TsuNa銀
27 件の小説TsuNa銀
おじさんです。猫3匹飼っています。私の文章に貴重なお時間を使っていただきありがとうございます。ついでに誤字、脱字のご指摘と共に感想なんかもいただけたら嬉しくて逆立ちしそうになりそうになります。
物干し竿を人生に結びつけてみた
人は常に自分の目線から物事を見ている。 例えば『物干し竿』のネーミングセンスについてもそれが分かる。 人が物を干す竿だから『物干し竿』 物を干すだけのために人間が作った竿。人間のエゴの集大成である。 竿の目線から考えた場合、それは 『物干され竿』 別に物を干したくもないのに洗濯物をかけられて、日光に晒される。 来る日も来る日も、竿はあらゆる洗濯物を、干される。 もちろん中にはやる気のある竿もいるかもしれない。 「私に干してください!」 「いや、私が干します!」 「シーツならお任せください!」 「物干し竿に生まれたからには当然干します!」 コイツらは『物干したい竿』だ。 その横で 「よくあんなに干せるよな。」 「こんなに暑いのによくやるよ。」 と、思っている竿もいるかもしれない。 『傘立て』も同じだ。 傘なんか立てたくない傘立てがいたらその傘立ては『傘立てられ』だ。 突っ張りたくない『突っ張り棒』は『突っ張られ棒』だし、敷かれたくない『鍋敷き』は 『鍋敷かされ』だし、蒸されたくない『茶碗蒸し』は『茶碗蒸され』だ。 全部が全部突っ張りたい、鍋敷きたい、茶碗蒸されたいと思っていると思ったら大間違いだ。 さて、その考えを踏まえて 『労働者』 どうだろうか? あなたは『労働されられ者』か、『労働したい者』かどっちだろう? 『学生』 あなたは『学ばされ生徒』か、『学びたい生徒』かどっちだろう? 『物干し竿』は物を干す以外にも何かしら用途はあるだろう。 『労働者』や『学生』も用途は多岐に渡る。 働くだけではない。 学ぶだけではない。 『人生』 人の生き様。 人として生きる。 人として生かされている。 人として生きていかなければならない。 人に誇れる生き方をしなければならない。 人に誇れる生き方をしなくてもいい。 『人として生きていればいい。』 物干し竿は物干し竿なりに毎日を過ごしている。 私も私なりにこんなくだらない事を考えながら毎日を過ごしている。 あなたもあなたなりに毎日を過ごしていればそれでいいんじゃない?
待つことが好きになるかもしれない考察
私は『待つ』という行為が苦痛だ。 飲食店やテーマパークのアトラクションの行列に並ぶ人達はなぜ長時間並んでいるのだろうか。 あるジェットコースターに乗るのに二時間、三時間待つ。 ジェットコースターは数分で終わる。 その数分のために二時間、三時間。 分からない。 分からないから考えてみる。 こんにちは。 私は三分で終わるジェットコースターが好きで絶対に乗りたくてこれから三時間待ちの行列に並ぶ人です。 待ち時間、三時間。 今から並ぶと私がジェットコースターから降りるまで三時間三分。 つまり、私は今ジェットコースターに乗った。 私のジェットコースターはもうスタートしている。 知らないのか? ジェットコースターの始まりはゆっくり進むのだ。 低い所から高い所にゆっくり登り、一気に落とされる。猛スピードで。 最初はほぼ動かない。 少し動いたと思ったらすぐ止まる。 焦らしてくれるぜジェットコースター。 たまらねぇぜ! 早く高い所から落ちてぇー! 前に並んでいる人達の雑談が聞こえる。 「全然進まないねー」 「そうだねー」 ふっ笑 君達はまだそこにいるんだね。 ジェットコースター初心者かな? 私くらいのベテランのジェットコーストメンになれば君達の雑談すらジェットコースティングの一部なんだよ? 分かるかい?この醍醐味が? 並んでいる間に何が起こるか分からないこの気持ちの昂ぶり。 ただ待つだけなら苦痛だろうね。 だが私のような一流のジェットコーストライダーはその間にいろいろなことを想定して並ぶ。 もしかしたら順番を割り込みする人が現れるかもしれない。 