snow drop

26 件の小説
Profile picture

snow drop

初めまして。ボカロ、小説、アニメが好きです。(敬称略)好きな作家は望月麻衣、朝霧カフカ、佐藤真登、綾崎隼です。好きな小説は「満月珈琲店の星詠み」、「文豪ストレイドッグス」、「処刑少女の生きる道」、「死にたがりの君に贈る物語」です。好きなvtuberは叶、甲斐田晴、時雨うい、結城さくなです。好きなアニメは「リコリス・リコイル」、「2.5次元の誘惑」、「Re:ゼロ」、「WIND BRAKER」です。好きなボカロpはkanaria、deco27、サツキ、syudouです。好きなボカロは、重音テト、KAITOです。「レイニースノードロップ」と言う曲が好きで、僕のペンネームの由来でもあります。最近プロセカを始めたのですが、皆さんが好きなボカロがあったら是非とも教えていただきたいです。 それと僕、実は学生です。相互フォローを心がけています。よろしくお願いします。

衣替え

「桃李に錦織の着物を納めてあるから、出してくれぬか。」 「はい、玉藻様。」 私は玉藻前に仕えている。妖狐の美女の前では、あらゆる装飾品が彼女に屈してしまう。私は気怠げに宙を仰ぐ玉藻様をこっそり見つめてしまった。 いつからだっただろうか、私が玉藻様にお仕えするようになったのは。 『お前、何故妾を助けた?』 狐のように細められた目が、私を見つめる。 私は『貴女にお仕えするべく、内裏より選ばれた使用人でございますので。』とだけ言って玉藻前を内裏に連れて行こうとした。 『内裏かえ。妾を天皇の愛人にでもするつもりかのう。』 『さあ。それは貴女次第では?』 『そうかえ。』 玉藻前はそれだけ言うと黙ってしまった。 あの時から随分経った。私は玉藻様よりずっと歳をとってしまった。ああ、さらに美しさに磨きのかかった玉藻様が陛下の前で琴を奏でたら、きっと絵になることだろう。陛下の寵愛を一身に浴びるあのお方を、私は生涯をかけてお支えする。 私はまだ知る由も無かった。玉藻様が内裏を追われることになるだなんて。

2
0
衣替え

第二章

『何で?』 俺は何もしていない。でも、それと関係なく、教室の中の誰もが俺を嗤っている。 俺の机すら教室の中には無かった。昇降口の靴箱の中にあったのは汚されてハサミで刻まれた、履き物として機能しなくなった靴だったものが入っていた。俺が何をしたって言うんだ。 俺の周りにいるのは、人間の顔をした何か。俺が近くにいる時だけ、人のふりを止める怪物。 『お前、死にたいんだろ。』 俺は跳ね起きた。何の夢を見ていたのか覚えてすらいないが、見ていて気持ちの良いものではなかった。 『寝落ちしていたのか。』 常に倦怠感のある体を無理やり起こして、以前のことを思い出す。あれだけ鮮明だった記憶が、黒と白の二色だけになっている。 学校に行かなくなったのは、“あれ”があった後だな。 少しの間は我慢していたが、結局は無駄だった。俺、何のために学校、行ってたんだろう。 『いや、そんなことはどうでもいい。』 今はとにかく進路について考える。 『友達、作れば良かったな。』 あはっ、友達を作る気もなかった俺が、何を考えているのだろうか。 全く集中できない。 これほどまでに集中力が低下していたのか。単純に、学校に行かなくなったからかもしれない。

