ニーナ

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ニーナ

学生で拙い文章かも知れませんが 読み手があっと驚く作品を創りたいと 思います!よろしくお願いします

鳥になる

あの鳥になりたい 朝、あなたの部屋を除きこんで 少し歌をうたえば あなたの爽やかな目覚めを手伝うことが出来る 美しい歌声を持ちたい だから、華麗なコマドリになりたい。 あの鳥になりたい 手のひらに収まる小さい身 くりくりした丸い目であなたをまっすぐ見て ちょっと首をかしげれば あなたは私のとりこになっちゃう 鳥だけにね それに写真集なんかもでちゃったりしたら 鳥好きのあなたは買ってくれるかもね 愛らしさを持ちたい だから、可憐なスズメになりたい。 でも私は違う わたしはカラス わたしは綺麗な声を持っていない あなたを癒すことができない わたしは可愛らしい身体を持っていない 筋肉質でまっくろなつまらない身体 わたしは愛嬌をもっていない 緩んだ網からゴミを漁るような 薄汚れたいきもの わたしは車に轢かれることにした あなたに愛してもらえないなら カラスなんかじゃなくて あなたと同じ人間がよかった。 でも車に轢かれて ゴミ袋に入れられて 知らない人間に運ばれている時 おもいだしたの。 あなたがもっと小さかった時に 「あの鳥、くろくて強くてかっこいい」って いってくれたことを

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救い

気づいちゃった 悪意の種に 気づいちゃったら 苦しくなる こわくなる 気づいちゃったなら 埋めればいい 埋めて育てればいい 水と肥料とちょっとした幸福をあげて 環境を整えて 酸性やアルカリ性にして アサガオや紫陽花のように 好きな色を咲かせればいい ピンクや青の花を咲かせればいい 気づいちゃった 悔しさの種に 気づいちゃったら ねたましくなる 後悔する 何もする気力が無くなる 気づいちゃったなら 食べればいい あのオレンジの実を模した 種のお菓子のように 小さい頃に気にせず食べたスイカの種のように 満たされていない 隙間が多いお腹に入れ込んで 消化して 栄養になるところだけ吸収しちゃえばいい 気づいちゃった 悪意の花に 悔しさの実に 気づいちゃったら 苦しくなる こわくなる ねたましくなる 後悔する 何もする気力が無くなる 完成された 悪意なら 悔しさなら 自分の好きじゃない花の色 梅雨が明けてしまった紫陽花 自分の口には合わないお菓子 大人になってしまったスイカの種 完成されていたらどうすればいいのだろう。

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救い

受験

「絶対落ちるよ。」 「あと50点も足りないよ。」 「志望校変えなよ。」 痛いくらい言われた言葉だ。 私は勉強が嫌い。 でも大学には行っておきたいし 一応夢があるし。 中学校までお父さんに全部を決められていた。 友達、読む本、髪型、部活とか 自分で決めたかった。 高校は自分が選んだところに行きたかった。 努力するのは嫌いじゃなかったし カロリーメイトとかのCMで見たような受験生に憧れていた。 入試の2週間前。 模試の合格率は20%だった。 はっきり言って無理だ。 先生に言った。 「はっきり言ってどう思いますか?」 先生は悔しそうに言った。 「情けを捨てて言うのなら無理だと思う。」 やっぱりそうだよなと思った。 家に帰る道で泣いた。 無理という言葉を何回も頭の中に巡らせた。 あの後に 「あと50点あげられるなら受けてもいいよ」 と言われたけど2週間で50点なんて到底無理だと思った。 でもそれで諦めて またお父さんの言いなりになるのは嫌だった。 私は腹をくくった。 次の日に 「絶対に50点上げるのであの高校を受けさせてください」 とお願いした。 許してもらわなきゃいけないわけじゃなかったけど 自分の中でケジメをつけたかった。 先生は許してくれた。 私なりに勉強した。 絶対に点数をあげてやるんだという気持ちを胸に。 1週間後に模試を受けた。 60点上がった。 2日前模試を受けた。 20点上がった。 2週間前から80点上がった。 本番の日になった。 思うように点数は取れなかった。 やっぱり私はカロリーメイトの受験生にはなれなかった。 自己採点の時 塾の先生は泣きそうになる私を見て 涙をこらえてくれた。 最後まで反対していたのに ギリギリまで粘る私を応援してくれた。 本当はここで最高得点を出して 笑顔で受かって みんなで喜ぶのが物語としての筋だろう。 でも現実は甘くないし物語でもなかった。 合格発表はまだだし 落ちたことが確定したわけじゃない。 だけどこれが私の現実だ。 カロリーメイトのように 輝いている主人公にはなれなかったけど 間違いなくこの2週間は私が主人公だった。