私は注意出来るだろうか? 注意したら喧嘩に発展しないだろうか? 途中でトイレに行きたくなったらどうする? 一人で並んでいたら列を離れることなどできるはずもない。 我慢して並んで漏れたらどうする? 漏らしたまま乗るのが正解か? 並んでいる間になんらかのトラブルで急にジェットコースターが動かなくなったら? 誰が悪いわけでもないのに係員の人は責められるんだろうな。 「トラブルにつき本日の運行は中止とさせていただきます。」 目の前で言われてみたい言葉第一位だ。 もう少しで乗れるぞ!と、気分が高揚している時にそんなことを言われたらもう気分はジェットコースターの如く奈落に落ちるだろう。 考えただけでゾクゾクする。 あぁ……そもそもこの無事に乗れるかどうか分からないのに三時間も同じ場所に拘束されるという不条理な行為。 それを乗り越えてジェットコースターに乗り込み、高い所から落ちる。 「キャー!」 「こわーい!」 いや、そういう乗り物なんよ。 それを求めて君達は三時間並んだんだろ? 私の隣人を見ると目を閉じて下を向いている。 君は何を求めて三時間も並んでいたんだい? 君が三時間かけて見たかった景色は暗闇か? そして降りて解放される。 アッという間の三分間。 最高の気分だ。 そして私は友人にこう言うんだ。 「ジェットコースターに乗るのに三時間待ったよー」 私はこのジェットコースターに三時間という対価を払いましたよという報告。 このジェットコースターにはそのくらいの価値があるよという報告。 「どうだった?」 と聞かれて 「楽しかったよー」 と返事をする。 何がどう楽しかったのか具体的には言わない。 そもそもジェットコースターなんて大体高い所から早いスピードでアップダウンをしながら走り抜けるモノなのだ。 もっと言うとジェットコースターが好きというか、長い時間をかけて有名なジェットコースターに乗ったという事実を持つ自分が好きなのだ。 もっともっと言うと待つために乗るのだ。 三時間待つために三分乗ったのだ。 あー!ジェットコースター最高ー! 絶対違うんだろうな………
期待をしなければ裏切られないけど誰も信じないのは辛い
「信じてたのに!」 という言葉で始まる小説。 若しくは会話。演劇。なんでもいい。 誰もが「この人は裏切られたんだな」という印象を受けてから「どのように裏切られたんだろう?」または「なぜ裏切られたんだろう?」と思いながら読み進めるだろう。 例えば親友が自分の彼女と浮気をしていた。 そこで親友に対して出てくる 「信じてたのに!」 例えば会社員。 信頼していた部下がライバル企業のスパイだった。 そこで部下に対する 「信じてたのに!」 この「!」には怒り、憤りの感情が表現されている。 「すまない!」 「信じてたのに……」 と、「!」ではない場合もある。 この場合の「……」は悲しみだろうか。 驚きや怒りを通り越した悲しみ。 信じるという行為は良い行為とされているが本当にそうだろうか? 誰かを信じるということは、その誰かに責任を負わせているということではないか? つまり、『自分の責任を誰かに渡している』ということである。 相手に刃物を渡して「私を刺さないでね」と言ったとして、ほとんどの人は刺さない。 だが、刺す人もいる。 生への希望を抱き、明日を見ていたにも関わらず、刃物を渡してしまった私が悪いのだ。 最初から刃物を渡さなければ良かった。 「ごめんって!」 私はある意味では刺されたのだ。 目の前にいるこの人に。 刃物を渡してしまったのだ。 刺さないと信じていたのだがこの人は刺したのだ。 「この人ってそんな他人行儀な!」 この人の愚かさは知っていたが、ここまで愚かだったとは思わなかった。 だが糧にはなった。 簡単に他人を信じてはいけない。 信じた末に裏切られるのなら最初から全て自責として考え、行動する。 他人に委ねてはならない。 「でも、そんなに怒らなくてもよくない?」 私はもう信じない。 