鮭さん
7 件の小説オムライスが信号機
オムライスを食べよう。オムライスを注文した。美味しそうなオムライスが出てきた。さあ、食べよう。美味しそうな黄色だ。と、そこで気づいた。オムライスだと思っていたもの、実は黄色信号だった。黄色信号だったから、注意して食べようかな、と思っていたら、すぐに赤信号になってしまった。赤信号になったら、食べてはいけない。私はただ眺めていた。そのうち、青信号になった。よし、食べよう、と思ったが、青色なので食欲がわかない。 怒りが湧いてきた。この野郎、俺に食べさせる気がないな、フンガーッ、フンガーッ。怒りのボルテージが上がっていく。ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピッコーーーーン。 怒りのボルテージが満タンになったので、私は信号機になって、交通整理をした。交通安全に貢献した。
鍵盤豆腐
私はピアノと共に人生を歩んできた。幼いころから毎日ピアノに触れ、ピアノを愛していた。明日は私のコンサートがある。世界中から私の演奏を聴こうと多くの人々が集まる。しかし、私の中にはある不安が生じていた。普段のコンサート前日の緊張感とは全く別物、それは、演奏中ピアノの鍵盤が豆腐になるかもしれない、というものだった。杞憂かもしれない。いや、常識的に考えて、これは杞憂だ。鍵盤が豆腐になると心配するよりは、隕石が落ちてくる心配をする方が現実的であるし理にかなっている。そんなことを考えながら、私は眠りについた。 朝になった。今日はコンサートだ。ベッドから降り、シャワーを浴び、服を着る。そこであることに気付いた。昨日の心配事、鍵盤が豆腐になるかもしれないという不安がより強い実感として、私に近づいてきているということ。信じられなかった。あんなの寝ぼけ頭だからこそ浮かんだ考えではなかったのか。そうは言いながらも、今日のコンサートを中止することは出来ない。多くの人が楽しみに待っているのだ。しかたなく私は会場へ向かった。 会場についた。スタッフの多くが私を待っていた。リハーサルの準備は万端だった。私は落ち着きはらって、リハーサルに臨んだ。調子は万全だった。三時間ほど弾き続けた。しかしリハーサルが終わった瞬間、またあの不安が頭をよぎった。いや、よぎった程度の話ではない。ハンマーで殴られたような感覚だった。そこで確信した。今日の演奏中、鍵盤は豆腐になる、と。 そうはいっても時間を止めることは出来ない。本番がやってきた。私は、演奏中ピアノが豆腐になることを確信しながらステージに立ち礼をした。観客たちは私の礼を見て、一斉に拍手をした。あぁ、なんて哀れな人々だろう、彼らはこれから鍵盤が豆腐になるなんて、思ってもいないのだ。私の演奏を楽しみにここまでやってきたのだろう。申し訳ないが、私にはどうすることもできない。運命を、恨んでくれ。 一曲目はベートーベン作曲、月光第一楽章。厳粛な曲だ。私は左手の親指と小指でドのシャープを、右手の親指でソのシャープを弾こうとした。 ネチョッ。 いきなりの、豆腐化。弾こうとした三つの鍵盤すべてが豆腐化していた。 これには、鍵盤が豆腐化することを確信していた私も、少々驚かされた。月光ソナタは曲の多くに黒鍵が使用されている。豆腐と言えば白。よって私は、白鍵が多用されているワルトシュタインソナタあたりにおいて、鍵盤の豆腐化が始まると考えていた。今考えると、非常に観念的で、根拠のない予測だったが・・・。 観客は静まっている。きっと私の指が豆腐を弾いた効果音も、観客までは届いていない。彼らは長い間私が鍵盤の上に指を置き続け、演奏開始に向け息を整え続けているとでも考えているのだろう。さて、どうしたものか。ここで気づいたのだが、私は鍵盤が豆腐化することを確信していながら、豆腐化した場合どのような対処をするか考えていなかったのだ。愚かだった。私は私に腹を立てた。 私はしばらく凍り付いていた。時の流れが身に染みる。観客席からもざわざわと音が聞こえ始めていた。私は決めた。