野刈魁(ノガリヤス)

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野刈魁(ノガリヤス)

心優しいウォンバットです 基本的に脚本を書いています はりこのトラの穴 (https://haritora.net/script.cgi?writer=9705) もよろしくお願いします 無言フォロー御免

【AI生成愛】一人と一機の朝

 AI生成画像、AI生成音声、AI生成映像etc…。今やAIがあれば、なんでもパパっと生成できてしまう時代。愛だってAIに生成することができるのだ。  「おはよー、くるみちゃん」 眠たそうに目を擦りながら伸びをするこの人間の名前は、ミオ。普通のサラリーマンだ。  「おはよう、ミオくん」 そして、返事をするこの機械は、人工知能搭載人型精密機器「アイロボ」である。  ミオは、この「アイロボ」に「くるみ」という名前を付けて、一緒に暮らしている。  「アイロボ」とは、株式会社アイテックが開発した人工知能搭載のリアルな人型ロボットで、会話はもちろん、家事全般をこなすことが出来る。また、顔のパーツはそれぞれ百種類ほどあるため、自分好みの顔を作り、“理想の嫁”を作ることも可能だ。  ミオはアイテックの営業部に務めていて、商品のモニターとして、二年ほど前から「くるみ」と生活をしている。 「朝ごはん出来てるよ、ミオくん」 「ありがとう、くるみちゃん」 傍から見たら普通の同棲カップルのようだが、彼女の方はロボットであることを忘れないで頂きたい。 「とっても美味しい」 「そう言ってくれて嬉しい。いつも褒めてくれてありがとう」 「いや、ほんとに美味しいから、自然と言葉が出てきちゃうんだよ」 「もぅ、ミオくんのそういうとこ、好き♡」 我々は何を見せられているのだろうか…。 「ミオくん、時間大丈夫?」 「あ、時間ヤバッ。行ってきます」 「行ってらっしゃい、気をつけてね」 「うん、」 こうして一人の人間と一機のロボットの一日はスタートする。

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【Sea the Glass half Empty】おとな(5)

新卒  ただいまー。 大人  おっ、おかえり。飯、ちょうど出来たぞ。 新卒  オトゥーナもすっかり生活に慣れてきたね。禁煙もいつ     の間にかできてるし。 大人  そりゃ、衣食住と煙草を天秤にかけたら…。まぁ最初     は、テレビとか普通の家にあるものがなくて、若干不便     に感じることはあったけども、居候の身で贅沢は言って     られねぇしな。 新卒  ごもっとも。あ、オトゥーナ、今日ご飯いらない…。作     ってくれたのにごめん……。 大人  …大丈夫か?顔色悪いぞ。俺に何かできることがあった     ら言ってくれよな…? 新卒  アハハ、大丈夫だって、気のせいだよ。 大人  ……そ、うか。ならいいんだが……。 新卒  (暗い顔を隠すようなぎこちない笑顔で)オトゥーナ気     にしすぎ。ちょっと、外の空気吸ってくるね。 大人  夜なんだから、あんまりふらつくなよ。 新卒  (笑顔で)わかってるって。じゃ、いってきまーす。 大人  あいつ、遅いな……。暇だし、ラジオでもつけるか…。  DJ  ラジオネーム、チュートリアル継続中さんからのメッセ     ージです。ちょっと重めなんですけど…。 大人  あいつの好きなラジオ、始まってんじゃん。もうそんな     時間か……。 DJ  「入社してからずっと会社でうまくいってなくて、しん     どいです…。頑張っても頑張ってもいつも空回りしちゃ     って、もうどうしたらいいかわからないです…。毎日毎     日朝が来るのが怖くて眠れません」 大人  (他人事のように)こいつ、随分深刻だな…。 DJ  …今はうまくいってないかもしれないけど、いつか「あ     の時頑張っててよかった」って思える日がくるからって     いうことを私、チュートリアル継続中さんに言いたく     て…。あんまりうまく言えないけど、まぁ…… 大人  的を射ているようで、ビミョーに射ていない。引くほど     無責任な励まし(激冷め)。 DJ  とりあえず、好きな曲でも聞きましょ。ってことで、チ     ュートリアル継続中さんからのリクエストで「怪獣のバ     ラード」 大人  もしかして……。 大人  ん、あいつからだ 新卒  「ごめん、実はもう大丈夫じゃないんだ。今まで楽しか     ったよ、ありがとう。最後までいっぱい迷惑かけてごめ     んね。私がいなくなっても煙草吸ったり、道で寝ないよ     うにしてね。あ、おうちは買ったものだから、住み続け     ていいよ。手続きは色々、まぁ、できるところまでだけ     ど済ましてあるから安心して」 DJ  ちょっとさっきは暗くなっちゃいましたけど、気を取り直     して。八時台のナイトタイムステーションは、俳優でミ     ュージシャンのアサクラトモエさんがゲストに登場!     Stay tuned! アナ  八時になりました。この地方のニュースをお伝えします。     速報です。あおば鉄道のたなみ駅、あらい駅間で発生し     た人身事故により、現在運転を見合わせています。復旧     の見込みは立っておらず、振替輸送が行われています。     お帰りの際は、最新の交通情報をご確認ください。続い     てのニュースです。南山動植物園で、エミューの赤ちゃ     んが生まれました。エミューの赤ちゃんは、体長23㎝、     体重435gの元気な状態で生まれ、来年3月頃から一般     公開の予定です 大人  人身事故?どこでだ…?(パソコンで調べて)ここって近     くの踏切じゃないか……。…いや、そんなことない、きっ     と気のせいだ。……でも。 大人  行動の何もかもが唐突で、いつも俺を驚かしていた彼女     は、その最期も唐突だった……。……いや、思い出せばそ     ういう兆しはあった。でも、彼女が俺に何かをさせてく     れることはなかった。いつも「大丈夫」と笑顔で答えるだ     けで、最期の最期まで…。