この人は私が「刺さないでね」と言って渡した刃物で私を刺したのだ。 信じなければ裏切りは発生しない。 信じていなければ裏切られてもそれを裏切りと捉えられない。 裏切られたという事象を認識するのはもう嫌だ。 「さっきから何言ってるの?俺ハーゲンダッツ食べただけなんだけど?」 「だからハーゲンダッツを刃物に例えてんだろうがよ!食うなって!ハーゲンダッツ食ったってことは私を刺したことと同じなんだよ!このハーゲンダッツのキャラメル味は私のだから食べないでねって言ったのに!冷凍庫入れといてって言ったのに!なのにお前が食ったから怒ってんだろうがよぉぉぉォォォ!!!!」 「だからゴメンって!」 「ゴメンで済んだら警察も弁護士も検事もいらねぇんだよぉー!!!!!!」 私がそう言いながら包丁を手に取り彼を睨みつけるや否や、彼は外に向かって逃げて行く。 私は包丁を持ち 涙を流した。 タマネギを切りながら。 人参やジャガイモ、そして豚肉も切って煮込む。 彼がハーゲンダッツのキャラメル味を片手に帰ってくるのを待ちながら。 今日はカレーにしよう。 ハーゲンダッツの甘さが引き立つような辛いカレーを作って彼の帰りを待とう。
サングラス
「そろそろサングラす?」 「は?」 「まだサングラさなくていいか」 「なんて?」 「サングラすのか、サングラさないかっていう話」 「説明お願い」 「眩しい時はサングラスかける」 「うん」 「眩しくない時は?」 「かけない」 「正解。で、どうする?サングラす?」 「足りない」 「サングラすっす?」 「いや、『す』は足りてる。説明が足りない」 「だから眩しくないか?って聞いてるの」 「今は夜。眩しいワケないよね」 「夜でも輝いてるだろ?」 「月が?」 「俺が」 「眩しいワケないよね。一般人のお前が」 「まだか」 「何が?」 「まだ俺の光はお前には届かないか」 「俺とお前の距離何光年離れてんだよ」 「そろそろ届く頃合い」 「お前が放ってるのは光ではなくウザさです」 「俺がお前をサングラせるにはあと何光年かかるのか……」 「お前キッカケでサングラすことは無いし、ウザさは光速より早く届いてる」 「デミグラす?」 「デミグラさない。なんで急にハンバーグソース言うんだ?」 「ダイコンオロシソーす」 「普通!」 「普通が一番」 「すみません。和風おろしハンバーグ一つ」 「ご注文繰り返させていただきます。和風おろしハンバーグ一つですね。ご一緒にライスセットはいかがですか?」 「タノミマす」 「ご注文繰り返させていただきます。サングライスセットタノミマソースでよろしかったでしょうか?」 「ゼンゼンチガイマす」 「おやすみ」 「おやすみ」 こういう生産性の無い会話が好きな人とはきっと前世親友。
責任-簡単な荷物の受け取り事後篇 -
私の会社の荷受け担当が亡くなったらしい。 今年に入って二人目。 遺書が見つかったらしい。 「責任に耐えられなくなりました」 という旨の内容だと聞いた。 私には分からない。 耐えられないなら逃げたらいいのに。 私はそこまで重い責任を負ったことがないからなんとも言い難いが、命より大事な責任など無いと思う。 例えば責任が五十キログラムのバーベルだとして、それを軽々持つ人もいれば、全く持ち上がらない人もいる。 持ち上げられない人が持ち上げようとしても、そもそも力が無いのだから持ち上がるわけがないのだ。 じゃあどうするか? 誰かと一緒に持つ。 簡単に持ち上げる方法を考える。 持ち上げる力を養う。 そもそもそのバーベルは持ち上げる必要があるのかを考える。 持ち上げない。 いろんな選択肢があるにも関わらず、自らの命を絶ってしまうという選択をするのは絶対に違うと思う。 でも彼は命を絶ってしまった。 バーベルを持ち上げられない自分が許せなかったのだろうか? 私には解らない。 私は彼と一回だけ喋ったことがある。 とても丁寧で良い人そうだった。 電話越しで話したが、電話の向こうでお辞儀をしている姿が想像できた。 