0
0

第一章

「お大事に。」 実際に病院に足を運びづらい人が受診するインターネットホスピタルに加入して、俺は働いている。 ♪〜 耳に残る音の目覚ましアラームが鳴る。この音を作った人、絶対性格悪いだろ。 『朝か。』 ベッドから体を起こそうとして、『ダメか、今日も。』頭が痛い。 効いてもいない薬を飲む。ミドドリなんとかという名前があるらしいが、特に何も考えず薬剤を口に投げ込む。 「涼、降りてきなさい。」 『こっちは頭痛に苦しんでるんだ、ふざけるなよ。』 俺は階段を降りながら、悪態を心の中でついた。 「母さん、おはよう。」 「あら、元気そうね、良かったわ。」 『何が元気だね、だ。』 「涼が起きてこられないかもしれないと思っていたのよ。でも、流石ね。」 俺は何も返答せずに朝食を自分の部屋に持ち帰った。 『なぜ親と喋っただけで、こうも疲れるんだろうな。』 俺は朝に一回部屋を出て誰かに「おはよう」を言ったら、すぐに自分の部屋に戻る。 朝食を食べ切ると自分の部屋の前に食器を置いておく。『そのうち親が片付けるだろ。』 俺はパソコンを開いた。とりあえず、自分の持っている教材のワークの解説動画を探す。それっぽいやつを見ながら、遅れているとしか思えない勉強をやる。時計が狂っているから時間の感覚は無いに等しい。しばらくいろんな教科の勉強をする。でも正直、頭が働いていない。 「涼、居るわよね?」 『何しに来た。』 俺は、突然部屋に来た母親に呆れながら扉を開ける。 「突然ごめんね。部屋には入らないから、ここで話を聞いてほしいの。」 「何かな?」 「実は、涼の進路について話がしたいの。」 「へえ。」 『俺の将来、か。正直、どうでもいい。」 「学校は、多分、通信制高校になると思うの。涼の出席日数が足りないから、どうしようもないわ。」 「そっか。分かった。通信制高校に通うよ、俺。」 「いい子ね。じゃあ、そういうことにしましょう。」

1
0

ジューンブライド

六月の花嫁は幸せに生きる、といわれている。 私は今、教会に踏み入るために階段を登っている。 花嫁は今、花婿の手によって、ヴェールから顔が見えかけている。彼女は満ち足りた微笑みを浮かべ、花婿を見つめている。 永遠に幸せが続くと疑わない花嫁に、刻々と死の足音が近づいているというのに。    会場がざわつきだす。声の波が生まれ、招待客の声が教会を取り巻いていく。 「誰だ!」 花婿が花嫁を守るように立ちはだかった。 「これは失礼、ジューンブライドに永遠の愛を得る権利を渡しに参りました。」 「どういう意味だ、それは。」 花婿が眉をひそめる。 「ふふっ、そのままの意味ですよ。」 何処からか悲鳴が上がった。花婿がとっさに後ろを振り返る。そこには真紅のウエディングドレスをまとった花嫁が立っていた。 彼女のウエディングドレスは純白、だったはずだ。最初から真紅だったのかと勘違いするほどに、白いウエディングドレスは見る影もないほどに紅く染まっている。 「お美しい花嫁ですね。」 私を凝視したまま固まっている花婿に一礼し、教会を立ち去った。 「さて、次は」 何処かで一人の暗殺者が、隣に誰かがいても聞こえないほどの声で呟いて、その声はそよ風にかき消された。 ジューンブライドには永遠で、真紅の未来が待っている。

1
0
ジューンブライド

Venus

夜の海に、星が踊る。 一枚岩の上に腰掛け、夜空を見上げる少女が居る。海をはめ込んだ瞳と、濡れた金髪に天使の輪のような輝きがある。 人魚ならば歌う姿を連想されるものの、歌う気配がない。 歌うことで男性を誘惑すると言われるが、彼女は歌に自信がないのだ。 「なぜあの子は堂々と歌えるのかしら。」視線の先にいる人魚を睨み、彼女は一人呟き俯いた。そもそも歌を聴いてくれる人がいないから、自分の歌が上手なのか下手なのかすら分からない。 「誰か、一度ぐらい聞いてちょうだい。」船乗り達は歌を聴くまいと、人魚を見つけたら耳を塞いでしまうのだ。 夜が明けて、人が活動を始めた。網にかかった人魚を見て、漁師達が「これは、人魚か?」「そうだな。ただ、売るには惜しい。」と話し合いをする。 「んん、…。」 彼女は船の上で目を覚ます。 彼女にとって、水がない場所にいることそのものが新鮮だ。 「気が付いたかい、お嬢さん。」 彼女を赤い瞳が覗いていた。 「え?」 彼女は、人魚に赤い瞳をもつ個体はいないので、自分を見下ろす少年に違和感を覚えたようだ。 「名前は?」 突然少年に名を聞かれて、自分に名前がないことを思い出した。 「名前のある人魚は少ないの。私は名前のない人魚。」 「そっか。なら、女神ウェヌスからとってウィーラ、とかどうかな?」 「名前をくれるの?」 「もちろんさ。」 この時から二人の関係が始まった。 「…お願いがあるの。私の…歌を聴いてほしい。」 会ったばかりの少年に、人魚は歌を聴いてほしいと願った。

