ねこかもめ
69 件の小説ねこかもめ
こんにちは。《ねこかもめ》と申します! 物語を投稿して参りますので、ご意見、ご感想等頂ければ幸いです! 【拙作】※基本的に他サイト様にも投稿しています ・宣誓のその先へ(小説家になろう) https://ncode.syosetu.com/n8849gb/1/ Twitter: @Catkamome
宣誓のその先へ(39#2)
【第七話】勇躍と向後。 (39)予知ができれば回避できた爆弾 #2 一階に戻ると、お姉ちゃんの丁寧な話し声が聞こえた。一班が到着したのだろう。 リビングで待っていると、六名の騎士がぞろぞろ入ってきた。 一班は六人編成だ。二班、三班もそのくらい。四班以降はもっと大人数で構成される。 その六人の中にクリスを発見。 その後ろには見るからに明るそうな女性、ミラがいる。 ジェスチャーのみで挨拶を交わした。 「どうぞ、お好きなところへ」 お姉ちゃんが言い、一班の人らは各々社交辞令を言いながら座った。 誰も椅子には座らなかったので、俺たちがいつもの配置に。 次に、名前だけの簡単な自己紹介が入った。 一班のメンバーは、班長のシュルツ、副班長のセリア、カタリーナ、タイロン、クリス、ミラ(敬称略)だ。 俺たちもそれに続いた。 「では改めて。今日の大まかな予定は、まず我々の荷物を荷台に積むわ」 「同時に一班の荷物を運び入れ、この場所に一時保管する」 「それが終わったらお昼よ。で、時間を決めてここへ再集合。何かあれば適宜引継ぎをして、解散よ」 「では、すぐ作業に入ろう」 了解、と返事をして立ち上がる。 休日なんだか仕事なんだか……。 引っ越し屋に転職した気分だ。 さっき荷物を詰めた箱を荷台に積んだ。 それと、魔特班の支給物資と、各々の装備品も荷台へ。 古い寝具は一班が後で廃棄施設に運んでくれるとのことなので、彼らの荷台へ。 一通り作業を終え、昼食タイム。 用意されている訳ではないから、自由時間に食べに行く、という感じだ。 これは俺にとって好都合だ。クリスとの約束と、アイシャへのツケの支払いが両方一気に済ませられるからだ。 「お姉ちゃん、俺たちは商店街の方に行こうと思います」 「そう、分かったわ。気を付けていくのよ」 「了解」 「了解、お母さん」 ——あ、それ俺がいつか言ってみようと思ってたセリフ! 「ア、アイシャ……」 ……ん? 「はい……」 「わ……」 あれ、これヤバそう。 「私……は……」 突然、お姉ちゃんは膝から崩れ落ち、アイシャの両手を掴んだ。 「私はまだ! お母さんなんて歳じゃ! ないのよ!」 魔特班所属、班長、ルナ。二十一歳。 爆弾だったようだ。 「お姉ちゃん! お姉ちゃん! ごめんなさい!」 「アイシャ……私はね……二十一歳……あなたの三歳しか上じゃないの……」 「はい! 存じ上げております! ごめんなさいお姉ちゃん!」 爆発した爆弾ことお姉ちゃんも面白いが、思わぬお姉ちゃんの反応に、見たことないくらい慌てふためくアイシャの姿。 これは地味に貴重だ。周囲の気配に敏感なアイシャに奇襲をかけるのは難しいからだ。 「いい? 二十一歳。お姉ちゃん。はい、復唱」 「二十一歳。お姉ちゃん」 「はい、よくできました。じゃ、アイスよろしくね?」 「……はーい」 いつの間にか立ち上がったお姉ちゃん。 しれーっとアイシャに刑を課す。 よかった、言わないで。
宣誓のその先へ(39#1)
