古崎夢叶

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古崎夢叶

第一話 夢

「う・・・」 私は、太陽の柔らかい日差しで目を覚ます。 少し前に、お母様がこっそり部屋に侵入し、カーテンを開けたのだろう。 「・・・」 朝は強い方だが、今朝は何故か体がだるい・・・。見た夢が原因だろう。 「はぁ・・・」 あの夢は何なのだろう?二人の魔族が会話している夢、二人の魔族が背中合せに戦っている夢、嫌にリアルな夢に私は困惑する。 二人の名前は“クロウ”と“エナン”。 エナンと言う名の魔族は、レノリア王国の“レノリア史”に出てくるのだが・・・。 「あっ!!マズい!」 急に思い出した。今日は、レノリア王国の首都である、ガレノ・イーリスで“高等魔導兵育成学園”(アカデミー)へ、入学試験を受けに行く日だった。 「部屋に入ったんなら起こしてくれても・・・」 慌てて立ち上がり、ブロンドの長い髪を後頭部で結い、急いで着替えて部屋から出る。 そしてそのまま一階へ降り、降りてすぐの扉を開いてダイニングへ入った。 「おはようございますお母様!」 「やっと降りてきたわね?ジーナ・・・あら?」 私に気づいたお母様は、じっと私を見つめる・・・。あ・・・来る。 「そのお洋服で王都へ?」 「お母様・・・」 思った通りの言葉を、私に投げかけてくる。それもそのはず、へそ出しのシャツにダボダボした、ズボンを履いているからである。 「貴女は、伯爵家の人間ですよ?はしたないにも程がありますわ!」 「それは十分に承知しております・・・しかし・・・」 「しかし?」 「ご用意して頂いたお洋服では動きにくく・・・」 「百歩譲ってそうだとしても、はしたないですわ!」 「・・・」 ぐうの音も出ず、どうしたものかと考えていると、後ろからお父様の気配を感じた。 「やあジーナ!おはよう!」 「おはようございます!お父様!」 「うん、準備は良いのかい?」 「それが・・・」 私の声色と姿を見て、お父様は納得した様な顔をする。 「ははぁ・・・またジーナの服の事で揉めているのかい?」 「あなた・・・」 お母様は、お父様に頭が上がらない。 「入学試験は、知力試験はもちろんの事、戦闘試験もある・・・ジーナが体術を得意としている事は、ミリーナも知っているだろう?」 「は、はい・・・」 「ジーナの服がはしたないのなら、上からローブを羽織れば良いと思うけど?」 「そ、そうですわね・・・」 お母様を黙らせれるのは、多分家族の中でお父様だけだろう。 「さて、食事にしようか?」 ダイニングはかなり広い。横長の大きいテーブルの上には、もう料理が並べられていた。 「はい!」 私は返事して、いつもの椅子に座り、食事を始めた。 食事を終え、食後の珈琲を啜りながら、「ふぅ」と息を吐いた。 「おっと!もうこんな時間か!?」 お父様の声に、私は窓の外を見た。もう迎えの馬車が来ていた。 「ご馳走様でした!」 急いで立ち上がり、外に出ようとする。 「ジーナ!」 「は、はい!」 お父様が私を呼び止める。 「これを持って行きなさい」 お父様が懐から、お金の詰まった小さな袋を取り出し、私に差し出す。 「お父様・・・お金はこんなに・・・」 「必要ない?」 「はい」 「ふふ・・・念の為に持ってなさい」 「は、はい!」 「あ!それともう一つ・・・マリアにこれを渡して欲しくてね」 そう言ってお父様は、懐から黒い封筒を取り出し、私に差し出す。 マリアとは、私よりも一年早く学園に行った、姉の事である。 「はい!会えない場合は?」 「いや、必ず会えるよ」 「はい」 何を根拠に、会えると言っているのかは分からないが、受け取った封筒を懐に仕舞った。 「試験の結果は、数日中にわかる・・・戻って来るのも面倒だろうし、王都に泊まりなさい」 「泊まるのは良いのですが・・・荷物が・・・」 「荷物なら、ミリーナに纏めてもらって、そちらに郵送するから大丈夫じゃないかな?」 「えぇ!送りますわ!」 「はい!分かりました!行って参ります!」 「うん、気を付けて行っておいで!」 「はい!」 私は返事して、お父様とお母様に頭を下げ、外へ出ていった。 