優涼 雪(やさすず ゆき)

5 件の小説
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優涼 雪(やさすず ゆき)

初めまして、ちょこちょこ恋愛小説をアップしたいと思います。ジャンルは、TLとか、BLとかです。

窓を開けたら、別れた元彼の部屋に繋がった

「……は?」 お互いに顔を見合わせる。 お風呂上がりだったのか、肩にはタオルをかけ、まだしっとりとした頭にはヘアバンドをつけていた。 おまけに勉強中だったらしく、手にはシャーペンを持ち、人前では絶対にかけないと言っていた丸眼鏡をかけ机に向かっている。 「おま…なんで……。ここ、五階なんだけど…?」 彼はそう言うとふらふらと椅子から立つ。 自分も頭が真っ白になって硬直する。 一体何が起こってるんだ? なんで窓を開けたら、人の家に…。 何これ、心霊現象?それとも夢?幻? 何か変な薬でも飲んだっけ。 色々な考えが頭の中を駆け巡って声も出ない。 さらには彼が近づいて来てパニックになって窓を思い切り閉めてしまった。 −−パシンッ!! 「...??..?」 窓を閉めると、外にはもういつもの景色が戻っており、顔面蒼白になった自分の顔が窓ガラスにうつっていた。 まだ胸がドキドキしている。何が起こったんだ一体。 しかも、なんでよりによってあいつが現れるんだ。     彼は、約一ヶ月前に別れた元彼である。 原因はわからない。 でも、男同士だったし。 周りからの目とか、噂とか、そう言うものが理由なのではないかなと思う。 告白も俺からだった。彼とは中学校からの友人で、高校も同じで、意地悪なのだが少し優しいところに惚れた。 勢いで告白したら、散々悩んだ末にお試しで付き合ってくれることになった。 まぁ、振られてしまったが。 ……それが、なぜ今になってこんなことに? 俺はもう一度窓に向かい合って考える。 しかし、いつまでもそうやっているわけにはいかなかった。 −−ガラガラッ!! 「わぁっ!!!」 今度は元カレの方から窓を開けてきたのだ。 「マジでどうなってんだこれ。物とか、そっちに投げられんのかな」 先ほどよりはやや冷静になった彼の声に、自然と複雑な気持ちになる。 そうだよな。気まずいのは俺だけだよな。 気にしてるのも俺だけだから。 だからそんなに平気そうにできるのでしょう? 俺なんか、こんな超常現象が起こったって、 普通には接せないのに。 「………知らないよ。閉めていい?」 静かにそう呟いた。 その声はとても弱々しかった。 彼はその様子をバツが悪そうに見つめると  「閉めちゃダメ」と言い放った。 そしてティッシュ箱を持ってくると、俺の部屋に投げ込んだ。 「わぁ!!!何するんだよ!!」 「いや普通に中にはいんのかなって」 あぁ、そうだ。こう言う奴だ。 人の話は聞かないし。人の気持ちも考えない。 溢れそうになる涙を抑えて、彼を彼の部屋の方に押すと、窓を閉めて鍵をかけた。 結局その日はなんの音沙汰もなく、 窓が開くこともなかった。 部屋には、元彼が投げ込んだティッシュ箱が 寂しく落ちているだけだった。

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窓を開けたら、別れた元彼の部屋に繋がった

傲慢

世界で一番美しいもの? 僕の鼻じゃないかな。 世界で一番輝かしいもの? 僕の瞳に決まりだよ。 まだ続けるのかい? え? 宝石よりも美しいって? はぁ……。 宝石なんかと比べないでくれる?