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受験

ただ食べるだけのお話

「寒すぎ。」 心の底から漏れ出た声が冷たい空気に溶けていく。 ふわふわのマフラーに顔を擦り寄せ サイズを間違えて買ってしまった大きなコートに手を引っこめる。 家で待っているあれのためにも今日は早く帰ろう。 ゴトンと大きなガスコンロと土鍋を出す。 今日は肉鍋をするって昨日から決めていた。 今日の朝から仕込んでおいた昆布出汁がよく取れている。 ドパッと鍋に空けておく。 思わず顔がほころぶまでがワンセットである。 次に野菜。 大根、人参、白菜、ねぎ、水菜、もやし 大根と人参、ねぎはざく切りに。 早めに鍋に入れておこう。 白菜と水菜はもう少し もやしは食べる10分前だ。 そして鳥の肉団子、白滝、豆腐を準備。 適当な時間に入れる。 我が家は鍋をよく食べていたから順番はバッチリだ。 お待ちかねの肉。 本日のメインの肉。 血が沸き肉踊るような気持ちとはまさにこの事だ。肉だけに。 つやつやとした上質な赤身 濁り気のない脂身。 大切に大切に寝かすように鍋に入れる。 パカっと開けると白い湯気の奥から 幸せが顔を出した。 何もかもがつやつやと輝いていて食欲をそそる。 何も考えずに菜箸で肉を口に運ぶ。 圧倒的肉の旨み。 口が燃えそうに熱いが関係ない。 喰らおう。この鍋を。 くたくたになった白菜。 しゃっきりと歯触りがいいもやし。 ちゅるちゅると心地のいい白滝。 そして肉。 商店街の精肉店で1番いいのを買ってきたのだ。 美味しいに決まっている。 甘みのある脂身。 旨みしか詰まっていない赤身。 出汁だけで食べてもよし。 塩、ポン酢で食べてもよし。 変わり種で胡麻につけても美味しい。 一通り喰らう。 明日は残りの出汁にうどんを入れて食べよう。 それも美味しいに決まっている。 キッチンに鍋とガスコンロを片付けて デザートの雪見だいふくを頬張る。 やっぱり鍋はいいな。 肉はいいな。 「人間肉ってなんでこんなに美味しいんだろ。」

