春人という名の
空の色は水色とも白とも言えない曖昧な色だった。それをぼーっと見つめる春人(はると)の目には疲労と緊張が入り混じった混沌の色が浮かんでいた。
強く吹き荒れる春の風に髪をかき乱され、今まで体験したことのない朝の人の波に揉みくちゃにされ、挙句、履きなれないローファーのせいで踵が擦れてしまった。
駅の近くのベンチに腰掛け、思う。入学式、始まる時間はまだ先だが、やはり早めに家を出てよかった。春人は途中で買った天然水を口に含んでため息をついた。実家がある福岡とは訳が違う。あんな山奥の田舎からやってきた春人からするとそこいらじゅうに立っている高いビルはどこか遠い未来の建設物に見えた。
まだ1日は始まったばかり。学校にさえ着いていない。こんな東京のど真ん中で、一人ぼっちだ。
学校に行くまでにどれくらい神経を擦り減らすんだろう。少なくとも、この踵の倍はボロボロになること間違いなしだ。春人はもう一度大きなため息を吐いてゆっくりと立ち上がった。
ここで立ち止まっていても、まったくもって意味がないことは明確だったからだ。
気疲れするのは最初から分かりきっていることだった。そんなこと、福岡の実家に家族を置いて行く時から覚悟していた。父には生活費や学費を負担してもらい、母には背中を押され、兄弟たちからは惜しまれた。
俺は愛されている。応援されている。何よりも、夢への一歩を踏み出させてくれたことを感謝するべきだ。こんなところで、こんなことで挫けている場合ではない。
揉みくちゃにされるなら好きなことでがいい。神経を擦り減らすのは、絵を描いている時だけでいい。
ど田舎から出てきた一匹の小鼠の歩幅は、少しずつ大きくなっていった。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/2/15 10:38
優涼 雪(やさすず ゆき)
初めまして、ちょこちょこ恋愛小説をアップしたいと思います。ジャンルは、TLとか、BLとかです。