夏、夜、散歩
「カブトムシだー」
少年の歓喜と興奮に満ちた声が響く。懐中電灯に照らされた木の幹に、不自然に並べたられた雄雌2匹の昆虫が浮かび上がる。
こんな所にカブトムシなんかいないだろ。
そう思わずにいられないのは、22年間使い古した、通い慣れた道での出来事だったからであろう。
「良かったなー!」「捕まえてみろよ!」
父親の声もどこかはしゃいでいる。そんな微笑ましいセリフを、どこか芝居じみていると感じてしまうのは、僕も秘密を守る側に回ってしまったからだろうか。
ランドセルを背負ってこの道を通っていた頃、僕の世界は360度に広がっていた。いつからだろう、草むらに入らなくなったのは。いつからだろう、蝉を煩わしく感じるようになったのは。今はただ、街灯が照らしている数秒先の未来に向かって歩いているだけだ。等間隔の明かりに沿って、舗装された道の上を。
僕はたまらなくなって空を見上げた。星空を綺麗だと思いたくて。星を綺麗だと思える自分を確認したくて。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2021/8/12 16:04
御座なりの優しさ
一般人。