びーだま
7 件の小説揺れるカーテン
クーラーの効いた涼しい家でしか過ごさなかったここ数年の間に、日本はこんなにも暑くなっていたのか それに気がついたのが今月の1日。 10年勤め上げた会社を自主退職し、田舎の実家へ引っ越してきたのが半月前。 実家の自分の部屋は 妹が勝手に物置にしていた。 もちろんブチ切れながら片付けさせた。 こんなに暑いにもかかわらず 部屋のクーラーを使うと 母から大目玉を食らう。 忘れていたわけではないけど、うちの母は昔からそうなのだ。 荷解きを8割ほど終わらせて限界を迎えた私は ベッドに勢い良く寝転ぶ。 動き回っているときには気づかなかったが 窓からとてもいい風が入ってきていた。 そうだ 私の部屋は この家で一番風通しがいいのだった。 この調子なら、夜には扇風機すら必要ないかも。 あんなに熱くて 毎日毎日クーラーをかけてた会社員時代 社内が涼しかった反面、何倍も 何十倍も 嫌な思いをし続けた。 実家の 自分の部屋の クソ暑い室内に流れ込む ぬるま湯みたいな風に当たりつつ あの頃に比べれば これも悪くないのかもな そんなことを思ったのは 8月も終わりかけの 秋の入り口だったからだろうか。 大きく揺れる新しいカーテンを眺めながら そんなことを考えてみて 残りのダンボールに肩を落としながら 荷解きの続きを始めた。
足音 2
※こちらの内容にはホラーの要素が含まれております。 全員が顔を見合わせる。 考えていることはおそらく同じだったはずなのに 誰も声を出せない。 これも なぜか。 足音が徐々に近づいて来ていることに気がついたからだ。 “ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……” 来ている、車の後ろまで。 後部座席の友人Bが息を殺している。 誰も動かない 動けない “ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……” 後ろから回り込むように 助手席側に足音が移動している。 重たい金属のドアを隔てているはずなのに 外には何もいないはずなのに ただただ 強烈な気配がする ここに【何か】がいる、と “ザッ……ザッ……ザッ……ザッ………” 少し音が遠ざかる。 良かった、行ったんだ。 あれは一体何だったのだろう。 胸をなでおろした、次の瞬間。 運転手の友人Aが とんでもなく慌てた様子でエンジンをかけ 車を急発進させた。 驚いて友人Bが 「急に出したら危ないでしょ!」 と、少し声を荒らげる。 ごもっともな意見だ。私もそう思った。 しかし 次の友人Aの言葉に 肌が一気に泡立った。 「あいつ、反対の後ろの席の前で止まった。 もう乗ってきたかもしれない」 ※この話は作者が体験した実話です。
足音 1
※こちらの内容にはホラーの要素が含まれております。 「全員仕事辞めたね」 「そうだね」 ドライブ中の車の中。 運転手の友人Aと、後部座席に友人B、そして助手席に私が座り 深夜の街中を宛もなくドライブしながら駄弁っていた。 「どこか寄る?」 友人Bの提案により より深い話をするために 一旦車をどこかに停める事にした。 訪れたのは、古い団地群。 小高い丘になっていて展望台もある。 地元では夜景スポットとして有名な場所だった。 道路脇に車を停めた私達は 仕事の愚痴やら同僚の愚痴やらで大変盛り上がり あっという間に時間を溶かしてしまい 気がつけば深夜の2時をまわっていた。 人は住んでいるようだが 古びた建物ばかりが並ぶ閑静な住宅街。 時間が時間なだけに、背中に少し寒気を感じた。 「そろそろ帰ろうか」 ひとしきり語らって満足した友人Aが、車のエンジンをかけようとした その時 “ザッ……ザッ………ザッ……ザッ………” 車の外に 人の気配 そして やたらと大きな足音が 確かに聞こえた。 シートベルトをつけようとしていた全員の動きが止まる。 いったいなぜか。 それは 足音が確かに 聞こえているのに 窓の外には誰の姿も見えないのだ。
残響
セミの声 鈴虫の音 扇風機の回る音 あちこちからいろんな音がして うるさいくらいのはずなのに ここにいない君の声だけが 耳の奥に残ってる。
メチル
凸凹のある特性(ADHD)持ちの視界は目まぐるしい。 自宅以外の場所はほぼ敵地なのだ。 外へ1歩踏み出せば 何をしていても人に監視されている感覚に陥る。 あ、あの人…私が髪を整えた瞬間に目があった。 髪色がおかしいと思われてる? あ、あの人…さっきもこのお店の中ですれ違った。 調味料ごときに優柔不断すぎだろって思われてる? “考えすぎ” そんなこと分かってる。それでも気になる あっちの人の目 こっちの人の目 私のまわりには 目が散っている。
残夢
なぜ夢は 夢であることに気づけないのだろう。 なぜ目が覚めてから それが夢だったと気づくのだろう。 気づかなければ 幸せなままで居られたのに。 今朝方まで見ていたあの幸せのひとときは いったいどんな内容だっただろうか。
夏休みが明けたら
隣の席の男子を好きになるなんて、ありきたり? そうかも。 風になびく柔らかそうな髪も 眠そうにあくびをする仕草も 授業中の息遣いさえ聞こえる距離。 きっかけなんてない。 いつの間にか惹かれていた。 ぜんぶぜんぶ大好き。 けど 夏休み前に連絡先を聞こうと思ってたのに できなかった。 バイト先がかぶるとか 街なかで偶然出会うとか そういうのはぜーんぶ小説や漫画の中のお話。 現実でそうなれるのは可愛くて積極的な女の子だけ。 私はそのどちらでもない。話しかける勇気さえない。 だから、変わりたい。 夏休みが明けたら 「おはよう」 から始めてみても 遅くないかもしれない。