【第七話】勇躍と向後。 (39)予知ができれば回避できた爆弾 #1 寝癖を直してリビングへ降りると、リーフさんが居た。 「「おはようございます」」 「ああ、おはよう」 挨拶を交わし、台所へ。 ボケた頭にコーヒーが愛おしい。 ついでに水道で顔も洗おう。 「明るければ普通の台所だな……」 「ユウ、あそこに」 「うそ⁈」 「うそ」 こいつ。 何か仕返しをしてやりたいが、何も思い浮かばず、ただお湯が沸くのを待つばかり。 そう言えば、ここでこうしてコーヒーや紅茶を淹れるのはこれが最後か。 「この台所ともお別れだね」 「……そうだな」 ボロい水道も、妙な音を立てる食器棚も。 思い返してみれば、どれもお世話になった思い出の品—— 「次からはもっと綺麗で!」 「ほぼ最新式の設備が待ってるのね!」 ——などではたかった。 まあ住んでたのはたった半年ちょっとだし。思ひ出もへったくれもない。 むしろ昨日の夜に憎しみが生じたまである。 「部屋も綺麗なんだろうな」 「それに、広そう」 「廊下の雨漏りも無いな」 「何より、私は広いお風呂が楽しみかなぁ」 未だ見ぬ屋敷に心を躍らせていると、いつの間にやらお湯が沸いていた。 コーヒーと紅茶を一杯ずつ淹れ、リビングに戻った。 俺たちが台所にいる間に、お姉ちゃんが降りてきていたようだ。 「二人ともおはよう」 「「おはようございます」」 「あら、可愛らしいスカートね」 「はい、去年の誕生日にユウがくれたんです」 「そうなの……。そこそこ短いけど、ユウってばそういうのが」 「違います」 好きじゃないと言えば嘘になるが この展開はもう見たので即否定でキャンセル。 本や服など荷物の荷物を箱に詰めた。 寝具は新しいものが支給されるらしいので処分する。 早々に作業が終わってしまった俺は、暇つぶしにアイシャの部屋へ。 「進捗いかがです?」 「ノックくらいしてよねー、非常識な」 誰が言ってんだ、誰が。 「すみませんね」 部屋全体を一瞥。 「服、結構多いね」 「女の子だもーん」 「存じております」 「下着泥棒にでも来たの? 残念、もう詰めちゃったよ」 「そういうわけじゃないけど……」 ふと、棚の上にアレを見つけた。 「この人生ゲームどうしようか」 遊びつくしたおなじみのゲーム。 「うーん。もう飽きたし、こっそりプレゼントにしちゃう?」 「そうするかぁ」 「王都に行ったら新しいの売ってるかな」 「どうだろう」 そういえば王都の中を練り歩いたことは無かった。 屋敷に住めば休日には散策が出来る。 新たな楽しみが出来て期待で心が跳ね回る。
宣誓のその先へ(38#2)
【第七話】勇躍と向後。 (38)未来を予め知る #2 目覚まし時計の音が鳴り響き、至福の時間は終わりであると告げられた。 ああ、瞼が重い。 睡眠時間が少ないせいだ。 少しばかり頭が重く、徹夜したのと変わらない気分だ。 だがそれでも、アラームを止めた手に憎悪はない。 何故なら今日、眠気と疲労を相殺できそうなワクワクが待っているからだ。 「アイシャ、おーい」 「ん~」 「おーい」 「ん~」 困った。 アイシャの身体と布団に俺の腕が挟まれていて動けない。 そうだ、俺は確か「怖い」とか言ってこんな寝方を…… 「触るぞ」 「……」 いや、自爆しそうだからやめておこう。 何かアイシャが一瞬で目覚める策は無いものか……。 あ、そうだ。 睡魔に必死に抗いながら考え、とある妙案が浮かんだ。 「お屋敷」 「っ‼」 四文字。 たったそれだけでアイシャは覚醒。 「早っ‼」 まるで別人のように、目にも留まらぬ速さで布団から出、用意してあった服に着替えた。 そして、こんなことを言うのである。 「早く起きなさいよ。ユウの寝坊助」 ……誰のせいで起きれなかったと思ってんだ? 「はいはい」 俺も布団から出て着替える。 普段の休暇なら、着古した適当なシャツでいいのだが今日はそういうわけにもいかない。 クリス達一班と会うからな。 「脱がせてあげよっか?」 「いえ、結構です」 着替えながら、ふとアイシャを見る。 「ん?」 