際間
ピンクや青のネオンが窓を照らし
ガヤガヤとした人の音に時折怒号が聞こえてくる
六畳程度の部屋には昼夜問わず明かりが差し、睡眠すらまともに取れない
カーテンを付けたらいいと友人は言うがカーテン一つのお金で何日食えると思ってるんだと聞こえないように僕は呟く
過去の入居者達の残した幾重にも重なるシミにまた僕が落とす白や黒といった絵具が新たな層を積み始めた
退去費は前の人たちの分も清掃費取られるのかな、なんて要らぬ心配をする
僕は描く、表現する、という事が好きだ
しかし芸術家というには平凡で今風のアーティストというには余りにも無難な人間の癖して諦めが悪く
諦めようにも働くたびに要領の悪さ、自分のいい加減さに邪魔をされクビにされるか勝手に辞めて帰ってくる 本当に糞だ
その想いをかき消すように今日も描く
芸術家ってのは自分の魂と引き換えに名作を作る物だと自分に酔ったセリフを狭い部屋でこだまさせる
でも、もう大丈夫だ
この作品は感じた事のない感情を教えてくれる
止まることを忘れたままの鼓動と筆が僕と別れ
目の前は白や黒が入り乱れる ここまできたなら大勢に認められたい
妥協のない完璧な作品にしたい
今までの記憶が交差し始め
ひらりと咲きふわりと落ちる白百合の様に少しずつ瞼が落ちる寸前に
あぁ、そうじゃない、描き直そうと忘れていた部分があることを思いだ、、、、
何年か経ち、木造のアパートも鉄筋のビルに作り替えられ何軒かの店が入っている
そこの店の一つにアート好きの集まるバーがあるらしい
なんでも、店を出す際に大家から譲って貰ったその『絵』を見るため
夜な夜な集まっては批評会の様なことをしたり
こんな完璧な絵は他にはないと作者を探す作戦まで立てているらしい
そこからまた数年経ち、そのバーのマスターは資金繰りが厳しくなり自殺してしまい店の前にパトカーやら救急車やらが集まっていた
運ばれるマスターを見ていた大家が『これで二人目だよ、縁起悪いねぇ』とポツリと言う