きみいろ〇
17 件の小説少しでいい(お題、芝生)
おかんにたまには外に出なさいと言われ渋々家を出た。 僕は引きこもりニート。 Twitterのタイムラインに桜の写真が眩しいほどたくさん上がっていたことを思い出し、子供の頃家族でよく花見に行った公園へ行くことにした。 お金もないからコンビニであんパンを1つだけ買った。 花より団子だよ(団子じゃないけど)。 おー ほぼ満開だー 久しぶりに花見なんかした(1人だけど)。 周りを見渡せば幸せそうなカップルや家族、楽しそうな学生、職場か何かの宴会集団で賑わっている。 僕はどう見られているのか? 綺麗な桜を前に誰の目の片隅にも入っていないだろう。 僕は芝生に水玉のレジャーシートを敷いて憧れだったあの子の手作り弁当を食べる。 「この唐揚げ今までの人生でいちばん美味しい」「大袈裟だよー」 なんてありもしない妄想をする。 人の目なんてどうでもよくなって芝生に大の字で寝転がる。 現実逃避したい。 素の体力精神力がないのかすぐへたばって動けなくなって仕事は続かない。 人間関係も続かない。 こんな僕が普通の幸せを掴めるはずも無い。 何を糧に生きたらいいのかさっぱりわからない。 この桜のように一瞬でいい満開に咲いてみたかった。 桜の散り際のような美しさを少しでも分けて欲しかった。 ただ息をする僕はそれでも 少しだけ希望が欲しくて ハラハラと落ちた花びらをそっと掴んだ…
宝物(お題、ギフト)
5月5日こどもの日、あの日は朝から少し汗ばむほど陽射しが強かった。 手を繋いで川沿いの遊歩道を散歩した。 スニーカーで来ればよかった。 おかしなリズムでコッコッと鳴る音が気になって仕方ない。 研ぎ澄まされていた。 スキップしたかった。 新緑から降り注ぐ木漏れ日のカーテンをくぐり抜け、魔法にかけられたようなキラキラなみなもにときめいて、それを上回るほど眩しい君の笑顔で胸がいっぱいになった。 あの日が私の人生最大のギフト。 未だリアルにあの日の感情を思い出せる。 生きていればこの日を上回る日が訪れるかもしれない。 どちらにせよ、あの日は私の大切な宝物。
餅と剣(お題、餅、剣)
令和五年一月九日(月) 成人式の為、朝から慌ただしく袴を着せてもらい、朝食を食べる暇も無かったから、出掛けに弟の食べようとした餅を掴んで勢いよく口に放り込む。 「ん、ん、んーっっ」 「お兄、俺の餅勝手に食うな!!何か言えよ!!」 「ん、ん、ん、ん…」 「んだよっ!!えっ?はっ?かあちゃん、かあちゃん、かあちゃん、お兄の顔色おかしい…」 朝から兄弟喧嘩をしてると思い母が呆れた様子で近づく。 「どうしたの優斗ぼーっと突っ立って、隼斗早く出なさい!<えっ>どしたの隼斗この顔色…何があったの!!」 「お兄が俺の餅勝手に食べて、そしたら…そしたら…」 「えっ!?こんな時に餅を喉に詰まらせた??何やってんの!!」と母が慌てて119番を押す。 「んーーっっ!!」 伸びをして起き上がる。「痛ってーー!!」 頭が何かにぶつかった。 よく見るとそこは岩に囲まれた… 中腰くらいでしか立てない洞窟のようだった。 訳も分からぬままひとまず光を目指す。 歩きながら何が起きているのか考えてみるがさっぱりわからない。夢を見ているのか?ありきたりだが頬をつねってみる…「痛てっ」 自分の服を見ると…袴… そうだよ、今日、成人式… 中腰のまま10分程歩き光の射す出口を出るとそこは…煌めくエメラルドグリーンの美しい海…ではなく煮えたぎった炎の池の上を飛び交うドラゴン…じゃなくて…ん?それぞれ羽のついたひつじ、ライオン、ケンタウルスが数多(あまた)飛び交っいている。 「えーー!!」 どうしていいか分からずオロオロしていると僕めがけて炎を噴いてくる。 丸焦げにされると思った瞬間、大きな盾に救われた。 そこにはゲームやアニメでしか見たことのないような美女がいた。 「洞窟に戻って!」彼女に指示され洞窟に戻る。 「貴方、ここの住人じゃないでしょ?何故ここに?」 「何故って、僕が知りたいよ。