視線に気づき、何かと問うてきた。 実を言うと、少し見惚れてしまった。 普段見る彼女は、鎧などの装備を身に着けているか、俺と同じように適当な服装だ。 だがやはり、彼女に関しても今日は違う。 久しぶりにまともな私服姿を見て、新鮮な気持ちになった。 「そのスカート穿いたんだ」 「うん。買ってくれたのになかなか機会が無かったから。今日なら丁度いいかなって」 去年、アイシャの誕生日に贈ったスカートを穿いてくれていた。 それを見てちょっと嬉しかったのがさっきの視線の理由でもあるのだが。 「短いよね。……こういうの好きなんだ~?」 昔からそれくらいのを穿いてたから好きなのかと思って選んだのに、とんだ勘違いを被っている。
宣誓のその先へ(38#1)
【第七話】勇躍と向後。 (38)未来を予め知る #1 未来予知。これから先の出来事を予め知ること。 そんな事が出来ればな……と。 二十年弱の人生においても幾度となく経験した後悔にも似た想い。 だが同時に、未来の事を知った時、どうするべきなのかという問いもあった。 その結果を導くために行動するのが正しいのか、導かれるがままが良いのか。 能力者がその結果を知っているという前提のまま進んで実現するのか 行動によってはそれが覆るのか。 疑問を挙げればキリがない。 予知が出来れば……とは言ったものの 出来たら出来たで苦痛じゃないかと思う。 嫌な未来が見えたら憂鬱だし、悪くない未来だったとしても、それを迎えた時の喜びや、それに至るまでの期待感や高揚感も無い。 知っているのだから。 だが勿論、悪い事ばかりではない。 事前に知りたいことだって山ほどある。 その大半は悪い出来事だろうけど、知っていればさらに悪い結果を見る前に対処が出来る……かもしれない。 いつどこに、どんな魔物が現れるのかを知ることが出来るとしたら。 人間の立場から言えば、こんなに嬉しいことは無い。 ——そんな都合のいい事は無いという理解とあってほしいという理想が、俺の中でひしめき合いながら共存していた。
宣誓のその先へ(37#2)
【第六話】暗晦と憂虞。 (37)死して気付いた己の心 #2 《……とにかく、俺はあいつらに謝りたい》 傲慢であったこと。 優しさを無下にし続けたこと。 そして。 《何より、死ぬまでそれに気付かなかったことを、な》 「そう。なら、私にできるのはここまで」 あとは彼の行動次第だ。 俺たちが干渉することじゃない。 《あ、だけど俺》 「大丈夫。もう以前のあなたとは違うよ。見えてるでしょ? 姿も、するべきことも」 《……ああ、そうだな。》 アーベルさんを見送りに屋敷の玄関へ。 《世話になった、あんがとな》 「会えると良いですね、みんなに」 《ああ。それじゃあ》 俺たちに背を向けて歩き出したアーベルさん。その姿は、最初に彼を見た時のそれとは違い、なんというか、こう、たくましく見えた。 「ねえ」 《ん? なんだ、嬢ちゃん》 「ハンナさんには謝罪だけじゃなくて」 《……分かってるよ。ありがとうな》 そう言って、アーベルさんはそれ以上振り返ることなく去っていった。 「行ったね」 「ああ」 「……言えるかな」 「まあ、大丈夫だろ」 東の空は徐々に明るくなってきている。 寝ないとな……。今日は十時ごろに一班と合流して力仕事らしい。 「アイシャ、俺たちもそろそろ」 「……うん、そうだね」 「アイシャ?」 アイシャはなにやら遠くの景色を見ていた。 「な、何でもない」 「?」 「さ、寝よ寝よ」 半ば強引に腕を引かれ、俺たちは屋敷の中へ入った。 怖い、という感情がある。 何に対してその感情を抱くのかは、その時次第だ。 見えない、分からない。 それ故に怖いと感じる。 その一方で、見えても、分かっても怖いものだって存在する。 