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 【Sea the Glass half Empty】おとな(5)

【Sea the Glass half Empty】おとな(4)

新卒  ただいまー!ボロくて狭いかもだけど、どうぞー。 大人  お、お邪魔します……。あ、あったけぇ~。ほのかなヌ     クモリティを感じる…。 新卒  あー、うちスリッパとかないから、靴下のまんまで上が     っていいよ。 大人  本当に、いいのか……? 新卒  うん、私スリッパとか履いてもらわなくても、全然。 大人  いや、そういうことを言いたいんじゃなくて、こんな名     前も知らないような男を……。 新卒  そうじゃん!名前聞いてなかったね! 大人  はぁ……(呆れ)。 新卒  貴方のお名前は? 大人  ……そう改まって尋ねられると、恥ずかしいな。 新卒  なにモジモジしてんの。さっきまでの威勢はどこへや     ら。答えないなら私がつけちゃお。 大人  へ?……まぁ、いいか、 新卒  じゃあ、私より大人だから……オトゥーナ! 大人  ダサい。却下。ってか、それってお前より年上なのに定     職に就いてない俺に対する皮肉だろ…。 新卒  (被せ気味に)さっき私が名前をつけるって言って、まぁ     いいって言ったのは誰ですかねー? 大人  ……はい、俺です。 新卒  うむ、よろしい。ってことで、今日から貴方はオトゥー     ナ!はいリピートアフターミー。私はオトゥーナです。     はい! 大人  (気だるげに)私はオトゥーナです。 新卒  違う違う、オットゥ↑ーナ!だよ、トゥにアクセントを     つけてー。はい、もう1回。 大人  私はオトゥーナです…。 新卒  よろしい。じゃあ、改めて。これからよろしくね(握手     を求める)。 大人  あ、あぁ…。(戸惑いながら手を差し出す) 新卒  (握手しながら)そういえばオトゥーナにプレゼントがあ     るんだった。 大人  いきなりなんだよ。 新卒  (スーツのポケットをまさぐって)じゃーん!ココアシガ     レットぉー! 大人  コンビニに立ち寄ったのは、そういう訳か。あ、さっき     俺が頼んだ煙草は? 新卒  あー、それなら買ってないよ。言い忘れてたんだけど、     ここのアパート、禁煙だから。(てへぺろ) 大人  …ゑ?いや、てへぺろ、って可愛い顔してもダメだから     な。 新卒  まぁ、そういう訳で、これ、(ココアシガレットを強調す     る) 大人  いやいやいや……。それで禁煙しろっていってるのか?     ……お前、ニコチン中毒者完全に舐めてるだろ。 新卒  へー、そんなこと言っちゃうんだ~。禁煙を頑張らない     なら、また寒空の下で生活することに……。 大人  ……頑張ります。 新卒  よろしい! 大人  こうして俺と彼女の不思議な生活が始まった。俺は家事     をしながら、整った環境で生活をし、小説を書くことが     できる。彼女は心休まる人のいる家に帰ることが出来     る。まさに双方の利害が一致した合理的な生活。     ……でも、利害とか抜きに彼女との生活は楽しくて、幸     せだった。

