桐花

11 件の小説

桐花

一般人です。 頭に浮かぶ話、生まれてしまったキャラクターを知ってもらいたくなりました。 当面は、異世界ものです。 今やお腹いっぱいのジャンルですが、 一味違う部分が出せたらいいなぁと思ってます 絵はAIイラストつくろっというアプリを使ってます 投稿も閲覧も不定期で、コメントなどもたまたま見かけたものにフィーリングで反応してます。フォローバックとか気を使う必要はありませんよ

迷子の勇者…2

「さて、君の出身はどこだい?」 サイカは勇者に尋ねた。 情報収集だ。サイカの知識とライブラリを持ってすれば、大抵の星、国、名だたる町がすぐに分かるはず電車だった。 しかし、精悍な男は悩んでみせた。 「出身…」 おや? これは記憶が的な問題かな? 「この世界に来る前、どこの世界にいたのかな?」 「世界の名前…知らない。最後に所属した国の名前は、ヴァルファ」 「ヴァルファ…ですか」 これは即答ですか。 しかし、聞いたことがありませんね。 「ライブラリ、ヴァルファ」 調べてみたけれど、国名、地名に該当はない。ということは、史上存在しないわけだ。 …嘘には見えませんが 「その世界では何を?」 「何を、とは」 「どう過ごしてたか、仕事は、家族は?」 勇者は腕を組んだ。 そして、目を閉じながら話し出す。 「頼まれたことをしていた。なんでもだ。戦いもしたし、計算もした。問題解決、事象の観察に解析、なんでもだ。あと、家族はいないが、名前は聞いたことがある。仲間は…いたな」 勇者の言葉を聞いて、王や国民たちがどよめいていた。 努めて静かにしていたが、勇者を不憫に思ったのだろう。 物心ついた頃には親もなく、幼い頃から戦い、働きながら生きてきたのだろうと。 しかし、サイカには違和感が強かった。 無骨な男、口下手…ではない何か…。 「今の姿は、あなた本来のものですか?」 「ふむ。ここまで大きくはなかったと思うが…」 「はっきりしませんか。…管理神?」 「はい。私が与えました。ゼロから構築しています。連れてこられる肉体がなかったので、最初は召喚ではなく転生者として世界に出現させたのです」 サイカはおよその予想がついてきた。 そんなことありうるだろうかと思うが世界とはそんなものだ。 最後の確認としては…。 「最後に2つ。あなたがいた場所は、大きく見れば地球ですね?」 管理神が驚く。 もしそうなら、再召喚できない理由が分からないからだ。 しかし、勇者は 「そうだ」と答えた。 管理神にはもう何が何だか分からない。 「では、もう一つ。あなたがここに来る前、地球の暦ではいつでしたか?」 「西暦2124年だ」 「なるほど…」 サイカは一つの答えを得た。 しかし、これを、どう解決したものか。 「管理神よ。彼の肉体、寿命はどうなっていますか?」 「後数日です。魔王と戦うという条件で力を増す契約姿に、なってますので。…あ、もちろん途中で彼が選択した結果です」 「再度肉体を与えることは?」 「私にはできません。この世界のルールを捻じ曲げてしまいます」 「となると、彼の選択肢に、この世界に残るというのはないわけですね」 「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」 「いいですよ。この世界の王。どうしました?」 「勇者様は、無事に帰られる…のでしょうか?」 不穏を感じ取ったのだろう。 そして、無礼を承知とは思いつつも、恩ある勇者を気にかけずにはいられなかったのだろう。 サイカは考えた。 事実をただ伝えるのは容易く、本来それでも咎めは受けない。 が、そういう問題ではないのだ。 「管理神。一ついいですか?この後、一度あなたの空間に移動することはできますね?」 確認というものの、命令に近かった。 「もちろんです!」 管理神の背筋が伸びたのを見て、サイカがニコッと笑ったのは少し恐怖的だった。 「さて、先ほどの答えですが。勇者を無事にこの世界から脱出させることはできそうです。」 「おお!ありがとうございます。…して、脱出と言われましたが、元の世界には…?」 「それは、神の心の領域となる。控えなさい」 「はっ!これはとんだご無礼を。申し訳ない」 王も、サイカが怒っているわけではないことは汲み取ることができた。話せないこともあるだろう。 「構いませんよ。勇者が望む形にはなるでしょう、とだけは教えましょう」 「ありがとうございます。十分にございます。サイカ様には感謝の言葉も…いえ、失礼しました、神には、最大限の感謝をいたします」 「伝わることでしょう」 王たちは、サイカの許可を得て、勇者に最後の別れ、感謝を伝えた。 そして、サイカと勇者は管理神の部屋に移動したのだ。 すでに、勇者の肉体はなくなっていた。 魂だけが、光の玉のように浮いている。 「さて、私も忙しいのでね。気兼ねもなくなりましたし、結論から言いましょう」 サイカが勇者の魂に聞く。 「あなたは、ここに来る前、確かに地球にいました」 「…」 「ですが、そこに肉体はなかったようです」

