御座なりの優しさ

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御座なりの優しさ

一般人。

再会

「変わらないね。」  突然のことで、何も返せない僕に得意げな顔をする君。  君の考えていることは大方察しがつく。 「私には、以前と変わらない君の要素を見つけられる!」 くらいにでも思っているのだろう。  以前の僕とは何もかも違う僕なのに。  「変わったね。」  間延びした空間に取り繕うような言葉を返す。  君は嬉しそうに、  「そうかな?」  と呟く。どうせ君のことだ、  「綺麗になったね。」 という意味にでも取ったのだろう。ご機嫌そうに  「またね!」  と言った君は、もう人混みの中に消えていた。  「変わらないね。」  僕は、もう誰でもない人混みに向かって、小さく呟いた。

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再会

夏、夜、散歩

  「カブトムシだー」  少年の歓喜と興奮に満ちた声が響く。懐中電灯に照らされた木の幹に、不自然に並べたられた雄雌2匹の昆虫が浮かび上がる。  こんな所にカブトムシなんかいないだろ。  そう思わずにいられないのは、22年間使い古した、通い慣れた道での出来事だったからであろう。  「良かったなー!」「捕まえてみろよ!」  父親の声もどこかはしゃいでいる。そんな微笑ましいセリフを、どこか芝居じみていると感じてしまうのは、僕も秘密を守る側に回ってしまったからだろうか。  ランドセルを背負ってこの道を通っていた頃、僕の世界は360度に広がっていた。いつからだろう、草むらに入らなくなったのは。いつからだろう、蝉を煩わしく感じるようになったのは。今はただ、街灯が照らしている数秒先の未来に向かって歩いているだけだ。等間隔の明かりに沿って、舗装された道の上を。  僕はたまらなくなって空を見上げた。星空を綺麗だと思いたくて。星を綺麗だと思える自分を確認したくて。

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夏、夜、散歩