荷受けの難易度を上げることと昇格の話を電話で報告しただけの関わりしかなかったが、やはり関わった人が亡くなったと聞けば少しだけ気になる。 私の会社は「無作為に選出した無職の人をただ生かす」というワケの分からない事業をしている。 まず第一段階。 選出された人を生かすために生活必需品と少額のお金を荷受けと称して送りつける。お金は現金ではなく、『New-dollar』という電子マネーアプリに荷受けの対価としてチャージされる仕組みだ。 第二段階。 ただの余った空き箱とお金を荷受けと称して送る。 第三段階でその人が望むのであれば伴侶、つまり男性なら女性、女性なら男性を送る。 送ると言うと語弊があるが、要は出会いを提供してあわよくば結婚、出産と進むのを願う。 こうしてこの国の人口の減少を少しでも遅らせるのが私の会社の主旨らしい。 まわりくどい。 そんなふうに出会う二人が上手く結婚生活を送れるのだろうか?という疑問が浮かぶがそれは私の責任の範囲外だ。 上手く結婚生活を送るのはそんなふうに出会った二人の責任だ。 生活必需品や空き箱を送る理由。 これはただ何もせずお金を貰ってしまうと貰う側も恐縮してしまうだろうという考えの元、箱を送り『荷受け』という労働の対価としてお金を送っているらしい。 自分で言うのもなんだが私の会社はおかしい。 ただ給料が貰えるから働いているだけだし、給料以上のことをするつもりもないし、事業内容はどうでもいいのだが。 「伊藤さーん!次この人に電話してー」 上司に言われ、私は次の荷受け担当者に「第二段階の荷受けをして欲しい」と伝える。 これが私の責任だ。 言われたことをただやるだけ。 軽い。 次の人は第三段階まで昇格するだろうか。 昇格しなかったらまた次の人を探すだけだからどうでもいいのだが。 「もしもし。営業担当の伊藤です。いつもお世話になっております。本日はご相談がありまして………」
このコンビニは……
「いらっしゃいませー」 「いらっしゃいませー」 「誰も来てねぇよwww」 「おぃーw」 「引っかかったなwww」 「今日暇だね。」 「ね。」 「いつもこうなら良いのに。」 「潰れるってw」 「そっかw」 田舎の小さなコンビニの日常。 バイト達の何気ない会話。 「タバコ銘柄で言うのやめて欲しい。」 「な。分からんて。なんだよセッタって。」 「まだ本当にたまに来るよねー。おじいちゃんとか。」 「マルメン。」 「マルちゃんメンづくりですよ。」 「それ。」 「赤マル。」 「テストの採点ですわ。」 「www」 「番号で言えっつーの。」 「いまだに現金のヤツとかな。」 「それは良くね?俺現金派。」 「ポイントは?」 「いらね。」 「えー。」 「カード増えるの嫌い。」 「スマホって知ってる?」 「え?俺バカにされてる?」 「www」 「なんかアイコン?いっぱいになるのも嫌い。」 「あー本当にそういう人いるんだねー。」 「そういえば発注ってやったことある?」 「ない。」 「やりたい?」 「やりたい。」 「何発注する?」 「マルメン。」 「なんでだよw」 「マルちゃんメンづくりの方な。」 「なら良しw」 「良いのかw」 「高いカップラーメンいっぱい発注しようw」 「あるねー。カップラーメンに三百円とか出せない。」 「二百円以上は買わない。」 「誰が買うの?アレ?」 「ワタシカイマス。」 「嘘でしょ?w」 「あ、セロハンテープ終わってる。」 「裏行って取ってくるね。」 「ありがとー。」 「赤マル水産。」 「うるさい、早く行けw」 「あ、店長。」 「店長、お疲れ様ですー。」 店長はご機嫌そうに応える。 「はい、お疲れ様ー。坂東くん今日何時まで?」 坂東はお弁当コーナーの前出しをしながら答える。 「五時から十時までっす。」 店長は嬉しそうな顔をして言う。 「坂東くんと伊藤さんはいつも良く働いてくれるよね。ありがとう。」 伊藤も嬉しそうに答える。 「坂東くんはいろいろ教えてくれるのでありがたいです。」 坂東はそれに対し、 「伊藤さん覚えるの早いっす。」 