君との最後の恋をしよう
プロローグ−最後の恋を探して
僕は、恋なんてもうしたくなかった。
好きという気持ちは、いつからこんなにも苦しいものになったんだろう。
誰かを想うたびに、自分の気持ちを隠すようになった。
期待することも、信じることも、いつしか怖くなっていた。
もう二度と、あんな思いはしたくなかった。
中学の頃、僕には好きな女の子がいた。
その子と話せるだけで嬉しくて、目が合うだけで一日中幸せだった。
いつか自分の気持ちを伝えたい。
そんな小さな夢を抱いていた。
けれど、ある日。
僕がその子を好きだということが、周りに知られてしまった。
「え、朝倉ってあの子のこと好きなの?」
「マジで? 似合わなくね?」
「お前ら付き合っちゃえば?」
教室に響く笑い声。
廊下ですれ違うたびに、からかわれる毎日。
最初は笑ってごまかしていた。
「違うって」
本当は好きだった。
だけど、その気持ちを認めることさえ怖くなっていった。
そして、いつの間にか、その子とも気まずくなってしまった。
何も悪いことをしていないのに。
誰かを好きになっただけなのに。
どうして、こんなに笑われなきゃいけないんだろう。
それ以来、僕は自分の気持ちを誰にも話さなくなった。
恋をすることも、誰かを本気で好きになることも、やめようと思った。
もう傷つきたくなかったから。
もう笑われたくなかったから。
第1章君との出会い
四月。
桜が舞い、新しい制服に身を包んだ生徒たちの声が校舎に響いていた。
高校生活が始まった。
新しい友達、新しい教室、新しい毎日。
周りの人たちは、これから始まる高校生活に期待を膨らませているようだった。
だけど、僕は違った。
別に友達が欲しいわけでもない。
誰かと仲良くなりたいわけでもない。
ただ、平穏に過ごしたかった。
もう誰かを好きになって、傷つくのは嫌だったから。
「おーい、朝倉!」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、そこには中学からの友人である健太が立っていた。
「お前、クラスどこだった?」
「二組」
「マジか! 俺も二組!」
健太は嬉しそうに笑った。
「高校でもよろしくな!」
「はいはい」
そんな何気ない会話をしながら、僕たちは教室へ向かった。
教室に入ると、すでに何人かの生徒が席についていた。
楽しそうに話す女子。
大きな声で笑う男子。
初対面なのに、すぐに打ち解けている人たち。
僕は少し居心地の悪さを感じながら、自分の席を探した。
窓際の後ろから二番目。
悪くない席だった。
カバンを置き、椅子に座る。
窓の外では、桜の花びらが風に揺れていた。
そのときだった。
「あの……ここって、私の席ですか?」
突然、女の子の声が聞こえた。
あの……ここって、私の席ですか?」
顔を上げる。
そこには、一人の女の子が立っていた。
長い黒髪。
優しそうな目。
少し緊張したような表情。
僕は机の上に置いていた手を止め、面倒くさそうに前の黒板を指さした。
「……前に貼ってあるし」
それだけ言って、再び窓の外に目を向けた。
「あ、ごめんね!」
彼女は少し驚いたように答えると、自分の席へ向かっていった。
別に怒っていたわけじゃない。
ただ、誰かと仲良くするつもりなんてなかった。
高校生活くらい、静かに過ごしたかった。
それなのに――。
なぜか、さっきの女の子の声だけが、少しだけ耳に残っていた。
その日のホームルームが終わり、僕が帰ろうとしたとき。
「あの!」
また、彼女の声がした。
あんなにそっけなくしたのになんで
「朝倉くん……だよね?」
「え? うん、そうだけど」
「私、白石美咲! これからよろしくね!」
そう言って、彼女は笑った。
その笑顔を見た瞬間、僕は思った。
――ああ、ずるいな。
そんな笑顔を向けられたら、少しだけ期待してしまうじゃないか。
でも、僕はすぐに自分に言い聞かせた。
恋なんてしない。
もう、誰かを好きになったりしない。
そう言って僕は教室を出た。