snow drop

55 件の小説
Profile picture

snow drop

初めまして。ボカロ、小説、アニメが好きです。 たまに喫茶店巡りをしています。 それと僕、実は学生です。相互フォローを心がけています。よろしくお願いします。

テディベア

Side:X 「どれにする?」 私の七歳の誕生日に、母がテディベアを買ってくれた。 「リボンはどの色になさいますか?」 店員に訊かれて、反射的に黒を選んだ。 今思えば、自分からこの道を選んだ自分への皮肉だ。 今、私は暗殺者をしている、真っ黒なゴシックロリィタをいつも着て。 さっき、五人殺した。少ない方だ。 そばに置いていたランタンを手に取る。 返り血を振り払い、帰路につく。いつからだろうか、路地裏しか歩かなくなったのは。 …………………… 黒一色の服を脱ぎ、ラフな部屋着に着替える。 棚の上に飾ってある古いテディベアを膝に座らせ、報告書を書く。読み書きはできるから、助かった。 不意に、窓が開いた。 布団から手だけを出して、布団の中に伝達用の使い魔を引きずり込む。 「次の依頼か」 内容は、『−−−−−−』 ……………………   荘厳な雰囲気に呑まれそうになる。 教会で潜入任務をあてがわれた。宗教が絡むと、ろくなことにならない。 早く終わらせて帰りたい。テディベア、持ってこれば良かった。今すぐにでも、ぎゅってしたい。 修道女は身元がはっきりすることなどないから、入り込みやすい。それは逆に、同業者がいる可能性もあるってこと。 手始めに探索でもするか。 石造りの階段をひたすら登り、やっと光が見えた。 誰かいる。 「あら、ようこそ。わたくしの祈りの間へ」 他の修道女たちとは違い、ヴェールを被り白を基調とした衣装に身を包んだ少女だ。 「あなたは、聖女様?」 教会には「聖女」という役職がある。神の声、とやらが聞こえるらしい。胡散臭い。 「そう、ですね。確かにわたくしは聖女。」 自認なんだ。 聖女様と他愛もない話をして、知り合い程度にはなった。 「これ以上祈りの邪魔をするべきではないでしょうし、これで失礼します。」 ひとまずは、引き上げる。長話でボロを出すわけにはいかない。 「ああ、わたくしの名前、名乗っていませんでしたね。」不意に、背後から声をかけられた。 事前に知っていたが、聞くだけ聞いておく。 「クロエです。」 やっぱり。 ———名乗らなくて良かった。 …………………… 教会で過ごすようなってからしばらく経った。 聖女は私に警戒心を抱かなくなった。このままいけば、任務が早く終わる。 聖女と別れてから、空を見る。夕日が、階段を血のように赤く染め上げていた。 …………………… side:クロエ わたくしが教会に来る前、どこで何をしていたのか全く覚えていなかった。 ただ、いつのまにか教会の最上階で祈りを捧げる日々を送っていた。わたくしはきっと、孤児か何かだったのだろう。 教会に拾われた、捨て子。 「聖女様、お茶にしませんか?」修道女の一人が、震える声でわたくしに話しかけて来た。きっとわたくしが聖女だから、近づくのが怖いのかもしれない。 修道女達が、わたくしの身の回りの世話から話し相手まで担ってくれている。彼女達もわたくしが救い、導くべき者達。歳の差はあれど、せっかくなら仲良くなりたい。 それなりに長い時間を共にして来た仲だ。打ち解けられて、自然体で接することができるようになって来ているように感じる。 わたくしも、自分というものをわかって来ている気がする。一緒にお茶やお菓子を楽しむ少しの時間が、長い祈りの時間に耐える理由であり、何よりも幸せだ。 …そう、そのはず。 ある日、黒い少女が教会にやって来た。きっと辛い事情があったのだろう。 同情する気持ちと、同年代の少女と仲良くなりたい願望が、わたくしの中でせめぎ合っていた。 聖女だからとて、友達を作ってはいけないという決まりはないもの。 結局、後者が勝った。 黒い少女と話すことが多くなった。修道女達がわたくしを見る目が、少し変わってきた。わたくしを畏怖し一歩引いたような姿勢から、わたくしを一人の娘として捉えて歩み寄ってくるような目に。 わたくしは、嬉しかった。みんなと本当の意味で仲良くなれそうで。黒い少女と遊んだり、お茶を飲んだりできて。 思っていない、修道女達を傷つけたいなんて。ああ、黒い少女の絶望に歪み切った顔が見たい。神などいないと、聖女の姿をして言い放ち心を壊してみたい。 いえ、わたくしは、わたくし、は… −−−…聖女、です。 …………………… Side:X 深夜、私は与えられた部屋の中で、組織から送られた資料ファイルを閲覧していた。 盗聴器が無いことは、確認済み。 聖女自身は、己の過去について何も知らないようだった。 知っていた方がまずいか。 教会も、随分と危うい手を打ったものだ。自分達が、危険と崩壊を懐に招き入れたことにすら気づいていない。「アレは聖女なんかじゃない。」 −−−−崩れた神。 誰からも忘れ去られ、神自身さえも忘れた。信仰が薄れ、力を失いかけ、神聖すら削れた残りカス。それが、崩れ神。 聖女は、そろそろ限界だろう。崩れた神は、人を傷つけ痛めつけたい衝動に駆られるようになる。神は人の穢れを背負うものだから。 …………………… Side:??? 「聖女様あ、…」 さよなら、名前も知らない修道女。 ーーーー修道女は、絶命していた。 ああ、久しぶりに感じる鮮血と絶望の匂い。 「わたくしは、何を…」 無意識に自分の白い修道服のスカートをつかむ。じっとりと濡れていた。 疑問に思い、自分の着ている服を見下ろす。 白い服のところどころが、赤黒い何かで汚れていた。 「わたくしは、友人に、何をした?」 自分が見ていることが真実なのは、分かっている。でも、それをモヤがかかったような頭では上手く処理できない。 視界が霞んでいるような錯覚に陥っていた。 「あなたがその人を手にかけた。」 淡々と事実を語る声に、わたくしは現実に引き戻された。 「あなたは聖女じゃない。ましてや人ですらない。あなたは、崩れ神。」 思い、出した。わたくしは、祈り手などではない。 「私はあなたを暗殺するよう命じられていた。あなたがあなただと思い出すその時に。教会連中に、彼ら自身の愚かさを思いださせるため。」 そう、 あなたは私が私として存在を保てなくなった時、教会の司教達によって「聖女」にされた。私は自分が救い手であると誤認したその瞬間、「わたくし」が生まれた。「わたくし」になった。でも、もう終わった。 私になれた。戻れた。 ------私を忘れた人間達に、私の存在を教えないと。

