夏色さいだー
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少しの罪悪感をポッケに詰めて。 だいすきなひとに会いに行った。 へたくそな笑顔がそこにあった。 ああ、私生きてるって思わせてくれて。 あつい血が巡ってるのがわかった。 ひくくてちょっとかすれた声。 大きくて細いてのひら。 ちょっと低い、にんげんらしくない体温。 ぜんぶぜんぶ、すき。 すぐにあかくなっちゃう耳。 ちょっと小さくて俯きがちな字。 ちょっとクセのある髪の毛。 ぜんぶぜんぶ、かわいい。 身長、十五センチ差。 定期テスト、十点差。 ほっぺとほっぺ、五センチ差。 心の距離、測定不可能。 げんきだよ、なんてお互い言うけど。 生きるのあんまり上手じゃないから。 ほんとバカみたいに傷つくから。 息するたびに、どこかがずっと痛いんだ。 秋。 すきだよ、って、たかが子供同士の約束だけど。 その瞬間、息ができるようになったの。 ね、それは君もそうなんだろ。 冬。 雪道でふたりぼっちで、さみーってわらった。 それでも手はあったかくて。 あれ、耳あかくなってますよ。 春。 ふたりでいるのが居心地良くて。 もうはなれたくなくなっちゃった。 あー、なくなんてキャラじゃないな。 そしたら、夏。 まつげの長さをしった。 夏祭りの喧騒なんて、もう脳内から消えて。 そこにはだいすきしか残ってなかったの。 ずっといっしょにいよ、なんて頭悪いことを言って。 焦りと不安と嫉妬、全部誤魔化し騙し生きていた。 もう少し子供にすがっていさせて。 なんて、大人ぶってた。 愛しあってる、なんてほどじゃなくて。 ただのすきあいっこだった。 君をいじめころしたいくらいには。 どうしようもなくすきだった。 朝、くるしいつらい、たすけて、を抱えているけど。 君にあいたくて。 君にくっついてほしくて。 結局はそんな安い脳みそで生きていた。 世界がちょっときらきらして見えた。 自分のことを、きらいじゃなくなった。 あいたくてたまらないひとができた。 そのひとのためなら、死んでもよかった。 いっしょにいるだけで、心臓から、夏が巡りだすようで。 もう、そのくらい、どうしようもないくらいたまらなく。
夏に浸る、少し先。
夏の暑さにへたっていた。 溜まった心の傷にへたっていた。 眼鏡をわざと忘れたふりして、世界を見た。 青と君が滲んで、それはまるで。 君が泣いてるようだったから。 だいすき、を言えないかわりに。 むりしないで、って言った。 君の目の下の隈が濃くなっていくたび。 二人で逃げ出そう、って言葉が頭の裏をかすめるの。 夏はキライだ、って君は笑った。 君はどこか、夏を透かしたような、爽やかな青色で。 涙が溢れる、なんてことはなく。 いつもどおり、無表情の笑顔でいるの。 「なんで泣いてるの」 君が泣けないかわりに。 私が泣いてしまった。 滲んだ世界に、目の前の君はよく映えた。 夏の暑さに、少し涙腺が緩んでいた。 ああ、それは君も同じか。 俯いた顔を覗かずとも、なんとなくわかった。 透かされた君の心の奥の、傷が。 二人で夏に、身を投げ出すことはできないが。 二人で夏に、涙を残すことはできる。 だいすき、なんて言ったら終わっちまう気がしたから。 不安定に、この夏を確かめ合っていよう。 誰も悪くないわけはないが。 今だけは二人、何も悪くないでしょう。 放課後の教室から見える夏の空は届かず。 それでも、肺に夏を突き刺していいでしょう。 夏の暑さにひたっていた。 君の体温にひたっていた。 どうか、もう、泣かないでいいときがくるまで。 心を夏に透かして。 二人で泣いていようじゃないか。 2025年 夏より。
