御座なりの優しさ
2 件の小説再会
「変わらないね。」 突然のことで、何も返せない僕に得意げな顔をする君。 君の考えていることは大方察しがつく。 「私には、以前と変わらない君の要素を見つけられる!」 くらいにでも思っているのだろう。 以前の僕とは何もかも違う僕なのに。 「変わったね。」 間延びした空間に取り繕うような言葉を返す。 君は嬉しそうに、 「そうかな?」 と呟く。どうせ君のことだ、 「綺麗になったね。」 という意味にでも取ったのだろう。ご機嫌そうに 「またね!」 と言った君は、もう人混みの中に消えていた。 「変わらないね。」 僕は、もう誰でもない人混みに向かって、小さく呟いた。
11
0
夏、夜、散歩
「カブトムシだー」 少年の歓喜と興奮に満ちた声が響く。懐中電灯に照らされた木の幹に、不自然に並べたられた雄雌2匹の昆虫が浮かび上がる。 こんな所にカブトムシなんかいないだろ。 そう思わずにいられないのは、22年間使い古した、通い慣れた道での出来事だったからであろう。 「良かったなー!」「捕まえてみろよ!」 父親の声もどこかはしゃいでいる。そんな微笑ましいセリフを、どこか芝居じみていると感じてしまうのは、僕も秘密を守る側に回ってしまったからだろうか。 ランドセルを背負ってこの道を通っていた頃、僕の世界は360度に広がっていた。いつからだろう、草むらに入らなくなったのは。いつからだろう、蝉を煩わしく感じるようになったのは。今はただ、街灯が照らしている数秒先の未来に向かって歩いているだけだ。等間隔の明かりに沿って、舗装された道の上を。 僕はたまらなくなって空を見上げた。星空を綺麗だと思いたくて。星を綺麗だと思える自分を確認したくて。
15
2