邪鱗宿主①
一人の少年が、自室で黒い便箋を開いた。不吉とされる手紙。開けるべきではないとされる手紙。
冷や汗が身体中を駆け巡るような、そんな心のざわつきが彼の中にあった。
ーーー地獄を終わらせられるかもしれない。
ーーーけれど、本当は。
ーーー本当は、僕は…。
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少年は登校途中だった。名を「アサギ ケンネ」と言う。高校二年生。通学路を歩く彼はいつも憂鬱だ。
学校に着けば不愉快な見世物が彼の側でいつも開催されていたからだ。
クラスの扉を開ける。そこにはいつも通りの光景があった。クラスメイトの一人が、数人グループによってイジメを受けている光景。いつもそれを見て見ぬ振りをして、席に座る。決して自分が対象にならぬように、地獄から目を逸らし続ける。
何事もない。この憂鬱な感情もいつも通りだ。ホームルームの5分前にはイジメは終わり、授業の合間の休み時間に再開される。
ーーー何が面白いのだろうか。
思った事は幾度となくある。しかしそれを言葉に出来るほど勇敢でもなければ、無謀でもない。
学校での生活が終わる。
終礼の時、担任の教師であるハヤカワが生徒たちに注意喚起を行った。
「3日前ぐらいから、ここら辺で獄獣の発見報告があったそうだ。一応討伐隊の方が近くに駐在しているが、もし討伐の最中に出会しても写真を撮るようなことは決してやるなよ」
獄獣…10年ほど前から世界各地に現れ始めた謎の生物である。当初、銃火器などを用いて対処に当たっていたが、獄獣には効果が薄かった。
しかし、獄獣発生時から暫く、摩訶不思議な能力に目覚める者が居た。
ある者は常人離れした怪力を用いて獄獣を討伐し、また、ある者は空気中に氷の槍を発現させ、それを用いて獄獣を討伐した。
このような者たちを人々は討伐者と呼び、討伐者で構成された部隊を「討伐隊」と呼んでいる。
ハヤカワは続けて言う。
「それから、お前らの中にそろそろ17歳を迎える奴も居るだろう。自宅に黒い便箋が来ても開けるなよ。すぐに破棄するんだ」
『黒い便箋』
この手紙もまた謎に包まれていた。獄獣発生後、程なくして起こった現象の一つである。17歳になった者に届く可能性のある手紙。送り主は不明であり、監視カメラにてチェックを行おうというテレビ番組もあったが、それでも分からなかった。
気付けば郵便ポストに入っている。気付けば自宅に届いている。そして驚く事に黒い便箋の中の手紙に書かれている文字は受け取り主である17歳の少年少女にしか読めないのだ。
17歳を迎えた少年少女が皆、この手紙を受け取る訳ではない。受け取れる者は極一部だ。しかしその極一部は討伐者よりも強力な能力を得られることが多いという。
しかしあまりにも受け取った者が変死するケースが多く、また多感な時期に能力を手にした事で全能感からか罪に手を染める者すら現れた。
故に国の方針としては
「決して黒い便箋は開けてはならない」
という事に決まった。つい最近の話だ。
終礼が終わり、生徒は掃除する者と帰宅する者、放課後をダラダラと過ごし始める者、部活に精を出す者…様々なタイプに分かれる。
ケンネは帰宅部だ。早急に学校という地獄から抜け出した。
(続きます)