生き丸
6 件の小説ガチャガチャ2
「この布団は奇跡の布団です」 テレビのショッピング番組で中年の男性が、そんな文言をかわきりに、自称奇跡の布団の良さを滔々と語っていた。 なぜ今そんな事を思い出したか分からないが、当時の私は万人が良くなる物など無いだろうと感じていた。 例えばサプリメントなどは、どんなに良い成分だとしても、その人の消化能力に左右されるし、アレルギーもある。人によっては、脳にまで届かないかもしれない。 そして布団に関して言えば、それぞれの骨格、筋肉のつき方、腰痛の有無など、正に老若男女、千差万別であり自分に合った商品を見極める知識が必要だと思っていた。 今私は、何の不安も焦燥も無く、精神が安定している。 これは、数日前に飲んだ、錠剤の影響だろうか? それとも、この硬いプラスチックの素材がどんな高級布団より、私に合っていたという事なのか? 快楽に溶けていく。萌黄色、橙色、朱鷺色、群青色…蛍光する楽園の中で周りを見ると、皆笑っている。身体が弛緩し涎を垂らしてる者までいる。幸せそうだ。 その時「ガチャガチャ」と音がした。 そのくぐもった音すらも心地良い。 落下した中年の男と目が合った。 彼は落ちた後少し顔を歪めたが、すぐ他の皆と同じ表情になった。 そして大きな手の様な物が現れ、カプセルは消えていった。 そしてまた私も、自称奇跡の布団の中で、堕ちていく残響に身を委ねているだけだった。
ガチャガチャ
最近、ガチャガチャが目につく様になった。 私が知らなかっただけで、数年前から、増えてきたのだろう。 ガチャガチャで埋め尽くされた、広い空間を見ると、宝探しにきた冒険者の様で、ワクワクする。 商品も多種多様で、値段もピンキリだ。 近くのガチャガチャコーナーでは、両替しても足りない値段に、思わず二度見した。 私が小学生ぐらいの頃は、百円で出来たんだがなぁ…今や百円の方が珍しいぐらいだ。 私はガチャガチャが好きだ。 子供の頃はガチャポンなんて、言っていた記憶がある。 何回もガチャガチャという小気味良い音を聞いているうちに、記憶に刷り込まれたのか、今やガチャガチャで定着している。 商品には、色々なジャンルがある。キャラクター系や、昆虫や爬虫類を精巧に模した物、企業の商品のミニサイズ物など、メーカーの企画開発担当者の想像力に、感服するばかりだ。 あれは何が出るか分からないから面白い。 同じ商品をネットで買うのは、何だか味気ない。 そう言えば昔、学校帰りに友人数人でガチャガチャをしたなぁ 女子と、キーホルダーを交換した記憶がある。 懐かしい思い出…あのキーホルダーは、まだ実家にあるだろうか。
壁の煉瓦で、あみだくじをしている。
私は電車の中で、目を閉じることが出来ない。 何故って?怪訝そうな顔で、六花は、首を傾げる。 「だって、怖くない?目の前に座っている温厚そうなおじさんが、急に立ち上がり、鞄から包丁を取り出して、襲いかかってくるかも知れないし…」私は髪を弄りながらそう言い、顔を崩し、言葉を発しようとする六花を制する様に続けた。 「或いは、会社では仕事が出来、社内外から人気のキャリアウーマン風の女性が、急に乱心し、髪を振り乱しながら、ガソリンを撒き散らすかも知れない…」 「えっ、考えすぎって?」小さな声でそう言った彼女の言葉を、耳ざとく掴み取り、呼吸を整えた。 「リスク管理と言ってほしいなあ。この前だって、電車の中で、ガソリンを撒き、火を付けた輩がいたじゃないか。世の中は、危険が溢れているよ」 私は六花の目を見つめた。暗闇に慣れた私の目は、彼女の完璧な身体がよく見える。 大きくて、澄んでる瞳…モデルの様な体型… 化粧をしなくても、陶器の様な頬に、そっとキスをした。「六花が好きた。この危険な世界から、ずっと守っていきたい」 私は立ち上がり、カーテンを少し開いた。 六畳程の薄暗い室内に、一筋の光が現れた。 久しぶりの光は、かなり眩しい。 掃除のしていないゴミだらけの室内は、埃が舞っていて、陽光に照らされた六花は、いつもの様に、優しく微笑んでいた。 完 読んでくれて、ありがとうございます。 六花は、ラブドールです。
〜系ユーチューバー
巷には色々な、〜系がいますよね。 色々挙げてみました。(考えたのも含む。後でネットで、探してみます) まず、動物系(みんな大好き…だよね!一大産業、飽和!) それから、ツッコミ系(好き)、日常系(好き)、解説系、お笑い系、あと…お色気系(日常系の要素を含むのも多い。ありがとう)とか。 他には、美容系とかもあるなぁ、格闘系とか、筋肉系とか、迷惑系とか、音楽系(お色気系の要素を含むのもある。ありがとう)とかかな。 あと、闇堕ち系ユーチューバーとかどうですかね。絶望系とも言い、メンタル系とコラボしたりします。 他にどんなのあったりしますか? どんなのが好きですか? 読んでくれてありがとうございます!