1
0

巫女

巫女 日本という国が、国として成立する前のことだ。 「いつまで経っても、雨が降らない。」 「雨乞いをしたというのに神は我らをお見捨てになったか。」 「こうなったら生贄を捧げるほかはない。」 「誰にする?」 「そうだな、一人贄にふさわしいのがいる。そう、神のもとで仕えるのが仕事の巫女はどうだ。」 「それがよい。」 「いかがですかな、巫女よ。」 「そのように致しましょう。私を捧げ、平穏を神にもたらして頂くというのが筋というものです。」 私は血筋によって決められた巫女だ。ただの血統で、神に仕える巫女ということになっただけの人間だ。でも、巫女はよく言って信仰対象の化身である。悪く言えば、人々による信仰という支配に縛られた奴隷だ。神のため、神の機嫌をとるためだけに使い捨てされる道具。   生贄を捧げる夜、私は巫女装束を纏い人々の前に降り立った。 「私が神の元へ赴き、荒魂をしずめて参ります。」 心にもない言葉を吐き出して、誰一人近づかなかった神域に踏み込んだ。そこにある気味が悪いほど濁った淵があり、私はそこに身を投げた。 『巫女は自分のために生きられない。来世は幸せに生きたい、なんて思い上がりは言わないけれど、願ってしまう。人生を劇的に変えてくれる何かの登場を。』 水面に波紋が揺れ、月は青白い刺すような光を放ち、淵を見下ろしていた。

6
2

語ります

僕が好きな本 綾辻行人の「another」、「黒猫館」 acaciaの「魔法少女ノ魔女裁判」 朝霧カフカの「文豪ストレイドッグス」 アガサクリスティ「そして、誰もいなくなった」