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ただ食べるだけのお話

人間の考えること

胸糞注意です! 私は俗に言う キレやすい人らしい。 「あんたみたいなのと付き合う人は大変だね」と友人は言う。 「確かに〜」 と生返事をしながらスマホをいじる。 そういうあんただってつるんでくれてるじゃん。 最高かよ。 口には出さないけどそう思う。 自慢じゃなくて 本当にあたしはモテる。 中学の女子からのあだ名は一生モテ期だった。 そういうと女子からは嫌われてたの?と聞かれるが 人並みに友達はいた。 女子なめんなよ。 いつも男子からアタックはされてるけど 無視とかすごく冷たい態度をとると 1週間くらいで離れていく。 そんなあたしにも恋人ができた。 名前は健太。 ビジュも良くて性格も良くて最高の彼氏だ。 あたしがすぐキレても笑ってなだめてくれる。 どれだけ殴っても 罵声をあびせても 彼は笑ってそこにいる。 「あんた、最近よりキレやすくなってない?」 「は?」 「ほらまたキレる。」 図星を食らって黙る。 あたしだってキレたくてそうしてる訳じゃないし 「彼氏に甘えすぎじゃない?あのカレシって」 「うるさい。頭冷やすから帰る。」 友人の言葉を遮ってカフェ代だけおいて帰った。 家のチャイムを鳴らすと健太が開けてくれた。 イラついていて どうしようもなくて つい 足をけってしまった。 健太は心配そうに笑って振り返った。 「どうしたの?またイライラしちゃった?」 今日はなぜか虫の居所が悪くて そのなだめようとしてる姿に よりイラついてしまった。 「うるせえんだよ。」 健太の腹部を殴る。 「あたしのことなんてめんどくせぇ女だと思ってるんだろ。」 足をかけて転ばせ、馬乗りになる。 「違うよ。ただ君が心配で。」 何度も何度も殴った。 皮膚が変色するまでつねった。 傷跡が残るくらい引っ掻いた。 はっと我に返った。 目に入ったのは 見るも鮮やかな緑色の皮膚。 やりすぎてしまった。 だってこの色はオイルの色。 月に1度彼に補給しないといけないカレシの原動力。 それが漏れてしまっている。 肩を掴み、引き起こして揺さぶる。 ガシャンと音をたてて崩れ落ちた。 それは アンドロイドのカレシの体だった。 「どうして実験体Xはこんなに攻撃的なんでしょうか?」 「人間の考えることはわかりませんね。」 「一時期は私たちを生み出せるほど知能があったというのに。」 「それが私たちが知りえない愛というものなのでしょう。」

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枕草子オマージュ

生まれる時は昼間。 生まれる瞬間は明るく光が満ちているのがいい。 顔を真っ赤にして泣いている私と 安心しているお母さんと 感極まって泣いているお父さんと 一緒に喜びたい。 喜ぶ時は誰かと一緒に。 誰かと一緒に笑うと単純に笑い声が二倍になって それが一人よりも愉快だ。 対面じゃなくてもいい。 電話越しでもいい。 真面目に喜びは人と分かち合うと二倍になると思うのだ。 怒る時は自分に対して。 人に対して怒る場合もない訳では無いけど 私も悪い所が必ずあるはず。 人を怒って変えてもらうより 自分に怒って自分で変えた方が よっぽど簡単でみんなが幸せになれる。 泣く時はお風呂で。 人前で泣くのはみっともないという風潮がある。 悪くは無いと思うけど びっくりしちゃう人も多分いる。 一人でお風呂に入っている時に思う存分泣きたい。 涙がお湯に熔けて 悲しみが薄まる気がするから。 死ぬ時は暖かい布団で。 心安らぐ場所と言えば布団。 漫画に出てくる大往生みたいに 知り合いみんなに囲まれて死にたい。 みんなの顔を見て 私の人生はこの人達に認められるくらい 立派なものだったんだと思いたい。