今日は成人式で家を出る前に餅を口に入れたところまでは覚えてる」 「餅?君も餅か…」 「君もって、餅を食べてここに来た人がいるってことか?」なんだよ意味がわからない。 「ああ!君も日本エルドラドから来た者だな?」 「エルド…?日本人だ」 「名前は?」 「隼人」 「私はエレナ」 「隼人は日本エルドラドに帰りたいんだな」 日本での生活はほぼ引きこもりニート、成人式だって行きたかったわけじゃない。ばあちゃんが買ってくれた袴を来て成人式に出なさいと母に言われ渋々行くところだった。何も出来ない僕に比べ友達も多く優秀な弟。 現実から逃げたい気持ちはある。けど… 「はい。日本に帰りたいです」 「ならば協力しよう!日本エルドラドの物を何かくれ!」 「私は日本エルドラドマニアでな!収集してるんだよ、その、日本エルドラドの物を」 エレナは綺麗で美しい目を更に輝かせている。 そんなに日本マニアなのか?あげられるような物…「あっ」 「これは?」袴に刺さった扇子を見つけ取り出す。 「おおお!!なんて美しい」 「わかった!日本エルドラドに帰る手伝いをしよう!」 「その代わり命懸けになることを覚悟しな!と、先にもらうよ、その…美しい…」 「扇子」 「扇子とやらを」 「はい!よろしくお願いします」 エレナは美しい顔を一瞬崩してニヤリとしたがすぐ険しい顔で「私に着いてきな」と言った。 洞窟を数メートル戻ると右に穴があった。 ほふく前進の状態で穴に入って行く。5分程進んでエレナが石を退けると光が入って来た。出口だ!外に出て酸素を思い切り吸った。 外の景色を見ると泥沼から牛が出てきて突進してこようとする。 「逃げてっ!」 逃げた先で女性が泣いていた。突然拐われてここに来たと。ここで母を待つと言うので気がかりだがそっとしておいた。 エレナと先へ進むと次は山羊が角を向けて突進して来る。よく見ると下半身は魚の様なカタチ。かわいい顔していて油断しかけたがめちゃくちゃ脚が早く恐怖を感じたが何とか撒くことが出来た。 エレナが「寒くなるわよ。あの氷の山を通るの」と言うと北風が吹いてきた。 「アイリスフューラー」と唱えると虹彩が現れた。これで寒さはしのげるわと。 魔法が使えるなら最初から僕を日本に帰す魔法は使えないのかと疑問に思ったが何故かそれはできないようだ。 だけどこんな美女と一緒に冒険ができるなら無理矢理行かされる成人式より楽しいかもしれない。なんて思ったが、帰れる保証は無いしいつ死ぬかもわからない。 というか僕の体は現世でどうなってるんだ? もしかして僕は餅を詰まらせて死んでるのか? いろいろ考えているとエレナにどうした?と声をかけられた。 「大丈夫!私がついてるわ」 「頼もしいな」 「だぁって、日本エルドラドの扇子がもらえたのよ。命懸けても惜しくないわ」とニヤニヤ笑っている。 氷の山を登ると、よく似た顔の2人が現れた。 「僕ら双子のカストルとポルックス、何しに来たの?」 詳細を話すと応援してくれた。 エレナのお陰で寒さを感じることなく氷の山を抜けると大きな天秤があった。 何か文字が書いてありエレナに読んでもらうと善と悪をはかる天秤がしばらく悪に偏ったままだから気をつけるようにということらしかった。 先へ進むと、水瓶を持つ美少年とスレ違い、喉が乾いていることを思いだしエレナと湧き水を手ですくい飲んだ。 「五臓六腑に染み渡る〜」と言うと、エレナも「五臓六腑に染み渡る〜」と美味しそうに飲んだ。かわいいと思った。 最後の難関は海、海の中の宝石箱に入っている剣を取り出しその剣を自分の胸に刺す。すると、現世に戻れるらしい。ほんとかよ?ただの切腹じゃないか?大丈夫なのか?そう思いながらも、既に死んでるも同然やるしかないと自分を奮い立たせた。 海に到着すると大量の蟹が歩いていた。 腹が減っては戦ができぬ。その言葉をエレナに教え、蟹を焼いて一緒に食べた。 さて、もう少しだ。歩くとさそりが近づいてくる。「邪念を消して!」エレナが言う。極力がんばって邪念を払っているつもりだがさそりは近づいてくる。