こた
24 件の小説幼馴染からの一歩先
いつも通りに同じ道を、同じ相手と歩く。 腐れ縁…幼馴染の彼とだ。 「なぁ、幼馴染ってなに?」 「…はい?なに言ってんの」 「俺とお前は、幼馴染?」 「…」 バカなのは昔からだけど、ここまでとは…。 じゃあなんだ、私をコイツは今まで何だと思っていたのだというのだろう。 「幼馴染でしょ?それ以外ないでしょ…」 「ふーん」 納得してない顔をして、いきなり立ち止まったものだから、鼻を背中にぶつけてしまった。 鼻を抑えながら、思った。 …コイツの背中って、こんなに広かったっけ? そういえば、昔はずっとコイツの手を引いて歩いていたのは、私だった。前を歩くのはいつだって私だったのに…。 いつから私の前を歩かれてたっけ…? 急に距離を感じて、二人の足が止まる。 「…ねぇ」 「ん?」 私はコイツの、なんなんだ? 聞いてみたくてしょうがなくなってきた。 だけどそんな変なことを聞いたら、笑われるに決まっている。 「…なんでもない。帰ろ」 「…」 逃げた。答えを聞くのが怖かった。 もし、聞けたら…聞いていたらコイツは、なんて答えたのか…。 「なぁ!」 「…なに?」 突然の呼びかけに、身体がビクつく。 振り返って目が合う。 心臓が変に高鳴っている。 「…俺は、お前のこと幼馴染だと思ってた」 「思って…た?」 なんで過去形? ふと目に入った、並んだ影の長さに目を疑った。 いつの間にか、高い位置にある目線。 見下ろされるようになったのは、いつからだっけ。 「思ってた。けど、違った」 「…え?」 違うってなに? 今まで何処かで、コイツの特別な人の中に私は入っていると、当たり前のように思っていた。 だけど、それは私だけだったようだ。 ただの友達?それともそれ以下…? 視界が滲む。目を合わせていられない。 泣くな、みっともない。 私が自意識過剰だっただけじゃないか。 「…俺は!俺は、お前の幼馴染だけど…だけど!」 「…ッ!なに!はっきり言ってよ!」 言いたいことがあるなら、早く言えバカ。 顔を上げて目線が絡み合って、やっと気づいた。 顔が赤い…夕日のせい? 私の顔も熱くなってくる。なにこれ! わかんない、なんにもわかんない。 「早く言ってよ!」 「…ッ!言うけど!待てよ!」 「なんでよ!嫌らいなら嫌らいって言えバカ!」 「嫌いなわけないだろ!バカっ!」 「じゃあなんなのよ!」 あぁダメだ。涙が勝手に出てきて止められない。 私はコイツに嫌われるのが怖くてたまらない。 …この感情の理由は昔からわかっていた。 わかっていたけど、認めたくなかった。 認められなかった。 だって私は…ただの幼馴染だから。 それ以上には、絶対なっちゃダメだから。 涙を拭いていた腕に、何かが触れた。 握られた手から体温が伝わってくる。 そして、耳に届いた言葉に言葉を失った。 「幼馴染で終わりたくない。…幼馴染は今日で終わりがいい。…好きだから」 涙腺が崩壊して、涙が溢れて口がうまく回らない。 あのね、ずっと言いたかったことがある。 私も、わたしだって… 「好きだよ」 視界が真っ暗になって抱きしめられた。 少し寂しいけど、明日からは恋人としてこの道を歩こうか。
恋の始まり
