零 (0)
6 件の小説君の羽は。 下
俺の名前はハセル。 羽族の愛し子と呼ばれるほどの美しい羽を持って生まれた。 毎日贅沢な日が約束され、平和で幸せな日々を送っていた。 ある日、森を歩いていると穴のある木下に1人の少女を見つけた。 「ねえ、君は誰?」 その後少々の沈黙が訪れ、口を開いた。 「あなたは、私の羽をどう思うの?」 俺は静かに彼女の羽を見つめた。 「黒いね。」 「他になにかないの?」 「あるもないも、君の羽は黒い。それ以外でもそれ以上でもないだろう。」 彼女は目を見開き、 「私の名前はセルカ。羽族の忌み子。あなたと正反対よ。」 それ以来、暇があれば森に出向き、木の穴の中で談笑するような仲になった。 ある日行くと、セルカは泣いていた。 「私、今日汚い忌み子だと言われたわ。 …私思い上がっていたよかもしれない…。 うぅぅぅ…。」 俺は彼女のことなんてちっともわかっていやしなかったのだと知った。 泣きつかれた君にそっと囁いた。 「俺は君には言ってなかったけれど、俺は他人に羽を移し替えることが出来るんだ。けれど君は記憶を失う。それでもこの黄金の羽が欲しいか?」 君は寝言だったのかもしれないが、確かに小さな声でうん、と言った。 俺は震える手で刃を手に取った。 そして俺の翼を切った。 君に移し替えたあと、俺は思った。 (君は多分俺のことも忘れるだろう。そしてこの辛かった15年の記憶も忘れるだろう。 次会うときは、君は他人だね。) 最後の別れの為に君の頬にキスをした。 俺の涙は聖なる力があるらしいが、もう翼のない俺はただの人間だった。 村人達の記憶も書き換えた。 君を女神だと慕った毎日に。 俺のことは羽のない劣等種だと覚えさせた。 君をより褒めてくれるように。 けれど、長老だけは書き換えなかった。 この事実を伝えた。 彼は涙していた。 俺を劣等種として地上へ落とすように言った。 誰も興味を持たないように。 長老は許可を出してくれた。 俺の為に。セルカの為に。 彼は心して許可を出してくれた。 そして時が来たらセルカに伝えるように言った。何故かは分からないが、思い出して欲しかった。 俺は今日地上にいる。 君の身代わりの劣等種として。 計画通り君は俺に赤の他人のように接してくれた。そして君は俺に翼を移し変えようかと言ってくれた。 俺はこの能力さえも移し替えてしまったらしい。この時俺は君に失せろ、と言った。 俺の努力と痛みが無駄にならないように。 俺の悲しみが無駄にならないように。 そして君が元の忌み子に戻らないように。 君が傷つかない為に。 そう、言った。 君と別れたあと、俺はどこか遠くで死のうかと思った。君と会うと、情が湧いてしまうから。君に会うと、離れなれないから。 けれど君の声が聞こえた時、俺は振り向いた。そこには全てを知った君が美しい笑みで立っていたから。
君の羽は。 上
ここ、天界には羽族がいる。 彼らは羽を持って生まれ、美しい羽を持つものほど重宝される。 少女、セルカは黄金の羽を持っていて、皆から重宝されていた。 しかし、彼女は羽のない少年、ハセルが好きであり、皆からあまり会わないでくれと言われていた。 しかしそんなある日突如彼女はハセルに言った。 「ねえ、ハセル。私ね、人に羽を移す能力を持っているの。」 「は、、、?」 「それでね、、あなたが望むのであれば私はあなたにこの羽を渡したいの。」 セルカは絶対この条件を呑んでくれると思っていた。 あなたに似合う羽は何色?、あなたにこの黄金の羽は似合うのかしら? そう毎日考えていた彼女は言えたことにとても感情が高ぶっていた。 しかし、彼女がハセルから聞いた答えは想像もつかないものだった。 「もう、俺に関わらないでくれないか。 今すぐ、、失せろ。」 そう聞いた時、地獄のそこに突き落とされたような感覚がした。 