2
0
Venus

再臨の慈悲

朽ち果てた聖堂に、翼をたたみながら降り立った一人の少女がいた。人とは思えないほどに感情の宿らない瞳が、整った顔を飾っている。 「信仰心の欠片もない人間共、私の再臨に気づくことすら出来ぬとは、かつてよりも愚かになったものよ。」 吐き捨てるように少女は呟き、祭壇に登る。彼女が下を見下ろしたところで、誰も彼女を崇めない。そもそも誰も居ないのだ。信仰を得られなくなった神は、急速に魂、力、記憶が削られていく。 ただ少女の靴音が聖堂に響く。 純白のローブを見に纏った少女は、信仰を捨て神を滅ぼそうとした人間に裁きを下すべく、聖堂を後にした。 神を忘れた人々の時代が訪れている。 少女が降臨した頃、忘れられた聖堂より少し離れた町では、平穏そのものが町を包んでいた。 惨劇に見舞われるなど、夢にも思わない人々で溢れている。肥沃な土地や清らかな水に恵まれ、町が滅びることなどないと住民は信じて疑わなかった。 だからこそ、誰も気づかなかった。彼らの頭上に星が落ちて来ていることを。 崩壊の瞬間は、瞬きほどの時間もなかった。 たった一つの町を壊したところで、神の制裁は終わらない。悲鳴を上げることすら許されない裁きは、きっと世界が滅ぶまで続けられるだろう。 神を滅ぼせる誰かが、現れでもしない限りは。 「…私を忘れた人間達よ、私は、等しく慈悲を与えていたではないか。」

3
0
再臨の慈悲

鍵穴が目の前にある。 でも、肝心の鍵がない。どうやって開けろと言うのだろうか。 ピッキングの技術が、一般人の僕にあるわけないだろうが。アニメじゃないんだぞ。 さっきから一人で困っている僕は、学生である。下校中にいつもの風景が、波のように波打って歪んだ。で、今に至る。 だんだんと鍵穴が大きくなってきている。絶対に気のせいじゃあない。 そんなに大きい鍵穴に、ちょうど入る鍵があってたまるか。いや、待てよ。もしやこれは鍵がそもそもないのでは? そんなことを考えていると、突然後ろの空間に引き摺り込まれた。 「さっきから何だよ、本当に。」 僕は、僕を引きずり込んだ何かを非難しようとして後ろを振り返った。でも何もいない。そして、見つけた。 「ふざけんなあ!」 鍵があったのだ。先程まで見当たらなかった鍵が。しかも鍵穴があった空間が幕で閉じた。 比喩表現ではない。物理現象だ。 「性格悪すぎんだろ。ここ作ったやつ。」 わざと僕が鍵を掴んだタイミングで、部屋が隔てられた。 「早く帰らせてくれよ、なあ。」 悪態をつかずにはいられなかった。 デスゲームが始まる、とかがなさそうなのが唯一の救いだ。 空間がまた歪んだ。 「あっさり帰れちゃったじゃねえかよ。何なんだよ、本当に。」 僕を閉じ込めた誰かが、何をやりたかったのかが分からない。とはいえ、僕は帰れた。それで終わりだ。だよな? 翌日、「杉田君が昨日から家に帰っていないそうです。誰か、杉田君について何か知りませんか?」学校の先生に、朝の挨拶をする時間にクラス全体に向かって聞かれた。 僕はまさか、とは思ったが『僕は帰れたじゃないか。きっと問題ない。』と首を振って考えることをやめた。 だが、杉田は何日経っても帰って来なかった。 そのうち、異世界転生でもしたのではないか、という噂まで流れ出した。 今、この文章を描いている時も杉田が帰ってきたという情報は聞こえてこない。 君の周りにも、いなくなった人はいるか?