「おい」 「…なんだよ」 「腕…のっけるのヤメテってば」 「小さいお前が悪いべ」 「…アンタがいきなりデカくなってビビってんの!」 幼なじみ…いや、ただの腐れ縁と呼ぶべきだな。 席に座っている私の頭の上には、サンドイッチを頬張るヤツの腕が乗っかっている。 小学校までは私の方が背が高かったのに、中学生から伸び出したコイツの身長はもう180越えである。 それに比べられるのも腹が立つが、私の身長は150しかない。 つまり…30センチの差が私たちにはできてしまった。 それをいいことにコイツはいつも、私の頭の上で昼食のパンを食べている。 別に気にしなければいいだけの話なのだが…。 ムカつくもんはムカつく! だけど、そんな私の昼食タイムには密かな楽しみがある。それが… 「かっこいい〜」 「…またか。どこがそんなにいいんかわからん」 「アンタにわかってたまるか」 「…そんなにかっこいいん?あの先輩」 「アンタの目は節穴か!」 「…」 私がこの高校に入学してから、密かに想いを抱いている先輩。 イケメンで、毎日この時間は外でサッカーをしているのだ。 その先輩を密かに眺めるのが私のルーティンなのだ。 「…あの先輩のどこがいいん?具体的に」 …珍しいな。コイツがそんなこと聴いてくるとは。 たっぷり聴かせてあげようじゃないか! 「まずは…なんと言ってもイケメン!」 「…それから?」 「背が高い!」 「…あとは?」 「運動神経抜群!」 「…他は?」 「大事にしてくれそうなとこ」 「…ほぉ?」 段々と恥ずかしくなってきた。 …っていうか、なんでそんなことコイツに話してるんだ。 「俺は…」 「…え?」 「そこそこ顔も悪くない」 「…ん?」 「身長もある」 「…まぁ?」 「バスケ部だし」 「…そうだね」 「大事に…してやれると思うんだけどな」 「…何言ってんの」 いつの間にかヤツの顔が、目の前にあった。 少し頬が赤く見えるのは…なぜだろう。 「俺じゃ…ダメなん?」 「…へ?」 私の顔も赤く染まった。
青春ってこんな感じ?
注意・・・地味に百合を含みます。 先輩 後輩…咲 二人とも女の子。 先輩との二年間が今日で終わった。 部活で知り合った先輩はバスケをしている時が一番輝いていて、私はその先輩に渡すパスが大好きだった。 今日は先輩の卒業式の日。卒業式の間、私は何も考えずに先輩を見ていた。よく覚えていない。 そんな卒業式が終わり、私は体育館で一人でバスケをしていた。 一人なのでシュート練習だ。 先輩は今頃、写真撮影か何かしてるのだろうか。先輩は可愛いから告白されたり…。 先輩と一緒に放課後、自主練を二人きりでしていた。 そんな時間もこの間で終わった。 先輩は何か言いたそうな顔をして体育館を出て行って、私もそれについて行って終わった。 そう…終わったんだ。なのに未練みたいに私は今日もバスケをしてる。それを思うと手が止まってボールが落ちる。 最後…。その言葉がこんなに悲しいものだなんて知らなかった。知りたくなかった。 「あ…れ?」 気づけば視界が歪んでいる。泣いていた。 自分で擦っても溢れ続ける涙を感じて足に力が入らない。その場にうずくまる。 …っ!情けない。 「咲?」 聞こえるはずのない声に顔を上げると、いつものように笑う先輩がいた。 なんで?なんでいるの?声が出なくて涙が溢れる。 「泣かないで…って、私が言えることじゃないか。でもね泣かないでほしいな」 先輩が抱きしめてくる。もう一生感じられないと思っていた匂いが鼻に飛び込んでくる。私も震える手で抱きしめ返す。 「咲。私は大学でバスケ続けるよ。…っていうか、私頭悪いから推薦だから当たり前なんだけどね」 そう言っていつもみたいに笑ってる…と思ってたのにちょっと違う。 先輩の目からも涙がでてる。なんで? 「もっとみんなと一緒に…やりたかったなぁ。