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迷子の勇者…2

こんな小説がいい

乾いたコンクリートに雨が降る 少しずつ色が変わり やがてあるところに水溜りが 気がつくと 水面に空がうつったりしている そんな小説が書けたらいいのにと思うのだ あー、水溜りって汚そうだって? それはそれでいいじゃない

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最近の四天王ときたら…

おい。きいたか?北の勇者の話。 あん?北の勇者っていえば、最近名が知れてきた有望株ってやつだろ? リーダーシップもあるから、来年には軍隊率いてこの魔王軍に攻めてくるんじゃないかって噂だったな。 俺も聞いたぞ。いやぁ久々だな。楽しみだぜ。魔王様にいいところ見せないとな。 いや、それがなぁ…。 どうした、牙に肉が詰まったようなツラして。 北の勇者、負けたってよ あん? 大したことなかったってのか? いや、歴代でも5本の指。もしくは最強ってのはそうだったらしいんだがな。 ま、まさか。 そうよ。また、四天王様が倒しちまったってのよ。 才能が開花する前に、潰しちまえってな。 うわぁ、容赦ねぇな。新生四天王様は。 まぁ、朱雀に白虎、玄武に青龍の末裔の上!あれじゃあなぁ 正直、勝てる奴らなんていねぇよなぁ あーあ、退屈だ 魔王軍の下っ端たちは、そうぼやいていた。 一方、魔王城では、魔王が四天王から北の勇者討伐の件で話をしていた。 勇者を討伐したようだな はい。これで魔王国も安泰です。 う、うむ。ちなみに、なぜ今うちにいったのだ? 強くなられてからでは万が一がありますから。 そうか。たが、わしからいうのもなんだが、お前たちは、すでに最強だと思うが? いえいえ、研鑽を怠れば、足元を救われかねませんので そ、そうか。常に高みを目指すのは感心だ(わしより強くなってしまわないか?これは) ところで、朱雀よ、他の3人はどうした 反省会をしています 連携の面で新たな発見がありましたので 成程。… …うむ。ところで、北の勇者が去った今、其方らにはそれぞれの領地を治めてはどうかと思うのだが ありがたきお言葉 しかし、我らは未熟 親友同士で四天王になれたのも宿命 まだまだ離れて仕事をするには力不足であります ふ、ふむ。仲が良いのはいいことだがなぁ(これ以上まだ強くなろうというのか。もう世界中がどんびくくらいに裁許の4人なのに。反則とまで言われてちょっと肩身狭いのに) これは、世界一の回復力をもつ朱雀と、世界一の防御を誇る玄武、接近戦最強の白虎に遠距離戦最強の青龍の仲良し4人組が、あろうことか、人間に学び、最強のチームを組んで戦いに明け暮れているという傍迷惑な話である。 (いや、続かんでいいよ。魔王疲れちゃうから)

