砂糖
18 件の小説異形となりそこない。
巫女 私の家は代々巫女だった。 私は神社の娘に生まれた。 当然厳しかったが一人っ子だったからか愛も捧げられた。 歯車が狂い始めたのは母と父が養子を迎え入れたと言った頃。 あの時は軽い気持ちで、兄弟ができるなんて嬉しい、なんで思っていたけど。 今思うと本当に馬鹿だと思う。 人間は15歳になると儀式によって式神。 かっこよく言えば守護神が与えられる。 私の家は神聖なる神社。 母も父も、おばあちゃんもおじいちゃんも、そのまた祖先も。 式神は最高ランク、『龍』だった。 それが当たり前だと思っていたから、儀式の時は特に緊張しなかった。 養子の子…名前を呼ぶのも煩わしいが、はるかは同い年で 儀式を受けるのも同じ日だった。 「あんたは養子だし、龍が出なくても責められないんじゃない?」 「ま、あんたなら異形が出てもおかしくないけど。」 『…うん。心配だなぁ…』 2人同時に儀式を開始した。 魔法陣。なんか厨二病みたいだけど、魔法陣に血を垂らして、唱える。 そうだ。異形というのは、式神の中の最低ランク。 守ってくれやしないし、意思の疎通もはかれはしない。 人間がつけた名前は『異形』 なりそこない。できそこない。式神の失敗作など、 異形にはたくさんの悪い噂がひっついている。 『あの…これは?』 はるかはさっそく、式神を召喚したようだ。 私は驚いた。 はるかの式神は龍だった。 続いて私の式神も召喚された。 私は当たり前に龍だと思っていたものだから、驚いた。 「私の式神が、異形?」 ありえない。これはうそだうそだうそだ。 最悪な気分のまま、家に帰った。 ドアを開けようとすると、弾かれた。 「いった……」 母がいた。 「貴方、異形を召喚したようね。私の子供ではないわ。」 「汚い手で触らないで。」 『おかあーさんただいまー!』 私とは違い、いつもと同じように家に入っていくはるか。 「お母さん……なんで……」 「うちは神聖なる神社の家。龍じゃないのはまだしも異形?!うちの子じゃありません。」 「できそこない。二度と帰ってこないで。」 昨日まで優しかったお母さんは、私に冷たい目を向けた。 私の後ろの異形は、なにも話さず、私の後ろを付いてきていた。 「あんたのせいで……ッ」 私が式神に触れようとした手は、貫通した。 友達が家に泊めてくれることになった。 その友達が出した式神は人魚。 龍の次にランクが高く、レア。 「ほんっとに、止めてくれてありがとう。」 「ううん。全然。」 私の異形が私を掴んで、急に外に連れ出された。 「なによ!!!もう、煩わしい!!」 〈ネ。ネ。お。おふ。ろ。〉 カタコトで喋る異形は、気持ち悪かった。 「お風呂?」 近くに川が あったので、そこで異形と一緒に水に入った。 「あー、このまま死ぬのかな。私」 異形の汚れはだんだん落ちていき、綺麗になった。 その時、急に異形の姿が消えた。 「あれ?」 川には龍が1匹泳いでいた。 〈お。ま、ます、たー。ますたー。〉 「マスター?って私の事?」 〈おそら、に。飛びに。いきま。す。〉 「空??」 空に行こうとする龍のしっぽを咄嗟に掴み、私も空に舞い上がった。 しゃべり方は異形で間違いないのだが、見た目が龍なのが気がかりだった。 私はなりそこないだ。出来損ないだ。 だけど私と同じく、なりそこないであり、出来損ないである異形が。 龍に変身できることは。 まだ私だけの秘密だ。
君へ
「おっはよ〜𓏸𓏸」 そう言っても君は僕のことを無視する。 「なに?機嫌悪いの?彼氏の僕に話してみなさいよ!」 『なんで…』 やっと君は話し始めた。 「なんでってなに~?おかしくなっちゃったの?」 『…っ』 君は無言で泣き始めた。 「ちょっとちょっと!泣かないでよ~」 『ダメだ…私、忘れられないよ…』 「𓏸𓏸。僕の命日だからって、泣かないでよ。」 僕はギュッと君を抱きしめようとする その手が君に触れられることがもう二度となくとも。
手紙