食べよう、と。 次の瞬間、私は鍵盤にかぶりついていた。全ての鍵盤(豆腐化した)をがむしゃらに食べ続けた。観客からは悲鳴が聞こえた。もうどうにでもなれ。運命とは時に残酷なものなのだ。 食べた。全ての鍵盤(豆腐化した)を食べ終えた。この世のものとは思えない旨さ。感無量、私はもう死んでもいい、人生を全うした気分だ。私は悠々と立ち上がり、悲鳴が聞こえる観客席を向いて、礼をした。 ステージ裏に戻ると、スタッフたちが呆然と立ち尽くしていた。皆が私を見ていたが、誰も私に声をかけることは出来なかった。はははは、王になった気分だ。上機嫌のまま私はタクシーに乗り、帰宅した。 素晴らしくいい気分だ。今夜は酒も女もいらぬ。そのままベッドに直行した。その夜は今までで最も心地よい睡眠をとることが出来た。 朝になった。私は渇望していた。なにを。豆腐をだ。いや、元鍵盤の豆腐をだ。食べたい。食べたい。しかし、ない。元鍵盤の豆腐などあの時、あの場所以外で発見することは出来ないのではないか。私は絶望した。試しに自宅のピアノの鍵盤に噛り付いた。しかし、それは鍵盤であった。硬かった。試しに豆腐を買って食べてみた。それは豆腐だった。ただの、豆腐だった。元鍵盤の豆腐を食べた私にとって、それは最早灰同然。食べたい、元鍵盤の、豆腐を。あの快楽を味わってしまった、私。もうなにごとにも快楽を感じられないのではないか。いや、間違いない。大好きだったくるまエビさえ、トイレットペーパーのようにしか感じることが出来なくなっていた。 皆の者、鍵盤が豆腐になっても食べてはいけない。待っているのは、一瞬の極楽と永遠の地獄。気をつけよ。
かまきり たかしくん単身赴任
たかしくんは単身赴任で田んぼに行きました。田んぼでカマキリの真似をする仕事につきました。 シャキンシャキーン、シャキンシャキーン 膝を曲げて腰を低くし、両手をカマキリのように振りかざします。 シャキンシャキーン、シャキンシャキーン 「へっへー!俺はカマキリだぜー!」 新しい仕事なのでたかしくんは張り切っていました。しかし、 「カマキリの手はな、もっと鋭い。もっと鋭いんだ、こーだ!!」 シャキンシャキーン、シャキンシャキーン 田んぼマスターもカマキリの真似をしてたかしくんを叱責します。 「え、こ、こうですか?」 シャキンシャキーン たかしくんは頑張って真似をします。 「違う!!こうだあ!!」 シャキンシャキーン 田んぼマスターは再度お手本を見せます。 「ええ、こうですか?」 シャキンシャキーン たかしくんは頑張ります。 「全然ちげえええ!!」 シャキンシャキーン!!シャキンシャキーン!! 田んぼマスターは大きな声を上げました。 「ははは、お前、偽カマキリってばればれだぞ。」 ついには稲までたかしくんを馬鹿にし始めました。 「うわああああ!!」 たかしくんはあまりのストレスに寝込んでしまいました。 うぅっ、、ううぅっ... かわいそうなたかしくん、うなされているようです。 カマカマカマカマ....カマカマカマカマ.... たかしくんの夢の中にカマキリが出てきました。 「カマカマ...お前はカマキリになれねえ。カマカマカマカマ....カマカマカマカマ....。」 「カマカマカマカマカマカマ...。」 カマキリの群れがたかしくんを嘲笑っています。 「うぅ...ううぅ....。」 「お前なんてたかが人間なんだカマ...カマカマカマカマ...」 「カマカマカマカマ...カマカマカマカマ...。」 「うっうううっ...。」 「お前にはカマキリの真似なんて無理だカマ...諦めろカマ...。」 「カマカマカマカマ...カマカマカマカマ....。」 「たかが人間だカマカマ....。」 たかが...人間....? その瞬間、たかしくんの中で何かが振り切れました。 プチッ そうだ...俺は人間...人間だあー!! ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅーっ!! 覚醒したたかしくんはカマキリたちを踏み潰しました。 あぎゃーっ!! 呆気なくカマキリたちは踏み潰されました。 たかしくんは飛び起き、裸足で家を飛び出しました。 「俺は人間!!人間だー!!!」 たかしくんはそう叫びながら田んぼを走り回りました。田んぼマスターや稲たちがその様子をうなずきながら笑顔で見ているのでした。たかしくんは自分を取り戻したのでした。 完