俺にとって、悔しいけど幽霊は怖い。見える。居ると分かる。 それでもやっぱり、怖いんだ。 それが何故かは分からない。存在を知る以前に身に着いた深層心理なのか、何なのか。 とにかく、知っていても怖いんだ。 「死」はどうだろうか。死ぬのは確かに怖い。いつ訪れるか分からないし、経験もないから。 しかし、死ぬタイミングが分かることだってある。 アーベルさんは魔物の攻撃からハンナさんを庇うと決めた時、自分に迫りくる死が分かったはずだ。 それでも彼は、大切な人を護るという行動に何の躊躇いもなかった。 おかげでハンナさんの命は守られた。 今、彼女がどうなっているかは分からないが。 己の命を賭して大切な命を護る。 捉えようによっては騎士の使命ともいえるし、敬われるべき行動のはずだ。 俺で例えれば、命を捨ててアイシャを護る、となるのだろう。 一見すると美談だ。 しかし、俺にはどうしてかそのエピソードが美しく思えなかった。 うまく言い表せないが、そこに何かしらの死ぬよりも怖いことがあると感じた。 アイシャを護る。 それ自体は俺の望みに相違ない。 だけど、なぜかずれている気がしてならない。 己の死よりも酷く、醜く、恐ろしいような、そんな何かがあった。 もはや自然な流れで、当たり前のように二人で俺の部屋へ。窓から差し込む陽から身を隠すように布団をかぶった。 「おやすみ、アイシャ」 「うん、おやすみ」 いつも通りの挨拶を交わして。 「……ユウ?」 「ん?」 「珍しくそっちから抱きしめてくれるんだ」 俺はアイシャをそっと抱擁した。 ——怖いから、な。
宣誓のその先へ(37#1)
【第六話】暗晦と憂虞。 (37)死して気付いた己の心 #1 自らの死因と、未練が何なのか思い出したアーベルさんはずっと俯いている。 《……》 「アーベルさん」 「守ったんだね、ハンナさんのこと」 《俺は……》 こっちから話しかけても 彼はそれだけ言って肩を震わせるばかり。 何秒か、はたまた数分か。どれくらい時間が経ったかは分からないが、その静寂を破ったのはアーベルさんだった。 《俺は、さ》 俯いたまま続けた。 《……調子に、乗ってたんだな》 嗚咽まじりに、言葉を紡いだ。 《優秀だ、なんて言われて。俺は強いんだ、俺は出来るんだ、ってさ。その傲慢さが態度に現れてたんだ……。みんな、それを解ってたんだな。上官も、同僚も、……ハンナも》 俺もアイシャも、黙って彼の話に耳を傾ける。 《本当は、分かってたんだ。このままじゃダメだって》 その悔いが、握りこぶしに現れる。 《なのに俺は。変な意地を張って……!》 抑圧された感情が溢れそうな様子で。 《勝手にイキって、勝手にイラついて!》 更に強くこぶしを握り締めて。 《声をかけてくれたハンナにあたって……だせえよな、本当に》 彼のイメージからは想像できない程に高ぶる感情。 《俺が腹を立ててたのは上官でも、同僚でも、ハンナでもねえ……っ!》 一瞬沈黙し、今度は顔を勢いよくあげ、力強く言った。 《……俺なんだよ!》 その眼には、大粒の雫が。 《俺は、俺に腹が立ってたんだ! 一匹狼気取りの気持ちわりぃくそ野郎になっ!》 アーベルさんの深層心理を聞き、俺は彼に問うた。 「アーベルさん」 《なんだ?》 「あなたは、どうしたいんですか?」 彼の意思を。 彼自身の感情を。 それは、彼にしか分からないことだから。 《お、俺は……》 少し間を開けて、ひとつの答えを出した。 《俺は、謝りたい。みんなに。ハンナに。それから、お前たちにも》 「私たち?」 《ああ。俺の勝手な都合でこんな夜中に。悪かったな。特にユウ。お前は怖がりっぽいからな》 「こここ、怖がりじゃねえよ!」 《若いカップルの夜を邪魔した罪はでけえよな》 「ほんとよ」 「こら」 余計なお世話だっての……。 それに俺たちはただの幼馴染だ。 今は、まだ。
