二重毛布

10 件の小説
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二重毛布

息をすること

生きることは息をすること 吸って 吐いて 瞬きして 繰り返す たまに呼吸の仕方をどうしていたか分からなくなって 海の中じゃ無いのに 独り溺れそうになる 私が立っている場所に影ができる この影は私がここに在る証 私が動くと影も動く まだ 私は生きている 生きていることが生臭くて堪らない 苦しい時間はだいぶ減ったけど まだあの時の私が泣き止まない 今でもゆっくりと心が血を流し続けている 自死こそ選ばないにしても この付録の人生の最期を想像しては救われる気もする ただ 死にたい訳では無い きっと私は人間として 程よく何も考えずに生きて行くのが どうしようもなく下手なんだ あまり他人は深く考えていないものらしい どうりで。 そりゃ、生きづらい訳ですね

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息をすること

溶氷

何が悲しいとか、そういうんじゃないんだけど私は何も努力ができていなくて。 例えば今日みたいにほんの少しだけ冷たい雨が降った時、私はその人に対して腹を立てるというよりも私はその人にとってその程度なのだと情けなくなる。 心にも通り雨が降るし、地面が乾いて平気になるまでまた少し時間がかかる。 部分的に優しい人でも、充電が切れると部分的に氷になる。 その人は真っ黒な目をしていて、別人みたいになる。 0か100のニコニコ人間は時に氷人間になって誰かの心を寒くする。 暖かいストーブと手袋が必要だ。

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溶氷

今朝買ったコンビニのコーヒー缶から教えてもらったこと。

缶コーヒーを何気なくベコボコにしてたら あーこれ哲学かもしんねって思って 多分この瞬間、日本で空き缶に集中してんの私だけやと思う。 なんて思いながら 一箇所押すと凹む で、それを元に戻そうと他の所を押すとちょっと凹みは治るけど他の所も少し凹むし、一度凹むと跡は残るし元には戻らない。 で、多方向から圧をかけて凹ませすぎたら、他の所も凹んでるから戻るだけの余力もない。 でも、同じ所は強度が固くなってそれ以上凹まない。 何回押してもそれ以上は凹まない。 人間の経験値にも同じことが言えるのではないだろうか。 強い人間というのは傷ついてその度に経験値を得て、それと同時に元の空き缶という形は捨てる事になる。 傷は付くし凹むんだけど、ある意味凹んだ事があると言う経験を得る。 その経験を繰り返す事で元の形にはもう戻れないし、綺麗な形ではないのだけれどある程度戦える程の強度を手に入れられるのではないか。 ある意味それは、『自分を守る為に心を麻痺させる』に近いものかもしれない。 麻痺させ感情をセーブ出来れば、これは大人と言っても差し支えないのかもしれない。 じゃあ、缶の凹みを治したかったら? お湯をかけて柔らかくするだろう これは思考の柔軟性を持ってしていれば。 いやそもそも、ペットボトルのように柔らかければ余程圧をかけなければ缶のように直ぐには凹まない。 でも私はペットボトルより缶の方が経験値を噛み締めているように思える。 傷を忘れるペットボトルより、一つひとつの傷を受け止め凹ました事を覚えて 根に持ち許さない缶は 凹まされてもその度に強度を更新して強くなろうとしている。 正しい傷付き方、正しく汚れていく 私はこの生き辛そうな缶を応援したい。 過去の私なら缶が一箇所凹んだら 凹んだ事実のみに何度も悲観し 凹んだ、あぁ凹んでしまったと 何度も何度も凹んだ事を思い出しその度に病み、新しい缶が欲しいと凹まない缶が正しいのだと自販機を転々としていただろう。 凹んだ箇所を数えては私はなんてダメ人間なんだろうと泣いただろう でも今は缶がいくら凹んでも新しい缶を探そうとはしないし、むしろ強度が付いてきた事に嬉しさを感じる。 踏み潰されても、それ以上潰れることはないし潰されたらどうしようと考えなくてもいい。 その時はその時で考えれば良い。 だから今はただ美味しくコーヒーを飲むのが正解なんだ 案外うまくいくよ 耐え凌ごう

