ひまじん
2 件の小説恋
あの子に恋してる。 去年の梅雨、ボクに傘を貸してくれた。 あの子ならきっと受け入れてくれる。 昨日の四時頃、〇〇小学校付近で 幼女連続誘拐事件の犯人と思われる 男が逮捕。 また会いたいな。
江戸探偵譚 蕎麦屋
江戸に住む義吉は、蕎麦屋で夕食をとっていた。 「旦那、ざる蕎麦一枚おくれ」 「あいよ、にしてもあんた毎度くるけど、 それだけうちのそばが気に入ったのかい?」 三十(さんと)屋という店は、義吉に今話かけた 大柄な男の五郎丸と女将の夫婦二人で 経営している蕎麦屋だ。 「ええ、この辺じゃあ一番安いし、うまいもんで まず、このつゆだ。鰹の出汁が効いてんだ。 香りからまず違う」 「そうかい、そりゃ嬉しいねえ」 厨房から藍色の着物を着た、女将らしき人物が 草履で床を擦りながら歩いてきた。 「おお、女将さんがこの蕎麦つくったのか。 いつも食べさせてもらってるよ」 満面の笑みで味の感想を言う義吉を見ながら、 女将と五郎丸はクスクスと笑った。 「まるで子供みたいね、可愛らしい」 「だな、おまけでもつけとくか。一応、常連だから な」 夫婦が話していることにも気づかずに、無心に 蕎麦を食べる義吉に五郎丸は、エビと蓮根の 天ぷらを差し出した。 「?頼んだ覚えがないが…」 「おまけだ。味の感想言ってくれた礼にな」 食べ終わった後、空になったざるを女将が片付け、 満腹で身動きが取れなくなっている義吉に 五郎丸は質問をした。 「あんた、職業なにやってるんだ?」 満腹で幸せそうだったはずの義吉の顔が 急に真剣な顔つきに変わり、五郎丸は動揺した。 聞いてはだめだったか、危ない仕事なのかと考える。 「嫌なら言わなくてもいいんだ」 五郎丸の言葉を遮るように義吉は言った。 「探偵だ」 「探偵…?ああ、岡っ引きのことか、随分といい 仕事についてるんだなぁ」 感心する五郎丸をよそに、義吉は目を逸らす。 「どうしたんだ?」 「言いづらいのだが、別に町奉公所で働いて いるわけではないのだ」 またもや動揺したが、今回は女将も話を聞いて いたらしく、五郎丸と同じ反応をしていた。 「そりゃ、あんた一人で経営して探偵やってんのか」 「いや、仲間がもう一人いるから二人だが…」 目から鱗と言わんばかりの表情をする二人に 義吉は外を見て「夕日が出てきたから帰ろう、 話の続きはまた今度」と言い、 そば代、十四文を五郎丸に渡し店から出た。 店から出て行く義吉に五郎丸は、動揺しながらも 「おう、またこいや」と手を大きく振った。 それに応えるように、店に背を向け走りながら 微小ではあるものの右腕を挙げ、手を振った。 「この頃の若い者は、真新しいことをするのだなぁ」自分の女房と目を合わせ、感嘆の息をこぼした。