宣誓のその先へ(36#2)
【第六話】暗晦と憂虞。 (36)分かっていても怖いモノ #2 謹慎の七日を終え、今日から戦線に復帰する。ハンナとはまだ険悪なままだ。 《本日の任務は、掃討戦だ。居住区近くに出現した魔物の群れを殲滅する》 やれやれ、またか。 ここ何か月もの間、仕事は掃討戦がほとんどだ。しかも相手は雑魚ばっかし。 だから緊張感が抜けちまったんだろうよ。 現場に着くと、やっぱり相手は九割がたサル型。気を引き締めろなんて言われるが、こんなことでいちいち気張ってたらやってられねえよ。 《お前、ハンナともめたんだって?》 ペアを組んでいる班員が俺にそう訊いた。 《ほっとけよ》 その話題は好かない。 気持ちの整理がつかないからだ。 《別動隊で残念だったな。何があったかは知らんが、とにかく謝っとけよ》 《ちっ、なんで俺が》 ぶり返してきた苛立ちを、ひたすら魔物にぶつけ続けた。 粗方殲滅し、集合ポイントへ。俺たち二人に加え、別動隊の二人が合流した。 《残りはハンナの所だけか》 あいつの名前が出されるたび、少し緊張する。 十分くらい待ち、やっとハンナともう一人が合流した。 《任務完了だ。これより帰投する。各位、緊急出撃命令が出てもいいよう、準備しておけ》 連絡事項やら何やらと続き、やっと帰投することになったのだが。 馬車に乗ろうと、手すりを掴んで何となく振り返った時。 《……っ!》 魔物だ。まだ残っていやがった。 トラ型、接触危惧種だ。 最後尾にいるのはハンナか! 奴はハンナを殺さんと牙をむいている。 《ハンナ! 後ろだ!》 《ま、魔物⁈》 《バカ、おせえよ!》 もう十メートルもない。 剣を抜く時間はない。俺はとっさにハンナを横へ突き飛ばした。 ——ああ、何やってるんだろうな俺は。 そうだ、ハンナは? 《アーベル! アーベル‼》 ふん、元気そうで何よりだ。 気を引き締めようが緩んでいようが。 死ぬときは死ぬ。 死と隣り合わせの仕事、それが騎士だ。 強くても、弱くても。 良い奴でも、くそ野郎でも。 ——だが、死にたいわけじゃねえ。 俺にはまだ、やってないことがある。 周囲が騒がしい。剣を抜く音と怒号が響く。 ——バカ、もうおせえよ。 俺が最期に聞いたのは、バキバキと骨が砕ける音。 ああ、まだ言ってないのに。 いてえ、いてえよ…… ————怖いな。
宣誓のその先へ(36#1)
【第六話】暗晦と憂虞。 (36)分かっていても怖いモノ #1 《アーベル、何度言えば分かるんだ!》 《すみません》 アーベル。それが俺の名。 今、くそったれ上官にどやされてるところさ。 《作戦に寝坊してくるなど不埒千万! そんな態度では本当に死ぬぞ!》 《以後気を付けます》 《そう言って何度目だ貴様!》 うっせえなジジイ……。作戦は無事終わったんだからいいだろうがよ。 《一週間の謹慎だ。七日間兵舎で大人しくしていろ!》 《申し訳ございませんでした》 くそがっ! と、心の中で毒を吐き、自室に帰った。 謹慎一週間なんか余裕。そう思っていた俺は三日目にしてすでにメンタルがやられてきた。 やることが無さ過ぎてイライラしてきた。そこへ、誰かのノックが聞こえてきた。 《……どうぞ》 《アーベル? 私。ハンナよ》 《何の用だ?》 ハンナは俺と同じ班のメンバー。 やたら俺に絡んできやがる。最初は鬱陶しく感じたが、最近はそうでもないし、たまに俺から話しかけたりもするようになった。 だけど、今は違った。 《何の用だ~じゃないよ。また寝坊して謹慎食らったんだって?》 《うるせえな……》 《あんた、戦闘技能はすごいんだから。もっと真面目にやれば出世だって——》 《うるせえって言ってんだよ!》 《……あっそ。じゃあ知らない!》 ……うるせえ女だ。 そう思いつつも、イライラをぶつけてしまった罪悪感が心につかえた。