3
2
鍵

本音

サラサラ−−−シャープペンシルが紙の上を走っていく。原稿用紙が黒で染まっていく。   キンコンカンコン 学校のチャイムが鳴った。『やっとだ。今日が終わる。』 窓から覗く夕陽が煩わしい。昼と夜の間の時間だなんて、ない方がいいに決まっている。 「帰ろ?」「うん。」友達同士で下校する誰かが私の前を通っていく。私は一刻も早く帰らないといけない。 もし誰かに趣味を聞かれたら、真面目な子だと思われるような何かを答えないといけない。 異世界転生とかを願ったこともある。でも現実的じゃないってことぐらいわかっている。 「勉強しないと、「ピロン♪」」「何?」こんな時にチャットを送らないでもらいたい。 「桜、今、時間ある?」 「ない。っていうか、テスト週間だろ?今。なんで時間があると思ったんだよ。」 「だってさあ、勉強つまんないもん。」 「構っていられる時間はないよ。じゃあね、瑠花。」 瑠花の自宅では、 『むう、桜ひどいなあ。勉強なんて適当でいいのに。なんでそんなに頑張るのさあ。』と一切勉強せずに絵を描いている彼女がいて、テスト週間だとは思えない空気があった。 「瑠花、ちょっといいかしら。」 「なあに、お母さん。」 母親が瑠花を呼び、話を始めた。 「瑠花、あなた、進路はどうするの?行きたい高校はあるの?全然勉強していないじゃない。」 「勉強ってさ、正直必要ないと思うんだよ。今のところはイラストを描いて生きていきたいから、そうだね、通信制高校かな。イラスト科とかあるし。それにさ、滅多に入試、落ちないらしいじゃん。」 「そう、通信制ね。わかったわ、イラスト科のある通信制高校、調べておいてあげる。」 「ありがとー。」『進路かあ、中3だから考えないといけない。自分でも調べてみるか。』 『桜は進路、どうするんだろ。ちょっと気になった。勉強終わってるよね、さすがに。』 即時行動型の瑠花は、考えるより先に動いた。絶対にどこかで失敗するタイプの人間である。 「桜〜、進路どうするの?」 『とりあえず聞いてみるか。』 「ピロン♪」 桜は、本当に勉強は終わっているらしい。すぐに返信が来た。 「進路?偏差値のいい高校に行く。」 「え?」 「え?ってなんだよ。」 「だってさあ、もっとないの?なりたい職業とかさ。」 「あるにはある。けど、親には言ってない。」 「言いなよ〜。で、何さ、なりたい職業って?」 「小説家。」 「おお!いいじゃん。一緒にやろーよ。」 「一緒に?でも瑠花って本読まないだろ。」 「読むか、読まないかじゃないよ〜。瑠花はさあ、絵を描くのが好きなの。だから、絵を描いて生きていきたい。好きなことを仕事にしたいんだあ。それに、桜と一緒に仕事出来たらもっと楽しそうじゃん。」『本当は、桜のやりたいことをやれるようになって欲しいから。』 「確かにそうかもしれない。悪くないね、考えてみる。」 「やった〜。」 スマホ越しの会話が終わった後の桜は、『誰かに小説家になりたいって初めて言ったな。いつもは絶対に言わないのに。でも嫌じゃなかった。』

1
0
本音

湖上の踊り子

(史実を物語として脚色しています。) ♪♪〜♪ 鼻歌が城の檻から聞こえる。 誰もが眠っている頃、一人の少女が誰に見せるともなく踊る。ショールが翻り、宙を舞う。 少女がステップを踏むたびに、少女の足元に花が狂い咲く。人を惹きつけ魅せる魅力を持っていながらも毒々しい花が咲く。 地下牢には彼女だけが囚われている。酸化した鉄の檻に囚われていながらも、少女の独特な雰囲気は薄れない。 誰かが見ていたものなら、踊る彼女の姿に釘付けになっていることだろう。そして"共に踊り出すに違いない"。 少女は"終わりを知らないように踊り続けている"。彼女以外誰も牢に囚われていない理由は、彼女にある。「踊りのペスト」だ。 気絶してもなお踊り狂う精神的な病だ。「踊りのペスト」の感染者を見た者は、例外なく踊らずにはいられない。彼らの思考に関わらず、体が動き続ける。 誰も彼女を見てはいけない。だから少女は暗い地下牢に一人、囚われている。 彼女は生命の灯火が消えるその時まで、ずっと踊り続ける。