「ジーナ様、準備の方は?」 馬車の前で、馬車の立っていた知った初老の男性が聞いてきた。 「良いよ!じい、お願いね?」 「畏まりました」 じいと呼んだ男性が、頭を下げて、馬車の扉を開ける。 私がそのまま馬車に乗り込むと、その後にじいが続き中へ入り、扉を慣れた手つきで閉める。 そして、私に向かい合う様に座り、後ろの窓を「ココン」と叩く。 多分、馭者に「出ろ」と言う合図を出したのだろう。 馬車は、ゆっくりと動き出す。 「ふぅ・・・」 ため息をつき、靴を脱いで横を向き、両足を座席に置いて膝を抱えるように座る。 「ふふ」 「何よじい?」 「失礼致しました・・・昔からその座り方がお変わりない様なので・・・つい」 「この座り方が一番落ち着くのよ」 「そうでしたか・・・横に誰が座ろうと、頑として辞めようとなさいませんでしたね」 「懐かしいわね、お母様にはこっぴどく叱られたわ」 お母様には、“伯爵家の人間の座り方じゃありませんわ!”とよく叱られたものだ。 「じい、王都にはどれくらいで着く予定なの?」 「一時間弱・・・でしょうか?」 「一時間・・・“空駆け”した方が早いわね」 「ふふ・・・バレたらライザス様に叱られますよ?」 ライザスとは、私の父親で、“空駆け”と言うのは、“空を飛ぶ”のでは無く、空中に漂っている“魔素(マナ)”を蹴り、駆けるように空中を移動する事を“空駆け”と言う。 「私は良いと思うのですがね・・・」 「うん・・・」 まぁ、色々あるのだ。 「じい、少し寝るわ」 「畏まりました、王都に着く前に起こしましょうか?」 「お願いするわ!」 「畏まりました」 「うん」 私はそのまま瞳を閉じた。 ゆっくりと微睡み、眠りに落ちていった。 「き・・・ろ」 誰かが何か言ってる・・・ 「お・・・!・・・きろ!」 「あ・・・」 「おい!起きろ!」 途端に目を開ける。見覚えのある男が覗き込んでいた。 「エ・・・ナン?」 「あぁ!しっかりしろ!」 「どれぐらい経った?」 「二十秒程だ」 「敵は?」 「まだ五十は居る」 「ここは?」 「近くの洞窟・・・多分囲まれてる」 「そうか・・・」 「あぁ・・・立てるか?」 「ああ!」 俺は立ち上がる。 「どうする?袋のネズミだぞ?」 「二人で出て突破口を開く」 「ふっ・・・お前らしい」 「五月蝿いなぁ・・・他に思いつかん」 「まぁそうするしか無いだろうな」 「あぁ・・・背中は任せたぞ?」 「勿論」 そうエナンが叫んだと同時に、二人で洞窟の外へ出た。 「さま・・・」 「う・・・」 「ナさま・・・」 「う・・・ん?」 「ジーナ様!」 「はっ!」 じいの声で、私は飛び上がるように目を覚ました。 「もう着くの?」 「はい、間もなく」 「そう・・・ありがとう」 「いえいえ・・・」 靴を履いて座り直すと、じいが心配するような目で私を見る。 「じい、私の顔になんか付いてる?」 「あ、いえ・・・魘されていたようでしたので・・・」 「あぁ・・・心配してくれてありがとう・・・大丈夫よ」 「そうですか・・・」 じいは心配そうな顔をして、窓の外を見る。私もつられて外を見た。 もう、首都ガレノ・イーリスに入っていた。 「二年ぶりかな・・・」 「あぁ・・・そうでしたね」 「去年行く予定だったのに、私が熱出したもんだから・・・」 「そうですね・・・私も看病させて頂きました」 「え!?そうなの?」 「はい・・・流石に着替えなどはメイド達がやっておりましたが・・・」 「あーびっくりした!体見られたのかと思ったわ」 「まさかまさか・・・」 「よね」 「はい」 そんな話をしていると、アカデミーの近くまで来ていた。 「じゃあ、じい!この辺で!」 「畏まりました」 じいが後ろの窓を「コン!」と叩くと、馬車がゆっくり止まった。 「帰りはどうなさいます?」 「二、三日こっちに泊まるわ」 「左様でございますか・・・承りました」 馬車が止まり、じいが先に馬車の扉を開けて出、私の手を取って外へエスコートする。 「ありがとう・・・行ってきます!」 「行ってらっしゃいませ、ジーナ様」 じいは、そう言って頭をさげ、少ししてから頭をあげる。 「うん!」 返事して、その場を後にした。