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枕草子オマージュ

生きる意味

深い深い森の中 都会とは違い、澄んだ空気が満ち満ちている。 深夜も深夜であと3時間くらいしたら夜が開けるだろう。 朝露の準備をし始めた土や雑草たちの べちゃべちゃとした音が慣れずに耳障りで 周りの音が透けないようにワイヤレスイヤホンの音量を上げた。 僕はここに死にに来た。 理由は沢山ある。 人と接するのが苦手だ。 病気なんじゃないかと疑うほど 人に自分を認識されるのが怖い。 話そうとすると 喉になにかつっかえたような 弾力のあるパンを 頑張って飲み込もうとしている時のような 苦しさがある。 言葉が出ない時の白けた目 人の悪口を言うなという癖に 影で僕の悪口を言っている担任 両親の「甘えるな」という言葉 もう嫌気がさしたんだ。 悪口もいじめも差別も不愉快だ。 無視も暴力も虐待ももうたくさんなんだ。 誰も助けてくれないなら 誰も何も気づいてくれないなら 自分で自分を救うしかない。 そう思ってロープと懐中電灯と音楽プレイヤーとともに こんなところまで来たわけだけど 僕はどうすればいいのだろう? とりあえずなにかしていないと不安で 上へ上へと歩いてみてるものの 自殺にルールなんか無くて 皆目見当もつかない。 たどり着いたのは開けた墓地。 夜明け前だということも相まって不気味で逃げ出したくなる。 でも僕は何もかもを捨ててここに死にに来たわけだから 逃げることは許されない。 こんなところで死体で見つかったらそれこそホラーだから ここ以外で死のうと思って 足早に通り過ぎようとした。 不意に前を向くと白い光がよぎった。 夜が開けたのかと思い、上を見ても 空は暗いままだった。 木々がざわざわと揺れて 後ろを振り向くと光の正体がいた。 白い少女の幽霊だった。 僕の身長より高いところに浮いていて 驚いたような丸い目が僕を見ていた。 白く光っていて、身長よりちょっと短い位の髪の毛が ふわふわゆらゆら、たゆたっている。 雪のように透明な白いワンピースを着ていて それまた同じくらい白いショールが 重力なんて関係ないと言わんばかりに 自由自在にはためいていた。 僕は言った。 「結婚してください。」 恋に落ちた。 初恋だ。 白い服に白い肌。 整った顔つきに くりくりとした大きな黒い瞳。 周りをふちどるように白いまつ毛が咲いていた。 得体もしれぬ不気味さと 彫刻のような美しさが 引力となって僕の目を引き付けた。 「は?」 心底意味がわからないといった様子で 少女は綺麗な声をこぼした。 「僕はあなたに惚れてしまったんです。」 少女に気持ちが伝わるように言葉を紡いだ。 「もう死のうとしていたこんな僕と目を合わせてくれた。」 少女はため息をつくように言った。 「ああ、やっぱりね。 あなた、森に入ってきた時からまるで生気がなくて 本当に心配したのよ。」 眉根を寄せた悲しそうな瞳が揺れて ああ、やっぱりいい人だ いや、いい幽霊だと思った。 「あなたはどんな人がタイプですか?」 少しでも少女に好かれたくて問う。 「もう死んでいる身にタイプとかないけどね。」 おかしそうに笑う愛おしい顔。 「そうね。強いて言うなら生きている人。」 あなたはどうする?というような挑戦的な目。 僕はそれに答えるように言った。 「僕、毎日生きてここに通います。」 深い深い森の中 都会とは違い澄んだ空気が満ち満ちている。 深夜も深夜であと3時間くらいしたら夜が開けるだろう。 朝露の準備をし始めた土や雑草たちの べちゃべちゃとした音が耳障りで 周りの音が透けないようにワイヤレスイヤホンの音量を上げた。 あの少女に出会ってから、少しずつ人と話そうと努力している。 変わろうと努力している僕を受け入れてくれる人もいる。 さて、そろそろ墓地に着く。 最初とは真逆のことを言おう。 僕はここに生きに来た。

