寝た倉庫

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寝た倉庫

中身X@_pcx_xoq_ 人気あったらシナリオ化するかも

煙突がない家

しんしんと降り積もる雪は、太陽の光も月の光もないと案外輝かないものらしい。窓が曇っているだけかもしれないが。バチバチとなる暖炉に身を寄せながら私はただただ何かを眺めていた。生憎私には趣味がない。するべき事を済ませて、窓の外を眺める。たまに鳥が通るから見ていて飽きないのだ。少し前までこの光景を猫と一緒に外を眺めていた。猫というとのは気まぐれな性格をしているのだから、私が知らないだけで寝ていたのかもしれないが、彼が与えてくれていた温もりは確かに私の隣にあった。だが猫というものは死期を悟るといなくなる。彼は元々野良猫だったために本能がそうしたのだろう。気が付けば、私の手元には彼が気に入って座っていた私のブランケットしか残っていない。火が弱くなってきた。もう少し牧を焚べるために、重い腰をあげてぽいぽいと数本放り投げた。もう少しだろう。

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足跡に存在した僕の家

朝、木曜日。今日の朝ごはんはちょっとだけ豪華。トーストの上に目玉焼きとチーズを乗っけたのだ。一応ニュースを見ているが、溶け切っていないチーズを落とさないように気をつけているため、内容は全くと言っていいほど入ってこない。当然である。 時刻は七時丁度になった。これを合図にまた新しいニュース番組が始まる。 「おはようございます。本日はxx月xx日木曜日。スタジオはすっかり晴れているので洗濯は今日がチャンスでしょう」 半分だけ髪を括ったアナウンサーがそんな挨拶をするので外の様子を見てみたが、生憎の曇りだ。それはそう。ここは都市部とは離れているのだから、天気が一致するなんて梅雨の時ぐらいだ。 「昨日のニュースといえば、とうとうxxが裏月調査を開始したことですよね〜」 サク、サク、と僕がトーストを齧る音とテレビから流れる音声しかこの空間を満たすものはない。 「こちらが昨日xxが公開した月の裏側の様子です」 スタジオにいる、どこの大学の教授かも知らない禿げたおじさんが真っ暗ですね〜、なんてコメントをする。中身無さすぎるだろ、今日呼ばれてんだから天体系の研究をしてろよ、なんでこいつはここにいるんだ。 宇宙飛行士が遅くではあるが、確実に一歩一歩進んでいる様子が流れている。やめてくれ。 「暗くはありますが、月の表面と似ていますね。xxは本日も月の裏側の調査を進めていくそうです。どんな発見があるのか、楽しみですね」 この言葉を合図にこれまでどんな宇宙に関しての研究が行われてきたのかの説明が始まった。嫌になって別のニュースに切り替えたが、そのニュースも裏月の仮説を話していた。この歳にもなって、と思ったが時計が見れなくなるのは辛いので、仕方がなく子ども向けの番組にした。 昔、それこそ幼稚園にも入っていない頃の話。僕は月の裏側に住んでいた、と思う。記憶は朧気である。それが日常であると信じていたし、人生というものは繰り返されているもので、わざわざ記憶力を割く必要がない、と無意識に判断していたのだから。 月の裏側はなんでも小さくしたがる。ミクロどころの話ではない、生物の教科書で使用されるよく分からないうにゃうにゃした細胞を見るのに使う、電子顕微鏡でようやく見えるだろうと思えるぐらい小さいのだ。じゃあなんで僕はちゃんと人間サイズで育っているのか、という疑問を持つ人も少なくは無いだろうが、それは僕にも分からない。だって気がついたらここにいたのだから説明のしようがないのだ。 でも確かにそこには僕の両親がいて、よく食べ物を分けてくれていたお隣さんがいた。お向かいには可愛い幼馴染がいて、よく遊んでくれる従兄弟がいた。ちゃんと覚えてる。だから、恐怖を覚えるのだ。あの宇宙飛行士が踏み締めた大地はどれ程の生物がいたのだろうか、その中に自分が認知している人は含まれているのだろうか。僕が住んでいた家は無事なんだろうか。様々な疑問が脳内をどんどん支配していく。 七時半。小学生の頃よく聞いたアニメのオープニングが流れ始めた。手には耳を失った状態のパンが半分残っていた。ほんの数年前まではこの音楽が流れ始めたら、お母さんに早くご飯食べないと遅刻するよ、なんて言われていたっけ。残ったトーストを無理やり口に押し込んで麦茶で流し込んだ。最悪とは言えないものの、好んで食べる人は少ない、そんな食い合わせ。口の周りにパンのクズが付いていないか、鏡に顔を向けた。ついでに寝癖の存在を確認したが、何とかセットだと言い訳できそうなので放っておいた。財布とスマホを適当にカバンに突っ込んで家のドアを開けた。 あー学校行きたくねー

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鏡が作る沼

午後六時。春分を超えてない今の時期、視覚だけではもう深夜と違いをあげられないものの、聴覚が街のざわめきを拾い上げることで、まだ夜は始まったばかりなのだと知らせてくれる。 片手には先程買ったばかりのカップラーメンが、カラカラと袋の中で鳴っている。自宅へ帰るために右へ曲がった。何の変哲もないただの曲がり角だ。少し、十数メートルを歩いてまた右へ曲がる。ここは見通しが悪いからカーブミラーがひっそりと立っている。カーブミラーは丁度周りの家から漏れ出る光を受け、少し大きいまん丸の影を作っていた。その影が何となく水面のように見えた。 幼い子どもがカメラを向けられ、 「どうして海は青いのかな?」 という大人の問いかけに、恥ずかしながら、それでも練習してきたのだろうか、言葉を噛み砕くように口を動かした。 「お空が、きれいだから、海さんも、まねっこしたの」 これを聞いた私はもう月の兎を信じたり、サンタクロースを信じたりするような年頃でもなかった。それでもなるほど、と納得した自分がいた。 だから、きっとこの影もいや、水面も空が羨ましく思ったはずだ。だから水面はキラキラと光る星空を水面いっぱいに映し出しているのだ。肉眼では見にくいだけで、この空には満点の星空が広がっていることを私は知っている。羨ましく思った。美しいと思った。だから私は一歩踏み出した、影に向かって。 ずぷり、黒い水が私の足を囲った。そう思えば、私の体は買ったばかりのカップラーメンを置いてけぼりにして、一瞬で水面に落ちていった。水中には宇宙が広がっていた。体は止まったように浮かんでいる、重力を感じないのなら、ここは宇宙なのかもしれない。上を見ても左右を見比べても、下を見ても星だったものが浮かんでいる。星は宇宙のゴミだと誰かが言っていた。私はそれを信じていなかったが、信じざるを得なかった。私は落胆した。

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