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今朝買ったコンビニのコーヒー缶から教えてもらったこと。

有形無形の経験値

もうこれ以上 悲しい事なんてない もうこれ以上 怖いものなんてない もうこれ以上 楽しい事なんてない もうこれ以上 人を好きになることなんてない 何を言っているんだ 日々を更新し続ける限り  そんなことはないよ 良くも悪くもね 君は生きている限り これからも悲しい思いをするし 不本意に恥をかくだろう あの時の選択が果たして正しかったのか 考えて後悔する日もあるだろう 傘を忘れた雨の日のように 大事な日に忘れ物を思い出した日のように 歩いていただけで躓いたあの日のように 同じ様な境遇でも人それぞれに まるで受け取り方が違う この世は大人らしい大人なんて あまりいないもので 残念だけど優しい人ばかりじゃない 一得一失していく中で 人の冷たさ優しさに翻弄されながら それでも少しずつ君は強くなっていくんだよ 逆境に耐え凌ぐ君であれ

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有形無形の経験値

海中

私は車が怖い なぜなら私の家族を殺したからだ 私は車が怖い なぜなら技術が怪しい人でも乗れるからだ 私は車が怖い なぜなら短気で煽り運転をする人もいるからだ 私は車が怖い なぜなら認知機能が怪しい高齢者でも乗れるからだ 私は車が怖い なぜならお金がかかるからだ 私は車が怖い スピードを出すのが大好きな人がいるからだ 私は車が怖い 私も周りの人間もいつか人殺しになるリスクがあるからだ それとも殺される側になるのだろうか 出来ることなら車に乗りたくない あれは簡単に運転して良い代物ではない 人の命を食べる人喰いザメと同じだ 自分が乗っているのは 恐ろしいものだと言う事を忘れてはいけない 道路に出れば もうそこは 人喰いザメだらけの大海原である

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海中

火傷

大丈夫だろうと高を括る 予想以上に熱かった 急いで冷やす 馬鹿なことをした 冷やしてないと ヒリヒリと鈍い痛みが顔を出す もう過去には戻れない なんて馬鹿なことをしたのだろう 後悔をしても私の指の火傷は 無かったことにはならない この痛みが眠るのは時間がかかりそうだ よりにもよって利き手が選ばれるとは