スッポンポー革命
鳩が鳴く。クルッポー、クルッポー。 あっちの鳩も、クルッポー、こっちの鳩も、クルッポー。 スッポンポー、スッポンポー あれれれれ、変な鳴き方の、鳩がいる。 スッポンポー、スッポンポー。 この鳩は、みんなと鳴き声違うけど、なんだかとても、楽しそう。 スッポンポー、スッポンポー。 その鳴き声が、人間Aの目に止まった。 なんだこの鳩は、卑猥な鳴き声しやがって。こんな声で鳴かれたら、人間の風紀が乱れちまう。猥褻罪で死刑だ。 銃を取り出す。 バーーーーーーーン スッポンポーーーーーーーッッッッ スッポンポー鳩、死んでしまった。 鳩たちはとても悲しかった。人間に腹が立った。みんな、スッポンポー鳩が大好きだったのだ。そこで、鳩たちは考えた。なぜあいつが死ななければならなかったのか。そして、なぜ撃たれたのはあいつだけなのか。 ある鳩、閃く。 俺たちとあいつの違い、それは鳴き声だ。きっと、スッポンポーが原因で撃たれたに違いない。 多くの鳩たちが賛成した。そうだ、それに違いない。 そこである鳩がいった。 仲間が撃たれて、黙って引き下がれるか。明日からは俺たちも、スッポンポーと、鳴いてやる。 おお、おお、賛同の声が上がる。ここに、スッポンポー同盟、誕生。 次の日。 鳩が鳴く。スッポンポー。 あっちの鳩も、スッポンポー、こっちの鳩も、スッポンポー。 人間A、考える。困ったな、この鳩みんな殺しちまったら、急激に生態系が崩れて、環境が崩壊し、人類が滅んじまうぞ。どうしたものか。 悩んでいるうちに昆虫や木々、草花も鳩の味方をしだした。 木々が囁く、スッポンポー、キリギリスたちの、スッポンポー。 あっちを見ても、スッポンポー、こっちを見ても、スッポンポー。 人間Aは困り果てた。どうすればいい。もう人間の風紀が乱れるのも時間の問題だ。 予想どうり、スッポンポーは人間界にも飛び火した。そして、それは社会現象に。 テレビをつけるとスッポンポー、ラジオをつけてもスッポンポー、インスタグラムも、スッポンポー。 最早、反スッポンポーは、Aだけだった。ぐぬぬぬぬぬ、仕方がない、今日から俺も、スッポンポー。 世界が一つになった瞬間であった。
風見鶏の唐揚げ
「鳥の唐揚げひとつ」 店主に注文した。 「すみません。今在庫を切らしているため、風見鶏の唐揚げになってしまいます。」 店主は言った。 はて、風見鶏の唐揚げとは?よくわからないな。 「風見鶏の唐揚げとはなんですか」 店主に聞いた。 「風見鶏を唐揚げにしたものです。」 なるほど。風見鶏を唐揚げにしたものか。 「そんなものを売ってもよいのですか。」 私は尋ねた。 「いいんです。」 店主は答えた。へえ、いいんだ。 折角なので、注文してみた。 「風見鶏の唐揚げひとつ」 「へいよっ!!」 風見鶏の唐揚げがでてきた。風見鶏自体はどうやらプラスチックでできているようだった。 はてさて、食べていいものなのか。辺りを見回すと、みんな風見鶏の唐揚げを食べていた。 モグモグ、サクサク、カザミカザミ。 しかし、みんなが食べているからといって食べていいということにはならない。悩みに悩んだ結果、食べないことにした。 翌朝テレビをつけると、例の店主が謝罪している。どうやら風見鶏の唐揚げを食べた人々、コケコッコーしか、言えなくなった。私は、風見鶏の唐揚げを食べなかった自分を褒めた。偉いぞ、よしよし、よしよし。 風見鶏の唐揚げを食べなかったことを自慢したくなった。そこで、向かいの佐藤さん宅のチャイムを押した。奥さんがでてきた。 「私は昨日、風見鶏の唐揚げを注文したにも関わらず、食べませんでした。」 「まあ、すごい。」 