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第三話 入学式

 沢山の数のパイプ椅子が、規則正しく並べられている。 まだ新しい体育館は、新入生と緊張感で満ちていた。ステージには美しい花が飾られており、 深い青の舞台幕は、窓から差し込む春の日差しを受けて滑らかに青を透かしていた。    男子生徒は太ももの上で握り拳を作り、女子生徒は太ももの上で手を重ねている。 春人もまた硬く手を握り、背筋をピンと伸ばして硬直していた。 緊張で口の中がカサカサになる。   ふと、静寂をすり抜けるように、ステージの下のドアの近くに立つ教頭先生と思わしき男性がマイクをとった。 「皆さん、おはようございます。入学式を始める前に、まず、自分のクラスを確認していただきます。パイプ椅子の下にあるパンフレットの三ページ目を開いてください。」 一斉にパラパラと紙をいじる音が体育館に広がった。春人もパイプ椅子の下からパンフレットを取り出し、自分のクラスを確認する。 (えーと…久賀谷…久賀谷…あ、あった) 今年の一年生の学年カラーは青らしく、新入生達の名前が載っているページも美しい青藍を背景としていた。 春人のクラスは一年一組。出席番号は16番だった。 一クラス四十人で全六クラス。三年間のうち始めの一年目はどの学科かは関係なく、全ての学科の人が混ぜこぜになっているので、この一年はたくさんの人と交流できるチャンスだ。逆にいうと、二年目からは学科ごとにクラスが分かれ、そこからは卒業まで同じクラスだからここで社交性を身に付けたいところである。同じ系統の人とばかり関わっていては社会性は培えない。一年目だけイレギュラーなのは、そういう理由からだ。    ある程度生徒が確認し終えたのを見て、教頭先生はまたマイクのスイッチをオンにした。 「それでは開会の言葉、在校生代表、向井さん、お願いします。」 「はい!」 元気のいい明るい声が体育館に響く。一同はステージに釘付けになった。舞台裏から、背の低い一人の生徒がゆっくりと歩いて行ってマイクの前に立つ。 教頭先生は、向井さんがしっかりとステージの真ん中に立ったことを確認すると「一同、ご起立願います。」と言った。その言葉に新入生達は、待っていましたと言わんばかりに素早く立ち上がる。 そんな新入生の様子を見て、向井さんは安心したような顔つきを見せた。

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第三話 入学式

第二話 アメリカからの帰国子女

 空の色は、今まで見たことがないくらいの穏やかな春の色だった。 しかし、そんなものが見たいわけではなかった。 春の、まだ少し寒い風が、陽成 春人(ひなり しゅんと)の頭を優しく撫でた。 「It's still a little cold……」 流暢な英語だったが、あまりに声が小さいので、桜の花が揺れる音にかき消されてしまった。 着慣れない日本の制服を着て、真新しいスーツケースを持って、ただ、路地に立っている。 ここは本当に東京か?あまりに静かすぎないか? 遠くにビルは見えるが、近くには桜の木と、少しの住宅しかない。春人(シュント)はGoogleマップを開いて、「藍坂総合高等学校」を探す。 そこで初めて、自分が道に迷っていることに気がついた。 「……」 ため息も出ない。さて、学校に着くのはいつ頃だろうか。 肩をすくめて自嘲した。