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迷子の勇者?…1

「おお!あなた様が、神様の使者様でございますか」 サイカに頭を下げたのは、この星で最も大きな国の王様であった。 つまり、この星でいちばんの権力者な訳だが、傲慢さは感じられない。 「いえいえ、使者とは違います。神の直轄ではありますがね。 簡単にいうと、私の役割は、数多にある世界の秩序を維持するための世界法、それから、世界同士で人を行き来させる、召喚などを取り締まる異世界法の二つを正しく執行する者です」 いつも通りの黒スーツでサイカはそう答えた。 スーツのような服のないこの世界では、服の上等さを相まって、サイカが人外に見えているようだ。 「理解を超えるところではありますが、神が世界を気にしてくださってることは分かり申した」 王様は再び頭を下げた。 ちなみの、王より下々の者は、1人を除いて、ずっと片膝をついたままで、発言すらない状況である。 どうやらこの国は巨大な信仰国家であり、管理神とコンタクトが取れる者がいるほど信仰心が高いようだ。 そして、すでに、国が信じてきた神、管理神よりも上位の神がいることを、管理神から信託として聞いていたようである。 ちなみに、この世界では、異世界召喚が行われ、勇者が魔王を倒してくれているが、全く法的には問題は起きていない。 では、なぜサイカがここにいるのか、というと。 「では、執行者サイカ様!あなた様なら、我らを救ってくれたこの勇者を、元に世界に戻してあげることはできるのでしょうか」 唯一立ったままだった精悍な男がこちらを見ている。 どうやらこの勇者、管理神でも理解できない何かによって、元の世界に戻れないというのである。

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迷子の勇者?…1

短編 真ん中にあるもの

昔の話だ 闘病に苦しんでいた と言っても死の危険はない 今思えばその程度 でも当時はとてもしんどかった 終わりの見えない辛さだった 夜は辛くて寝られず 昼はみんなと同じ生活がままならない 泣いた日は沢山あった 両親にすがりついて生きていた そう思う 感謝もしているつもりだった ある日のこと 母の体力に限界が来た 寝れない子供の相手をしていたのだから当然だった でも、その時は気づけなかった 辛くてかわいそうな自分にしか目がいかなかった 母は助けてもらいながら休んだ そして言うのだ かわいそうだと 変わってあげられたらと そして、泣いたのだ その時に思ったのだ 一番辛いと思うとき 自分が一番ではないのだと こんな愚かな私は その後、その辛さを乗り越えた 母も健康だ そんな中、恋が実ったことがあった 素敵なその人がくれた愛を前に 私は 悩みを見せた その悩みは、相手を傷つけていたのに それに気づかず 言ってしまったのだ こんなに考えているのに 悩んでいるのに あなたを思っているのに なぜ… 自分を大事に思ってくれている人がいる でも その人は 自分のためにいるわけじゃない そんなことに気がつくまでに随分と時間をかけてしまった 嘘みたいな話だけれど その人はまだそばにいてくれている 私と関わったことを後悔はさせない 独りよがりなことはもうしないと 独りで、こっそりと誓った私は それでもまだ愚かであろう私は 本当に時々だけれど 最近は大丈夫かな? などと思ったりするのだ

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対応「証拠はあるのか」

証拠はあるのか どの世界でも聞く言葉だ そして、手強い問題だ 多くのフィクションでは、真犯人こそ言いがちな言葉 皆が疑いをもつ一言なのに…それだけでは犯人だと決めつけられない 世界の発展によって解決できることは増えたが 人の嘘は、技術や発展を超えてくる ある世界は嘘を見抜く技術を発展させ ある世界は全能のAIを完成させて判断をゆだね 解決が目指されている さて 世界法の執行者であるサイカも 当然のように 何度も何度も言われてきている 証拠はあるのか? この点、サイカの返答は、あらゆる場面において同じである 「ありますよ」 「な、なんだと?」 「証拠ですよね、何を出しましょうか? やはり映像がいいですかね。 では… 異世界法の執行者から世界の記録者に要請 3年前の勇者召喚の際の記録提出を求める」 サイカが誰かに向かって宣言すると、サイカの前に水晶玉が現れた。 水晶から放たれたホログラムが、まさにその時の映像をこの空間に映し出した。 目の前にその人たちがいるかのような映像には、ややフサフサしているような印象の王が、ここにいない男に、勇者よ!と話していた。 もちろん。 この証拠に対しては、まだまだ、こんなものは出鱈目だ!という難癖をつけることができる。 映像に映されている過去の勇者は、もういないのだから。 だが、サイカはそれを待たない。 理由は、不毛だからである。 「世界は記録されてます。 神による記録には事実しかない。 昨日の出来事も、他国の出来事も、全て出すことができるのです」 そして毎度のように言葉を締める。 「手続きの前提に疑いの余地はなく 言い分を聞く予定もありません だから… 世界法や異世界法には… …裁判官がいないのです」