何が彼を怒らせたのか、何がいけなかったのか。 そんな感情が彼女の中で渦巻いた。 「じゃあな、セルカ。もう俺の前に姿を見せないでくれ。」 「ちょっと、待っ、ねぇってば!」 彼女が叫んだ時、ハセルはもう既に居なくなっていた。 この日からセルカは部屋に閉じこもり、姿を見せなくなった。 人々は心配に思い、毎日果物や食べ物を持ってきた。 そんなある日、羽族の長である長老こと セーベルが訪ねてきた。 突き返そうとしたが、彼の言った言葉が気になった。 「お前は、ハセルについて知りたいのではないのか?」 「ええ。長老は何か知っているのですか。」 「中に入れてから聞かせてやろう。」 そう言われ渋々中に入れ、話を聞いた時彼女は衝撃の事実を知り、悲しむことになった。
金木犀 :キンモクセイ:
私は金木犀の匂いが好き。 甘くて、かわいらしくて、彼氏も好きって言ってたから。 でも本当は、椿みたいな紅くて、気高さを感じられる花が好きだった。 いつから変わってしまったんだろう。 昔は、もっと明るくて、可憐さなんか気にしなくて、意見をもっとハキハキしていた。 金木犀の甘い匂いに惑わされた私に価値はあるのだろうか。
鎖の中
鎖に縛られている私を見て、 ある人は可哀想に、 ある人は大丈夫?と、 ある人は見向きもしない。 けれど共通点は助けてはくれないこと。 私はここにいるわ、 ここから出して。 そう、喉が裂けそうな程に 叫んでいるのに 助けてくれはしないのは なぜなの? 私が忌み子だから? 私には計り知れない呪いがついているから? けれどあなたはこんな私を初めて見つけてくれた。 呪いにまみれた私からあなたへ祝福のキスを そう願いたいのに、 触れることすら出来なくて。 神様 これは何に対しての罰なのですか 私はこの鎖から解き放たれたいだけなのに。 ならば、この私があなたを、神を、呪って差し上げるわ。 この罰は… 私を鎖から解放してくれなかった罰よ。 呪った最後にあの人に触れたい、話したい、 見て欲しい、愛して欲しい。 そう死にたいな。 そう、今日も妄想している私をこの鎖から解放してくれる人はいない。 “あの人”なんて初めからいないのだから。
ローズパッションティー
美しい景色の見える屋上で、1人、ティータイムをする。 この景色と甘いお菓子やスコーンの相性がすごく良くて、癖になってきている。 のどごしのいい紅茶で甘いスコーンを胃に流し込み、食べては流し込む、という作業を繰り返す。 すずっ、とカップの紅茶をすすり、ガラスのテーブルに置く。 景色を眺めると、雀が柵に止まっていた。 ぴよぴよと鳴く雀に手を伸ばすと、大きな音を立てて、飛んでいってしまった。 横に置いてあった文庫本を手に取り、 パラパラっとページを適当にめくる。 特に読みたい場面もないなと思い、本を閉じる。 することも無く、席をガタッと立つ。 屋上の扉を開けて、室内へと戻る。 屋上には、扉の閉じたギギィという虚しい音が響いていた。
夜明け
それは朝日が眩しく部屋に差し込む月曜日だった。君はその日学校へ来なかった。なぜか担任に聞くと事故にあっていたらしい。 信じられなくて君の病院の病室へ駆け込むと、君は静かに眠っていた。決して死んでいた訳では無い、━━━━━━が、君の横顔は今日の朝日のように美しかった。 何時間か君の横で眠っていたのだろうか。 目を覚ましたときに目に映りこんだのは君の微笑んだ顔だった。 君は私の名前を静かに儚く読んでくれた。 「朝陽」、と。 私は、涙を流して喜んだ。死んでいなかった、いつもの君だ。 それから1週間程入院した君と私は一緒に歩いていた。 久しぶりに外へ出た君は、いい空気だね、と、明るい声で言った。 それからたわいない会話をしながら家へ向かった。 明るく美しい君と同じ名の「夕陽」の下を。