4
0
湖上の踊り子

妖神楽

私の隣を、浴衣姿の子供が走り抜けていった。幼い子供が浴衣を着ている姿を見ると心が和む。 当の私はというと、白い彼岸花の模様が入った黒い浴衣を着て、赤い帯を締めていた。近くにいる人は誰かと一緒に祭を楽しんでいる。「誰か誘えばよかったな。」そんなことを言っても、都合良く誰かが来てくれることなんて無いことは分かっている。物語のヒロインじゃないんだから。 見覚えのある人がちらほらいるが、声をかけるほどの仲でもない。「林檎飴、カットしてあるものをください。」 「はいよ。」 「ありがとうございます。」一人で屋台をまわりながら林檎飴を買った。最近の林檎飴はカットしてあるものもあるので、林檎飴を落とす心配もない。 花火の時間までは暇だったので、神社の中を探索することにした。 突然風が吹き抜け、私は目を瞑った。目を開いた先にあったものは、奥に何があるのか見えないほど幾つも連なる朱色の鳥居だった。 「こんなに鳥居ってたくさんあったかな。」 私は首を傾げつつ、先に進むことにした。 歩くごとに鳥居の両脇の灯籠が明かりを灯す。誰も私の近くにいないはずなのに。見えない何かの存在を疑いながらも、鳥居をくぐり続けた。 鳥居の先にあったものは−−−−屋台が立ち並ぶ、境内だった。 『お面、つけるか。』私は周りの人がどこかおかしいことに気づき、本能的にお面を被った。 浴衣を着て祭りを楽しむ姿はまさに人だが、容姿が人間と異なるのだ。 ツノが生えている女性がいたり、狐の尾が生えている子供がいたりで、まさに『妖の夏祭り』だ。背中に冷たい汗が伝って落ちる感覚があったが、好奇心が勝っていた。 お面を被れば周りに溶け込めるかもしれないので、少し屋台を見て回ることにした。特に周りからの視線などもないので、異物であることは知られていないようだ。連れもいないので、せっかくだから妖の祭りを楽しみたい。 「神さまだ!」 子供の声が聞こえた。私は声が聞こえた方を振り返って、視線が釘付けになった。 夜風に揺れる黒髪、赤い瞳、そして紅白の狩衣を纏う女性が立って居た。 威圧がある独特の雰囲気を持ち、佇む姿はまさに神。思考するまでもなく、目の前の存在が神であると認識してしまう。 『もしかして私が人間だってこと、バレた?』あはっ。そもそも神を欺ける訳ないか。 頭の中に二つの選択肢が浮かんだ。逃げるか、人間だってことバラして玉砕するか。 私は直感的に後者を選んだ。逃げられるはずもない。祭りから出られるかも分からないのなら、賭けに出てもいい。 しゅるり、結び糸をほどいて面を外す。この時、私の脳がバグっていたのかもしれない。 「ほう、ずいぶんと肝のすわった小娘じゃのう。妾の目の前で面を外すとは。」 惹きつけられるようでいて、厳かな声だ。 「人間だ。」「人の娘だ。」 思った通りの反応だ。好奇の視線が私に注目している。不思議と嫌ではない。 「小娘、人の身ではここに長居はできぬぞ?ここに踏み入った理由は、ただ興味本意じゃろう。」 「私はただ妖の祭りが面白そうだったので、運試しとばかりに入りました。」 「そうかえ。人とはいえ、たまには客がいても悪くはない。今夜限りの縁じゃ、器をあつらえてやろう。」 私は、器という言葉が気になって聞いてみようと思ったが、何かが起こった。 黒い着物はそのままに、赤いツノが生えた。なぜか髪型も三つ編みになり、妖の祭りに踏み込む前と違っている。 気に入った。妖に、一時的ではあるが成れた。これで祭りを本当の意味で楽しめる。 周りから突然音が消えた。 何事かと周りを見回すと、妖たちが私を凝視していた。しばらく経って、「お姉ちゃん、一緒にお祭りで遊ぼ?」と狐の尾と耳が生えている子供に話しかけられた。その瞬間、「同胞が一人増えた。」「人が一夜限り我らの仲間になる。悪くはないな。」と歓迎の声があがった。

1
0