罠
罠を張りたいと思っている。 いや別に、狩猟者になりたいわけじゃないんだ。 小動物を捕まえて、飼いたいわけでもない。 軽いイタズラで、他人を笑わせて見たい。退屈な人生にちょっとしたスパイスを振りかけてみたいなどと、○○容疑者は、述べており、犯行が計画的だったのかどうかも含めて、警視庁は追及していく方針です。 「いや〜驚きですね。からしアレルギーですか!」 「友人同士のタコ焼きパーティーだったみたいですね。」 「今の若い子、そんなロシアンルーレットみたいな事、みんなやってそうですけどね。」 「そんな罠があるんですね、いつも食べている物も、気を付けなければならないですね。」 穏やかな昼下がりだった。午後のニュースが流れる会社の食堂の片隅で、同僚達の雑談を聞いていた。
来週の花は何ですか?
花屋の店頭に、今週の花と書かれた黒板と共に、数輪のハルジオンが生けられていた。 私が花屋の豪華で主張する花々よりも、その小さな白い花に視線を奪われたのは、素朴で清楚な外見とは裏腹に、高い繁殖力で空に向かってぴんと伸びていく力強さに、人間の生命力を重ね合わせていた…などという、ありきたりなつまらない理由では無かった様で、十数年前の記憶の扉が、再び開きかけるのを、感じていた。 「何かお探しですか?」私は少しの間、見入っていたみたいで、ハッとして声の方を振り向くと、若い女性が微笑んでいた。 「ええ…いや特に探しているのはないんですがハルジオン良いですね。何か力強さを感じます。ハルジオン売っているのですか?」そう一気に話すと、まただ!と思った。 緊張して、早口になってしまう。言葉を繋がなければという焦りが、思考と離れた言葉を生み出していた。 私のおそらく数万回目の自己嫌悪など、意にかえさない様に、彼女はゆっくりとした口調で、「売ってはいないのですよ。ハルジオン良いですよね」と、穏やかな表情を見せた。 赤いメガネがよく似合う、凛とした女性だった。まるで、ハルジオンの様な…とは、思わない。ただその微笑みに、懐かしさと共に微かな痛みを感じていた。 私は「ハルジオン良いですよね」と、オウム返しをし、さらに「力強いですよねそれでいて清楚で」などと、恥を上書きすると、ろくに彼女の表情を見ることが出来なくなり、誰にあげるでもない、青い薔薇を一輪だけ買うと店を後にした。 5月の空は青かった。風が少し吹いていて、微かな土の匂い。人は見たい様に世界を見ていると言うのは、哲学者の言葉だったか? 悲しみの心は悲しみの世界を。希望が心にあれば、希望の光を見る。見い出す。 私の心は孤独で寂しかった。青空はただ青く冷たかった。 その喫茶店は、駅から徒歩10分ぐらいの所にあり、純喫茶風の一軒家だった。 地元のフリーペーパーや、雑誌で何度か紹介されているらしく、レトロながら古臭くないデザインで、映えを重視する若者達にも、人気があるらしかった。 SNSでは、攻めた今風の若者が、攻めたパフェと共に映り、最適な角度、光、表情、全て計算しているの?と言いたくなる様な、写真を何枚か見た事があり、人生楽しそうで良いななんて、ぼんやりと思ったりした。 少し重い木の扉を開け、柔らかな鐘の音と共に店に入る。 店内は、少し暗めの木目調デザイン、暖色系の照明、芳ばしいコーヒーの香り… 平日ということもあり、客は中年の男性一人しかいない様だった。 