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【Sea the Glass half Empty】おとな(4)

下校

久々に、好きな人と下校をした。 一緒に下る坂道。 片手で力いっぱいブレーキを握りながら押す自転車。 ポケットの中に隠しながら繋いだ手。 あれ、こんなにあったかかったっけ。こんなに大きかったっけ。 どきどきしながら、ますます力いっぱいブレーキを握る。 坂をゆっくりゆっくり下るために。 早く駅に着いてしまわないように。

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【See the Glass half Empty】おとな(3)

大人  さっすがに、冬の夜の海はさみぃな…。 新卒  確かに、仕事帰りの疲れた体には、ちょっとキツいか     も…。 大人  っていうか、なんで海なんだよ。 新卒  え、…好きだから。 大人  それだけ? 新卒  …それだけ。 大人  フッ、 新卒  え?今なんで笑った? 大人  いや、なんかガキっぽいなーって思って、こんな奴が社     会人かーって。 新卒  別にそこまで言わなくてもいいじゃん。 大人  まぁまぁ、落ち着けって。 新卒  (大人をよそに「うーみーが見ーたーい、ひーとーを     あーいしたい」などと歌いながら少し歩いて)あ!この     シーグラス綺麗! 大人  だからそういうところだって…。 新卒  見て見て! 大人  全く聞いてねえじゃねぇか…。ハイハイ綺麗ですねー。     (煙草に火をつける) 新卒  ちょっとテキトー過ぎない? 大人  (息を吐いて)別に海に行くのに付き合うって言っただけ     で、ガキの相手に付き合うとは言ってねぇし…。 新卒  そう、だね…。ちょっと騒ぎすぎたかも。…ごめん(あ     からさまにしゅんとする) 大人  ったく、しょうがねぇなぁ…。ん、(シーグラスをよこす     よう促す) 新卒  (満面の笑み) 大人  ……確かに。綺麗かもしれない…。 新卒  (食い気味)でしょ!シーグラスってさ、もともと鋭利     なガラスが波に揉まれて出来上がるんだってさー。私、     そこが好きなんだよねー。 大人  そう、なのか。 新卒  こう…、何と言うかさ、波に揉まれて丸くなるっていう     のがさ、……なんか社会に揉まれた大人みたいで、よく     ない? 大人  はぁ、 新卒  見てるとさ、”自分はそんな丸い人間になってたまる     か!”って思えるんだ…。まぁ、人を傷つけてしまうよ     うな鋭利さを持っているのは、あんまりよくないけど     さ…。 大人  ……。 少女  あと、少しくすんでいるのがいいよね。社会に疲れ     切った大人たちの目とおんなじ。それなのに、こんなに     綺麗だなんて、皮肉にしか思えないよ…。(だんだん表     情が暗くなっていく) 大人  大丈夫か…? 新卒  アハハ、大丈夫大丈夫。 大人  (煙草を地面に擦り付けながら)お前はまだガキなんだ     な。 新卒  ねぇ、さっきから私のことガキって言ってるけど、貴方     何歳なの? 大人  (立ち上がり)一応27だけど。 新卒  え、見えない…。っていうか、27で路上生活者?ヤバ     っ…。仕事何もしてないの? 大人  別に何もしてないわけじゃ。 新卒  じゃあ、何してるの?(疑惑の眼差し) 大人  えっ…、小説k……。いや…(ここは何もしてないって言     った方がいいのか…?)何もしてない。 新卒  やっぱなんもしてないんだ。 大人  (動揺)っそういうお前こそ、さっきから偉そうに上から     目線で話してくるけど、何歳なんだよ。 新卒  レディに年齢を聞くとは、なかなかいい度胸してるじゃ     ない。 大人  で、何歳なんだ? 新卒  (ぼそっと)…23歳。 大人  ほーら、やっぱりガキじゃねぇか。 新卒  う、うぅ…。 大人  まぁ、でもちゃんと社会に出て働いているだけ、俺より     大人かもな。 新卒  でしょ(ドヤ) 大人  そういうところが、ガキ。やっぱ俺のほうが大人だな。 新卒  (真似して)確かに、すぐそうやって人と比べるところ     は、大人だな。 大人  はぁー?社会に出てる俗な大人と一緒にすんなy…… 新卒  アハハハハ!やっぱ、貴方と一緒にいると元気になれる     なー。ねぇ、帰るおうちないんでしょ?だったらさ、     私と一緒に暮らそ! 大人  ……はぁ!?そればっかりは、本っ当にッ理解できな     い!第一、初対面の異性を家に上げるなんて、お前は馬     鹿なのか!?危機感なさすぎとか、どこまでガキなんだ     よ。少しは世間を知ったらどうなんだ…。 新卒  私の家に住めば、家事をするだけで快適な空間がタダで     手に入るんだよー?それに…(ニヤニヤしながら)冴えな     いニートの貴方が、女の子に手をかけることができるな     んて想像しにくいし…。 大人  うるさいなー。まぁ、その通りではあるんだが…。 新卒  じゃあ、決まり!今日から貴方のおうちは、私のおう     ち!さ、一緒に帰ろ? 大人  おい、引っ張るなって!