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対応「証拠はあるのか」

事案「証拠はあるのか」

強欲な王様がおりました 信仰心を政治に利用し、政治を自分のために動かす、そんな暴君が そんな強欲の王が、はらわたを煮え繰り返して怒っている (なんなのだこいつは。執行者だがなんだか知らんが、せっかく召喚した新たな勇者を奪うどころか、召喚の魔法陣まで取り上げるだと?) 強欲な王は、突然現れたサイカなる人物を前に、思案していた。 サイカの話に引き下がれるわけがない。 王の強欲は、騙して集めた優秀な魔法使いのマナを使い捨て、異世界から勇者を呼び寄せ、一時芝居を打って勇者を騙し、倒して欲しい者を魔王だと命名して、魔王が倒されたらば、勇者を逆賊に仕立て上げ、騎士に命じて始末することを繰り返してきた上に成り立っていたのだ 家臣が反逆せず王に従っているのも、その方が、旨味があるからでしかない 言わば共犯者だ 本来ならば、こんな国家を揺るがしかねないものなど一刻も早く葬り去りたい だが、目の前の男に武力で勝てないことはすでに、早々に理解できてしまった それならば… 王は、考えた末………… …イチャモンをつけることにした 「知らぬ。召喚の濫用?その男が召喚者だと? …はんっ。なんのことかわからぬわ。 召喚の祭壇と魔法陣は、我が国建国前からあったものだ。 神から与えられたものいう建前であるが、偉人たちがその叡智から生み出したものであると聞いている。 それをいきなり取り上げると言われても納得できぬわ」 (そもそも過去のことなど調べようもなかろう。何を出されても異議を唱えれよし) 「その方が正しいというのなら、証拠を見せてもらわねば…。 あー、それから、どうしても取り上げるというなら? これに変わる物をお恵み頂かなければな。我らは善良無垢な神の子、ですからねぇ。 …そうだろう?お前たち」 強欲の王は笑って見せた。…

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事案「証拠はあるのか」

世界を巻き戻しますがどうしますか?