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火傷

死に場所散歩

 その日は朝日が悲しい程に綺麗でした。地平線の向こうに見えるまんまると大きな橙色のそれは眩しく、力強く、冷えた砂浜に座る私を含め、周りを暖かい光で優しく包み込みました。早朝の海辺で泣きながら見たあの景色は今でも鮮明に思い出せます。  私の家から海は二時間ほど歩けば着きました。自殺の名所があったので、そこに行けば良い場所があるだろうと考えたからです。その時の私は前日の夜に準備を終えていて、今までとは比べ物にならない覚悟が出来ていました。  なんだか今日は確実な気さえしていて、願望が叶いそうだと少しばかりの妙な自信がありました。思い残す事も特には無く、不思議なほど清々しい気分でした。もう何も背負わなくて良いと言うのは何とも身軽。やっとだ、やっとこの重たい物を捨てて良いのだと言う喜びさえ感じました。  たとえ失敗に終わろうとも何度も行うつもりで、軽率に最期の場所を見つけに出かけました。 今日決められればそのまま逝こう。長引かせたくない、今日だと嬉しいなと思っていました。  リビングのドアを少し開き、テレビを観ている母に『少しその辺まで散歩に行ってくる』とだけを伝えると母はこちらを見ずに二つ返事で了承しました。   母は鈍感な人でした。臭い物には蓋をする、可能な限り面倒事は避けます。そして兎に角、世間体的な恥を気にする人間でした。 両親共に怒りっぽい人達でしたから、私は幼い頃から親をあまり頼りにはせず甘える事を徹底的に避けました。何故なら両親に愛されたかったからです。出来るだけ手が掛からなければ可愛がってもらえるのではないか、そう期待していました。  しかし、私の思惑は上手くはいかず、それとは裏腹に甘え上手で体の弱い弟が母によく可愛がられていました。  今だに私より出来の良い弟が可愛くて仕方がない、そんな母のことを私は心底良くは思っていませんでした。  きっと母は私が居なくなっても弟が居ればやっていけるでしょう。  リビングのドアを静かに閉め、玄関に向かいました。靴を履き、重たいとさえ感じる玄関の扉を開けるのは少々気が滅入りました。元々、外出が得意な人間ではないし、そして今から行おうとしていることは誰が見ようと人として褒められた事ではないからです。でも今日こそはと願いながら、ゆっくりとした足取りで海の方へ向かう事にしました。  監視カメラの記録に残っていると行方不明者として探された場合に面倒な気がしましたので、黒色の帽子を深く被り歩きました。気分は身軽でも人目が怖いのは変わらないままでした。  すれ違う人は私が今日で最期の人なんて思っても見ないでしょう。少し興奮さえ覚えました。  その日、学校は休みでした。一言に休みと言ってもそれは先の見えない長期の休暇でした。急に学校に行けなくなってしまった私は鬱症状だと診断してもらい今日に至ります。  心療内科の医者曰く、現段階でストレスが原因でしょう、今は心身を休めること。鬱症状は鬱病ではなく一種の過度な落ち込みである事。この症状が治療しても尚、半年以上続くようであれば鬱病として認定されると淡々と説明しました。よく覚えていませんが、確かそんな事を言われた気がします。     私にとって急に学校を休むと言う行為は恐ろしい行為で、休む事で親に迷惑をかける他、少しの間でも他人の話のネタになる事が一番耐えられない。 あぁ、現に休んでしまった。 もう後戻りは出来ない。  しかし、よくよく考えると人気者とは真逆の所にいる私が休んでもクラスメイトは痛くも痒くもない筈で。嫌で嫌で堪らないけど今頃、私をよく思っていない学校の人達は私の事を好きに言っているのでしょう。  そう考えるとまた苦しくなってきました。この必要以上に悪く考える思考は今に始まったことではなく、幼少期からそうでした。この考え方はこうして自発的に破滅に向かう凶器でしかありません。  希死念慮は歳を重ねる毎にあからさまに膨張していきました。ひたすらに生まれてきた事を後悔し自分を親を世界を呪いました。もうこの世界を生きていく勇気がもうありませんでした。  頼むから地球が内側から破裂して全ての生命を壊してくれはしないものか、そんな妄想さえしてしまうほどに絶望に苛まれていました。なぜ地球ごと道連れにと思われるかもしれません、死ぬのなら一人で逝けと。  本気で死のうと決意しても死ぬのもまた勇気が必要で、死に場所や後の迷惑、そして痛み苦しみを伴います。中途半端に助けられれば後遺症と共に寝たきりになるでしょう。  今までの私の場合は寸前で怖気付き、躊躇ってしまいました。それでまた生きるのも酷。  この狭間こそ正に生き地獄そのもの。  それ以外の何があるのでしょうか。  そうです、私は死に損ないです。情け無い人間なのです。これまで何度も自分に手をかけました。本気で楽になりたかった、もう生きていくことが辛くて辛くて何がそんなに辛いのか理由なんてありません。今こうして生きているそれ自体が間違いなのです。  ニュースで報道される自殺者が私の家族だった気がしてなりません。死を選んだ家族たちの強さに憧れ、また仲間が勇気を出して一人逝った事実は私に余波を齎しました。  日のもとに立っていると私の近くには影がありました。  その影を感じる度に、私はまだ此処に存在しているのだと実感させられ怖くなりました。自身の影になんとも言い難いほどの生臭さを感じて苦しくて堪りません。    私はこのまま死なずに生きればどうなるのか、ふと遠い未来の事を想像しました。今より十年、二十年先の事を。まだ起こるかも分からない事象に現在を捧げ、不安に駆られるのはきっと精神的にはよろしくないものでしょう。  ある人は声高らかにこう言うでしょう。『過去や未来の事を考えるよりも今を生きろ』と。  それは何とも直向きな最もらしい考え方だと思いました。  ある時はまさにその通りだと思い、  またある時はそれが出来れば最初からこんな歪んだ性格になんかなっていないはずだと怒りのような被害者的感情が生まれる時もありました。  単に死にたい訳ではありません。ただ惰性で点けていた電気のスイッチをカチッと切るように灯りを消して何も見えない暗くて静かな場所で永遠に眠りたいのです。  『あなたが死にたいと思った今日は誰かが生きたいと願った明日なんだよ』と言うような嫌に希望のような言葉は、私からすれば『甘ったれるな、世の中にはお前より辛い人なんて沢山いるんだぞ』と言わんばかりで。  それを私流に例えるなら、急に強盗がやって来て赤の他人を人質に私を脅しても響かないのと同じ感覚でした。的外れと言うより、最初から目を合わせる気がないのだなと寧ろ諦めさせてくれさえもする。  まずはその言葉で他人を救おうとしてくれる気持ちに感謝し、それに該当された方々にも申し訳ない申し訳ないと頭でも下げればよろしいのか。  その時点で私のような人間はあなたには透明人間なのでしょう。  自殺の名所は首吊りで有名な場所でした。私は吊り下げるならどこが強度があるか、人に発見されにくい場所をキョロキョロと見渡しながら歩いていました。  しかし不都合な事がありました。早朝だと言うのに海が近いためか散歩やランニングをしている人がチラホラいて、奥へ行っても時間の経過を見ても状況が変わることはありませんでした。  さらには不審者の様な見てくれの私に対して、すれ違う人たちが『おはようございます』と元気に挨拶をしてくるのです。精神を病んだ私は声がすぐには出ず、その人はすぐに通り過ぎました。応えることが出来ませんでした。私の事が気持ち悪くないのでしょうか。  これなら森より海の方が、と思った私はそんなに時間はかからずに海に辿り着きました。  冷たい風がそよぎ、波の音と海の香りがしました。家を出た時は日は昇っていませんでしたが、今は地平線に日がゆっくり昇り始めようとしているのが見えました。  死ぬ前に朝日を見るのも悪くないかもしれないと、濡れた砂浜の上に座り朝日が昇るのを待ちました。だんだんと姿を見せ始める朝日は海を照らし、大きな存在感を放っていました。     朝日の色はこんな色をしていたのだな、と私はぼんやりしたまま朝日を見ていました。        次生まれてくるなら、人間以外が良いな。犬か猫、鳩か石でも良いかもしれない。  いや、もう生まれ変わらなくても良いな。また辛くなるなら無で何も考えたくないし楽そうだ、なんて考えていました。  今、私の目の前にある朝日。  なんて綺麗なのでしょうか。こんな私に惜し気もなく綺麗な光の景色を見せてくれた朝日に感動と感謝さえ覚えました。勝手に涙が流れ続けました。  私はあんなに綺麗に生きられなかった。人と比べて苦しんで、悲劇のヒロイン気取りだ。自分を幸せに出来なかった。意地を張ってプライドばかり高くて素直になれなかった。  どこで間違ったのだろう、どうすれば良かったのか分からない、分からないんだ。ごめんなさい、もう後悔ばかりで。やり直したい。  信じられる人が一人でも居てくれれば違ったのだろうか。どこに行けば会えるのか、それは誰なのか教えてほしい。そう強く思いました。  悔しい  あまりに悔しくて 死ぬほど情けない  どんどん涙が流れ続けました。  何で私がこんな目に合わないといけないんだ。私は怒りながら泣きました。  こうして涙が止まらないのは、まだ生きたいからなのだろうか。まだ私は生きていけるのか。人間社会で戦えるのでしょうか。  私は決して器用な人間でありません。  だから今は唯、気が済むまで此処で泣くことにしました。  もう一度  全部捨てて  もう一度だけ人生をやり直してみようか、と言う気持ちが沸々と芽生えてきました。  同じやり方では駄目でしょう。今までの私と違うやり方で生き直しましょう。  その日、私は生きる為に  弱い私を殺しました。