「みんなも五時から十時?」 店長が聞くと坂東が答える。 「そうです。」 「そっか。」 店長は続ける。 「多田さんはいつも細かい所まで掃除してくれるし助かってるよ。ありがとね。」 多田がレジの下の棚から顔を出して答える。 「私几帳面なんです。」 店長は多田の奥でタバコを補充している杉崎にも声を掛ける。 「杉崎くん最近タバコ辞めたって?」 「タバコの補充が苦痛です。」 杉崎の答えに対しコンビニに笑い声が響く。 「円谷くんも伊藤さんにちゃんと教えてあげてねw」 店長は笑いながら円谷に頼むと 「レナードの方が教えるの上手ですってw」 円谷が留学生のレナードに教育係をなすりつける。 レナードは雑誌の整理を中断し 「ワタシ日本語マルメンシカシラナイノデ無理デス」 日本語で無茶苦茶な言い逃れをするレナード。 「マルメンは日本語じゃないよw」 店長は笑いながら言う。 「セロハンテーんちょうお疲れ様です。」 セロハンテープを取りに行って戻って来た流川が店長を見つけて咄嗟に、セロハンテープ持ってきたよ。と、店長お疲れ様です。を繋げて言ってしまう。 コンビニにまたまた笑い声が響く。 「流川くんは面白いなぁ」 飲み物を補充していた鴨川も戻ってきた。 「あ、店長お疲れ様です。飲み物あんまり売れないですね。」 「夏なのにねー」 トイレ掃除を終えた祢津も戻ってきたようだ。 客が来た。 坂東「いらっしゃいませー」 伊藤「いらっしゃいませー」 多田「いらっしゃいませー」 杉崎「いらっしゃいませー」 店長「いらっしゃいませー」 円谷「いらっしゃいませー」 レナード「イラッシャマセー」 流川「いらっしゃいませー」 鴨川「いらっしゃいませー」 祢津「いらっしゃいませー」 客は驚いた様子で帰って行った。 ばンドウ「今日暇だね」 いとウ「ね」 多ダ「ね」 すぎサキ「ね」 てンチョウ「ね」 つぶラヤ「ね」 れナード「ネ」 るカワ「ね」 かもガワ「ね」 ねツ「ね」 コンビニの日常はいつまで続くだろうか。
一人で花火大会
少し前まで開催されていた花火大会の会場はもうすでに静まり返っていた。 二十一時に盛大にスターマインが打ち上げられ、大盛り上がりを見せた会場からは人も屋台も全て無くなり何も残っていない。 時刻は深夜一時。 俺は終了した花火大会の会場を歩いていた。 寝付けず、煙草も切らしてしまったため、コンビニに煙草を買いに行ったついでに帰りに会場に寄ってみた。 誰もいないだろうし別にいいだろうと思い俺は会場の真ん中で煙草に火をつけた。 一人花火大会の開幕だ。 歩き煙草など今や堂々とできることではないが、誰もいないこの神社でなら許されるだろう。 咎める人もいない。 いつからだろうか。人混みが嫌いになったのは。 小さな頃はこういうお祭りが大好きで、何かイベントがある時は両親に連れて行ってくれと頼んでいたはずなのに。 人が大勢いる場所が嫌いで、大人数で行動するのが嫌いになったのはいつからだろう。 屋台でタコ焼きや焼きそばなんかも売っていたんだろうな。 最後に食べたのはいつだろう。 大人になってから衛生面が気になってしまって食べられなくなったな。 くじ引きなんかもお小遣いをほとんど使って目当てのカードは結局当てられなかったな。 今考えるとやっぱり当たりの番号は入っていなかったんだろうな。 友達の前で見栄をはって、小遣いが無くなっても痛くも痒くもないぜって顔をしていたが…… あれはきっと見透かされていたと思うぞ。当時の俺よ。 あれは俺の黒歴史だ。 黒歴史と言えば病みポエム?闇ポエム?なんかもそれだよな。 ああいうのを見ると「やってるなー」って思ってしまう。 黒歴史を作ってる時はそれが黒歴史になるって気付かないんだよな。 メタ認知ってヤツができていないんだ。 例えば今花火大会が終わって静まり返った神社の真ん中で煙草を吸っている俺。 少しだけそんな自分をカッコいいと思っている。 それは客観的に見たらイタイんだ。黒歴史だ。 でも、黒歴史を黒歴史って理解出来た時、人は成長するんだ。 