我儘だね」 「せんぱ…」 腕に力を込められて抱き寄せられる。 「だからさ…咲。またやろうよ一緒に」 「…え?」 「待っててもいいかなぁ」 信じられない言葉が聞こえた。 待ってる?待っててくれるの?こんな私を? 「いいん…ですか?」 本音が溢れる。ダメだって突き放してほしい。勘違いをするから。先輩の特別になれたって思っちゃうから。 顔を上げて見えた先輩は心から笑って頷いていた。 「咲!」 桜が舞った季節。その日に私は先輩の隣にいた。 「先輩!」 笑ってる。私はこれからも先輩の隣で…。 青春ってこんな感じ?なのだろうか。
お帰り
「大っ嫌いなの!もう…関わらないで…っ。お願い…だからっ!」 心に響く君の声が、俺の心に釘を刺した。 「泣いてるのに?そんな顔して、言うセリフかよ」 嫌いだって言ってるのに…。 もう、関わらないでって言ってるのに…。 何で余裕そうなの? 私、酷いこと言ってるのに…。 「本音は?…俺に言えないことなんて、ないだろ」 自信満々な顔。 そうだよ…。 決まってるじゃん。 私は本当は、離れたくないんだよ。 私だって…。 「言えない?言わない?言いたくない?」 「…言いたくもないし、い…言えない」 「あっそ…。分かった」 え…。今、コイツなんて言った? 分かったって…。 あれ、何でこんなに傷ついてんの? 離れないといけないって、分かってて、 自分から言ったのに…。 「十年後の三月十六日。お前の誕生日。ここで、会う」 「え…?」 「これは決定。んで、俺はお前に二十年後にお帰りって言えるようになる」 「は…?何言って…」 「二十年後…いや、まずは十年後。楽しみにしとけよ」 私はただ…ただ、頷くことしか出来なかった。 約束の十年後の、今日。 彼は、私の前に再び現れた。 「…やっと十年。長かった〜!」 何にも変わらず、相変わらずの顔で、私を抱きしめた。 「忘れてねぇだろうな?もう一つの約束。もう十年…待ってろよ」 「…お帰り。やっと約束果たせたー」 「ただいま。やっと、意味分かった」 プロポーズの後、今日からここが私たちの、 お帰りを言い合う、新居になった。
だって…君を見ずには帰れなかったから
「6年間…同じクラスなのに…」 私は彼を知らないまま卒業する。 中等学校。そのため、私たちは6年間同じ人と過ごす。 桐生俊くん。この大勢いる学年の中で唯一の私と6年間同じクラスだった人。 「だ…れ?」 「君は…川田さん?」 何でこの人は私の名前を知っているんだろう。 何でこの人はこんなに美しいんだろう。 私は何でこの人から目が離せないの? 卒業式が終わり、みんなが帰った後こっそりと、教室に戻ってきた。 カラカラとドアの音で振り返ると、彼がいた。 見たこともない美しい顔立ちの彼が。 「えーっと、驚かせたかな?ごめん」 「君は…もしかして…俊くん?」 聞かずにはいられなかった。 「何で?…俺、今日初めてこの教室に来たのに…」 「そ、そんなの…君だって!何で私の名前知ってるの?」 どっちも負けないくらい驚いた顔をしているだろう。 そんな顔は、俊くんの整った顔には似合わない。 「俺は、全員の名前…覚えてるから」 「え?もしかして…この学年全員?」 「うん。教室に行く勇気が出なくって…、今日やっとみんなが帰ったと思って来たんだ。そしたら、川田さん…泣いてるから」 「え」 思わず頬に触れて確かめると、濡れていた。 「僕は…そんな一人で泣いてる君を、一人にはできなくて、きたんだよ。川田咲さん」 溢れ出る涙を止める理由は、もうなかった。
好きでいて!