あれから色々あったけど こちらは変わらずにいます いつも手紙感謝します 少なくともあなたは1です 僕にとってあなたは1です 窓越し木々からまだらな陽光 季節はほとほとせっかちで 酷く焦ってしまうもので 時間は平等と言いますが 平等ほど残酷なものはないですね 世界に望み託す人には 世界は薄情に見えるものです どうだっていいか ほんとのとこ後悔ばっかりで 今日も眠れない夜が来て 悔やんでも悔やみきれず 成仏できない想いが 真っ黒な夜に成りすまし 真っ黒に塗りつぶす空に 一粒の星明りだって 見当たらない街の底で それでもしがみ付く光を 生きていく為の言い訳を 死んではいけない理由を 悲しむ家族の顔とか 掴みたかった憧れとか 希望と呼べる微かなもの 見つかりますように 見つかりますように 悲観とは未来にするもので そう考えると悲観してるだけましだと思いませんか 「どうにかなるさ」という言葉は 他人ではなく自分に使うものです 他人に期待する人には 他人は無情に見えるものです 勝手にしてくれ 季節外れの海水浴場にて 寄せては返す過去と未来 出会いと別れ、光と陰 そんなものと遠く離れて ただ息をしてたいだけなのに 涙がこぼれそうになって もう無理かもなって もう無理かもなって それでも逃げ出せない因果を かつての嘲笑も罵倒も 後ろ指差されたこととか 全部帳消しにできるもの 嵐でも折れない旗の様に 絶対的に誇れるものが 見つかりますように 見つかりますように 友達も学校も 家族も社会も 恋人も 世界との繋がりが煩わしかった 僕らを縛り付けていた無数の糸は 繋ぎ止める為のものだった この世界へと きっと0か1でしかなくて その間に海原が広がり 泳ぎきれずに藻掻いている 生きたがりの亡霊たちが 凍える心に声も無く 消えたい願いすら叶わず 死にたいなんてうそぶいたって 対岸の灯が眩しくて それでも逃げ込める居場所を あなたを呼び止める声を もうここで死んだっていいって 心底思える夜とか 報われた日の朝とか あなたにとっての1が 見つかりますように 見つかりますように 「どうにかなるさ」って言える あなたにとっての1が 見つかりますように 見つかりますように
絵描きと桜の便箋。
木造アパートの一階で 彼は夢中で絵を描いていた 描きたかったのは自分の事 自分を取り巻く世界のこと 小さな頃から絵が好きだった 理由は皆が褒めてくれるから でも今じゃ褒めてくれるのは 一緒に暮らしている彼女だけ でも彼はそれで幸せだった すれ違いの毎日だけど 彼女はいつもの置手紙 桜模様の便箋が愛しい 気づいたら夜が明けていた 気づいたら日が暮れていた 気づいたら冬が終わってた その日初めて絵が売れた 状況はすでに変わり始めてた 次の月には彼の絵は全て売れた 変わってくのは いつも風景 誰もが彼の絵を称えてくれた 彼女は嬉しそうに 彼にこう言った 「信じてた事 正しかった」 絵を買ってくれた人達から 時々感謝の手紙を貰った 感謝される覚えもないが 嫌な気がするわけもない 小さな部屋に少しずつ増える 宝物が彼は嬉しかった いつまでもこんな状況が 続いてくれたらいいと思った 彼はますます絵が好きになった もっと素晴らしい絵を描きたい 描きたいのは自分の事 もっと深い本当の事 最高傑作が出来た 彼女も素敵ねと笑った 誰もが目をそむける様な 人のあさましい本性の絵 誰もが彼の絵に眉をひそめた まるで潮が引くように人々は去った 変わってくのは いつも風景 人々は彼を無能だと嘲る 喧嘩が増えた二人もやがて別れた 信じてた事 間違ってたかな 木造アパートの一階で 彼は今でも絵を描いている 描きたかったのは自分の事 結局空っぽな僕の事 小さな頃から絵が好きだった 理由は今じゃもう分からないよ 褒めてくれる人はもう居ない 増える絵にもう名前などない 気付けばどれくらい月日が過ぎたろう その日 久々に一枚の絵が売れた 変わってくのは いつも風景 その買主から手紙が届いた 桜模様の便箋にただ一言 「信じてた事 正しかった」
承認欲求モンスター