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生きる意味

シンデレラ

とある大きな館のそばの 小さなバー。 その日は舞踏会があり 国中の裕福な家庭の年頃の娘が 国の象徴とも言える美しい城へ集められた。 そんな日。 バーの隣の館からはつい数分前に 豪華なシルクのドレスを身にまとった気が強そうな娘二人と 娘よりもきらびやかな服装の女性が出ていった。 バーの中には初老の店主と 昔からの馴染みのお客さんが一人。 古びたレコードプレイヤーからは それまた古びた洋楽がしっとりとした雨の日を彩っていた。 まるで時が止まっているかのような店内に カランコロンという入店の音が鳴り響いた。 そこには信じられないほどみすぼらしい服を着た少女が一人 10代の健康的な少女とは思えないほどやせ細った体で 顔を下に背け髪が傷んでいるけれど それでも 絶世の美少女だということは 誰の目にも明らかだった。 店主は一瞬、その金髪と透き通るような水色の瞳に見惚れたが 気を取り直してこう言った。 「どうしたんだい。迷子なのかい。」 少女は言った。 「今日はお客さんとしてここに来たの。」 鈴を転がすように甘い その中にも芯があるような声だった。 「未成年でも飲めて気分が引き締まるものをちょうだい。」 「君は舞踏会には行かないのかい?隣の館の娘さんだろう?」 と客が尋ねた。 「行かないつもりだったけど奇跡が起きて行けるようになったの。わたしに勇気をちょうだい。」 少女の真っ直ぐな瞳が店主を貫いた。 「カウンター席に腰かけて待つといい。」 店主は支度を始めた。 まずは愛らしさを意味するオレンジジュースをベースに 愛と完璧を意味するレモンとパインを混ぜ込んだ。 丁寧にかつ素早く作っていく。 できたカクテルはノンアルコール。 少女の金髪を思わせるような透き通った金色だった。 華奢なグラスいっぱいにそれを入れ 少女の前に差し出すと、うっとりと見つめた。 優しく香るトロピカルな匂いを嗅ぎ こっくりとそれを飲んだ。 誰も何も話さない。 笑いも起こらない。 だけど、間違いなく幸せに満ちていた。 「お代はいくらかしら。」と少女が問う。 店主は何も言わず、何も受け取らず 黙って少女を見送った。 数十分後。 美しい馬車がバーの前に止まった。 そこから顔を覗かした天使のような少女が尋ねた。 「先程のカクテルはなんて言うの?」 店主は言った。 「シンデレラでございます。どうぞお気をつけて。」 心地よい暗さの店内に店主が戻ると客が言った。 「なかなか粋なことするじゃないか。よりによってシンデレラを作るなんて。」 「夢見る少女なんだろ。カクテル言葉。」 店主はたっぷりと時間をかけて言った。 「俺はあの少女が報われるって知っているもんでね。」

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シンデレラ

飛びたいうさぎ

今年は夏を満喫したくて アイスはキンキンに冷えていて 君が隣で笑ってる そんな夏を迎えるんだと思っていた。 私の偏見だけれど 君はまるで飛びたいうさぎのようだと思う。 初めて出会った君はお手本のような陰キャで 暗くて 僻みっぽくて いつも怯えているようで でも 頭が良くて その癖ロマンティックで 世界に夢を抱いている ちょっと面白そうな少年だった。 私が絡み倒しても嫌がらない反応を見て、きっと君はいい人だと思ったから沢山遊びに誘った。 たまに本気で怒らせちゃうこともあったけど 毎日懲りずに遊んでくれた。 君は毎日図書館にいて、よく宇宙や宇宙飛行士の本を読んでいた。 「君はとびたいの?」って聞いたら 「うん。飛びたい。」って真剣に答えてくれたから 元宇宙飛行士のお父さんが言っていたように 経験を積むために色んなとこに行った。 今年は君と夏を過ごすために無理を言って旅行をキャンセルしたの 君には内緒にしとくね。 君はプールも図書館もお祭りも楽しんでくれた。 カレンダーはまだ8月にもなってなかった。 これからもっと楽しいことがあるんだって 怯えていて寂しがり屋のうさぎのような君を もっともっと笑顔にしてあげられるんだって 約束したのに その日は海に来ていて 太陽がさんさんと輝いて 真っ白な君の肌がいつもより赤みを帯びていた。 自意識過剰かもしれないけど 私の水着にちょっと照れているような感じがした。 私まで照れちゃうね。 まずは一緒に海の家のアイスを半分こして食べた。 いや私が3分の2くらい食べちゃったかもな。 ちょっと不満気な君を引きずって 貸出のパラソルの下に荷物を放り出して真っ青な海に飛び込んだ。 私は泳ぐのが得意だったけど人が多いプールでは満足に披露できなかったから一目散に泳ぎ出した。 息継ぎの合間に見た君の顔は呆れつつも楽しそうで 私も嬉しくて もっともっと楽しんで欲しくて さっきよりちょっとだけ息継ぎまでの時間を伸ばしたんだ。 長い時間泳いでいられるんだよって見せたかっただけ。 びっくりしてくれるかなぁ 褒めてくれるかなぁって顔を上げたら その1分にも満たない間に君の姿が消えた。 君が溺れているなんて。 私は今までにないくらいの速さで君の所へ泳いで行った。 うっすらぷくぷくと水泡が浮かびだして 潜ってみたら 君が沈んでく。 必死に腕を伸ばした。 君もその細い腕を伸ばしてくれたけど 指先にすら触れられなかった。 ライフセーバーさんに引き上げられながら見た君の姿は 宇宙に浮かんでいる 宇宙飛行士だった。 結局、私だけが助かって君はいなくなった。 君は溺れかけた男の子を救うために 泳げもしないのに 海に飛び込んだらしい。 苦しかっただろうという労りの言葉も 馬鹿じゃないのという叱りの言葉も 君には届かない。 でも これだけは君に伝えたい。 君を愛しているんだと 飛びたいうさぎのような君へ 本文は燃え盛るくらげを読んでいただくとより楽しめます。 作者より