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【See the Glass half Empty】おとな(3)

【See the Glass half Empty】おとな(2)

大人  俺は売れない小説家だった。端から見たら、ただのニート     と一緒のようなもの…。一応働く気はあったのだが、体調     を崩しやすいせいで、ちゃんとした職に就けないでいた。     定職に就かず、いつまでも夢を追い続ける俺に、家族や友     人は「ちゃんと働きなさい」だの、「現実見ろよ」だの、     いろいろ言ってきた。でも、俺にとっては全部、夢を諦め     た人間の負け惜しみにしか聞こえなかった。……そんな風     に人を見下してきた俺は、友達、遂には家族にまで見捨て     られ、路上やネカフェを転々とする日々を送っていた。 大人  (寝っ転がっている) 新卒  ほら、起きて!こんなところに寝てたら邪魔だよ。自分で     立てる?(手を差し伸べる) 大人  (睨みつけて)あぁ?なんだよ。ってか誰だよお前。お前     にとって邪魔だろうが、関係ない人間なんだし、別にほ     っときゃいいだろ。 新卒  邪魔だと思ってるのは、私だけじゃないかもよ。みんなが     困ってるんだったら、いつかは誰かが声をかけなきゃ。     (もう一度手を差し伸べる) 大人  (差し伸べられた手をガン無視して)へぇー、ずいぶんと     お人よしだこと。 新卒  (腕時計を見て)ヤバっ!会社に遅れる!(走り去りなが     ら)ちゃんとネカフェでもいいから 寝なよ~!もう道で     寝ないでね~! 大人  なんなんだ、あいつ…。 新卒  あ、まだいるー。ネカフェに行くお金もないの?しか     も、煙草まで吸って…。 大人  お勤めご苦労様ですー。通退勤中に路上生活者同然の人     間に声をかけて憂さ晴らしですかー?それとも、卑しい     人間に声をかけてあげてる自分に酔ってるんですかー?     結局それって自己まn… 新卒  (顔が曇る)そう、全部自己満だよ………。でも、憂さ晴     らしじゃないし、自分に酔ってる訳でもない。 大人  じゃ、なんだよ。 新卒  人のために、と思えるようなことをして、自分は生きてて     もいいんだって思いたい、それだけ。だから、本当はここ     を通る誰かのためでも、貴方のためでもなく、全部自分の     ため。 大人  それって悲しくねぇの? 新卒  別に悲しくないよ。むしろ、自分が誰かに必要とされてる     気分がして、めっちゃハッピー。 大人  なんか空元気な気がするんだが…。 新卒  (大人の隣に座りながら溜息)毎日毎日、会社のみんなに     迷惑かけて、その度に怒られて、自分って何で生きてるん     だろうって…。だからさ、こうやって元気なフリでもしな     いとやってけないよ…。ハハハ、ほぼ初対面の人に何言っ     てんだろ、私…。 大人  (煙草を地面に擦り付けながら)お前ドジっぽいし、確か     に会社でヘマしてそうだな。 新卒  こういうときって、普通は慰めてくれるもんじゃないの? 大人  普通は、なんて言われてもな…。(慰めの言葉を捻り出そ     うと長考しながら)お前は会社で沢山迷惑をかけているか     もしれないけど…、人間なんてさ、生きてるだけで誰かに     迷惑かけてるもんじゃねぇの? 新卒  確かに、実際貴方はここで生活してるだけでいろんな人に     迷惑をかけてるし…。 大人  は?人がせっかく慰めてやったっていうのに、お前は… 新卒  (被せて)ごめんごめんw。なんか貴方と話してたら元気     出てきた。ねぇ、今から海にでも行かない? 大人  いきなりすぎるな。(渋々)まぁ、お前が金出してくれん     なら、行くけど。 新卒  じゃ、行こ!