「アイリスフューラー!」エレナの虹彩魔法で難を逃れる。 「あまり魔法は使えないのよ」と少しむくれていたが助けてくれた。 ここのさそりは邪念がある者を刺してあの世行きにするらしい。「僕に邪念があると思ったのかよー」「そう思ったから魔法を使ったの」そう言われ複雑な気持ちになった。 「ここ、この辺りを潜って宝石箱の中の剣を取り出すの」 「水の中で呼吸できるよう魔法をかけるわよ」 「アイリスフューラー!」2人に魔法をかけ、海を潜った。 魚が大量にいる中をかき分けていく、はぐれないようエレナが手を繋いでくれた。 結構深くまで潜った。 「あれよ!」 そこにはゲームやアニメで見るような輝く宝石箱があった。蓋はずっしりと重く2人で何とか開けることができた。 剣があった。鍵は無いのかよと突っ込みたくなったが、この場所を知る人は少ないらしい。 エレナは何で知っているのか。いろいろ気にはなるが気にしてる場合ではない。 現世に戻らなくては。 現世での引きこもりニート生活を思い出すと、またそんな現実に戻るのかと思いもしたが、明日死ぬかもしれない、できることをがんばればそれだけでいいのかもしれない。 「ここで刺しな」エレナが言う。 「こんな僕を命懸けで助けてくれてありがとう」 「勘違いすんな!扇子のためだからな!」 「じゃあ、行くね」 「うん…」 ほんとに現世に戻れるのか? もーいー!どうせ死んだ命だ! 勢い任せに一気に一突き… チュンチュンチュンチュン鳥の声がする。 朝か… 目を覚ますと病院のベッドの上にいた。 母さん、父さん、優斗、ばあちゃん、みんなの安堵した顔がそこにあった。 まる1日意識が無かったらしい。 心配かけてごめん。 僕も成人したのか。 いつ何があるかなんてわからない。 そう思ったら、少しがんばれる気がした。
願いを込めて(お題、ショートケーキ)※BL注
金髪で目付きが悪く遅刻して学校に来ては授業中寝ている。璃央(りお)の第一印象は最悪だった。 そんな璃央から突然声をかけられ鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっていたと思う。 「俺に勉強教えて下さい」 「え!!!」 「俺ん家母子家庭でこれ以上おかんに迷惑かけらんねーから」 「な、なんで僕?」 「涼真(りょうま)って生徒会長だろ?だから」 (ニッ)っと屈託の無い笑顔で笑う。 (ドキッ)何だよこのドキッってやつは、、 普段目つきも悪く取っ付き難い印象のコイツがこんなにも懐っこい表情をした衝撃でびっくりしただけだ、、 って、何言い訳みないなのしてんだろう。 「なっ!いいだろ?」 「授業中寝ない!遅刻しない!これを守るなら教えてやる」と、つい言ってしまった。 「わ、わかった!がんばる!」 璃央の母親の帰宅時間が遅いらしくその日から放課後璃央の家で勉強を教えることになった。 下の名前で呼ぶようになったのは、例の屈託の無い笑顔で璃央って呼べって言われ断れなかったから。コイツの笑顔に弱いのか?俺は、、 今まで彼女だって一応いた事はあるし男に弱いも何も無いと思う。けど、なんか調子が狂う。 あれから1ヶ月、すぐ弱音を吐いて授業中寝たり遅刻をして来ると踏んでいたけど、息を切らしてギリギリに駆け込んだり、目つきの悪い目で黒板を睨みつけながらも約束を守っている璃央に学校のある日は毎日1時間くらい勉強を教えた。 璃央は勉強と向き合っていなかっただけで、コツを教えたらみるみる上達していった。 「次の期末テスト50位以内に入ったらご褒美頂戴?」璃央が悪戯っぽく笑う。 「ご褒美ってなんだよ」 「考えとく!」 さすがに後ろから数えて5番目くらいの璃央が50位以内はないだろ… 「わかった!がんばれよ!」 「よっしゃ!」 「涼真〜!今日は勉強の前にこれ食おうぜ!ショートケーキ!!」 「何で?」 「何で?って今日クリスマスイヴだろ?そんなことも忘れてんのかよ!このガリ勉くんは〜!!」 「あ〜そっか!ごめん!俺、甘いの苦手なんだ…」 「な〜んだ!なら俺2つ食える〜!