snow drop

21 件の小説
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snow drop

初めまして。ボカロ、小説、アニメが好きです。(敬称略)好きな作家は望月麻衣、朝霧カフカ、佐藤真登、綾崎隼です。好きな小説は「満月珈琲店の星詠み」、「文豪ストレイドッグス」、「処刑少女の生きる道」、「死にたがりの君に贈る物語」です。好きなvtuberは叶、甲斐田晴、時雨うい、結城さくなです。好きなアニメは「リコリス・リコイル」、「2.5次元の誘惑」、「Re:ゼロ」です。好きなボカロpはkanaria、deco27、サツキ、syudouです。好きなボカロは、重音テトです。最近プロセカを始めたのですが、皆さんが好きなボカロがあったら是非とも教えていただきたいです。 それと僕、実は学生です。相互フォローを心がけています。よろしくお願いします。

再臨の慈悲

朽ち果てた聖堂に、翼をたたみながら降り立った一人の少女がいた。人とは思えないほどに感情の宿らない瞳が、整った顔を飾っている。 「信仰心の欠片もない人間共、私の再臨に気づくことすら出来ぬとは、かつてよりも愚かになったものよ。」 吐き捨てるように少女は呟き、祭壇に登る。彼女が下を見下ろしたところで、誰も彼女を崇めない。そもそも誰も居ないのだ。信仰を得られなくなった神は、急速に魂、力、記憶が削られていく。 ただ少女の靴音が聖堂に響く。 純白のローブを見に纏った少女は、信仰を捨て神を滅ぼそうとした人間に裁きを下すべく、聖堂を後にした。 神を忘れた人々の時代が訪れている。 少女が降臨した頃、忘れられた聖堂より少し離れた町では、平穏そのものが町を包んでいた。 惨劇に見舞われるなど、夢にも思わない人々で溢れている。肥沃な土地や清らかな水に恵まれ、町が滅びることなどないと住民は信じて疑わなかった。 だからこそ、誰も気づかなかった。彼らの頭上に星が落ちて来ていることを。 崩壊の瞬間は、瞬きほどの時間もなかった。 たった一つの町を壊したところで、神の制裁は終わらない。悲鳴を上げることすら許されない裁きは、きっと世界が滅ぶまで続けられるだろう。 神を滅ぼせる誰かが、現れでもしない限りは。 「…私を忘れた人間達よ、私は、等しく慈悲を与えていたではないか。」

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再臨の慈悲

鍵穴が目の前にある。 でも、肝心の鍵がない。どうやって開けろと言うのだろうか。 ピッキングの技術が、一般人の僕にあるわけないだろうが。アニメじゃないんだぞ。 さっきから一人で困っている僕は、学生である。下校中にいつもの風景が、波のように波打って歪んだ。で、今に至る。 だんだんと鍵穴が大きくなってきている。絶対に気のせいじゃあない。 そんなに大きい鍵穴に、ちょうど入る鍵があってたまるか。いや、待てよ。もしやこれは鍵がそもそもないのでは? そんなことを考えていると、突然後ろの空間に引き摺り込まれた。 「さっきから何だよ、本当に。」 僕は、僕を引きずり込んだ何かを非難しようとして後ろを振り返った。でも何もいない。そして、見つけた。 「ふざけんなあ!」 鍵があったのだ。先程まで見当たらなかった鍵が。しかも鍵穴があった空間が幕で閉じた。 比喩表現ではない。物理現象だ。 「性格悪すぎんだろ。ここ作ったやつ。」 わざと僕が鍵を掴んだタイミングで、部屋が隔てられた。 「早く帰らせてくれよ、なあ。」 悪態をつかずにはいられなかった。 デスゲームが始まる、とかがなさそうなのが唯一の救いだ。 空間がまた歪んだ。 「あっさり帰れちゃったじゃねえかよ。何なんだよ、本当に。」 僕を閉じ込めた誰かが、何をやりたかったのかが分からない。とはいえ、僕は帰れた。それで終わりだ。だよな? 翌日、「杉田君が昨日から家に帰っていないそうです。誰か、杉田君について何か知りませんか?」学校の先生に、朝の挨拶をする時間にクラス全体に向かって聞かれた。 僕はまさか、とは思ったが『僕は帰れたじゃないか。きっと問題ない。』と首を振って考えることをやめた。 だが、杉田は何日経っても帰って来なかった。 そのうち、異世界転生でもしたのではないか、という噂まで流れ出した。 今、この文章を描いている時も杉田が帰ってきたという情報は聞こえてこない。 君の周りにも、いなくなった人はいるか?