承認。 それは私を満たしてくれる唯一の方法。 インターネットでいいねがつけばつくほど。 私を僻む声が大きくなればなるほど、 私の心は満たされていく。 誰がどんなに私に悪口を言っても。 その人のフォロワーが私より少ない時点で私は 「勝った」 と思う。 みんなは私を承認欲求モンスターと呼んだが、それすら心地よかった。 否定する声が多くなればなるほど、私を認めてくれる人も多くなる。 否定されるってことは、それくらい多くの人に認められてるってことでしょ。 それって最高。 どーせみんなみたいなのは誰からも認められず、そのまま朽ちていくんだろうな。 私は自慢できるほどの「才能」がある訳じゃなかった。 神様は一人一人に才能を与えてくれる というが、所詮夢物語。 才能がない人は無いし、ある人はある。 それだけの話じゃない? 才能をうまくいかせない人間だっているし。 ほんと、そういう人は馬鹿だと思う。 誰に否定されようと。その他の人が認めてくれたらそれでいいんだもーん。 努力が嫌い。 だから私は努力しないでもできるこを探して、全てのことが中途半端にできるようになった。 「あーあ、次は何をしよっかな。」 そう考える時間が多くなった、 動画は着々とのびていった。 アンチも増えた。 心地よく思っていた僻みは、私のプレッシャーへと姿を変えた。 私の心には穴が空いた。 『おもんな。気持ち悪』『イタwwww』 「うるさい!うるさい!」 私は精神がおかしくなって病院に言った。 そこで医者に言われた。 「精神障害ではありませんね、勘違いです。」 勘違い?カンチガイ− 私はこんなに苦しんでいるのに。 動画を取りながら、ビルから飛び降りた。 最後にみた携帯の画面は、すごく盛り上がっていて。 満たされた。 「えーっと。この人の才能は、」 「努力。かな。」
枯れた花束は。
歌が好きだ。 路上ライブ、コンサート、地元のイベント。 売れる方法はいくらでもあった。 歌が好きだった。 私は歌を辞めた。 もう一度歌いたい。歌いたかった。 私が歌えなくなったのはあの時か、はたまたあの時だろうか。 思い出すのも辛く、頭を抱える もう何年前のことだろうか ファンの人からもらった花束が、 今日にも枯れてしまいそう ドライフラワーみたいな花をくしゃくしゃに握り潰して 昔弾いていたギターに手をかけた。 『好きです、貴方の歌が』 そう言って彼は私に花束をくれた。 彼は私の薬指に指輪を付けてくれた。 「そろそろ潮時か。」 事故から3年。 未練がましく付けていた薬指の指輪を。 きつくなっていた指輪を。 気持ちと一緒にゆっくり引き抜いた。
幸せになって。
「ごめん、別れて欲しい。」 彼氏から、そんなLINEが来た2分前。 『なんで?』と震える手で返信した1分前。 ピコンッとLINEの通知がなった今。 勝手に文字が表示され、私の目に届いた。 「君をもっと幸せにしてくれる人がいるよ。」 『私は、〇〇がいい。』 「ごめん。」 それからなんと送っても、彼からは「ごめん。」としか帰ってこなかった。 『ねぇ、一生一緒だって、付き合う時言ったじゃん。』 「ごめん。」 『俺が守ってやるーってさ、なんで?』 「ごめん。」 そんな会話をした夜7時59分。 あと1分で、8時になるなーなんてどーでもいいことを考えていた。 全部がどーでもよかった。 『謝ってないで、なんと言ってよ。』 そのLINEには、既読だけを付けて、返信はなかった。 あ、8時になった。 『あー…私、なんで振られちゃったんだろう。』 『〇〇…なんで?私、…〇〇と一緒がよかったのに…』 君を幸せにしてくれる人がいるって。 それは〇〇じゃだめなの? 思った以上に寝込んでしまい、次の日は学校に行けなかった。 ピコンッと、友達からLINEが来た朝7時59分 「昨日の夜8時に、〇〇が死んだって、…まじ?」 自分の手が、包丁を握っていた、朝8時、 『今そっち行くね。』
槍の本数