だから俺は今成長した。 こう考えている今の俺の思考もイタイか。 黒歴史だな。 深夜のテンションって人をアホにするんだよな。 黒歴史は真夜中に紡がれる。 じゃあ白歴史は昼間に紡がれるのか? そもそも白歴史ってなんだ? 黒歴史の逆、誇れること?他人に堂々と自慢出来ること? 自慢なんかする奴にロクなヤツはいないよな。 結局全員の歴史は黒いんだ。 長いこと一人でいると変なことを考えるようになってしまうな。 深夜のテンションも手伝って黒歴史の製作が捗るぜ。 吸い殻は持ち帰ろう。 無駄な黒歴史を作る必要はないからな。 そういえばくじ引きのハズレで貰った変な音が鳴る笛。 あれはあれで面白かった記憶があるな。 友達に何度も「鳴らして」と言われて、鳴らすたびに友達の笑い声。 黒歴史を作らなかったら産まれなかった思い出だ。 黒歴史にも意味があるのかもしれない。 歴史の色は数年後に解るのかもしれないな。 今の俺のやっていることは数年後、何色の歴史になっているだろうか。 この体に害しかない花火はやめられないだろうから、肺は真っ黒歴史だろうな。 俺は二本目の花火に火を点けた。 これ吸い終わったら帰ろう。 神社の隅にあるベンチに座り、小さな灯りと煙を楽しむ俺。 俺の黒歴史にまた新たなページが追加された。
有給休暇消化期間を語りたい-前編-
『有給休暇消化期間』とは、退職日から逆算し、残っている有給休暇を連続で使用することだ。 私の元の職場では年間で最高二十日の有給休暇が付与され、余った有給休暇は翌年に持ち越されるシステムだった。 つまり最高で年間四十日の有給休暇を得る事ができる。 私は退職を決めるまでに五日の有給休暇を使用していたため残りの有給休暇は三十五日であった。 四月三十日が退職日だったのでそこから土日祝を除いて平日に有給休暇を充てた。 つまり約二ヶ月半の連休となった。 最後の出勤日は今まで働いてきた中で一番やる気があった。 なぜならもう会社に行かなくていいから。 私が最後に印刷した本の名前は今でもはっきりと覚えている。 確か「キリスト教…………」 えー。 「キリスト教の………」 アレだ。 「キリスト教の……なんか………のヤツ」 全然はっきりと覚えていなかった。 そして有給休暇消化期間一日目。 猫を撫でて終わった。 最悪である。 いや、その時は最高だった。 幸せでしかなかった。 猫を撫でながらベッドの上でダラダラ過ごしているだけで給料が発生しているのだ。 だが、今考えるとなんて無駄なことをしているのだろうと思う。一日目から。 そして何もしないで過ごしていたある日。このままではいけないと思った。やっと。 そして資格の勉強をしようと心に決めるのである。 以前から心理学に興味があった私は心理学の勉強をしようと思ったのだ。 私はメンタルが強くない。むしろとても弱いと自覚している。 それを補うために心理学の本を何冊か読み、次第に「心理学って面白いかも」と思うようになっていったのだ。 私は「メンタル心理カウンセラー」という資格に申し込んだ。 結論から言うと全く意味のない資格だ。 「メンタル心理カウンセラー」とは言わば民間資格であり、国家資格に認定されていない。 そして「メンタル心理カウンセラー」は例えその資格を持っていないとしても勝手に名乗って良い資格であるらしい。 つまりアナタが「私はメンタル心理カウンセラーです。」と言って今この瞬間から「メンタル心理カウンセラー」を名乗ることも可能だということだ。 それをわざわざお金を払って受講するのだが、その資格を取得するための過程を言うと ①申し込む ②テキストや解答用紙が送られて来る ③テキストを読み解答用紙に答えを記入 ④それを四回繰り返す ⑤最終試験の問題用紙に答えを記入し提出 ⑥合格基準点に達していれば資格証明書的なモノが送られてくる 驚くべきことに解答用紙に答えを記入する際はテキストを見ながら記入しても良いのだ。 