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鍵

本音

サラサラ−−−シャープペンシルが紙の上を走っていく。原稿用紙が黒で染まっていく。   キンコンカンコン 学校のチャイムが鳴った。『やっとだ。今日が終わる。』 窓から覗く夕陽が煩わしい。昼と夜の間の時間だなんて、ない方がいいに決まっている。 「帰ろ?」「うん。」友達同士で下校する誰かが私の前を通っていく。私は一刻も早く帰らないといけない。 もし誰かに趣味を聞かれたら、真面目な子だと思われるような何かを答えないといけない。 異世界転生とかを願ったこともある。でも現実的じゃないってことぐらいわかっている。 「勉強しないと、「ピロン♪」」「何?」こんな時にチャットを送らないでもらいたい。 「桜、今、時間ある?」 「ない。っていうか、テスト週間だろ?今。なんで時間があると思ったんだよ。」 「だってさあ、勉強つまんないもん。」 「構っていられる時間はないよ。じゃあね、瑠花。」 瑠花の自宅では、 『むう、桜ひどいなあ。勉強なんて適当でいいのに。なんでそんなに頑張るのさあ。』と一切勉強せずに絵を描いている彼女がいて、テスト週間だとは思えない空気があった。 「瑠花、ちょっといいかしら。」 「なあに、お母さん。」 母親が瑠花を呼び、話を始めた。 「瑠花、あなた、進路はどうするの?行きたい高校はあるの?全然勉強していないじゃない。」 「勉強ってさ、正直必要ないと思うんだよ。今のところはイラストを描いて生きていきたいから、そうだね、通信制高校かな。イラスト科とかあるし。それにさ、滅多に入試、落ちないらしいじゃん。」 「そう、通信制ね。わかったわ、イラスト科のある通信制高校、調べておいてあげる。」 「ありがとー。」『進路かあ、中3だから考えないといけない。自分でも調べてみるか。』 『桜は進路、どうするんだろ。ちょっと気になった。勉強終わってるよね、さすがに。』 即時行動型の瑠花は、考えるより先に動いた。絶対にどこかで失敗するタイプの人間である。 「桜〜、進路どうするの?」 『とりあえず聞いてみるか。』 「ピロン♪」 桜は、本当に勉強は終わっているらしい。すぐに返信が来た。 「進路?偏差値のいい高校に行く。」 「え?」 「え?ってなんだよ。」 「だってさあ、もっとないの?なりたい職業とかさ。」 「あるにはある。けど、親には言ってない。」 「言いなよ〜。で、何さ、なりたい職業って?」 「小説家。」 「おお!いいじゃん。一緒にやろーよ。」 「一緒に?でも瑠花って本読まないだろ。」 「読むか、読まないかじゃないよ〜。瑠花はさあ、絵を描くのが好きなの。だから、絵を描いて生きていきたい。好きなことを仕事にしたいんだあ。それに、桜と一緒に仕事出来たらもっと楽しそうじゃん。」『本当は、桜のやりたいことをやれるようになって欲しいから。』 「確かにそうかもしれない。悪くないね、考えてみる。」 「やった〜。」 スマホ越しの会話が終わった後の桜は、『誰かに小説家になりたいって初めて言ったな。いつもは絶対に言わないのに。でも嫌じゃなかった。』

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本音

湖上の踊り子

(史実を物語として脚色しています。) ♪♪〜♪ 鼻歌が城の檻から聞こえる。 誰もが眠っている頃、一人の少女が誰に見せるともなく踊る。ショールが翻り、宙を舞う。 少女がステップを踏むたびに、少女の足元に花が狂い咲く。人を惹きつけ魅せる魅力を持っていながらも毒々しい花が咲く。 地下牢には彼女だけが囚われている。酸化した鉄の檻に囚われていながらも、少女の独特な雰囲気は薄れない。 誰かが見ていたものなら、踊る彼女の姿に釘付けになっていることだろう。そして"共に踊り出すに違いない"。 少女は"終わりを知らないように踊り続けている"。彼女以外誰も牢に囚われていない理由は、彼女にある。「踊りのペスト」だ。 気絶してもなお踊り狂う精神的な病だ。「踊りのペスト」の感染者を見た者は、例外なく踊らずにはいられない。彼らの思考に関わらず、体が動き続ける。 誰も彼女を見てはいけない。だから少女は暗い地下牢に一人、囚われている。 彼女は生命の灯火が消えるその時まで、ずっと踊り続ける。