「俺のこと…忘れないで」 「うん。当たり前でしょ」 自分から外国に行くと決意したくせに、別れる時になってぐずぐずしてしまう彼。 実はそんな彼を一人で行かせる私の方が寂しかったりする。 それを彼は分かっていない。 私がどれだけ君のことで泣いたかも知らない。 それは、知らなくていいかも。 ちょっと恥ずかしいから。 だから、笑顔で見送るって決めてたのに。 「何で泣いてるの?」 彼が号泣しているのだから、泣きたくても泣けない。 「寂しい…。ちょっと不安…」 「何が不安なの?」 彼は英語力もすごくあるので、あっちに行ってもそれほど困らないだろう。 「咲のこと…一人にしちゃう。忘れられたら…怖い」 あまりにもあっけらかんとした答えに、口が思わず開いてしまう。 「そ、そんなこと考えてたの!?」 「ひぇっ。ご、ごめんね」 相変わらずの涙目で、もっとかわいそうに見えてくる。 だけど、これだけは言っておきたい。 「忘れるわけないじゃない!」 「さ、咲?」 声が震えてくる。 「私の…方が、寂しいのに…。私の方が怖いんだから…っ。だから、約束して….。ずっと、私のこと好きでいて!」 こんなはずじゃなかった。 こんなかっこ悪いところ見せるつもりはなかったのに、爆発してしまい、私の顔は真っ赤だ。それが怒りからなのか、恥ずかしさからなのかはもう分からない。 「咲…っ」 一瞬にして視界が塞がれ、目の前が真っ暗になる。抱きしめてられている。 「ごめんっ。ごめんね。俺、俺も…ずっと咲に好きでいてほしい!」 痛いぐらいに抱きしめてくる彼の、腕がたくましくなっていることに気づく。 そうだ。彼だって成長してる。そんな彼を、私が笑顔で見送れないでどうするの。 がばっと思いっきり顔を上げ、満面の笑みを浮かべる。 「うんっ!絶対、約束だから!」 タイミングがいいのか、悪いのか、飛行機の時間が来てしまう。 最後にもう一度見つめ合い、抱きしめ合う。もう、大丈夫だと自分にも、彼にも伝わるように。 「いってきます!」 「いってらっしゃい!」 彼にも、私にも春の暖かい風が吹き始めた。
泣けばいいのに
「泣かないのか?」 「泣けないの」 先輩に振られた原因が分からない。 少しも悲しくないわけでもないのに涙が出ない。 (ごめん。別れて) 思い出すだけで胸が苦しくなるのに泣けない。 「咲は…先輩のどこが好きだったんだよ」 「好きなところ?」 「ん。どんなところが?」 私が一人で放課後の教室に残っていると、今はもうほとんど話さなくなった、幼なじみの俊が隣の教室から来た。 その無神経な話し方も変わらない。 「えっと…。いつも笑顔が可愛い」 自分でも驚くぐらい、するすると言葉が出てきた。 「ん。それから?」 「誰にでも優しい」 「…それから?」 「私のこと…大事にしてくれた」 「ん。あとは?」 「ずっと…、悲しい時一緒にいてくれた…っ」 「うん」 「ずっと一緒に…いるって…っ、思ってた」 「泣けばいいのに。我慢しなくたっていいんだぞ」 もう限界だと、私の目が訴えかけてきた。 「っ…!私…悲しい」 「あぁ」 「先輩のこと…忘れられない…っ。できるわけないよ…。全部…無かったことになんて…できないっ…!」 「あぁ」 「悔しくって…悲しい…」 「よく出来ました」 ぽんぽんと私の頭を優しく撫でる彼の手は、昔と何も変わらなくて、私は思いっきり泣きじゃくった。
可愛いって言われたい!