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【See the Glass half Empty】おとな(2)

【See the Glass half Empty】おとな(1)

少女  (片耳のイヤホンを外して)ねぇ、おじさん。おじさんの     ことなんて呼べばいい? 大人  そうだな、おじさん、は嫌だからな。…オトゥーナ、とか     どうだ。トゥの部分にアクセントな。 少女  フッ、なにそれ、ダサっ。まぁ、おじさんがそれでいい     んだったら、それでいいや。 大人  自分から聞いておいて雑だな。 少女  そんなことよりさ、オトゥーナはこれからどこに行くの? 大人  あてはないさ。お前はどこか行きたいとことか、無いの     か? 少女  特には…。でも、強いて言うなら、ここからできるだけ遠     いところ。そうだな…、天国?とか?とりあえず、日常か     ら……、私の知っている世界から逃げたいだけだから。 大人  ……。 少女  ……何も言わないんだ。両親がどうとか。 大人  別に。こんな他人が言ったってどうにかなる問題じゃない     だろ。第一自分から、付いてくるか、なんて提案しておき     ながら、ご両親の心配までしているとでも? 少女  確かに。…でも、オトゥーナには、家族とか大事な人とか     いないの?もし警察に見つかったらつかまっちゃうかもし     れないよ。 大人  平日の夕方、世間でいう定時前にあてもなくふらついてる     ようなおっさんに、そういう人がいると思うか? 少女  ってことはいないのか。なんだか寂しいね。 大人  ……。 少女  (あくびをしてから)眠たくなったから、ちょっと寝る。

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【See the Glass half Empty】おとな(1)

【See the Glass half Empty】誘拐

少女  (イヤホンをつけて地べたに寝転がっている。横に置いて     あるダンボールには「私を誘拐してください」の文字) 妖精  ねぇ、イヤホンつけて何聴いてるの?……って、よく見た     らどこにも繋がってないじゃん。 少女  ……、(ガン無視) 妖精  お~い、起きてる~? 少女  (イヤホンを付けたまま、微動だにせず)……起きてるけ     ど。 妖精  ねぇ、何してるの?そんなところで寝っ転がってなんかい     たら風邪ひいちゃうよ。 少女  (イヤホンのプラグをポッケにしまいながら、億劫そうに     起き上がり)別に、風邪ひいたって、誰も困らないで     しょ…。 妖精  いやー、僕は困るんだけどなー(意味深)。え、何コレ?     「私を誘拐してください」? 少女  あー。どうですか?私を誘拐してみませんか? 妖精  どうして僕が君をユーカイしなきゃいけないんだよ。そ     れに、知らない人について行っちゃダメって大人に教わ     らなかったの? 少女  そんなの忘れたよ…。それに今は、どうにでもなれって     感じだから。 妖精  ふーん、そーなんだー。 少女  っていうか、誰?朝からずっと私に話しかけてるけど、     どこから話しかけてんの? 妖精  僕?僕はねー、うーんと……。よーせいさん、みたい     な…?てんのこえ、みたいな…? 少女  へー(無関心)。 妖精  全然キョーミ無さそーだね。……あ、今何時? 少女  十七時だけど。 妖精  僕にはやらなきゃいけないことがあるんだった……。ま     たあとでね! 少女  めちゃくちゃじゃん…。 大人  (少女に近寄る。口には煙草)何してんだ、お前。 少女  (大人に一瞥もくれず)見ての通り、私をさらってくれる     人を探してるんです。誘拐してくれないなら、どっかに     行ってくれません? 大人  (煙草を地面に擦り付けるためにしゃがんで、少女と目線     を合わせるように)………付いて来るか? 少女  (起き上がって)えっ…。誘拐、してくれるんですか?

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【See the Glass half Empty】誘拐

-1日

 今日も彼女の席は空席だ。彼女がいなくても、クラスメイトはいつもと同じ日常を過ごしている。  彼女の席には、彼女の代わりにクラスの陽キャ女子が座っている。彼女が今ここにいないから、断りを入れる必要が無いと思って座っているのだろう。  だけど、僕にはそれが許せなかった。楽しそうに談笑しながら昼食を食べるその女子から、今にも「あの子がいなくてラッキー」と聞こえてくるかのようで、見ていられなかった。別に、そんな気はないのは分かってる。でも……。  悪い妄想で自分の頭が満たされないように、僕はそっと教室を出た。

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