ギターで弾き語りをしていた。 動画をあげればあげるほど。 路上ライブをすればするほど、 私を刺しに来る槍の数は増えていった。 「おもんない。やめれば?」「音外れてる、」「センスなくね?」 そんな言葉だけが耳に残り、心の傷を開いた。 「頑張ってください、応援してます」 そんな言葉さえもネガティブに聞こえるなら私はもう末期だ。 頑張ってください?、今も十分頑張ってるんだけどな。 そんなことを考えていくうちに曲がつくれなくなった。 みるみるうちに歌さえも歌えなくなった。 声をだして発言することさえ怖くなった。 「早く辞めれば?」「お前の声ききたくない。」 動画を上げるのはやめたのに、路上ライブはもう辞めたのに、 覚えているのは私を刺しに来る槍の言葉だけ。 1番最新の更新は3ヶ月前。 久しぶりに更新する。 一面には 「引退、します。」 それだけ書いて。 なり響くスマホの通知を無視しながら、私は歩いた。 通知を見るのも怖くて、開いていなかったアプリには、通知が100件以上も溜まっていて コメントが何件かついていた。 「やっと?」「おめでとう👏」 スワイプしてもスワイプしても、槍の本数は増えていくばかりで、一向に緩和しない。 「悲しいですけど、〇〇さんのこれからの活躍を祈ってます。」 そんな言葉を無視して。 アカウントを削除して、アプリを消した。 私はスマホをただ眺めて寝る。というほぼ死体のような生活を送るゾンビになった。 「〇〇ー?ご飯、部屋の前においておくよ。」 私の活動を理解してくれたおかあさん、ありがとう。 「甘えてばかりじゃ、成長しないが、お前のペースで頑張れ。」 厳しくも、私を支えてくれたお父さん。 「なにやってるんだろうな。私」 母と父はお似合いなのに、2人から生まれた私だけが変。 音楽の業界を目指したのも、2人は認めてくれたけど、本当は変だったのかもしれない。 スマホで動画を見ていると、 歌を歌っている女の子の動画が流れてきた。 神様のいたずらか、その子が歌っていたのは私の十八番。 顔が可愛い。きっとそれだけでちやほやされるんだろうなと思った、 その子の歌うその曲は、お世辞にも上手いとはいえなかったし、 私が歌ったほうがましだと感じた。 歌を歌えなくなったのは私の意思じゃないし。本当はいつも歌いたいって願ってる。 だけどそう思えばそう思うほど、刺さってる槍がもっと深いところまで押し付けられて、 私を離そうとしない。 槍を刺す人間を軽蔑するし、そんな人間には絶対ならない。と誓っていた。 はずだった。 気づけばコメントを打ち込んでいた。 アカウントは見るためだけに作ったもの。 「下手くそ、私が歌った方がまし。」 何も考えられずに送信ボタンを押した。 突発的だったせいか、その日は気にせずそれからも見続けた。 ティンッ スマホの通知が鳴った。 一時期はこの通知がうるさくて、怖くて仕方がなかった。 「私だってがんばってるんでさ。歌のこと何も知らない貴方にいわれたくなあ」 返信が来た。 本人から、 焦っていたのか、誤字が沢山あった。 歌のことを何も知らないとか、軽々しく言われ、少しムカッと来た私は自分の意思でコメントをうっていた。 私はとうとう自分が1番軽蔑していた槍を投げる人間にまで成り下がった。 歌を歌うのが楽しかった。 人になんて言われようと自分の好きな曲を歌い続けたかった。 それだけなのに。 そういう人間に限って槍は飛んでくるもの。 それからまた数日、返信が来ていた。 送り主は本人の囲いのような人間だった。 気持ち悪い、心底思った。 「××ちゃんだって頑張ってここに来たんです。」 うるさい、わかってる私だってそうだった。 だけど、だけどこれだったら、きっと、挫折して、私みたいになるんだよきっと。 頭を抱える、頭を掻きむしる。 「私は、〇〇という名前で活動していた歌手。馬鹿にしないで。」 ほかの野次馬からたくさんのコメントがきた。 私の動画につくよりも、倍の数のコメント。 「まじ?お前嫌いだったんだよ。」 「ご本人登場wwww」 私が放った槍の数はたったの2本だった。 因果応報 その言葉を身をもって思い知った私は。 動画を出した。 アカウントは前の名前に戻した。 全て元通り、という訳には行かなかったが。 好きな曲を歌った。 好きなように歌った。全盛期よりもはるかに楽しかった。 「復帰したの?」「下手くそ。」 槍の数は増えたけど。 「ばーか、歌のことなんも知らないくせに。」 やっぱこれが私だ。
死んでるみたいに眠ってる。