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死に場所散歩

雨中独歩

ずっと止まない雨が降っていて 自分の体が如実に冷えていくのを感じる 街行く人は傘を差していた また濡れまいと走り 雨宿りする者もいた 傘を持っていない私は 構わず歩く 服が濡れようが このまま体が冷えて たとえ明日風邪を引こうが どうでも良かった もう全部がどうでも良かった 感情を麻痺させないと もう息が出来ないほどに 弱い人間だと此処に認めよう だからいつ消えてもいい 出来ればそれは早い方が良い この瞬間でも良いだろう それは私の中で当然の事実だった この足が動かなくなるまで 私はこの雨の中を歩き続けなければいけないのか 歩き続けた道の途中に 傘を差さしてくれる人間がいた 私は強い口調で言い放つ 雨が好きなのに余計な事をしないでくれ そんな傘はいらない あなただけが使えば良い その傘は私には勿体ない 善意を拒絶すれば離れていく それでいい 1人でいい あなたに私の何が分かる 分かったふりなんて反吐が出る 分かってほしいなんて頼んでいない 理解なんてしなくて良い またあなたもどうせ離れていくのだろう ほら  そうだ またそうやって離れていく そう思っていたのに あなたは持っていた傘を閉じて 一緒に帰ろうと言ってくれた あなたまで雨に濡れる必要はないのに どうしてなのだろう 人に優しくしてもらえるほど 私は良い人間ではない それなのにどうして  あなたは私を疑わない もう家族だからと 一心に私を信じ切ってしまっている 私を信じ切るのはやめた方がいい もし明日私がおかしくなったらどうする あなたを傷つけたくなったり お金を盗って居なくなったらどうする あなたに暴力をふるったら もっと酷いことをするかもしれない そしたらどうするんだ そう言ってもあなたは考え込まずに 『そんな事はしない人だと知っているよ』と笑った 涙が止まらなかった そんなこと言って 騙されたらどうするんだ それで痛い目を見たら馬鹿じゃないか こんな私を可哀想だと思っていないあなたに 何度も救われたというのに 私はあなたに何も返せないかもしれない だけど それでも あなたの傍に居ることを許してくれるのなら また雨が降っていても 今度は一緒に傘を差して これからも あなたと歩いて行きたいと願ってしまう 出来ればそれは長い方が良い