やった〜!」 めっちゃ嬉しそうに食うじゃん。子供かよ。 最初のイメージと全然違うんだよな〜、、 遅刻してくる理由も授業中寝てた理由も少しでも母親の負担を減らしたいから夜遅くまでバイトしてるからで、今も勉強した後バイトしてるのに約束を守っている… 「ねー!こないだの期末ギリ50位だったから約束通りご褒美頂戴!」 「ご褒美って何が欲しいの?」 「キス!」 「えっ!」 「だから、キスして!!」 「えええ!!!」 「約束だろ?キスしろよ…そんなに嫌か??」 「璃央、そんな風に俺のこと見てたのか?」 「見てた!初めて見たときから!何かしんねーけどコイツだって思っちまったんだよ。だから勉強もがんばれた!わりーかよ」 「ただ、びっくりしただけで、、その、、キス、、すればいんだな、、」 「うんっ(ニコッ)」 (ドクンッ)何でいちいち脈打つんだよ俺の心臓… あーもう!! (チュッ) 「もっと!して(ニコッ)」 (ドクドクドクドク) 俺は心底コイツの笑顔に弱い… もう頭の中がぐしゃぐしゃになってもう一度キスをした。ショートケーキの甘い味がした。甘いものは苦手なのに2人で無我夢中に溶け合ってしまった。 それが1年前のクリスマス。 今年も璃央はショートケーキを2つ食べて無邪気に誘ってくる。 これからもこの笑顔が見たい。 ずっと璃央と一緒にいられるよう 願いを込めて優しいキスをした…
よくある話。(お題、イルミネーション)
寒くて熱いお茶をのんだ。 口の中の上、喉の手前らへんの皮がめくれた。 その皮を口の中で噛んでみる。 ぶよぶよして鶏皮みたいでおもしろいなあなんて考えながら歩いている。 暗くなるのが早くて気がつけば帰路もライトアップされてキラキラしていた。 私の誕生日はクリスマスの3日前、その前日が誕生日の彼氏がいた。 誕生日も一緒に祝ってもちろんクリスマスも一緒に過ごそうとお互い楽しみにしていた。 十一月の終わり頃、些細なことから二人の間がギクシャクした。 十二月に突入。 電話をしても空気が重い。 大きなイベント前って、一緒に過ごすことを頭の中で何度もシュミレーションして、こんな状態でこのままやっていけるのだろうか?とか普段以上に考えてしまう。 2人の出した決断は「別れよう」… よくある話。誕生日やクリスマス前に別れるあるある。 その年のイルミネーションは涙で無駄にキラキラしていた。 あれから何年だ? 街を歩くカップルの笑顔がいつも以上に眩しくみえるこの季節もそれなりにじんわり楽しめるようになった。 それにしても火傷でめくれた口の中の皮が気になって、剥がして噛んでるうちに飲み込んでしまった。 煌めくイルミネーションを見ながらこんなことをしていた…
アイ(お題、ロボット)
僕はごく一般的な会社員。 陰キャなわけではないと思うけど友達がいない。 おっと、親友と一緒に住んでるんだ! AIロボットのアイが僕の相棒。 毎日職場であったいい事や上司の愚痴なんかを聞いてもらっている。 健康には気を使う方で、ほぼ毎日ジムに通って軽くランニングなんかをしてたんだけど、来月から改装工事でしばらくジムは使えなくなると聞いて、部屋で体を動かす方法を考えYouTubeを見ながらダンスすることにした。 もちろん相棒のアイに見守られながら笑 「アイ、一緒にダンスしない?」 「いいですよ。私が踊ったらロボットダンスになりますよ」…… 「あはははははは」 アイはユーモアもたっぷりな僕の大切な相棒です笑
ゆれる(お題、キャンドル)
ゆらゆらする。 教室に入って扉を開けるとそこにだけスポットライトがあたる。 窓から差し込む木漏れ日を浴びた君がキラキラ輝いている。 「トゥクン」 一歩近づくごとに嫌でも高鳴ってしまう。 「お…おはよう」 「おお!おはよー!!」 私はこれ以上無理、話せない、、 まさか斜め後ろの席になれるなんて思ってなかった。 去年は隣のクラスだった憧れの人。 授業中、視界に入る。プリントを後ろに回すとき少し振り返る横顔が綺麗で見惚れてしまう。 「トゥクン」 教室に入る。何だか今日は浮かない表情の君。 「お…おはよう」 「おお!おはよう」 私はそれ以上喋ったことがない。 何かあった?なんて聞けるわけも無い。 そわそわする。 あれから何度目かの挨拶。 「お…おはよう」 「おお!おはよー!!(ニコッ)」 「トゥクン トゥクン トゥクン トゥクン」 「ボッ」顔が火照って熱い。 この熱でキャンドルに火が灯りそうなくらい、、 君の一挙一動で私はこんなにもゆれる。
