探偵アルバイト 1話 募集中
「鴻山さん、アルバイトそろそろ入れないと
大変なことになってますよ」
「わかってる、張り紙出しとくよ」
鴻山小次狼はありとあらゆる事件を
解決する所謂、探偵事務所を構えている。
ただし、事件を解決するのは鴻山小次狼でも
隣にいる愛想の悪い女性でもない。
アルバイトだ。そして、そのアルバイトの助手を
務めるのが彼らである。
「やはりバイトが、時給7000円なんてどう考えても
怪しまれますよ」
「だがしかし、これくらいしないとうちに
入ってくるバイトがいないんだ」
隣で無愛想で的確な指摘をしてくる女性は
石清水直子といい、鴻山の助手だ。
探偵の助手をする仕事の助手とは
少し可笑しな話だと鴻山自身も思っていた。
「また犬の捜索の依頼かよ…全然事件じゃないじゃん」
ガクリと依頼が50件ほどきているパソコンの
前で落胆する。
「仕方がありません。アルバイトがいない以上は
こういった仕事で稼ぐしかありませんから」
「じゃあ今日はこの仕事でいいか…」
「……」
「……」
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは
石清水だった。
「行かないんですか?」
「え?石清水がいかないのか?」
「私は夕ご飯の買い出しに行かなくてはならないので…」
無愛想な顔が一気に歪む、鴻山はニヤリと笑みを浮かべ、
言った。
「じゃあついでに行ってきて」
「チッ」
石清水は口を曲げ、聞こえるように舌を鳴らした。
石清水直子は知っていた。何故アルバイトが来ないのかを。
それは高額な報酬が胡散臭く感じるからでも
人気がない道にあるからでもない。
"噂"だった。
過去にアルバイト募集につられて来た人達は、
何十人もいた。
その大半はクビか自分から辞めていった。
アルバイトに探偵をさせて、事件を解決するという
契約上、ある程度の洞察力や推理力に長けて
いなければならない。無能な人材を雇っていても
人件費の無駄にしかならないため、切り捨てるしかなくなるのだ。
そんなことを繰り返していくうちに、口コミに
元アルバイトらしき人物にあることないことを
書き込まれいつの間にか噂になっていたのだ。
そして、気がつくと段々と仕事も減り、仕事内容も
街の雑用ばかりになってしまっていた。