寝た倉庫

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寝た倉庫

中身X@_pcx_xoq_ 人気あったらシナリオ化するかも

鏡が作る沼

午後六時。春分を超えてない今の時期、視覚だけではもう深夜と違いをあげられないものの、聴覚が街のざわめきを拾い上げることで、まだ夜は始まったばかりなのだと知らせてくれる。 片手には先程買ったばかりのカップラーメンが、カラカラと袋の中で鳴っている。自宅へ帰るために右へ曲がった。何の変哲もないただの曲がり角だ。少し、十数メートルを歩いてまた右へ曲がる。ここは見通しが悪いからカーブミラーがひっそりと立っている。カーブミラーは丁度周りの家から漏れ出る光を受け、少し大きいまん丸の影を作っていた。その影が何となく水面のように見えた。 幼い子どもがカメラを向けられ、 「どうして海は青いのかな?」 という大人の問いかけに、恥ずかしながら、それでも練習してきたのだろうか、言葉を噛み砕くように口を動かした。 「お空が、きれいだから、海さんも、まねっこしたの」 これを聞いた私はもう月の兎を信じたり、サンタクロースを信じたりするような年頃でもなかった。それでもなるほど、と納得した自分がいた。 だから、きっとこの影もいや、水面も空が羨ましく思ったはずだ。だから水面はキラキラと光る星空を水面いっぱいに映し出しているのだ。肉眼では見にくいだけで、この空には満点の星空が広がっていることを私は知っている。羨ましく思った。美しいと思った。だから私は一歩踏み出した、影に向かって。 ずぷり、黒い水が私の足を囲った。そう思えば、私の体は買ったばかりのカップラーメンを置いてけぼりにして、一瞬で水面に落ちていった。水中には宇宙が広がっていた。体は止まったように浮かんでいる、重力を感じないのなら、ここは宇宙なのかもしれない。上を見ても左右を見比べても、下を見ても星だったものが浮かんでいる。星は宇宙のゴミだと誰かが言っていた。私はそれを信じていなかったが、信じざるを得なかった。私は落胆した。

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