5
4

気づかないで

以前高校生でありながら、海外研修に行った事がある。 三カ月ほどカナダに行き、英語を学んだ。 最初の三週間は、初めて見る異国の風景や食、生活様式に触れることに夢中でとにかく浮かれていた。 その国に行く前からある程度英語は喋れていたので、会話で困ることはあまり無かった。 ちなみにカナダの地域によっては、かなりの人数の日本人がいる地域がある。さすがに日本人と遭遇するのは、英語漬けの生活をするには良くないと考えて、田舎を留学先に選んだ。 きっとそれが間違いだった。 一カ月が経ったころ、僕はホームシックになった。日本を感じられるものが全くなくて、幼い頃の遊んでいたら気づくと一人になっている時の感覚によく似たものを味わった。 目新しいものにばかり気を取られて、スマホで家族と連絡をとることをすっかり忘れていた最初の一カ月を思い出した。『なんであんなに楽しかったんだっけ。』 なぜかはわからないけど、今家族とLIMEしたら泣く気がした。でも、家族と繋がりたい。 「今起きてる?」 ピロン♪ 「起きてるよ。留学どう?」 ホームシックが辛くて、帰りたい。 「楽しいよ、一ヶ月経ったからちょっと連絡したくなったんだ。」 あ、違うのに。でも今、本当のこと伝えたら我慢できなくなる。視界が磨りガラスみたいにぼやけて、親から送られた文章が読めなくなる。 お願い、気づかないで

5
2

盆下り

和室の畳に寝そべって、仏壇を横目で見る。 「来てるのかな、お婆ちゃん」 盆になると死者の魂が現世に帰ってくると言うが、実際はどうなのか。 「凪〜、スイカ食べないの〜?」 「はーい。」 縁側に座って、母親に渡された半月形のスイカにかぶりついた。「このスイカ、味しない。」 「仕方ないでしょ、うちのなんだから。」 「凪も高校生になって‥‥、」 「何?」 「凪は村出て行くの?高校卒業したら」 「正直、ここに残ってもいい」 「そう、てっきり嫌がると思ってたのに」 母は標準語で話す。いつからだろう、私も釣られて同じ喋り方になった。 母を集落のコミュニティに入れようとしない村に愛着など、カケラも沸かなかった。 ただ、でも閉鎖的な村ほどこう言う傾向は色濃く根付いている。 そもそもなんで母はこんな村、来ちゃったんだろう。 「ねえ、一緒に遊ぼ?」 「え。」 誰? そこにいたのは、おかっぱ髪の小さな女の子だった。 「遊ぼ?」 着物を着た人がただでさえ少ない現代で、着物を着た子供など行事がなければまず見ない。でも、 いる。しかも家の前の垣根の外から半身を出し、覗き込む形で。 どう返答するべきか迷っていたら、遊ぼうと再び声をかけられた。 「わかった、遊ぶよ。でも、準備するからちょっと待ってて。」 とりあえず、スイカの皮と皿を台所に置きに行きたい。 「待ってる。」 この子は、本気で私と遊ぶ気らしい。 「何して遊びたい?」 遊ぼうと言ってきたのだから、何かやりたいことでもあるのだろう。 「鞠つき」 ずいぶん古風な遊びだ。 そもそも鞠突きって、一人で遊ぶものでは? 「鞠突きのやり方、見せるから一緒に遊ぼ。」 手鞠を私に差し出してきた。 「見てて。」 見て覚えろ、と言うことかな。 女の子が膝を軽く曲げ、体の近くで鞠を突く。なるほど、この感じなら、バスケの要領で出来そうだ。 「コツは掴めたよ。やってみたい。」 「わかった、難しかったら言って。一緒にやるから。」 鞠を突くたび、ぽんぽんと聞き心地のいい軽い音がする。癖になるかも、これ。 「一番はじめは一の宮。ニまた日光 中禅寺」 少女が縁側に腰掛け、唄っていた。数え歌だと思う。 「なんの歌なの?それ」 「数え歌。鞠を突く時に唄う。」 「鞠の使い方、わかってきたから一緒に突く?」 「うん。」 ぽん、ぽん、ぽん 耳に馴染んだ音がする。 「一番はじめは一の宮。ニまた日光 中禅寺。三また佐倉の惣五郎。四はまた信濃の善光寺。 五つは出雲の大社(おおやしろ)。六つ村々鎮守様。七つは成田の不動様。八つ八幡の八幡宮。九つ高野の高野山。十で東京心願寺。これほど心願かけたのに。浪子の病は治らない。ごうごうごうと鳴る汽車は 武男と浪子の別れ汽車。二度と逢えない汽車の窓。鳴いて血を吐くほととぎす。武男が戦争に行くときは 白い真白いハンカチを。うちふり投げてねえあなた。早く帰ってちょうだいね」 歌のリズムに合わせて鞠を突く。 歌が終わった。 「その歌、どういう意味なの?」 気になったことを言いながら、おかっぱの少女がいる右を向いた。 少女の持っていた手鞠だけが、私の足元に転がってきた。