静かで良かったと思いながら席に座り、店員にメロンソーダを注文した。 コーヒーがオススメらしいが、雑誌の中でメロンソーダの写真があったので、今日はそれを飲もうと決めていた。 私はリュックから文庫本を取り出して、表紙を眺める。 学生時代、他人と上手く関係を築けない事を本が好きだと言い訳の様に使い、図書室に逃げていた頃、そこに彼女がいた。 名前は、白木…白木香織さんと言い、2年先輩の図書委員だった。 切れ長の目にメガネを掛けていて、知的な雰囲気を漂わせていた。 おそらくメガネを外しても、知的だったのだろう。その色白な文学少女のイメージとは違い、白木さんは明るく、いつも微笑んでいた。 ただ、8月のギラギラとした明るさというよりは、初夏の木漏れ日の中のそよ風といった、感じだった。 彼女と何回か話をした。 何を話したかなんて、殆ど思い出せない。 多分本の話をし、その時も自分は緊張して、上手く話せなかったのだろう。 微かな記憶の断片に、やはりあのハルジオンがあった。 「ハルジオン好きなの?」その問いに、私は好きだと答えたのは、はっきりと覚えている。 次の日、図書室の貸し出し机の上に、ハルジオンが数輪生けられていた。 「どう?綺麗でしょ。近くの土手から、採ってきたの。」 そう微笑む白木さんに、私は何と言った!? 私は両手で顔を覆った。 その時、メロンソーダが運ばれてきた。 淡い青春の様な飲み物だなーといつも、思っていた。 そして淡い青春の様に、私はいつだって未熟だった。 多分その時の私は、木や植物にも命は有る。 路傍の花も、雑草も、必死で生きているんだ!と、いった本を読んでいた記憶があり、それに感化されたのだろう。 私はあの時… 私は「植物も必死で生きているんだから、抜いて来たらダメだよ!」そんな事を言った。 真面目な顔をして、言ったんだ。 思わず髪を掻きむしり、苦笑いをした。 私の為では無い。思い上がるな。 ただの気まぐれで、花を生けただけ。 そう思う事で、救われたかった。 その時、白木さんはどんな顔をしていた? 人の目を見ることが出来ない性格が、幸いしたのか、或いは、後悔の一因となって私を苦しめたのか? 「普段、きつく見られるからっていうのも有るけど、楽しく生きていきたいから、笑う様にしているの。」何故いつも、楽しそうなのかと聞いた私に、いつも通りの穏やかな微笑みで、そう答えた白木さん。 もしかして、その時でさえ微笑んで、世界を肯定していたのではないか? 「真面目か!もぅ…そんなんじゃモテないぞー」と笑っていたのかもしれないし「そうだね…」と、少しだけ悲しそうな顔をしたかもしれない。 私は観ていない!覚えていない!世界から、目を逸らし続けていと、忘れてしまうのか? 花屋の女性に、何故か会いに行こうと思った。 彼女は白木さんだなんて、奇跡は起こらないし、そんな事はどうでも良かった。 何を話そうか?話す事を決めて行っても、おかしな事を口走るのだろう。 それでも、例え物語を紡ぐことが出来なくても、あの時見れなかった世界を観ようと、大きく息を吸った。 ふと窓から照り付ける光に、少なくなったメロンソーダが、キラキラと輝く。 空は相変わらずの青空で、何故だか少しだけ心地よく、思わず小さく微笑んだ。