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飛びたいうさぎ

燃え盛るくらげ

今年も病気になりそうなくらい眩しい日差しが降り注いで、 近所のビーチは人で賑わって、 相変わらず君は騒がしい 夏が来ると思っていた。 やっぱりベタかもしれないけど僕は君のことをこう表したい。 燃え盛るくらげのような君へ 「秋と言えば紅葉だよね!」 と外に連れ出されて 「冬と言えば雪だよね!」 と雪まみれになって 「春と言えばひな祭りだよね!」 と桜餅を食べた。 もう8年も君と友達をしているけど、いつまで経っても君の行動は読めない。 去年はスイスに行くし 一昨年はドイツに行くし その前はオランダに行くし なんだかんだ君と夏を過ごしたことは無い。 いつも振り回されてばかりだけど、どうやら僕は振り回されるのは苦じゃないようで 君もそれを知ってか知らずか僕を色んな所に連れ回す。 今年の夏は旅行には行かないと君から聞いた時には 僕はちょっとわくわくしたし 君も僕と夏を満喫する気満々だった 最初に行ったのはプール。 僕は絶対に濡れないという決意のもと行ったけど 君に突き落とされた。 さすがにイラッとしたね。あれは。 次に行ったのは国立図書館。 インテリの僕に合わせてくれたのはありがたいけど 辞書を枕に寝始めた君を見て何回置いて帰ろうと思ったか。 次に行ったのは祭り。 ありえないくらい高速で金魚をすくって子供たちのスーパースターになってたのはさすがに驚いたな。 あと浴衣を褒めないと拗ねるのは君らしかったよ。 そこそこ似合ってたかな。 そして海。 君は柄にもなく可愛い水着を着ていて 僕も柄にもなく目を合わせられなかったのは内緒。 君は泳ぎが得意らしくシャチのような勢いで泳いでいたな。 僕が溺れそうになった時もすぐに来てくれてさ 太陽の光を背に僕に手を伸ばして必死に助けようとしてくれたね。 海の水の中なのに涙がはっきりと見えてさ 太陽の光を受けて輝いて まるで燃え盛るくらげのようだった。 最後に君と夏を過ごせて良かったと思ったんだ。 だからさ、もう泣かないでよ。 僕はもう君のそばにはいられないけれど 君には何も届かないけれど それでも 君を愛しているんだから 燃え盛るくらげのような君へ

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燃え盛るくらげ