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第二話 アメリカからの帰国子女

春人という名の

 空の色は水色とも白とも言えない曖昧な色だった。それをぼーっと見つめる春人(はると)の目には疲労と緊張が入り混じった混沌の色が浮かんでいた。 強く吹き荒れる春の風に髪をかき乱され、今まで体験したことのない朝の人の波に揉みくちゃにされ、挙句、履きなれないローファーのせいで踵が擦れてしまった。  駅の近くのベンチに腰掛け、思う。入学式、始まる時間はまだ先だが、やはり早めに家を出てよかった。春人は途中で買った天然水を口に含んでため息をついた。実家がある福岡とは訳が違う。あんな山奥の田舎からやってきた春人からするとそこいらじゅうに立っている高いビルはどこか遠い未来の建設物に見えた。 まだ1日は始まったばかり。学校にさえ着いていない。こんな東京のど真ん中で、一人ぼっちだ。  学校に行くまでにどれくらい神経を擦り減らすんだろう。少なくとも、この踵の倍はボロボロになること間違いなしだ。春人はもう一度大きなため息を吐いてゆっくりと立ち上がった。 ここで立ち止まっていても、まったくもって意味がないことは明確だったからだ。  気疲れするのは最初から分かりきっていることだった。そんなこと、福岡の実家に家族を置いて行く時から覚悟していた。父には生活費や学費を負担してもらい、母には背中を押され、兄弟たちからは惜しまれた。 俺は愛されている。応援されている。何よりも、夢への一歩を踏み出させてくれたことを感謝するべきだ。こんなところで、こんなことで挫けている場合ではない。 揉みくちゃにされるなら好きなことでがいい。神経を擦り減らすのは、絵を描いている時だけでいい。  ど田舎から出てきた一匹の小鼠の歩幅は、少しずつ大きくなっていった。 東京のスクランブル交差点を渡って、相変わらず強い春の風に気圧されながら前に進んだ。  春人が向かう「藍坂総合高等学校」は、さまざまな分野を専攻する学科が展開されているマンモス校である。学科は全部で六つ。 一つは春人も通う美術科だ。その他、理数科、言語学科、音楽科、総合ビジネス科、普通科である。全学科共通で募集人数は四十人。一学年二百四十人。三学年合わせて七百二十人だ。 都内でもなかなかに有名な高校で、偏差値は六十七。倍率もかなり高いので四十人という狭き門を潜るためにはかなりの努力が必要だった。 春人が福岡の中学校で同級生にそんな話をすれば、「そげんとこ俺たちには無縁やな、こげん田舎じゃ無理や」と返される。確かに状況は最悪だった。どこを見渡しても山、山、畑、山。 町までは歩いて二時間半はかかる。学力のレベルもそこまで高くなかった。春人本人でさえ、言っているだけ、という感じが拭えず、「無理だろうな」という気持ちを抱きながら過ごしていた。そもそもそこまで「行こう!」とさえ思っていなかった。その高校のこともたまたま進路の本で読んだだけだったから、気持ちが足りていなかったのだ。  きっかけは母に連れて行ってもらったある画家の個展だった。小さい頃から絵は好きだったからイラストはたくさん描いていたけど、「美術」と出会ったのはそれが初めてだった。  衝撃だった。無数の色の重なりが一つの形を作り、それが絵になっていた。これが絵だった。 胸を刺された。これが絵だ。俺が今まで描いていたものは、絵なんかじゃない。目の前に広がる、額に収まっているのに、世界全てがその画家の色使いで満ちていた。 それは、煌々と煌めく美のいのちだった。春人は胸を掻きむしられた。 自分も、美術がやりたい。俺も、画家になりたい。 画家になって、個展を開きたい。自分の世界を色で表現したい!絵が描きたい!!  そんな衝動が、春人を突き動かした。自分の進路を見つめ直した。美術の勉強がしたい。なら、どうすればいい?それに精通した高校に行こう。この狭い田舎の中では、うごめくことしかできない。広い世界へ出ていきたい。 頭をよぎったのは、進路の本で見たあの高校だった。 そこからは死ぬほど努力をした。自分で参考書を町の方へ買いに行って、実技試験のためにデッサンの練習も欠かさなかった。春人の本気な様子に、クラスメイトも彼を応援するようになった。家族も全力でサポートしてくれた。 合格発表はインターネットでだった。涙で視界が震えてよく見えなかったけど、合格の青が、確かに春人の瞳を貫いた。  その時の感動を、春人は坂を登りながら思い出していた。そうだ。そうだ。俺は、夢を叶えに遠路はるばるやってきたんだ。ここに。  今、春の風が吹き荒れる中、春人は藍坂総合高等学校の門をくぐった。 「初めまして、、。」 それ以上は何も言えなかった。感動で涙が溢れそうだった。 初めまして、俺の人生。 ここから始まるんだ。 やっと、ここまで来た。俺はここで、夢を叶える準備をする。  遅咲きの桜の花びらが、激しく春人の頬を吹き抜ける。始まるぞ。そう言っているようだった。 大きく構える高校を前にして、春人は強気な笑みを浮かべた。先程まで混沌に塗れていた春人の瞳は、確かに、その姿を捉えていた。  

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春人という名の