宣誓のその先へ(35#2)
【第六話】暗晦と憂虞。 (35)すべての真犯人 #2 「居た!」 風呂場に行くと、アイシャがそう言った。勘は当たったようだ。 当たってほしくなかったけど。 俺にも見えるようにと、要らん気を利かして可視化してくれた。 《お、お前ら、俺が見えるのか、幽霊なのに⁈》 そこにいたのは男性の霊だった。三十代くらいに見える。 「見えるよ。私の能力だからね」 《そうか、助かった》 「助かった?」 《ああ。長い事誰にも存在を認知されなくてな。精神崩壊して悪霊になるところだったぜ》 見つけられてよかったです、はい。 「で、あなたはウチの屋敷で何してるの?」 《誰かに気が付いてほしくてな》 精神崩壊しそうだとか言ってたな。 《だから動き回ってみたり》 「うん」 《呻いてみたり》 「迷惑な」 《マグカップを片付けてみたり》 「ありがとう」 《若い姉ちゃんのバスタオル落としてみたり》 アレもてめえの仕業かよ‼ 「それはちょっと、引くかな」 《まあそう言うなって。俺が悪霊になってたらそんなんじゃ済まなかったかもしれないだろ》 「いつから、どうしてこの屋敷に?」 《あ? 今朝からだよ。外をさまよってたら丁度そこの兄ちゃんが屋敷に入ろうとしてたから、ちょいとお邪魔したのさ。気付かれる可能性に賭けてな》 やはり、伝令の時か。 え、それってつまり 「……」 「アイシャさん? なんですか、そのジト目は? やめて、僕をそんな目で見ないで!」 要するに。 「俺が招き入れたってことになってる?」 《お前が居たから思いついたことだな》 「被告人、弁解は?」 「お、俺は」 「ギルティ‼」 「そんな‼」 なんてこった。 自分で屋敷に入れた霊に自分でビビって無様な姿を…… 「それで、あなたはこれからどうする?」 《うーん、特に考えてないな。ここに住んでもいいし》 「それはダメ。絶対に」 《おいおい厳しいな》 「成仏する?」 《死んでるんだからそれが正しいわけだが》 彼がいうには、自分がどこでどのように死に、何が未練なのかも思い出せないらしい。 《困ったもんだぜ》 「それなら多分大丈夫。私の能力で、あなたの記憶を見れば分かるかも」 《そんなことも出来んのか》 「うん。じゃあちょっとお邪魔しまーす」
宣誓のその先へ(35#1)
【第六話】暗晦と憂虞。 (35)すべての真犯人 #1 スタスタ歩くアイシャに続いてリビングの中央へ。確かにマグカップはどこにもない。 「台所かな?」 「ま、待ってくださいお願いします」 台所と言っても、食器棚やしょぼい薪ストーブ、ちょっとした水道があるだけ。 マグカップがあるとすれば、食器棚の中だ。アイシャが棚の戸を開く。 「その音やめろ」 古いものだから木や金具が歪み、恐ろしい旋律を奏でる。 「二、四、六、八……うん、全部ある」 「あってほしくなかったよ」 誰も片付けていないのに、きちんと片付けられている。 ああ、最悪だ。 またあの音を立てて閉まる戸。 ——瞬間。 何かの気配を感じた。 背筋に冷たいものが走った。 血の気が引いた。 「この気配、あの時の!」 伝令を聞き、屋敷に戻ろうとした時に感じたあの感覚。 まさか、あれが…… 「うん、居たね。一瞬だけど」 「勘弁してよ……」 アイシャによると、霊はすでに移動したらしい。 「なぜか屋敷の中を歩き回ってるみたいね。早く探さないと……」 「でも、どこ行った?」 「そうね……幽霊が居そうなところ……」 「水場とか?」 「お風呂!」 風呂は台所から直接行けるようになっている。急ぎ、捜索へ。