勇者は、サイカに圧倒的に負け、ヘタレ混んでいた。 勇者の従者も倒れている。 聖女も神官も戦士も誰も彼もが戦意を喪失し、駆けつけた宰相も王も、目の前で勇者が手も足も出ない現状に黙るしかなかった。 「ようやく話を聞いてくれそうですね」 サイカはオホンと咳払いをし、少し土埃を被ったコートを払うと、襟を正した。 「改めまして、私は世界法の執行者、サイカと言います。この世界ではなく、全世界の秩序を守る法だと思ってください。 さて、さっそく結論から言いますが、この世界の寿命がつきかけています」 全員がざわついたが、サイカは無視をする。 「原因はそこの勇者が世界の寿命を刈り取りすぎてしまい、もはや戻せなくなったからです」 「なんと、勇者殿!これは一体どういうことですかな!?」 すかさず王様が口を挟む。 さながら、攻撃のマトを得て喜んでいるかのように。 だが、対する勇者、ここで神妙になるような人物なら世界もこうはなっていない。 「ああ?!知らねぇよ」と悪びれもしない。 普通ならここで一悶着ありそうだが、サイカはこれさせずに話を紡げる。 「そもそもは、あなたたちを含め、この世界に生きた者が、許されていた異世界人召喚のルールを守らず、好き放題やってきた結果です。 そして、その責任は、これを管理しなかったこの世界の女神にもある」 「そんな、女神様が?」 これには神官が反応した。女神様は…などと話しているが、サイカはこれも取り合わない。 「よって、女神からは管理神としての資格を剥奪し、この世界には、やり直せるギリギリまで巻き戻しを行います」 ここまで言われると、全員が黙ってしまった。 目の前にいるサイカという男が、見た目は同じ人間だったからこそ、不満や意見を述べていたのだ。 その男が、世界にとって絶対の女神を追いやり、世界を巻き戻すという考えもつかないことをするという。 もはや、自分たちがどうなってしまうのかという心配しかできないと理解したのだった。 サイカはそれを感じ取り、黙った全員を見て、よろしいと言うと 「まず、巻き戻しと言っても、全ての時間が巻き戻されてそこからやり直すということではありません。そんなことをしては、新たに生まれた命が消えてしまいますからね。 巻き戻されるのは、勇者であるあなたの召喚まで、そして影響を受けるのは、この勇者が世界に与えた影響までです」 名指しされた勇者は、戸惑った。 だが、発言していいか困ると、今度は宰相が、勇気を出して質問をした。 「よろしいですかな?あ、いや、よろしいでしょうか」 「どうぞ」 「今の話はつまり、勇者殿が来ていなかったことになるということですか。そうすれば世界の命が吸い取られなかったことになると」 「そうですね」 一瞬、宰相や王が目を輝かせた。 しかし、サイカは話を付け足す。 「ただ、全ての影響がなかったことになりますから、あなた方にとって都合がいいものも悪いものも全てもどります」 顔が青ざめたのは聖女ら勇者とパーティを、組んでいた仲間たちだった。 「ということは、勇者様が倒した魔王やドラゴンは?」 「復活しますね」 「勇者と手に入れたこの武器や力も?」 「なくなります」 サイカの宣告は容赦がなかった。 でも、誰も文句は言えない。 放っておけば世界が滅びてしまうのだから。 それほど世界がおかしいことは、もうみんなが感じ取っていたのだから。 「神からすれば、世界で何が反映するかは重要ではありません。反映と滅びも選択の結果、運命ですからね。現にそういう種は数え切れないでしょう。 召喚という切り札を失った世界で、巻き戻った後にどうするかは、あなたたちが考えるしかありません」 事務的であったここまでの宣告のうち、最後だけは、妙に人間じみて聞こえた気がしたのは、数人だけだった。 サイカは口調を少し雰囲気を変えると最後の仕事に取り掛かる。 「では、最後に。勇者に聞きましょう。あなた、元の世界に戻りますか?それともこの世界にとどまりますか?」 勇者が、それだけでなくその場にいる全員がいちばんの驚きを見せた。 「俺は、選べるのか?」 「一応。こちらでの人生もあったでしょうからね。選択はできます」 これを聞いたゲスな勇者が、瞬間的に何を思ったかは、誰の目にも明らかだった。 「ただ…」 「え?」 「どちらにも条件が付きます」 「じょう、けん」 「元の世界に戻る場合、持っていけるのは記憶だけです。記憶を消すこともできますがね」 「…」 「残った場合、この世界の人間が持てる範囲に力が制限されます。…まぁ、女神変わりますしね。新しい管理神があなたに力を与えるかは…想像するまでもないでしょう」 「ってことは、この世界で普通の人間として暮らせってことか?」 「そうですね。…大変ですが、そちらを選ぶ人もいますよ。家族、恋人、仲間など大切な人間関係だったり、こっちの方が好きという人もいますからね」 勇者は周りを見回した。 夜に寝た女は山ほどいた。 頼られ、金を与えたものもいた。 地位も名誉ももらった。 聖女は、将来結婚の約束もしている。 …だが。 いくらクズの勇者でも分かっていた。 俺に力がないとなれば、 残ってくれる人はいないな 勇者は元の世界に戻ることを選んだ。 記憶も消すことを選んだ。 こうして、世界には巻き戻しが行われた。 勇者を引き止める声は、一度も出なかった。 サイカはため息をついた。 そして、また扉へと戻っていく。 そして、暖かい優しさを膝に乗せ、しばしの休憩に入ったのだった。

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世界を巻き戻しますがどうしますか?