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湖上の踊り子

妖神楽

私の隣を、浴衣姿の子供が走り抜けていった。幼い子供が浴衣を着ている姿を見ると心が和む。 当の私はというと、白い彼岸花の模様が入った黒い浴衣を着て、赤い帯を締めていた。近くにいる人は誰かと一緒に祭を楽しんでいる。「誰か誘えばよかったな。」そんなことを言っても、都合良く誰かが来てくれることなんて無いことは分かっている。物語のヒロインじゃないんだから。 見覚えのある人がちらほらいるが、声をかけるほどの仲でもない。「林檎飴、カットしてあるものをください。」 「はいよ。」 「ありがとうございます。」一人で屋台をまわりながら林檎飴を買った。最近の林檎飴はカットしてあるものもあるので、林檎飴を落とす心配もない。 花火の時間までは暇だったので、神社の中を探索することにした。 突然風が吹き抜け、私は目を瞑った。目を開いた先にあったものは、奥に何があるのか見えないほど幾つも連なる朱色の鳥居だった。 「こんなに鳥居ってたくさんあったかな。」 私は首を傾げつつ、先に進むことにした。 歩くごとに鳥居の両脇の灯籠が明かりを灯す。誰も私の近くにいないはずなのに。見えない何かの存在を疑いながらも、鳥居をくぐり続けた。 鳥居の先にあったものは−−−−屋台が立ち並ぶ、境内だった。 『お面、つけるか。』私は周りの人がどこかおかしいことに気づき、本能的にお面を被った。 浴衣を着て祭りを楽しむ姿はまさに人だが、容姿が人間と異なるのだ。 ツノが生えている女性がいたり、狐の尾が生えている子供がいたりで、まさに『妖の夏祭り』だ。背中に冷たい汗が伝って落ちる感覚があったが、好奇心が勝っていた。 お面を被れば周りに溶け込めるかもしれないので、少し屋台を見て回ることにした。特に周りからの視線などもないので、異物であることは知られていないようだ。連れもいないので、せっかくだから妖の祭りを楽しみたい。 「神さまだ!」 子供の声が聞こえた。私は声が聞こえた方を振り返って、視線が釘付けになった。 夜風に揺れる黒髪、赤い瞳、そして紅白の狩衣を纏う女性が立って居た。 威圧がある独特の雰囲気を持ち、佇む姿はまさに神。思考するまでもなく、目の前の存在が神であると認識してしまう。 『もしかして私が人間だってこと、バレた?』あはっ。そもそも神を欺ける訳ないか。 頭の中に二つの選択肢が浮かんだ。逃げるか、人間だってことバラして玉砕するか。 私は直感的に後者を選んだ。逃げられるはずもない。祭りから出られるかも分からないのなら、賭けに出てもいい。 しゅるり、結び糸をほどいて面を外す。この時、私の脳がバグっていたのかもしれない。 「ほう、ずいぶんと肝のすわった小娘じゃのう。妾の目の前で面を外すとは。」 惹きつけられるようでいて、厳かな声だ。 「人間だ。」「人の娘だ。」 思った通りの反応だ。好奇の視線が私に注目している。不思議と嫌ではない。 「小娘、人の身ではここに長居はできぬぞ?ここに踏み入った理由は、ただ興味本意じゃろう。」 「私はただ妖の祭りが面白そうだったので、運試しとばかりに入りました。」 「そうかえ。人とはいえ、たまには客がいても悪くはない。今夜限りの縁じゃ、器をあつらえてやろう。」 私は、器という言葉が気になって聞いてみようと思ったが、何かが起こった。 黒い着物はそのままに、赤いツノが生えた。なぜか髪型も三つ編みになり、妖の祭りに踏み込む前と違っている。 気に入った。妖に、一時的ではあるが成れた。これで祭りを本当の意味で楽しめる。 周りから突然音が消えた。 何事かと周りを見回すと、妖たちが私を凝視していた。しばらく経って、「お姉ちゃん、一緒にお祭りで遊ぼ?」と狐の尾と耳が生えている子供に話しかけられた。その瞬間、「同胞が一人増えた。」「人が一夜限り我らの仲間になる。悪くはないな。」と歓迎の声があがった。