しあわせな体調不良者
頭が痛い、咳が止まんない。そんな冬の日。 かくん、と疲れて机に突っ伏したとき。 君の整った唇が、だいじょーぶ? と動いた。 五時間目の光に縁取られた君の睫毛が、どうも美しかったから。 三角定規が、いつの間にか落ちてしまったの。 かわいいね、と、面白そうに笑った。 ありがと、と言えないあたり、あの子には勝てない。 俺のこところしてね、と目を細めた。 私はもうころされてるの、と、ひとりで拗ねた特別感。 君の細い手首を、そっと掴んだ瞬間。 外の雪道よりも冷えていた、そんな気が。 血管だけが、なめらかに動いて。 どうしようもなく、いとおしかったの。 君の胸に、そっと顔をうずめた瞬間。 からっぽの空間がそこにあった、本当だった。 なんでか君は、悲しそうに笑うから。 どうしようもなく、はなしたくなかったの。 君の唇に、そっと触れた瞬間。 そこにはやわらかな、冷たさがすわっていた、だけ。 まるで私の熱で、溶けていくように思えたから。 どうしようもなく、こわくなったの。 ねえ。 ころしたいのよ。 君の綺麗なすまし顔が。 苦しそうに、嬉しそうに歪むのが見たいんだよ。 だいすきなんだよ。 青春を綺麗に駆け抜けた先で。 君をころしてあげたいんだよ。 君の細い首をぎゅっと絞めてみたいのよ。 私だけの君を、見てみたいんだよ。 「大丈夫」 「……微妙。早退するかも」 「そ。無理すんな」 「ん」 「待ってるから」 「……そっか」 本当は、君にころされてみたいんだよ。
夏色宣誓<!>
青い夏が、脳の裏を駆け巡って。 君の爽やかな笑顔が滲んで。 ラムネから取り出したビー玉をなくして。 夏休みの家出計画ノートを破って。 炭酸と、夏に、サヨナラを。 みんながブレザー羽織り始め。 僕は意地でも半袖で。 君も笑って半袖で。 世界設定に少し、抗っていたの。 紅葉狩りなんてクソ喰らえだって。 教室にCDプレーヤー持ち込んでさ。 青の空の奥見上げ、夏曲メドレーを。 一瞬泣いたのは、忘れてね……。 分かってるさ、こんなの意味ないって。 分かってるさ、定期も近いことなんて。 分かってるさ、君が家を嫌ってることだって。 分かってるさ、僕がいても、夏は終わるって。 炭酸の透明に飛び降りて。 ずっと、ずっと、君を鮮やかに忘れたくないよ! 安っぽいシトラスの香りも、君の手の感触も。 全部。 嘘つきの僕らを愛しあって。 きっと、きっと、二人ならこの世界を貫けるよ! おそろのキーホルダーも、「好き」を吐けなかった日も。 全部。 夏の青に飛び降りて。 ずっと、ずっと、二人カッコつけて生きてこうよ! サイダーの青の衝撃も、心臓のでかい痛みも。 全部、抱えて笑ってようよ。 僕らの、小さな最大級の。 夏色の宣誓を、放て!