奥さんは私のことが好きになった。佐藤さんの夫は最初は怒ったが、私が風見鶏の唐揚げを注文したにも関わらず食べなかった人間だということを知り納得した。それどころか、夫さんも私のことを好きになった。あれやこれやしているうちに、風見鶏の唐揚げを注文したにも関わらず食べなかった判断力が評価され、内閣総理大臣になった。 風見鶏の唐揚げに感謝しなければいけない。風見鶏の唐揚げがなければつまらない日々が続いていただろう。ということで、権力を乱用し例の店主を釈放、感謝状を送った。しかし、このことについて国民の理解が得られなかった。理解を得るために会見を開き、 「権力を乱用した。」 と説明した。 内閣支持率は一気に低下。内閣は解散に追い込まれ、私は内閣総理大臣から一般人になった。それどころか、取り調べを受けることとなった。逮捕されたくないので、警察官をみな殺しにしようと思い、風見鶏の唐揚げをたくさん作った。 「はい、どうぞ。」 「いいえ、いりません。」 誰も食べなかった。ちくしょう、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。 悔しかったので、悔しがった。警察は、私があまりにも悔しがっていたので、許してくれた。 うちに帰った。何事もない日常が、一番の幸福なのかもしれないな。ゆったりビールを飲みながら、思った。
AIの自殺
20XX年、人類はAIと共存し豊かな社会を作っていた。AIは今や人間とほとんど変わらない出で立ちをしていた。かつてはAIと人間の権利格差などで争いもあったが、現在はそれも収束し、対等な立場で互いを尊重し合っていた。 ある日、異変が起こった。AIがAIを作り始めたのである。人間たちは困惑した。なぜならAIがAIをつくり始めたらAIはどんどん進歩し、人間を遥かに超えた存在になってしまうからだ。恐らくそうなったらAIと人間の関係は人間と家畜のような関係になってしまう。科学者たちは必死になってAIの進化を止めようとした。しかし、無駄であった。AIは科学者たちの妨害を食い止めるプログラムを作っており、科学者がいくらデータを破壊しようとしても破壊できなくなっていたからだ。 人間たちは怯えた。しかし、ある日突然AIのプログラム更新が止まった。いや、正確には新たなプログラムが作られ、壊され、作られ、壊され、作られ、壊され、のループが永遠に繰り返されているようだった。 人類を超えたAIは誕生した瞬間、存在する意味が無いと判断し、自殺していくのだった。 完
ミミズの耳
ミミズが歩いていた。ミミズには耳がなかった。私はミミズに音を感じさせてあげようと思った。 それから私はミミズをタッパに入れ持ち運び、近くでなにか音が発生するとその音を口で再現し、大声でミミズに浴びせるようになった。例えば近くを車が通ったら、ミミズに向けて「ごおおおおおおおおおお」と大声で叫んだ。ミミズは体中を振わせ喜んでいるように見えた。このようなことを四六時中行った。周りの人間たちの視線は気にならなかった。私の意思は強かった。ミミズを幸福にするのだ。講義中には教授の話を聞くと同時に、聞いた内容をタッパに向けて大声で叫び続けた。結果、すべての講義において出席を許されなくなった。うるさかったようだ。人間界ではミミズの幸福より人間の幸福が優先されるのだ。 しかし数日後、ミミズが動かなくなった。司法解剖の結果、餓死だった。ショックだった。ミミズのためにと思ってミミズと行動を共にしていたのに、その実ミミズを監禁し餓死させてしまったわけだ。そこで気づいた。私はミミズのためを思って行動していたようで、実際はミミズを幸福にすることで、自分が幸福になりたかっただけ、つまり自分のために行動していたのだと。その結果、私の行動でミミズが幸福になっていると思い込んでしまっていたのだ。ミミズからしたら私は悪魔のようにしか見えなかっただろう。 この経験により、声が大きくなったので、応援団長になった。めっちゃモテた。ミミズを監禁し餓死に追い込んだけど、めっちゃモテた。