無名
2 件の小説高校生日記
2022年3月3日 今日君はいなくなった。 小さな手も。優しい声も。 クシャッと笑う顔も。 もう見ることも触れることもできない。 わかっていた。 君は僕の日々からいなくなった。 僕の明日から いなくなった。 2019年7月 「おい、こうた。どうだったんだよ!告白」 「あ、振られたよ」 「だよなー。なんたって相手はあの深町さん。しゃーねーよ」
2.0足歩行
雨上がりの煙はいつもよりゆっくり登っていく。今日みたいな日の煙草も好きだ。また深く肺に入れゆっくりと吐いた。残りの煙草がもう短い。 明日も早い。家に帰ろう。そう思い煙草の先を地面にすった。虚しく残った火をサンダルで踏んで潰した。 何にも期待していない。やる気もない。 でも諦めるには何かがたりない。 僕は目を閉じて何かにすがるかのように歩きだした。 *** 暑い。クーラーが壊れている。 テレビをつけると天気予報が流れていた。今日は35℃をこえて蒸し暑い日になるそうだ。こんな日にクーラーが壊れるなてたまったもんじゃない。 窓を開けるとより夏の悶々とした暑さに気が滅入るだけだった。 本当に35℃なのだろうか。湿度のせいで45℃あってもおかしくないのではないかと思った。 時計を見ると思っていたより時間がたっていた。もうすぐバイトの時間だ。 急いで準備して外へ出るとこれまた日の光に気が滅入ってしまった。 文句をいっても仕方がない。僕は自転車を進めた。 バイト先のファミレスに着くと店長が不機嫌な顔をしていた。いつも通りだ。 急いで着替えてホールに立った。まだ客はまばらで忙しくなるには時間がありそうだ。 「よ。無気力男子」後ろから小突かれた。田中先輩だ。 「おはようござ、こんにちは。」 「はい、こんちわ。店長今日も不機嫌そうだったね。奥さんから色々口酸っぱく言われてるらしいよ」 「そうなんですね。」 「うちらも大変だけど、店長も店長で仕事以外にも大変なんだろね」 「ですね。」 「まーがんばりましょか。今日は平日だしそんな多くはなんないでしょ」 「はい。」 田中先輩は1つ上の大学2年だ。特別取っ付きやすい訳ではないがいい人なのでこれといった不満は小突いてくる事以外ない。 しばらくするとお客さんが来たのでいつものように仕事を始めた。 「ありがとうございましたー」 時計を見るとあと30分程で切り上げる時間になっていた。店長も今日は早めに切り上げるとの事だったので帰る準備をした。準備を終え、外へ出ると日はないものの生ぬるい風だけはそのままだった。 すぐに帰ろうかとも思ったがクーラーが壊れている事を思い出し、行きつけの本屋に行くことにした。 近藤書店。最近では珍しく夜もやっている。少し古くこじんまりしているがそういう雰囲気も好きだった。 この前好きな作家の気になる新作が出ていたため店に入るとすぐに自分の好きな作家のコーナーに行った。するとそこに黒髪の色白で綺麗な女の人が立っていた。珍しいな。この店は夜までやっているが夜に人がいる所を見たことがない。僕のために開けてくれているのかと思うほどだった。少し戸惑いながらも僕はお目当ての本を探した。確かここら辺にあったはずだ。しかしなかなか見つからない。 しばらく探したがやっぱり見つからず、そっとさっきの女の人の手元に目をやると買おうと思っていた本の表紙が見えた。 油断していた。あまりメジャーな作家ではないため無くなることはないと思っていたが、こんなギリギリで買えないことがあるなんて。ついていない。 他の本でも買おうと思ったが読みたい訳でもないからやめることにして店を出た。 帰ろうと思ったが喉が乾いたので近くの河川敷で休憩することにした。さっき買ったばかりの冷たいコーヒーは生ぬるい風の鬱陶しさを軽くしてくれた。 河川敷には人影はなく、水面がきらきらと街灯を反射していた。 ぼーっとしていると後ろから声がした。 「すみません」本屋にいた女の人だった。 少しびっくりしている僕に彼女は続けて言った。 「あのー、この本探してなかったですか?」そう言って出した手の中には僕が買おうとしていた本があった。 「その、同じ作家さんのところ見てたからもしかしたら、この本探しにきてたのかなって思って」 「そうですけど。」 「もし良かったらどうぞ!まだ私他の作品もあって読み終えてないので」 「いやいや、大丈夫ですよ。」 「いやいやどうぞ!この作家さん結構マイナーだからあんまりないじゃないですか!」それこそ僕に渡していいのかと思ったが彼女の勢いにおされ受け取ってしまった。 「好きなんですか?高木光輔」と彼女が言った。 「はい。話自体も面白くて好きなんですけど、言葉の使い方とか登場人物のセリフ、言い回しなんかが好きで。」 「分かります!波打ち際のカフカの主人公の最後の 人はほんとに大切なもんは忘れられないように作られている。だから安心して僕を忘れて っていうセリフなんか私すごい好きなんですよ!」 「僕もそこ好きです。綺麗な終わり方で、かつ、深い意味のあった言葉でとても良かったです。」 「ですよね!」 彼女もなかなかのファンらしく話が盛り上がってしまった。そして1時間程たっていた。 「はーひっさびさに本の話で盛り上がれたよ!」 「僕もですよ。」 「また会いに来てもいい?」 「また、そうですね。」 「うん。会いに来る」彼女はしっかりと言い放ちそして彼女は大きな咳払いをして立ち上がった。 「そしたら私そろそろ帰るね!」 「はい。」 「大丈夫!また会えるよ!」 「会えるといいですね」と根拠の無い大丈夫に困惑しながらも僕は言った。 それじゃ!と元気に手を振る彼女を見送って時計を見るとまもなく11時になるとこだった。 自転車を早足でこいで家に着くとすぐに眠気が来た。それはそうだ。 こんな時間まで外にいたのは久々だったのだ。疲労がどっと押し寄せて、僕はクーラーがつかないことも忘れ睡魔に抑え込まれるように眠った。