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雨中独歩

嘘優しい

自分は優しい人間であると疑わない 確かに表面上は“やさしく”良く見える でもその着ぐるみを着ていても 私から見れば 一つ一つの行動や所作が手抜きなんだ あなたはこう言われてもピンと来ないだろう だって自分は優しいはずの人間だからな 自分の痛みには敏感で他人の痛みには鈍感 笑顔で前だけを見て地面の蟻を踏み潰すように 平気で他人を無意識に傷つけられるのに 自分が少しでも擦りむけば大声で大事にする 今だに言葉の破壊力を想像できない そんなつもりじゃなかったと言えば 何を言っても良かった訳ではないだろう 無自覚が一番厄介で致命的だというのに 自分がどういう人間か客観視できないまま 死ねる人間は幸せ者だな 同時にそれは私と相手の都合だ そう私と相手の”都合“だ

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嘘優しい

心が鳴く

力いっぱいに荒く 麻紐で一気に震え締める その紐はいつ生み出されて この世界で最初に一体誰が締めようと思ったのか 生きるという事は呼吸を繰り返すこと あぁ、息がうまく出来ない 何気ない日々 何気ない もう知っている事 これから知る事 これからも死ぬまで知らない事 知る気もない事 知れない事 それさえも知らない事 目を閉じる 音が聴こえる 無音なんてあるはずない 目を開ける ここで何をしているのだろう それから数時間後には違う場所に居る 眠くなってきた 目を閉じる 目を開けたらまた生きていた まだ生きていた 私は何歳で死にますか 何歳まで生きられるのですか 最期はきっと瞬間的にあの人との日々の思い出に焦がれるのだろう 心から慈しみながら 大事に抱えていたもの全てを手放す日が急に来る時を待ちながら 私の心はずっと泣いている 泣いたらダメだ 泣くなと言い聞かせても 静かに泣いている 大丈夫と言っても変わらない ふとした時 気がつくと泣いてる なぜ泣いているのかは分からない だけど、その理由に辿り着いた時 私はまた壊れるのではないか 泣いている彼女の顔は下しか向いていない 彼女にとって私は透明人間 もしかしたら こちらに気づいて 泣き止んでこちらをじっと見るかもしれない そう思うと 悍ましいようでもある またもしかすると走って追いかけてくるだろうか またもしかしたらこう言うかもしれない 『怖い、助けて』とか『死にたい』とか伝えてくるのか これは推測であり、確かでない 浅はかな見当でしかない だって今もこうして分からないのだから 今もずっとだ もう何年も泣いている 朝の鳥の囀りのように 夜の猫のように鳴いている 彼女は泣く行為自体に陶酔しているのではないかとさえ思えてくる 飽きもせず、まぁよく涙が枯れないものだ 私が声をかけても聞く耳を持たない たまに隣にいても泣くだけだ 私が隣にいても彼女は誰も信じていないし 孤独なのは変わらない 彼女は昔にきっと心が壊れているのだろう せめて癒すことが出来れば しかしそれは本人が望んでいない 最早そうする事でしか自分は生きられないと その境遇にしがみついているのだろう そういうこだわりみたいなものをまだ持っていられる彼女を 私は少し羨ましくも思う 孤独や猜疑心の色が強いほど磨かれて 感覚が研ぎ澄まされるのを私は知っている 苦しくも息苦しいほどに良い色だ こんな事を思っている私を彼女はよくは思わないだろう でもそれでいい こちらも毎日心配してやれるほど優しくはなれない 泣いていても その奥に怒りさえ感じられる彼女の 稚拙、強情さという麻紐 それでも絶えず泣く彼女に 麻紐を緩める術をまだ知らない私は 声をかけ続けるだろう 泣くな 泣くな

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心が鳴く