いつもの駐車場に雪が積もって、 路肩に止めて海を望む。 日々が膝まで散りつもり。 僕はそれを掻き分けて踏んずけて歩いてく 昨日の狂熱は冷めやらず。 僕の頭をおかしくする。 全てを台無しにしたくなる後遺症は 生涯付き合う悪友だ。 そいつがそそのかしにくるのは 大抵夜で 安寧と顫動の覚醒の隙間に 人が持ち得る奔放さと獰猛さを 自覚せよも街宣社で叫んでる。 僕はもうなれたもんで。 うるせえ と窓をあけて叫んで しゅんとするそいつを招き入れて ストーブの前に座らせた。 温めたミルクにインスタントコーヒーを入れて 夜が明けたら出ていけよ と手渡して 僕は眠った。 翌朝、そいつは綺麗さっぱり溶けきって ストーブの前が濡れていた。 空になったカップが転がっていた。
この気持ちはバクじゃない。
私は厳しいお父さんと二人暮しをしている。 厳しいっていうのは。いろいろ。 門限は他の子より2時間は早いし、高校の授業の関係で間に合わないこともあるのに、 それに間に合わないなら高校なんて行くなって行ってくる始末。 もちろん恋愛はできない。 お父さんは高校生のくせにれんあいはまだ早いとか。 それらしい理屈を並べてるけど、私は全然そうは思わない。 話は変わるけど、今はアンドロイド社会。 街の至る所にアンドロイドが設置されていて、仕事だってほとんどアンドロイドがやってる。 最近は感情を持つアンドロイドが開発出来たとかなんとか。 試用段階らしいけど。 感情まで持ってたら、見た目が似てたら人間じゃん。 まぁ、それくらい今の技術は発展してる。 学校の掃除とか、ほとんどはアンドロイドがやることになってて、 本当に細かいところだけ掃除すればいいから、本当楽。 でも、最近アンドロイドと一緒に掃除してる子を見つけたんだよね。 もちろん普通の人間ね? 「ね、アンドロイドがやってくれるのにどうして掃除してるの??」 気づいたら声をかけていた。 するとその子は驚いたように言った。 『人間が汚してるのに、アンドロイドばっかり可哀想だと……思った、からかな。』 同じクラスだけど話したことも意識したこともなかったその子は、私の心を奪った。 「ね、名前は?」 恥ずかしながら知らなかった。周りの人に興味がなかったから。 『え、あ……無い……かな。』 「ちょっと、冗談やめて!笑教えてよ。」 『えっと……俊……です。』 「俊くん?!わかった、覚えた。」 好きになっていながらも、お父さんに邪魔されるのはとうに気づいていた。 「お前、最近色気づいてないか?彼氏か?別れなさい。」 「は?そんなんじゃないし、てかうざ。」 「聞いているのか?!!」 「そんなんだからお母さんだって出ていったんだよ。」 そう言うと父は黙った。 母は2年前突如として家を出ていった。 私も連れて行ってくれてよかったのに。 学校に行って俊くんに話しかけようとした。 「俊くん!!」 『あ、○○さん。』 「私の名前知ってくれてたの?」 『クラスメイトだから。』 あぁ、やっぱり優しい。好きだ。 「俊くん、付き合わない?」 『付き合う…って、何?』 「もー。鈍感だな。恋愛的な意味で。」 『あー。……うん。いいよ。』 あまり納得言ってないようだったが、深く考えるのはやめた。 掃除の時間になった。 俊くんはいつものように手伝いをする。 「めっちゃ手際いいね?!」 『え、そうかな…初めて言われた。』 「本当に?!」 その瞬間、教室に白衣を来た女の人が3人くらい入ってくる。 その中には母もいた。 「お母さん…?どうしてここに?」 「あーあ。失敗ね。やっぱり感情を持ったロボットなんて、私は無理だと言ったのに。」 「やっぱり、バグが見つかっちゃいましたね。」 「だね。じゃ回収かな。」 「お母さん?何やってるの?それに……」 「俊くんがロボットって…どういうこと?」 「久しぶりね、○○、この子は試用中の感情ロボットよ。」 「ま、バグが見つかったから回収するんだけど。」 『待って…ください。』 「こんなのプログラミングしたかしら。」 『○○さん…人間として扱ってくれてありがとう。大好きです。』 「あーあ。やっぱバグじゃん。」 お母さんが言った。 待って、違うよお母さん 俊くんを連れていかないで。 待って、だって私は、私のこの気持ちは。 “この気持ちはバグじゃない。”