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禁忌の子

一枚の白い羽が地上に舞い降りた。それは天使の羽のように穢れなく、それでいて不吉な羽だった。 「『禁忌の子』が見つかったそうだ。」 「『禁忌の子』だと?」 『禁忌の子』とは、天使が悪魔に身を許したことにより生まれた子供のことだ。子供は天使の姿をしている。心が悪魔だったとしても、見た目だけはまごうことなき天使である。もちろんそんな歪んだ存在は息をすることを許されない。 「はあはあはあ、追いつかれるわけには一一一!」 「地上に逃げたぞ!」「地上に降りるには許可が必要だ。勝手に動くわけにはいかない。」 追手の天使たちは上層部から許可を得るためにもと来た道に帰って行った。 「助かった、のか…。」 『禁忌の子』は地上に逃げ込み、息を整えていた。 「ねえ、「うわっ!」はあ、化け物を見たような反応をされると傷つくよ。」 「突然話しかけるからだよ。」 『禁忌の子』は羽を隠しながら言葉を紡いだ。天使、ましてや悪魔がいるなど人間が証明しているとは考えがたいからだ。 「綺麗な羽、拾ったんだ。見てよ。」 少女の無邪気な言葉に、何気なく羽を見ると「それ、どこで拾ったの?」という言葉を絞り出すのが精一杯だった。 その羽は『禁忌の子』の羽だったから。 天使の羽は人間が触れていいものではない。そして『禁忌の子』の羽ともなれば、触れた人間の−−−−− 「これね、ベッドに落ちて来た。」 「そうか。」 「この羽、窓際に飾るんだあ。」 「素敵だね。」 『止める理由はない。すでに手遅れだ。』 『禁忌の子』が舞い降りた場所は病院の一室。少女は入院している患者だ。 「もうすぐ退院できるってお医者さんが言ってたから、病院の外、早く行きたいなあ。」 数日後、少女は予定通りに退院した。「ゆめ、よかったわ。これからはお家で生活できるわよ。」 「うん!」 何も知らない親娘は笑顔で病院を出て行った。 時は過ぎて、少女が体の不調に気づいた。 「お母さん、ゲホッ、ゴホッ。風邪かもしれない。」 「そう。薬飲みなさい。」 「分かった。」 『おかしい。薬飲んでしばらくたつのに治らない。それどころか悪化している。』 少女の病状は日が経つにつれ、悪くなっていった。 「ゴホッ、そういえば、あの子、どうしてるのかな。」 『禁忌の子』のことを思い出し、回想を始めた。 『あの子、何で私の病室にいたんだっけ。特に気にしてなかったから忘れちゃった。』 「居た。」 「え?」 『禁忌の子』が翼を隠すことなく、窓枠に座っていた。 「いつからいたの?」 「悪いけど質問に答えていられる時間はない。率直に言う。君は明日死ぬ。」 『禁忌の子』は少女に死亡宣告をした。 「何で?」 「僕の羽に触れたからだ。」 「やっぱり君のだったんだ。」 「気づいていたのか。」 「うん。」 一拍間を置いて、「さようなら。」

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禁忌の子

部活(五話)

先輩にどうして構っているのかと聞かれた時に、私は答えればよかったのかな。先輩と小さい頃、一緒に本を読んでいた七星って。 私は先輩を何度か見たことがあって、本当は話したこともある。 先輩は覚えてなかったか。私だけが覚えているって、恥ずかしいなぁ。 昔の記憶が蘇る。 『ねえ、なんでいつも一人なの?』 『僕はさ、本が好きなんだ。読書って一人でやるものでしょ。』 『へえ、本、好きなんだ。ねえ、どんな本が好きなの?』 『フィクションだね。主に小説かな。』 『そっか。フィクションね。私も好きだよ、小説。』 『そうなんだ。』 『ねえ、一緒に読書会やろうよ。』 『いいよ、たまには面白そう。』先輩と図書館で会ってから何年経っただろうか。 私は先輩と読書会をすることで仲良くなっていった。先輩が中学校に行ったから。でも、先輩と一緒にいられたのはたったの数ヶ月だった。名前しか知らなくて、どこに住んでいるのかもわからないから付き合いは終わったと思っていた。 『かえ、じゃない、先輩、よろしくお願いします。苺谷七星(いちごたに ななせ)です。パートはフルートです。』 楓って呼びそうになったから、私は下を向いて赤くなった顔を隠していた。 楓と同じ学校になれたから読み友だけじゃなくて、もっと一緒にいたい。友達だってこと、楓は忘れてるから最初からやり直して、もう一回一緒に。

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部活(第四話)