5
1
盆下り

これぞ、夏の風物詩ーーー

いっそのこと、首吊って死のうかな。 冒頭の二時間前に遡る。 空が薄青から橙に変わりつつある夕方だった。 「今日という日は、もう逃がさん。」 はあ、またか。家から出たくないって何回言えば。 「日の光浴びると肌が爛れる〜」 「黙って言うことを聞け。夏休み最終日ぐらい外に出ろ。」 君は姑か何かなの?毎日毎日僕の家に来てさあ。好きにさせてよ。 今も僕を羽交い締めにして、玄関まで引きずっている。ああ、あと少しで家から出てしまう。君、なんでこんなに力強いのさ。 こんなやつと幼馴染になるんじゃ無かった。 あはは、いいこと思いついた。 「今日、夏祭りあるんだって。弟と行って来なよ、家族と行った方が楽しいでしょ。仲直りするいい機会じゃん?」 そういえば、由貴には思春期真っ只中の弟がいた。こいつをダシにすればいい。 「たしかに、あいつとはしばらく喋ってなかったからな。朔は身内以外が側にいると緊張するし、お前は連れていけない。チッ」 予想通りの返答だねえ。このままいけば逃げれる。この夏休み、一歩も外に出ないと決めたから。 「次は無いと思え。」 「はーい、じゃあね。」 よしセーフ。 後は、自室に返ってゲームをするだけだ。玄関の扉を背に足を--- 「今日、夏祭りでしょ、行って来なさい。」 「え〜、やだ」 最悪、タイミング悪すぎでしょ。さっき敵を追い返したばっかりなのにさ。 「さっきあんたが言ってたじゃない、今日は夏祭りだって。」 「うぐ、‥‥」 はあ、聞いてたのか。これだから親は。 「二時間ゲームしたら行く〜」 「今から準備しなさい、ゲーム回収するから。」 安定の鬼畜の所業。こんなだから子供に嫌われるんだよ、親って。 「浴衣着るのかあ、面倒くさ。」 「さっさと着替えて財布持って行きなさい。」 なんでだろう、無性に死にたい。 「行ってきます、はあ。だる」 玄関の扉を開けて、重い一歩を踏み出した。 八月三十一日、夏休み最後の1日を、最悪の気分で過ごすことになった。

4
1

感想

刺激的デでグロい描写全てに意味があり、作品に臨場感を与えているように感じました。 主人公のロイデが母親から気絶するまで虐待され、日々の苦しみを吐き出せる何かを欲しがっている場面に、強く引き込まれました。 ロイデの心に秘められた強い感情が、音楽という方法で外界に放出される未来が、非常に気になります。

1
1

風鈴

この小説はフィクションです。 夏になると、近くの神社で色とりどりの風鈴が吊り下げられる。 私は毎年、この時期に必ず風鈴の絵付けをしている。「今年は、何を描こうか。」絵柄を決めるまでに、毎回30分ぐらいタブレットをいじったり、周囲を見回したりする。 「どれにした?」 不意に、正面から声をかけられた。 誰だろう、この子。この辺りに住んでいるのかな。 神社の境内に小さめの作業机を置いて、自分は絵の具とパレット、水入れ、絵筆を持ち込む。 その子は、橙色の琥珀糖のような風鈴を,手にぶら下げていた。 「まだ模様は決めてないけど、あなたは?」 あちらから話しかけてきたあたり、この子は何を描くのか決めたのだろう。私からも質問した。 「これ。」 ぐい、と私の顔の前に差し出した図案は、蝶を表していた。 「綺麗。」 きっとこの子は、蝶が好きなのだろう。実は、蝶を描くのも良いかもしれないと思っていたので、案が一つ消えてしまった。 振り出しに戻って、また何を描くのか考え「お揃いにしよう?」 「え?」 考えていた途中で話しかけられて、思考が中途半端に途切れた。 「せっかくだし、出来上がったら隣に飾ろ?」 「わかった。」 作業を進める中、この子についてわかったことがある。 この子は、神社の子らしい。だから、祭りでもないのに和服を着ている。 おかっぱに切り揃えられた髪は、和装によく合っていた。 「出来た。」 完成した風鈴を日の光にかざす。この動きを、風鈴を作るたびに繰り返している。 えもいわれない感覚がするからだ。 「風鈴棚に掛けに行こ。」 「うん。」 風鈴棚とは、 たくさんの風鈴を並べて吊るす、格子の壁のようなもの。 「来年、また一緒に作りたいから」 私はそう言いながら隣を見る。 新しく吊るされた風鈴二つが、並んで風に揺られているだけだった。

