【BL】光を知らない君へ 第一話
鷹城高等学校二年の柊野朔真は友達がいなかった。
高校に上がっても基本は一人で静かに授業を受け、弁当を食べ、帰るという生活が続くことに特に何も感じていなかった。
ただ、クラスメイトに徒矢圭がいることだけは気に食わなかった。
「また徒矢が先生殴ったって」
近くでクラスメイトが噂話をしているのを、柊野は読書しながら聞き耳立てていた。
クラスどころか学校全体で問題児扱いされている徒矢は素行が悪く、教師や生徒を殴ることもしばしば。
そんな非人道的な徒矢がいるだけで、柊野のクラスは周りから敵視の対象となり痛い視線を浴びることが多く、柊野はそれが苦痛だった。
その日は何事もなく一日の授業を終え、柊野は一人で帰路についていた。
その時、後ろから「おい」と声をかけられた。振り返ると別の学校の制服を着た男が三人いた。
「鷹城高か?」
三人のうち一人が柊野に聞いてきた。なぜ出身校を聞かれたのか分からないが、頷いた。
「はい」
「徒矢圭って知らねぇか」
答えるや否や、自分の嫌いな人間の名前が出てきて柊野は驚く。
「知りません」
「嘘つくなよ。家とか、いま学校にいるかどうかくらい分かんねぇのか」
「今日は一回も見かけてません」
「ああ?」
柊野はただの事実を言っただけだが、そのせいで男たちを逆立ててしまったようで一斉に睨まれる。
「こっちは知ってんだよ、お前が徒矢と同じクラスだって」
何のツテかは分からないが徒矢と同じクラスと知って狙って声をかけたらしい。
喧嘩の因縁なんかも理解できないが、そこまでする理由も柊野には理解できなかった。
さすがに面倒になってきて、柊野は走って逃げようとした。だがすぐに捕まり建物の陰に引きずり込まれる。
「やめてください……!っ、やめろ……!」
全く抵抗できない柊野は早々に一発殴られた。
「はははっ!あいつがいるクラスの野郎だからちょっと期待したけど全然だな!」
柊野が倒れて動けなくなったところを、三人が寄ってたかって蹴った。
柊野の意識が飛びかけた時、突然「ぐはっ」と一人が殴られた。
「テメーらか」
現れたのは徒矢だった。
「ラッキー。実はお前んとこの奴と遊んでたんだわ。同じクラスなのにお前のこと知らないって言うからさ……」
言葉を遮って徒矢は素早く殴り倒した。横から来たもう一人には膝を向け、勢い余って腹に膝が突き刺さるようにした。
「がはっ……」
「うっ……」
三人は勝ち目が無いと思ったのか、そそくさと逃げていった。
やっと逃げたかと徒矢はため息をつき、柊野の方を見た。
「っ……あ……ありがとう……」
一応助けてもらったので柊野は立ち上がり頭を下げた。
徒矢は特に何も言わず、急に近づいてくる。そして柊野の頬に手を添えた。
「はっ……な……」
柊野は困惑する。徒矢の手が思いのほか綺麗で、殴られたところを見るためとはいえ優しく触られたのが意外だった。
「腫れてんな。湿布貼るから来い」
徒矢は言って陰から出ていこうとする。
「え……?」
柊野がぽかんとしていると、徒矢はまた「来い」と振り向いて言った。
手当てをしようとしてくれているらしいが、果たしてこれが本当に噂の問題児なのか疑いたくなる。
なんとなく好奇心が勝ってしまった柊野は徒矢に着いていくことにした。