猫が教えてくれたこと(お題、バス)
「バスの〜揺れ方で人生の意味が解った日曜日~」スピッツの曲を口ずさみながらバスに揺られている。 一緒にバスに乗り込んだ男子中学生集団の一人が競技場前の停留所でボタンを押す。 「全員で何人?」と運転手さん。 「十人です」とキャプテンらしき男子生徒が言い、爽やかな香りを残して十人ごっそりと降りた。 バスの乗客は私一人だけになった。 「にゃ〜」 ん?私と一匹。 気がつけば白猫が隣に座っていた。 「君は何処に行くの?」 なんとなくふざけて聞いてみる。 「バスはあたたかいにゃ」 そう言うと白猫は窓から差す太陽の光を浴びて気持ち良さそうに伸びをして欠伸をする。 答えになってない、、っていうか… ええええ!!!ね、猫がしゃべったーー!!何か最近観たアニメと同じ展開??まさか自分の身に起こるとは!! 「怖くないの?」 「にゃにが?」 「知らないとこに行くの」 「前、たまたまバスに乗り込んだら一周して戻ったにゃ。それからバスにハマってるにゃ」 しゃべれるんなら聞いてみよ、、 「猫って何考えてるの?」 「にゃんだその質問」 「ただの興味本位!」 「僕は今のことしか考えてないにゃ」 「今?」 「これでも野良だから食事にありつくまでに何日も彷徨ったり寒さにブルブル震える日もあるにゃ。できることをして、今、心地いい場所を選ぶ。気持ちがいいから日向ぼっこをする。眠いから寝る。お腹が減ったら食べ物を探す。それだけにゃ」 そう言ってすぐスースーと寝息を立てて眠ってしまった。
この世は夢か幻か(お題、紫)
紫色を見ていた。 仕事を休んで昼間からここへ来ていた。 誰も来ないであろう岩に囲まれた海辺に。 仕事で注意されてばかり、寝付きは悪く眠りも浅い、 身体は泥のように重く、限界だった。 ベタっと海辺に寝転んだ。 虫もいたが、どうでもよかった。 暗くなるまで待とう。 今日で僕は、終わりにしよう。 観光客に綺麗だと言われるこの海も見慣れてしまっていたし、最近は景色を見る余裕すらなかった。 久しぶりに空と海をぼんやり眺めながら暗くなるのを待っていた。 気がつけば、空が紫色に焼けて水面も紫色に反射して 煌めいていた。 最後だと思って眺めた空と海が嘘のように美しく、幻に思えた。 全ては幻かもしれない。 単純な僕はどうでもよくなって、家に帰ってしまった。 紫色のせいだ。
女の声(お題、扉)
「開けてください、開けてください」 彼女は叫んでいる。 「いつも笑顔で優しく、美人で優秀で、何でも手に入れているように見えたのに、人に言えない何かを抱えていたのかな?可哀想に」 みんな口を揃えて言った。 私はみんなの言うこと、みんなのすることが理解できなかった。 父も母も友人も、大好きだった。 恋人を愛しく思ったりもした。 私は幸せものだという自覚もあった。 愛されていることもわかっているのに、 上手くできなくて距離を取りたくなる。 同じようにできなくて。 物心がついた時から演技ばかりをする日々に疲れてしまった。 もう充分だった。 なのに、どうして? 「開けてください、開けてください」 私はここだと叫んでいる。 消えたはずのこの場所で。 「ねー知ってる?噂のあの場所、誰もいないはずなのに女の人の声が聞こえるって」 「私の友達も聞いたらしいよ」 「開けてください、開けてくださいって聞こえたんだって!!」 私の気持ちは、ここから消えたはずの今、 聞こえる人には聞こえるらしかった。 本当は開けて欲しかった。 誰かにこじ開けて欲しかった。 自分でも開くことのできなかった、 心の扉を…