世界アゲインスト。
スカートとリボンの押し付けが嫌い。 リスカとの共存ができないの、嫌い。 恋愛価値観を否定されんの、嫌い。 青空の終わりも夜空の始まりも信じていないから。 だから、綺麗なチョコでできた世界に、反抗してみたの。 「リスカのあとを優しくなでた」 「夏の終わりのラムネに泣いてた」 「何度もアナタにサヨナラを考えた」 そーいうの、私は大嫌いだった。 コンビニの店員さんに睨まれたって。 バスでお金がなかなか出せなくたって。 机が少し、傷ついてたって。 知らねーよ、って笑いぶっ飛ばし。 スカートの丈を短くするとか。 好きな人のために二重作るとか。 足を内側に締め上げるとか。 私には、ちょっとできねーんだ。 綺麗な女の子がコーティングした世界で。 ちょっと欠けたチョコ、きっとそれははずれでしょう。 ネクタイ、スウェット、口笛は、ただの小さな、最大の反抗。 そしたらお前が、笑っていたから。 嘘つきの女の子の私の世界線より。 ペンキでべったべたに彩付けた世界戦の方がよかった。 好きなお前が頬を撫でてくれる世界より。 廊下でずっと追いかけっこしていようと思うんだ。 夜空の終わり、青空の始まり。 おはようを叫ぶの、太陽には負けないよーにさ。 スニーカー潰して、自転車飛び乗って、ただ真っ直ぐに。 私は最高だ、って、この世界に反抗していようと思ったんだ。 私がカッコよくあるために。 私は今日も、世界アゲインスト。
そんな、夏のわがままサイダー。
喉奥に突っかかった「す、き」が。 君の綺麗な瞳に言えなくなった。 いつのまにか夏はサヨナラをうたって。 ちょっとテーピングのあとが恥ずかしいな、て。 視線を合わせられないので、君の奥の世界を見てたの。 快晴はしゅわり、ぱちり、弾けて。 おお、エモすぎ、ってJKみたいにはしゃいでた。 君の瞳は夏より痛くて。 ふと、死んでもいいや、なんて笑ってた。 サイダーがちょっとばかり眩しくて。 喉の奥をすうすう泳いでいった。 君の乾いた涙のあとが、誰にも気づかれないように。 そっと夏に、忘れてきたの。 まだ夏だと信じていたあの頃。 制服半袖じゃあ、ムリだってわかった。 夏限定のカルピスは、とっくに販売終了だった。 冬の映画の予告編が、テレビで滲んでひかってた。 もう夏が終わったと気付いていた。 君が好きだと言った夏を、ずっと守っていたかった。 君が笑って泣けた夏を、誰にも奪われないように。 ビー玉の中に吹き込んだ。 もう少しで溢れられた「す、き」は。 君の笑顔のおくの「た、す、け、て」に止められた。 ずっと一緒にはいられないから、テーピングのあとも愛していた。 単純に、「だ、い、す、き」だっただけだ。 駆け抜けて通り過ぎて泣き去った夏は。 まだ肺をちくり、ぱちり、しゅわりと刺すの。 傷跡に炭酸を吹っかけて、それでも笑っていたくって。 涙が、夏の奥の青の先の君に、届いてほしくて。 喉奥に突っかかった「あ、い、し、て、る」なんて。 ただの夏の背伸びに過ぎなかったけど。 それだけ、夏に忘れて、痛くないように。
夏のおわりころ。
夏のおわりころ。 部屋に飾ってあったラムネ瓶を捨てた。 キミと一緒に買ったキーホルダーをなくした。 しんだ蝉さんがいなくなった。 やべ、ちょっと、泣いた。 九月一日の自殺を忘れて。 いつのまにか、息をしなくなっていた。 死のうと思ってふたり笑った夏の青が。 サイダーのしゅわしゅわと、痛みと。 夏の空に吸い込まれたかった。 ラムネの中のビー玉が取れなかったころ。 サイダーのぱちぱちが、二酸化炭素だなんて。 しりたくなかったなあ、なんて。 夏の円周率に縋っていた。 意地でもちょっと半袖を着ていた。 夏を忘れて痛かった。 炭酸が嫌いになった。 夏のおわりころ。 炭酸がないてるのが焼きついた。 キミの痣が頭の裏で巡ってた。 ずっと鮮やかな世界が、嘘つきだって知った。 夏のおわりころ。 うまく言葉が出てこないから、つぎはぎ合わせにした。 キミに届くように、なんて。 屋外プールが、閉鎖になった。 夏のおわりころ。 どーでもいいはじまりを思い出した。 ビー玉に夏を閉じ込めたはずなのに。 きっとずっとそれは、空っぽだったの。 夏のおわりころ。 二人でしゅわしゅわ、しねばよかった。