〜〜♪〜♪〜 「先輩、今日はありがとうございました。」 「こちらこそ、付き合ってくれてありがとう。」 僕は二回しか会ったことの無い後輩と合奏した。後輩の音色は、どこまでも透き通る、素直で透明感のある音だった。 「君はフルートを担当してたんだね。苺谷ちゃん。」 「はい、なりたかったパートに入れたのでとっても嬉しかったです。」 「そうか。」 「先輩はなりたかったパートがあったから吹部に入ったんじゃないんですか?」 「確かにそうだよ。だけど熱が尽きたって言うのかな、僕はトランペットを構えた時、期待が消え失せたんだ。」 「え?なんでですか?」 「おかしいよね、自分でなりたいって言ったのにさ。僕はトランペットを吹くことを退屈に感じたんだ。」 「今は、どうです?」 「今は…楽しいよ。演奏すると退屈を忘れられる。以前の僕の逆になれる気がするんだ。」 「そうなんですね。てっきり楽器と縁を切ったのかと思っていました。」 「…あのさ、君はなぜ僕を気にかけてくれたんだ?」 「それは「それは?」秘密です。」 「秘密か、なら仕方ないね。」 「はい、なので言えません。」

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部活(三話)

「…先輩、突然変なこと言ってすみませんでした。もしかして、変なやつだって、思われちゃいましたかね?」 ためらいがちに謝ってきた。悪いのは僕なのに。 「………、あ、…」 何か言おうとしても、喉につかえてしまって声にならなかった。 「か、帰りますね、さようなら、先輩。」 僕に挨拶をして後輩は帰って行った。 僕は結局後輩に何も言えないまま家に帰った。 『僕は、そもそもあの子のことを何も知らないな。』そんなことを思いながら自分の行動を後悔している。 苺谷は自宅で『やばい、先輩に突然話しかけちゃった。おかしな奴って思われたかな。でも、先輩の音色綺麗だった。素朴な音だったな。』と思いながらベッドの上で膝を抱えてうずくまっていた。 『明日会えたら、謝ろう。』 学校が終わって、部活が後半に差し掛かった時、私は先輩に会いに行った。 ダダダダッ 私は急いで階段を駆け上がった。 先輩に会えるかもしれない。今日はちゃんと会って、謝って昨日ちゃんと言えなかったことを言わなくちゃ。 〜♪〜〜♪ああ、聞こえる、先輩の音色だ。昨日と同じ場所から聞こえる。 「先輩、ちょっといいですか。」 演奏が止まる。遅れて緊張してきた。 「昨日の、苺谷ちゃん。また会ったね。」 「先輩、一緒に演奏しませんか?先輩が部活に来ている姿を見たのは一回だけですけど、でも同じ部活の仲間じゃないですか。」 「仲間、か。悪くない響きだね。楽器、あるかい?」 楽器があるか、と聞いてもらえた。ということは、一緒に演奏してもらえる。私は、初めて先輩に私を見てもらえた気がした。

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部活(二話)

〜♪〜♪♪〜 最終下校時刻を知らせる音楽が流れ始めた。 『もうこんな時間か。』 集中すると、時間が過ぎる速さについていけなくなることを初めて知った。 慌てて鞄に楽譜を入れ、トランペットをケースに片付けた。いつもなら学校から帰る時は、肩の荷が降りたような感覚があったのに今日は違う。今日は、明日もまたトランペットを吹きたい。そう感じる。 散々何もせずに、ダラダラと部活の時間を学校の外で過ごして、時間を潰していた僕が、楽器を吹くことを楽しいと感じている。 今まで何もしていなかったから、僕の中で違和感が燻っている。でも、不思議と楽器を続けたいという気持ちの方が強い。 「先輩!」 え、気づかれた?すでに最終下校時刻を過ぎようとしているから、生徒は僕以外誰も校舎にいないと思っていたのに。 「あれ?君は、えっと。」 僕が滅多に部活に行かないので後輩の名前がわからなかった。 「苺谷です。先輩が部活に来なくなり始める前日に入部しました。」 わざわざそんなこと覚えるか?普通。 「先輩と一緒に部活やりたいです。先輩とは一度も一緒に演奏したことないのに、突然居なくなったから何かあったのかと思っていました。ずっと」 「…僕には今更部活のみんなに合わせる顔なんてない。悪いけど、帰ってくれ。」 悪いことを言ってしまった。苺谷、君は悪くない。君に気を遣わせていたのか。 僕は、部活で楽器をやろうとは思えない。あくまでもう一度トランペットと向き合おうと思っただけだ。

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