Case「世界の維持が優先される場合」

その1 郷に入ったわけではないので現地のルールには従いません 「お、お前は一体なんなんだよ」 世界を破滅へと導く、職業名勇者が、サイカを相手に絶叫していた。 ここは世界番号「21189」、個別名、ラスチ・ヤーン。 サイカは執行者として世界再生のためこの世界に現れていた。 世界再生とは、滅びが確定してしまった世界に対し、やり直しが可能だった時まで事象を巻き戻す措置をとることである。 これは、神の措置で、実行される理由は様々だけれど、今回の場合は、管理神の怠慢という事情から来ている。 つまりお詫びというわけだ。 そして、この世界の巻き戻しが許されたのは、この勇者が存在するまで前までだ。 その場合、この勇者には確認すべきことがある。 そんな訳でサイカはこの勇者の前に現れたのだが、聞く耳を持たず、サイカに襲いかかっていたのだ。 「だから、世界法の執行者、サイカです」 「意味わかんねえ。敵だろ、敵ってことだろ。なあ」 勇者は、持てる限りの最大魔法を使うため、最も詠唱が長い呪文を唱え始めた。 魔王を葬り去り、さらに力を増し、この世界のあらゆる力や生命の息吹を吸って力に変えてしまう禁忌の極大魔法だ。 魔法陣が広がり、エネルギーが収束するのが見える。 だがしかし、サイカは気にも止めていない。 「やれやれ」 とため息をつくだけだ。 「消し飛べーー!!」 勇者による魔王のような技が放たれた しかし、サイカに届く前にその禍々しい魔法は跡形もなく消えてしまった。 「な、なぜだ。この技に勝てるやつなんていないはずなのに!」 「だから何度も言っているでしょう。私はこの世界の人間ではない。この世界に入ることを承諾してもない。執行者として介入してるだけですから、この世界独自の法則は私には届きません」 「はぁ!?」 「そして、私が基礎としている世界ではね、人間は呪文を唱えても、音以外のものを生み出すことはできません。地球も同じでしょう?」 「…」 「つまり、えー、あなたの言葉を借りれば…厨二病乙…ですかね」

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Case「世界の維持が優先される場合」

2 執行者のパートナーは…ねこ?

