？ 貴方の人生を変えてくれた人が。 ありのままの自分を受け入れてくれた人がいた。 そうですか。 一本はその方との運命です。 そして貴方と指輪で繋がっている人もまた 運命の相手でしょう。 共に生きていても息苦しくない。 自分らしさを滲み出せる相手。 当たってます？ そうですか。 良かったです。 …最後の相手はって。 指輪の方と幸せになるのでしょう？ それなら聞く必要は無いです。 これを聞いたら貴方はきっと 指輪の決断を揺るがしてしまう。 …知りたい。 そうですか。 最後の相手は俺だよ。 久しぶりだね。 高校卒業してから 一度も連絡くれなかったもんな。 良いんだよ。 お前は俺と違う。 ちゃんと彼女が出来て、 結婚できるんだろ？ もう一度、俺と結ばれる必要は無い。 たださ、 俺は 女なんかじゃお前の埋め合わせには ならなかったよ。 じゃあな。 俺じゃない相手と 俺のいない世界で どうかお幸せに。
天気
この世界には天気がある。 おいおい。 そんな顔しないでくれよ。 この世に天気があるのは当たり前だって？ 違うんだよ。 “天気”は俺たちの感情だ。 雨が降った日に生まれた子供は雨男・雨女。 晴れている日に生まれた子供は晴れ男・晴れ女。 こんな感じで俺たちは生まれた時に“天気”を貰う。 ただし全員が同じ“天気”を貰えるわけじゃない。 雨男と言っても、ぽつぽつと細い雨しか降らない男もいれば土砂降りの雨も降れる男もいる。雨女も同様だ。 性格と同じでそれぞれに個性がある。 だからこそ国は大きな“天気”の人間を大切にする。 就職や補助金、恋愛にまで“天気”は影響してくる。 逆に相性とかはわかりやすいよ。 定番は雨と晴れかな。 自分と逆の“天気”の人間との相性が一番良いって言われている。 夫婦やカップルの九割が定番の組み合わせだ。 そうじゃないと均衡が崩れるからだ。 どちらかが荒れている時に真反対の人間がいないと病院に行かなければいけない。 周囲に迷惑がかかるからさ。 君だってずっと雨が降っていたりカンカン照りのままだったりするのは嫌だろ？ そういうことさ。 あ、俺？ 俺は父親が“雷”、母親が“雪”さ。 俺はどうなるのって？ そんなの聞いてどうするんだよ。 こんなに流暢に淡々と話せてるのに君と同じく精神科に閉じ込められているんだよ。 その時点でもう察せるよな。 まあ、“天気”をよく知らないならしょうがないか。 俺は“嵐”だ。 俺の感情の起伏でここら一帯が被害を受ける。 だから閉じ込められてるんだよ。 それで、君は？ 君はなんで俺と同じ扱いを受けてるんだい？