鬱くしい

6 件の小説
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鬱くしい

どんでん返し系の本書いてる高校生です

記録

鏡の前で口角を吊り上げる。 ひび割れた唇から滲む血の味。 目は開かれたまま、だが見えているのかはわからない。 鏡の中の影――それはまだ、自分と呼べるのだろうか。 部屋の隅へ這う。 壁に顔を押しつけ、静かに笑う。 鼻が潰れる。息が詰まる。 それでも形だけは崩さない。 膝を床につけ、額をゆっくりと擦りつける。 土下座。誰に対してかはわからない。 ただ、謝る。 声が枯れ、言葉は途切れても、頭だけは下げ続ける。 目覚まし時計を耳に押し当てる。 鳴り響くベル。鼓膜が焼ける。 逃げない。ただ、待つ。 音が自分を壊すのを。 床に散らばる埃を、髪で拭う。 手は使わない。 這い、顔を擦りつけ、静かに掃除する。 テレビをつける。 砂嵐。 ただのノイズ。その中に、自分の輪郭があるような気がする。 点滅する白と黒――その間に閉じ込められているものを探す。 深夜、ベランダへ出る。 大雨の中、コンクリートに横たわる。 冷たい。雨が叩きつける。 古びた公衆便所に入る。 肺いっぱいに空気を吸い込む。 濁っていく内側。 深く、深く、呼吸する。 不協和音を流す。 旋律にならない音の渦。 その中で沈む。 音が輪郭を溶かしていく。 目は閉じない。 眠らない。 夢を見ないように、ただ横になる。 高らかに笑う。 嘲笑う。 狂人になりきれないことを笑った。 狂人のフリ。 これはただの演技。 何者にもなれない。 それならば、何も求めないほうがいい。 静かに目を伏せる。 世界は、ゆっくりと溶けていく。

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記録

彼は吸血鬼なんだ

私の彼氏は、普通じゃない。 食事をしない。 いや、できないんだ。 何を食べても喉を通らず、無理に飲み込めば、全部吐いてしまう。 彼の身体は、もう「食べる」という行為を受け付けてくれなくなった。 それでも、彼は生きている。 病院で処方された点滴と、定期的な輸血だけで。 だから私は、たまにこんな風に口にする。 「彼は吸血鬼なんだ」って。 もちろん冗談。でも、ちょっとだけ本気。 最初に血をあげたのは、彼が事故に遭った日。 あれは突然の出来事だった。 帰り道、信号を渡っていた彼に車が突っ込んできた。 病院のベッドの上で、医師から言われた。 「輸血が必要です。ご家族の方、適合するか検査を」 私は震えながら自分の腕を差し出した。 彼はそれで助かった。 それが、最初で最後。私が彼に血を“あげた”日。 それから彼は、食べ物を受け付けなくなった。 どれだけ時間が経っても回復せず、胃腸は機能不全を起こし、栄養はすべて点滴から。 でも、点滴だけでは足りない。 体は弱っていき、定期的に血を入れないと、貧血でふらふらになってしまう。 「なぁ…俺、吸血鬼みたいだよな」 彼は笑いながら言う。 私は笑ってうなずくけど、その笑顔はどこかぎこちない。 もう一緒に食事はできない。 誕生日ケーキを前に、彼はそれを見つめるだけ。 私が食べる姿を見ながら、嬉しそうに笑って、でも何も口にできない。 「これ、美味しいよ。甘さ控えめで」 「そっか、よかった。君が美味しそうに食べるの、好きなんだ」 彼の“栄養”は、私の血じゃない。 病院の血液センターから送られてくる、冷たくパックされた輸血用の血液。 味もしない。色も温度も、命の気配がない。 それでも、それでしか生きられない。 食べることができない人間なんて、想像したことがなかった。 味覚も、嗅覚も、噛む感覚も、すべて失ってしまった彼の前で、私は時々、罪悪感に襲われる。 「ごめんね」 何度もそう言う私に、彼は首を振る。 「生きてるだけで、十分だよ。こうして、君と話して、笑えて…それだけで、救われてるんだ」 彼は吸血鬼なんかじゃない。 ただ、食べられなくなってしまっただけ。 それでも生きようとしている。 それでも、生きてくれている。 私の手を、そっと握る彼の手は、あたたかかった。 ——だから。 私は今日も、彼の隣で普通のご飯を食べる。 その一口が、彼にとってはきっと「未来の味」だから。 彼がまた、少しでも食べられる日が来るように。 その日を、ずっと信じている。