レトロな部屋があった。 まるで図書館のように、壁は本棚でできている。 ただ、古い本たちは形が不揃いだし、ある本は机の上、ある本は椅子の上に、ある本は宙に浮いたまま放置されていて、片付けがなされていない。 部屋の真ん中には、円形の木製テーブル。 細かい装飾に匠の技が光るその机も、一見して古いが、傷も埃もなく、長年大事にされてきているのが分かる。 その机の中心には窪みがあり、1つの水晶が収められているのだが、その水晶から放たれている光は、机の数十センチ上の宙に、ホログラムのように映像を映し出していた。 流しっぱなしの映像は、ある世界の様子で、まるで各地に定点カメラでもあるかのように流されていた。 そして、その映像をちらちらと見ながら本のページをめくっていたのは、一匹の猫であった。 なんだか品がある、神々しい猫である。 「いやいや、次の世界はひどいですねぇ」 部屋の主人、異世界法の執行者であるサイカが、隣の部屋から入ってきて、猫に話しかけた。 サイカは、ウッドチェアに腰掛け、ティーカップに入ったお茶を飲みながら、「もう限界ギリギリ…世界がかわいそうです」と続けた。 映像に映された世界は荒廃していた。 だが、それなのに人間たちは、現実を直視せずに人間同士で争いを続けているようぁ。 サイカは、一つの本棚に手を伸ばすと、「ライブラリ、21189」と述べた。 すると、背表紙に21189と表示された本が、どこからともなく飛んできて、サイカの手に収まった。 サイカは、本を開き、最後の方のページを読む。 「なるほど。現状の直接的原因は今の勇者のやりすぎのようですね。星の命を対価にするちからを欲のままに好き放題か」 サイカはため息をついてもう一口お茶を飲む。 「とはいえ、世界も世界で自業自得···のように感じますが?」 そう誰かに尋ねた。 すると、 「そうね。ルール上は125年に1回だけれど、長いこと守られてないわ。最近はさん3年おきね。それから…召喚者は人間ね。魔王討伐に戦争に。兵器として召喚、いい思いをさせて、終わったらポイ捨てね」 と猫が教えてくれた。 そして猫は 「ねえ。サイカ。こんな世界放っておいたらどうかしら。なくなっても仕方がないわ。それより休んだらどう。そして私を膝に乗せるといいと思うわ。」 猫は、サイカが執行者の仕事に追われ、ここ最近休めていないのを心配していた。 「それはなんとも素敵な提案だね」 サイカは猫に近づいて頭を1撫でした。 「でもねカリス。あの世界には、まだやり直しの猶予があるんだよ」 「あら、そうなの。何か神が気に入る要素でもあったかしら」 「ん~。多分だけれど、逆かな」 「つまり怒っているのね」 カリスと呼ばれた猫は、話している様子もやはり品がある。 会話をしつつも、本のページをめくり、ようやく目当てのものを見つけたのか、「あったわよ」とサイカに伝えた。 サイカは、カリスから本を手に取ると、しばらく黙って読んでいた。 そして、大きくため息をつく。 理由は、これから出向く世界が、反吐が出るほどひどいからだ。 約500年前、世界が危機に瀕した時、管理神は、今の世界では手に負えない事象と判断し、異世界から勇者を召喚できる召喚の紋を人間に与えた。 勇者は世界を救い、世界は大いに発展を遂げたが、神は召喚紋の回収を怠る。 しばらくし、豪の強い人間が、神から紋を授かった神官を殺して紋を強奪。 以後多数の生き物の命を生贄にして度重なる召喚を実施。 さらに、召喚された勇者は、いつも、世界の危機を救ってくれと頭を下げられ、予定どおりに美男美女と出会い、予定どおりに武力を手に入れ、目的を達成したらところで、全ての嘘を知らされ、混乱に乗じて···毒殺、刺殺···。 そんな横暴のツケを払うように、最後の勇者は、今まで通り世界の用意した嘘の説明や嘘の出会いに気づきもしなかったが、異常な、猟奇的な欲の強さから世界の財産や人を好き放題くい散らかすようになり、国は勇者のスキルに魅了され、終わりに向かっている世界で、誰1人その破滅に気付けないでいる。 「はぁ」 サイカはため息をもう一度ついた。 「・・・やっぱり、あなたは私と昼寝をしてていいと思うわ。添い寝もしてあげる」 サイカがカリスを見ると、カリスは、ソファの上に座り、手招きをしている。 「・・・ありがとうカリス。でも今回は、1人から意思確認をするだけだ。戻ってきたらお願いするよ」 「あら、猫は気まぐれなのに」 「だから今のうちにお願いしておこうかなと」 カリスは、スッと立ち上がると、ニコッと笑い、ネックレスの鈴をチリンと鳴らしてから、別の部屋へと出ていった。 調べ物の手伝いで、カリスも疲れているのだ。 サイカは、カリスに、おやすみと言い、黒尽くめの服に着替えると、部屋で一番古い扉の前にたった。 そして 「21189」と宣言する。 宣言を受け、扉の上に数字が浮かび上がると、扉の作りが、中世ヨーロッパ風とも言えるものに変わった。 行き先の数字を宣言すると、行き先の扉と繋がるわけである。 サイカは次の異世界へ行く。 今度は、異世界法の執行者兼世界法の執行者として。

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