らい。
−−いーよ。 嘘を吐いた。 そしたらどうも泣きたくなって。 でもお前の前では笑いたくって。 顔がちょい、歪んだ。 −−いーよ。 嘘をついてもいーよ、と言われた。 それじゃ俺がよくなかった。 お前にホントでいたかった。 −−今日もオレが嫌いだった。 そんな小さなお前を、少し殺しそうでこわかった。 だだっ広かった未来が、いつの間にか狭くなって。 お前の目が、ちょっと憎かったの。 −−ひとりぽっちでよかったのにね。 なのにもう、ふたりを知っちまったから。 全く困ったことだって。 テレビの画面がちかちか揺れてた。 −−ホント、オレのこと甘やかす。 お前はさっくり死にそうだから。 なんとか神様に掠め取られないように。 これでも俺は、必死なんです。 お前のよく、働く脳みそが。 少し鈍くなればいいのに。 そしたら俺の気持ちも隠して。 手だってすんなり繋げるだろーに。 猫みたいにうずくまったお前の。 枕が濡れてんのは俺のせいだろ。 最近夜、帰ってこないの。 やっぱ、俺のせいだろ。 らい。 もうお前、嘘を吐かないでいーよ。 センターで分けた前髪が、落ちないように撫でたるから。 お前、なんも考えなくていーよ。 らい。 お前の低い体温が、少し死に近いから。 手をぎゅ、て握らせて。 そしたらもう、いいかげん諦めるから。 お前は俺の、心臓だとして。 俺はお前の、血管くらいだし。 らい、もういーよ、大丈夫だよ。
たたずむ。
雨に佇んじゃった。 心臓の奥らへんがきゅう、て痛くて。 お前が頭の裏に滲みやがったので。 ひとりで、雨に佇んだ。 笑って痛かったあの頃が。 そっと、胸の奥で無いていった。 サイダーみたいなお前の笑顔が。 青くて、蒼くて、あおかったから。 みんなの言った「なかないで」が。 心を優しく腐らせてった。 お前の言った「ないてええよ」が。 肺に夏を残していった。 お前の忘れた夏のいつかと。 俺の落とした夏のサヨナラ。 「ごめんね」も「いーよ」も言わないで。 八月の雨に、佇んでるの。 雨を知らないあの頃が。 ただ俺に笑いかけてやがる。 ふざけんな、て、小さく吐いて。 やっぱり雨ん中、突っ立ってんだ。 八月最後の雨に佇んでるから。 大きな傘を差しに来て。 そしたらもーちょい、生きてみるから。 肺に残った夏を吸うから。 九月も夏に、佇んでるから。
やるせなーズ
友達に何もできねーから。 病みぃ闇ぃガールになっちった。 口から溢れた「やるせない」が。 「ごめんね」を望んだらしいの。 できた人間じゃなかったから。 ちょっとの嫉妬と依存のかけらが。 あんた達に絡みつくのは嫌だよな。 だからぎゅっと抱きついた。 学校行きたくないの、なんて。 じゃあ無理しないでいーよ。なんて。 綺麗事まことしやかガールでしょう。 ホントは学校来て欲しいんでしょう。 ひとりぼっち、淋しいんだろ。 やるせなくを吐いたあんたに。 おとな恐怖症のあんたに。 目線を逸らして横に突っ立って。 ただ一緒にアニメ語ろう。 一緒に買ったアクスタが。 埃を被るようにはしないよ。 おそろのキーホルダーが泣き出す前に。 あんたに会いに行くよ。 学校に来て欲しいんだけど。 それよりあんたと結婚したいわ。 病みぃ闇ぃより、やみーヤミー、おいし。 痛バしてもいーんだよ、て。 やるせないんでしょう。 それでもいいでしょう? それでもいいから私たち。 しんゆうになったんだろ?