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彼は吸血鬼なんだ

機関車

燃料を入れ込む。 走る。 止まる。 繰り返す。 また、燃料を入れ込む。 また、走る。 また、止まる。 俺は機関車だから。 明日もその次の日も。 繰り返す。 また、繰り返す。 変わらない日常を。 燃料が通りにくい。 動きが鈍い。 ギシギシ 止まる。 ガガガ 音を立てながら。 ゴッ 鈍い音がした。 俺は倒れた。 動かない。 ドクドク 頭が暖かい。 視界が暗くなる。 … 誰か 目を開ける。 白い天井が見える。 横を見ると母がいた。 長らく見ていなかった母の姿。 目があい、母は口元を押さえ泣いてしまった。 感情が湧き上がる。 俺は涙を堪えながら呟いた。 母さん。。 時は進み、 俺は退院した。 母の目は、何も言わずに俺を問いかけていた。 それでも俺は仕事を続けることにした。 その代わり、俺は実家に住むことにした。 目が覚める。 顔を洗う。 ネクタイを結ぶ。 食卓に向かい、母の握った塩おにぎりを食べる。 そして、職場へと向かう。 俺は、母の自慢の息子だから。

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機関車

目撃者

男と目が合った 男の目は恐ろしいほどに見開いている 横には死体がある 男はかなり汗をかいている 私を見ている 私は怖くて動けない 男の息が荒くなる 男が懐に手を伸ばし 何かを取り出そうとしているのを見た 心臓が跳ね上がる 死にたくない! 目を閉じて 男に思いっきり体当たりをする ゴツ! 鈍い音がした … 男はピクリとも動かない 『死んだ?』 震えた声が出た 殺してしまったというのに 不思議と安堵が先に来た ああ、さっきは本当に危なかった 『通報されるところだった』

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目撃者

ナイスラン

手に汗を握る どうやら緊張しているようだ だが覚悟はもう決めていた スタート直前の合図だ ああ、心臓がうるさい 周りの音が聞こえなくなる 来た スタートラインを思いっきり踏み超えた 短い時間がとてつもなく長く感じる この瞬間は紛れもない俺の人生のピークだった 涙と笑顔が溢れた ああ、 俺走り抜いたんだ 黄色いゴールラインを超えた   『黄色い線の後ろまでお下がり下さい』         ゴールをした俺に電車が勢いよくハイタッチをしに来た          ドン!

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ナイスラン

地獄

ピピピピピピピピピピピピピピピピ アラームを止める。 『ああ、また朝か。』 私は地獄を生きている。 隣人トラブル。社内でのいじめ。金銭的な限界。 心から返事がなくなった頃。 朝が来るたびに思う。 何のために私は生きているのか。 思えば、幼い頃も自分が何になりたいかなんて無かった。 ずっと社会の流れに身を委ねていた。 勧められて入った学校。勧められて入った会社。 この社会が悪い。この世界が悪い。 私は従っただけ。なぜこの地獄を生きなければならない。 最初で最後自分でやりたい事ができた。 『全部ぶっ壊してやる』 胸に高鳴りを覚える。 主張?デモ? そんな甘いものではない。 今から社会にとっての地獄。そして私にとっての天国をこの世界に実現させる。 沢山の場所で闇金に手を出して違法サイトで爆発物を買い漁る。 住宅、会社、政府、至る所に爆弾を仕掛けた。 協力者なんていない。いらない。 そして準備が整った。 今日は絶景を見るために都内のタワーの最上級チケットを買った。 そして時計が十時を指した。 エレベーターのドアが開く。 そこには腐った世界が広がっていた。 今からこれが絶景に変わると思うと笑みが溢れる。 そして時間になった。 手には起動できるスイッチが握られている。 拝啓腐った世界 さようなら 今までの痛みがスイッチを押す力に変わる そして 爆発が起こる 嫌いな奴らも 嫌いな会社も 嫌いな世界も 『ああ、何て綺麗なんだろう』 救済の光に包まれる 何も見えない 何も聞こえない 私はどこに行くのだろうか 地獄行き ピピピピピピピピピピピピピピピピ アラームを止める。

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地獄