みんな合格するだろこんなの笑 問題の内容も心理学を深く知ることに重きをおいた内容ではなく、心理カウンセラーとしてどう振る舞うかに寄った設問が多いように感じた。 うん、騙された。 それは言い過ぎかもしれないがお金を払ってまで受講するものではないなと感じた。 だが、これはあくまでも私個人としての考えであるし、もしアナタが必要である、勉強したいと感じたならそれは受講した方がいいだろうと思う。 私は無事に『メンタル心理カウンセラー』というスキルを手に入れた。 この時点で約一ヶ月が過ぎ去った。 有給休暇消化期間の残りは約一ヶ月半。 私が何をして過ごしていたのかはまた後日、気が向いたら勝手に語らせていただこうと思う。
鬼になる
鬼ごっこ かくれんぼ 鬼が悪者とされる遊びがある。 子供達は無邪気にルールを受け入れて楽しそうに遊ぶだろう。 では、大人達はどうだろうか。 現代社会において鬼ごっこやかくれんぼをするのであれば、もしかしたら鬼はありがたい存在になるかもしれない。 大人達は本当は逃げたくないんじゃないか? 社会から、仕事から、人間関係から。 大人達は見つけて欲しいんじゃないか? 社会から、仕事から、その他大勢の中から。 鬼ごっこにおいては捕まったらもう逃げなくていい。 「もう逃げなくていいよ。疲れたでしょ?ゆっくり休んでね。」 かくれんぼにおいては見つかったらもう隠れずに出てきていい。 「こんなところにいたんだね。寂しくなかったかい?みんなの所に行こう。」 そう言われたらアナタはどうするだろうか? もちろん拒否する人もいるだろう。 「休んでる暇なんかない!疲れていない!走り続けなきゃいけないんだ!」 「絶対に見つからない!寂しくなんかない!誰とも一緒にいたくない!」 それはそれでいい。 でも忘れちゃいけないのは、いつか終わることなんだよね。 鬼ごっこもかくれんぼも、捕まえる人がいるから、見つけてくれる人がいるから終わるんだ。 一旦ね。 終わったらまた再開できる。 捕まえてくれる人がいるなら、一旦捕まってもいいんじゃない? 誰かが見つけてくれそうなら、少し物音立ててみなよ。 鬼ごっこをしてるのに捕まえる人がいなくなったら、かくれんぼをしてるのに見つけてくれる人がいなかったらどうなる? 一人でずっと走らなきゃいけない。 一人でずっと隠れているだけ。 それはちょっとつまらなくないか? 鬼はきっといるからさ。 なんなら俺が鬼になるから。 一緒に遊ぼうぜ。
募集:簡単な荷物の受け取り
場所 どこでも 月給 受け取れるモノによる 当社規定による 勤務形態 正社員からアルバイトまで応相談 その他 「未経験歓迎」「学歴不問」 「職歴不問」「転勤なし」 即採用されたんだが? 面接一回で終わったんだが? 五分だったんだが? ブラックの匂いしかしないんだが? ヤバイなこれ。 正社員の方が良いに決まってるから正社員でお願いしたけど、簡単に正社員になってしまう仕事ってだいたいヤバイからな。 まぁいいか。俺もこれで社会人だ。 最初は家で待機だと。楽だ。 ピンポーン なんか届いた。箱を開けると紙切れと…? 歯磨き粉だ。 「荷受け料三百円」 何コレ?明細が付いてた。 あ、簡単な荷物の?荷受け?三百円貰えるっていうこと? え?超楽。 しばらくすると。 ピンポーン なんか届いた。 箱を開けると紙切れと… 歯ブラシ。「荷受け料二百五十円」 それからも数時間おきに送られて来る生活雑貨。 フェイスタオル、洗顔料、ワックス、トイレットペーパー、時には連続で色も形も同じハンガーを、受け取ったりもした。 結局初日は計二十件、六千六百円。 家にいて、ただ荷物を受け取るだけで一日六千六百円。 天職。 元ニートは家にいることが得意だ。 コレは俺のためにある職業だ。 それからもほぼ毎日、約二十件の荷受けをしてきた。 ちなみに給料は『New-dollar』とかいう電子マネーアプリ内にチャージされる仕組みだ。 そして『New-dollar』専用のネットショップでなんでも買える。 便利な世の中だ。 そして先週の木曜日、電話が来た。 「もしもし、営業の伊藤です。