海と友
夕まずめ、俺と爺ちゃんは2度目の漁に出る。心許ない木船と投げ網が主だ。
だが毎月の稼ぎは上々。なぜかと言うと、俺たちには協力者が居る。沖へ船を出し、爺ちゃんが船のヘリを木片で叩く。木と木がぶつかるコンコンと言う音がどれほど遠くまで伝わっているのかは俺は知らない。
だが数分もすると、水面が揺らぎだす。海の作る波とは明らかに違う。近くまで泳いできたそれを見ると、知性を湛えた目と目が合った。下半身は大きい魚のようだが、上半身は人間の体に似ているような気がする。
「そら来たぞ。あいつらの動きをよーく見とけよ」
つい彼らに見惚れていたが、本題は漁だ。夢から覚めたような気持ちで、俺は網を手に取る。
一度俺たちの船に近づいた彼らは、円を描くように船とは反対側の海へ進み、海面へブクブクと水泡を出している。泡で魚を追い立てているのかと爺ちゃんに尋ねたことがあるが、あれは超音波のようものを出しているらしい。
彼らが魚を追い込む様は、船の上から見ていると一種の芸術作品の様にも見える。俺はついつい船の端に寄り過ぎていた。
「っ、、」
声を上げる暇も無く、一瞬で体が水に包まれる。目を開けると、魚たちが逃げていくのが辛うじて見えた。漁は失敗に終わってしまったらしい。
爺ちゃんに引き上げてもらおうと水を一掻きした時、水の中をこちらに向かう彼らが見えた。
明らかに怒っている。
パニックになった俺は必死に手足をバタつかせるが、焦っているからか一向に水面に辿りつかない。もうダメだ、と目をギュッと瞑った時、襟を掴まれて一気に水中から引き上げられた。爺ちゃんにまだこんな力があるのかと、思わず感心してしまう。直後、船がゴン!と揺れた。彼らの1匹が船に体当たりしたようだ。
「ゴホッ!!ゲホッ、、」
飲み込んでしまった海水を吐き出す。鼻の奥がツーンと痛んだ。
「バカタレ!あれほど海の怖さを教えただろ!」
久しぶりに爺ちゃんに怒鳴られて雨に濡れた犬みたいに縮こまってしまった。
「こ、殺されるかと思った、、」
彼らの形相が忘れられず体をブルっと震わせる。
「殺される?あぁ、あれはお前を助けようとしてたんだ」
意味が分からず爺ちゃんの顔を見つめる。疑問が伝わったのか、爺ちゃんは先ほどより表情を柔らかくして説明してくれた。
「あいつらはお前が溺れたと思って助けに来てくれたんだろ。顔は怖いけどな、優しい奴らだ」
「じゃ、じゃあ何で船に体当たりなんか、、?」
そう聞くと爺ちゃんは少し渋い顔をした。
「あれがあいつらなりの救助なんだろうなぁ」
「だがあれを喰らうと人間ではひとたまりも無い。俺の仲間もやられて骨を折ってたな」
結局爺ちゃんに引き上げられて良かったと言うことか。
俺はひどく疲れてしまい、爺ちゃんが岸に船を付けるまで、魂が抜けたように海を眺めていた。そろそろ日が完全に落ちて夜が来る。
遥か向こうの水平線で、誰かが手を振ったのが見えた。