「私…彼氏に可愛いって言われたことないんだよねー」 「嘘!それはまずいよ!次のデートはいつ?」 何となく思ったことを話したら、親友の彼女の何かに触れてしまったようだ。 「えっ…と。分かんないな」 「じゃあ今すぐ決めて来て!」 「えー」 「えー、じゃないの!ほら、あそこに旦那がいるぞ?」 「だ、旦那じゃないもん。分かったよー」 教室の真ん中で男子に囲まれている彼に、メッセージを送る。 (今、廊下出れたりする?) 彼はすぐに携帯を取り出して、横目で私を見てから抜けてくれたようだ。 「ほら、行った行った!」 廊下に出て、人のいないことを確かめて話す。 「どうした?何かあったか?」 「あの…さ、デ、デートに行きませんか?」 きっと私の顔は真っ赤なはずだ。自分から誘うのはこんなにも勇気がいるとは思わなかった。 「ふは、顔真っ赤。さっきの会話聞こえちゃってたんだけど…」 「うそ!」 恥ずかしすぎて、今にも逃げ出したい気持ちを押しとどめる。 彼の手がゆっくりと伸びてきて、私の耳に触る。 「ん、やっぱり真っ赤」 「な、何を…」 彼の顔が近づいてきて、私の肩に顎が乗っかる。 こんなに近いのは初めてかもしれない。 「俺はさ。どんな時でも咲が好きなんだ。だからさ、いつでもお前は可愛いよ」 ぼぞっと呟くように言われて、私の鼓動はもう限界だと感じる。 「それじゃダメ?」 「ダメじゃ…ないです」 私にとってのかっこいいも彼しかいないようだ。
感じて
「私は…人じゃないのかな?」 「なんで?」 本当にそうなのかもしれないと最近思う。 私は人より泣けない。 泣かないんじゃなく、泣けないのだ。 だから、友達と映画に行くのは苦手だ。 「なんであんなに感動したのに泣かないの?」 そう言われると分かるから。 「私は…人より何も感じないのかな?」 「そうか?」 隣の幼なじみの俊が立ち上がってこっちを見つめる。 「俺は…むしろ咲は人よりも色々な感情があって…そして、人よりたくさん感じてると思うけど?」 思わず口が空いたままになり、慌てて閉じる。 だけど、驚きは隠せない。 「そ、そんなこと…初めて言われた」 「お前は感情を出すのが苦手なのかもだけどさ…俺はそんなお前もいいと思うけど」 開けっぱなしの窓から風が吹き、私の髪が頬にかってくすぐったい。 「それって…どういう…」 自然と本音が溢れる。 「人よりも人の感情がよく分かってる咲なら…もう分かってるんだろ?」 いつもよりも赤い頬の彼にも暖かい風が吹いていた。
もう少しだけ
嫌なら嫌って言うはず。 彼は直ぐに怒るのだから。 なのに彼は私が触れても怒らない。 その温もりを忘れたくなくて…。 覚えておきたくて…。 「いよいよ明日は卒業式ですね。…その前に一つだけみんなに聞いてほしいことがあるの。咲さん」 「はい」 もっと緊張すると思ってた。 でも、自分でも返事の声の大きさに驚くほど透き通った声が出た。 「咲さんはこの卒業式が終わったら、県外に引っ越すそうです。だから、みんなと違う高校になります」 想像以上にみんなの顔が驚いている。 それを見たら、何を言おうか考えていたのに言葉が続かない。 「咲」 さっきの私よりも良く通った声が私を呼んだ。 その声の持ち主は私の大切な幼なじみ。 「…俊」 どんどんこっちへ歩いてくる彼から目が離せない。 どんどん視界がぼんやりしてきた。 そのまま彼にされるがまま、手首を掴まれ教室を出る。 先生の声が聞こえたけど、私は彼のいつの間にか大きくなった背中を見つめることしかできなかった。 「ん」 「…え?」 「ん」 階段の踊り場で急に彼が腕をこっちに伸ばしてきた。 最初は何のことか分からなかったが、これも長年の付き合いからか、直ぐに理解した。 「…俊」 私のか細い声が響く。 彼の胸に飛び込む。 これであっているのかは分からない。 彼が何を考えてこの行動をしているのかも。 でも、彼の体温があまりにもあったかくて、安心して涙が止まらない。 彼は怒っているのかもしれない。 私が引っ越すことを黙っていたから。 でも怒らないでいてくれる。それだけではなく、いつのまにか彼の手は私の頭を撫でている。 「もう少しだけ…いい?」 「ん」 いつもより少し涙声の彼の声が優しく私の胸に響いた。