いつもお世話になっております。」 女の声。 「本日はご相談がありまして……」 相談内容を要約すると、少し難易度が高い荷受けをしてくれとのことだ。 なんでも、いつもソレを受け取っている人が辞めたらしい。 なぜ辞めるんだ?ブラックかと思いきや素晴らしく楽な仕事なのに。 ただ、難易度が高いモノは受け取り料も高いらしい。 あとは仕事に取り組む姿勢が評価されたらしい。 ただ荷物にサインをして受け取っているだけなんだが? 姿勢とは? まぁいい。ソレの受け取り方次第では昇格?もあるらしい。 出世だ。 この前までニートだったおっさんが異例のスピード出世のチャンスだ。 「私に期待していただき大変嬉しく思います。精一杯頑張ります!」 なんかサラリーマンならこう言うんじゃないか的な台詞を言ってみた。 そんな自分に少しだけ酔っている。 私は新しい荷受けに対して少し期待をしていた。 だが特にやる事は変わらない。 いつものようにチャイムを鳴らされ、サインをして箱を開ける。 一日に二十件の荷受けをしていた私からしたらもう完全なルーティンワークだ。 やる事は変わらないがやる事に対しての意識は変わった。 私は作業のスピードアップに努めていた。 PDCAというヤツだ。 Pは計画、つまりPlan。 Dは実行、つまりDo。 Cは評価、つまりCheck。 Aは改善、つまりAct。 仕事のために本も読んでこういうビジネス的な用語も覚えた。 俺は出世するんだ。 だが箱には何も入っていなかった。 明細には「荷受け料五千円」 は? …… しばらく考えた。 一つの結論が出た。 出世すると責任が重くなると聞く。 で、平社員は出世した奴等を「暇」だとか「アイツは何もしてない」とか言うらしい。 この箱にはきっと「責任」というモノが入っているのだ。 今まで荷受けした生活雑貨は全て使っていた。 次から次へと送られて来るので少し使っては捨て、少し使っては捨てを繰り返していた。 しかしこれは捨てるワケにはいかない。 「責任」を捨てるということは社会人失格だからだ。 しっかり箱を保管しておいた。 それからは不定期に箱が届くようになった。 一週間に、平均すると一日に五件くらいか。 一日十件以上の時もあれば、何も荷受けがない日もある。 明細は平均二千円だ。 責任の重さはその日、その日で変わる。 箱の大きさもその日、その日で変わる。 それがしばらく続いた。 もう箱を保管できるスペースは俺のアパートには無いぞ。 でも責任を、この箱を捨てたら…… 『New-dollar』にはかなりの額が溜まっている。 だが箱が部屋に溜まっていくから何も買えない。 これ以上物を増やしたら箱を置くスペースが本当に無くなる。 そして俺には責任がある。 だから外出するワケにもいかない。 外出した時に箱が届いてしまったら受け取れない。 いつ届くか分からないのに。 俺は、どうすればいい? 無理だ。 とても大きい箱が届いてしまった。 もう絶対にアパートには入らない。 責任が、重すぎる。 だが、俺は社会人だ。 出世するんだ。 絶対に、絶対に責任を全うしなければいけないんだ! でももう疲れたな。このまま死んだら…… 責任を捨てたことにはならないよな。 死んだから責任を負えなかったっていうことになるな。 じゃあもう死んだ方が楽か…… 責任に押し潰されるってこんな感じなのかなぁ……… あとがき いつの間にか募集が消えていたこんな感じのタイトルのヤツ。 凄く良いなと思って、休みの日に書こうと思ってたのですが、募集打ち切られてしまったようで。 でも書きたい欲が抑えきれず、明日は休日なので夜更かしして書いちゃいました。 私の文章の就職先が無くなってしまって残念です。 募集していた方のお名前は忘れてしまいましたが、もし読んでいただけていれば嬉しいです。 素敵なお題をありがとうございました。 言うまでもないと思いますが『New-dollar』というアプリは実在しません。 実在してたまるか!こんな不快で不適切な名前のアプリ!