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プロローグ

「・・・」 荒れ果てた大地を、小高い丘から眺める男がいた。 「酷い有様だ」 男はぽつりと独り言を言う。その声は悲み、悔しさが滲み出ていた。 どれくらいの時間が経っただろう?その男の後ろに、音もなく、銀色の長い髪の男が現れた。 「懐かしい気配だな…エナンか?」 後ろの男に、前に立つ男が言う。 「あぁ・・・久しいな」 「最後に一緒に戦って以来か?」 エナンと呼ばれた青黒い肌の男は、ゆっくりとした足取りで歩き、彼の横に並んで立つ。 「そうだな、クロウ」 エナンは、横にいる男をクロウと呼び、横目で彼を見る。クロウもまた、青黒い肌をした男だった。 「ったく・・・非道い有様だな」 不意に、クロウが口を開いた。 「あぁ・・・奴らがクーデターを起こしたせいだな」 エナンは、眉間に皺を寄せながら言う。 「奴らがクーデターを起こしてから、緑の大地がこんなにも荒れてしまうとはな・・・」 「あぁ・・・莫大な魔力を使ったせいで、こんなことに・・・」 「元に戻るのにどれくらい時間掛かると思ってんだ?奴らは?」 クロウは、地べたに腰を下ろし、溜息混じりの言葉を吐く。 「・・・」 エナンは何も返す言葉が無く、しばし黙り込む。 「クロウ・・・」 「何だ?」 「奴らとの決着を付けに行こうと思ってる」 「そうか・・・」 「急で悪いが・・・もう一度、力を借して欲しい!」 「・・・」 エナンの言葉に、クロウは黙り込む。 「悪いが、力は借せない」 「何故!?」 「疲れたのさ・・・」 「疲れた?」 「あぁ」 クロウはゆっくりと立ち上がり、エナンに体を向けて向かい合う。 「お前らしくない・・・いつから卑屈になったんだ?」 「さて?何時からだろうな?」 お互い、苦笑いしながら会話を続ける。 「俺もお前も、失った物がデカすぎる」 「あぁ、クロウは父親・・・私は妻・・・」 エナンは、途中で口を噤む。クロウから、それ以上言うなと言う圧力を感じたからだろう。 「エナン、お前に渡したい物がある」 「渡したい?」 「あぁ」 クロウはそう言うと懐から、金銀で装飾された黒い玉の首飾りを取り出す。 「おま!!それは・・・!」 「シッ!」 クロウは右手の人差し指を、自分の口元へ持って行き指を唇と交差するように当てて、彼を黙らせる。 「こんな大事な物・・・受け取れるわけ・・・」 「良いから!」 「ッ!何故これを私に?」 「これを見せたら分かると思う」 クロウは、指を“パチン”と鳴らす・・・すると、小高い丘の真ん中に巨大な魔法陣が現れた。 「お・・・お前!“転生”する気かッ!?」 「あぁ、闘いに疲れてな・・・争いの無い世界に生まれ変わりたいんだ」 クロウはもう一度、エナンに首飾りを差し出した。 「形見の様で・・・」 「形見?ちげーよ!」 首飾りを受け取ったエナンに、クロウは笑って言う。 「俺がどんな姿に生まれ変わっても、その首飾りが発する魔力を頼りにお前の元に辿り着く為の“目印”だよ」 「なるほど・・・」 的を得た様な表情で、エナンは呟いた。 「決着は、俺が居なくてもお前なら大丈夫・・・お前は強い!」 「クロウがそう言うなら、そうなんだろうな・・・」 「あぁ、俺が保証する!」 クロウは微笑んで、ゆっくり魔法陣に向かって歩き出す。 「クロウ!戦友よ!闘いの無い世界で会おう!」 「あぁ!」 クロウは、後ろ手で手を振りながら、魔法陣の中に姿を消した。

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