5
2

魔法集め 三章

『草の匂いがする。』 魔術師から引き剥がされた私は、騎士の修練場らしき場所に連れてこられた。 屋外の修練場に放り込む出された私は、とりあえず周りを見回した。芝生と、立て掛けられた剣ぐらいしかない。 状況はいまいち読み込めないが、何かアプローチした方が良いかもしれない。 魔術師を組み伏せた騎士(?)に向かって、とりあえず 『誰?』と首を傾げてみた。 私は喋れないので、甲冑の騎士に自分の意図が伝わっているのか分からない。 ただ、ゴゴゴ、という音が鳴りそうな重苦しい気配を感じる。騎士(?)は、ガタイが良く背が高いので、後ろに立たないで欲しい。 『私、何か間違えた?』 騎士(?)は、私に話しかけようと口を開きかけたが、結局その口が音を紡ぐことは無かった。私は、何か言いたくてもコミュニケーションをとる術がないので、二人の間で時間だけが過ぎていく。 私は視線を宙で彷徨わせたのち、近くに掛けられていた時計を見上げる。 「魔術書なんだよな?」 後ろで声がした。騎士(?)が喋ったらしい。 その通りなので、私はコクリ、と頷いた。 「奴に良いように使われていないか?」 その通り、こき使われてる。 あー、駄目だ。伝えたいことが、魔術師相手のようには上手く伝わらない。 私は、今、どうしようもない問題に直面している。

1
0

チョコレートコスモス

夕暮れ時にコスモスを摘んでジャムを作る。それが私の仕事。 でも、今日は初めて見る花を両手で包んだ。 それは、茶色のパッとしないコスモス。「こんな花をお出しするわけには、…」 お嬢様にお出しする紅茶に合うジャムを作らないといけないのに。 「調子はどう?」肩に誰かの指が触れた。 「ただ今、紅茶に添えるジャムの材料を集めております。順調にことを進めておりますので、ご安心ください。」実際は、この花をどうしたものか答えが出ないまま、頭の中で黒い何かをこねているだけ。 「そう。」お嬢様は、ただ一言だけ返された。 お嬢様はいつもお一人で過ごしている。旦那様も奥方様であっても、誰に対しても、彼女が心を開いているようには見えない。 せめて、お嬢様に心休まる時間をお届けできれば良いのだけれど。 お嬢様はガゼボのベンチに腰掛けて本を読んでいた。ただページを捲る音だけが聴こえる。それは一定のリズムを保っており、音楽のようだった。 「お嬢様、紅茶をお持ちしました。」 「そこに置いておいて。」 「かしこまりました。」お嬢様との会話は、どこまでも定型文。 使った花は、できるだけ華やかなものを選んだ。それは奥方様の庭に咲いていた花。お嬢様は気に入るだろうか。 『メイド達は気付かない。』令嬢の心の声は誰も気づかない。気付けない。 ---今まで、彼女が全く菓子に手をつけることがなかった事を。誰も信じない、信頼しない少女が求めるものにも。 誰もいない庭園で、少女は東屋から身を乗り出し、細い腕を伸ばす。一輪の花を摘んだ。 黒く長い影を引きずる彼女は、独りで花を愛でる。 両手で、茶色のコスモスを包む。 チョコレートのような甘くて苦い香りを漂わせる花を、彼女は紅茶に浮かべた。 彼女は華やかさなど求めない。華やかに飾ることに、彼女は価値を見出さない。

1
0