花結
12 件の小説少年は大人になった。
一人の少年がいました。 その少年は、物心ついた時からとある学園にいました。 その学園は大きな壁で囲われており、少年は、その壁の外の世界を一切知りませんでした。 そして、おかしな事に、学園は自らを“悪”と名乗りました。 その少年は疑問を持ちました。 [ 学園が悪なら、正義とは何なのだろう。 ] 少年は師に問います。 「正義とは、一体何なのですか?」 師は答えます。 「正義なんてないのさ」 師の言葉に、少年はもっと分からなくなってしまいました。 やがて少年が青年に成長した頃、青年は外の世界へ旅に出ることを決心します。 正義を探す旅です。 学園の皆は猛反対しました。 度々外の世界へ出入りしている師も少年を引き止めました。 ですが青年の意思は固く、皆が寝静まる満月の夜に、青年は静かに旅立っていきました。 青年は学園の外に出ると、すぐさま絶句しました。 荒れ果てた自然。戦争をする愚か者達。 街では独裁政治が行われ、人々が騙し合い、奪い合い、哀しむ。 外の世界は、そういう場所だったのでした。 青年はとても後悔しました。 外の世界にとって、学園はまさに正体不明の異質な存在でした。 外の住民、また王でさえも学園の詳細を知りませんでした。 少しして、青年が学園にいたことが明るみになってしまいました。 青年は傭兵に捕まり、毎日のように、学園についての情報を吐かせるための拷問を受けました。 しかし、青年は何も答えませんでした。 [ 学園のことを教えれば、この世界のように壊されてしまう。] ある日、青年は傭兵に問いかけます。 「なぜ、こんなことをするのですか?」 傭兵は答えます。 「正義のためだ。」 青年はまた問います。 「正義とは何なのですか?」 傭兵は少し黙ってから、こう答えました。 「お国の為に働くことだ。」 青年は言います。 「こんなことが正義だなんて信じられない。」 傭兵は屈み、青年の目を見つめ、言いました。 「そうだ。それが正義だ。」 傭兵の左手の薬指にはめられた指輪だけが、黒ずみながらも輝いていました。 数年後、青年は牢獄から必死の思いで逃げ出しました。 薄暗い森にたどり着いたと同時に、疲労で眠ってしまいました。 青年は夢を見ました。 何もない、ただ真っ白な空間。 そこにはただひとりの少年が佇んでいました。 少年は青年に問います。 「何故そこまでして正義を知りたいの?」 青年は答えられず、俯きました。 続けて少年は言います。 「貴方はもう知っている。分かっているはずだ。」 青年は言い返しました。 「知らない、分からないから探しているんだ。」 少年は静かに言いました。 「正義なんて、ないんだよ。」 目が覚めると、青年は懐かしいベッドの上にいました。 そこはかつて青年のいた学園でした。 どうやら、師が森で薬草を採取している時、偶然青年を見つけて保護してくれたようでした。 皆、ボロボロになった青年を心配しました。 青年は目に涙を浮かべていました。 青年の容態が安定したとき、師は青年に問いました。 「旅はどうだったんだい?」 青年は苦笑しながら答えました。 「このとおり最悪でしたよ。」 師は言いました。 「君の言う正義は見つかったかい?」 青年は言いました。 「正義なんてものはありませんでした。 でも、僕は最後までこの学園を悪とは思えませんでしたよ。」 師は微笑んで言いました。 「見ない間に随分大きくなったね。 もう、君を青年と呼ぶことはできないようだ。」
恋愛の価値観
皆さんは将来、結婚したいですか。 私の場合、基本的には「いいえ」と答えます。 これから先、“猛烈に愛し合いたい”と思えるような方に出会わない限り、私は結婚したくありません。 私は惚れっぽい性格なので、今まで色んな方に恋に落ちました。 ですが“結婚したい”と思ってお付き合いをすることは、1度もありませんでした。 決して、男あそびがしたいわけでも、他人と淫らな行為をしたいわけでもありません。 というか、私は、今もこれからも、他人と淫らな行為をしたくないのです。 ストレートに言うとするなら、私は他人とセックスをせずに処女として生涯を終えたいのですよ。 少し、気持ち悪いと感じてしまうタチでございまして。 ああ、誤解しないでほしいのが、私は、そのような行為を仕事をする方々に対して、嫌悪の気持ちを持つことはありません。 ただ、“自分と他人がそのような行為をすること”を想像すると「気持ち悪い」と思ってしまうのです。 最初の話に戻しますね。 私の友人たちは、恋愛のゴール、つまり、付き合うことのゴールとして“結婚”や“淫らな行為をして心身ともに繋がること”を指すことが多いのです。 私は恋愛をしたくないわけではありません。 ですが、淫らな行為も結婚もしたくはない。 そんな私が、これから他人と付き合うとき。 その方が、もしも結婚や淫らな行為を目的に、私と付き合うのだとしたら、どちらが不誠実なのでしょうか。 付き合ってなお、相手を拒む私でしょうか。 それらの為だけに恋愛をする相手でしょうか。 どちらもでしょうか。 それとも、どちらでもないのでしょうか。 昔、知り合いに自分の恋愛観を話したところ、 「結婚する気がないのに、結婚したい相手の時間を奪うのは、少々無責任なのではないか。」 と、言われました。 納得できるような、あまり腑に落ちないような。 まあ、何が言いたいのかと申しますと。 皆それぞれの恋愛の価値観があります。 もし私の価値観とは異なる価値観であったとしても。 共感できないとしても。 どうか“どうせ理解できない”と拒むのではなく、理解できないながらも知ろうとして欲しいのです。 「たとえ共感できなくとも、理解したい。」 そう思って欲しいのです。 追記 もし宜しければ、皆さんの恋愛の価値観も教えてくださいね。
桜。
あの日、桜が綺麗に咲いてたね。 私は、その完璧な桜の枝を折って、あなたにあげようとしたの。 思っていたよりも簡単に折れたよ。 でも、いざあなたにあげようとしたら、できなかった。 風に舞う桜の花弁の中にはあなたがいて。 ついさっき、意図的に枝を折られた木だとは思えないほど、桜があまりにも綺麗に輝いていて。 私と萎れてしまった枝だけが、あなたのいる、この美しい世界から切り離されたみたいで。 惨めで、悲しくて、愛おしくて。 ただあなたに見惚れるだけで、私は何も出来なかったの。 いつか、この枝のように私の想いも。 もしかしたら、誰よりも優しいあなたは私を拒絶することすらできないのかな。 なんて、都合の良いことを考えてしまうんだ。 でも、どうせ叶わぬ恋ならば。 今だけは。 この愛おしい桜を、目に焼き付けていたい。
君と抱き枕
どうしても眠れない時は、抱き枕にハグをする。 抱き枕を君と思ってハグをする。 でも、きっと、君の体は抱き枕よりも心地よくて。 私は君にハグをしたことないくせに、ずっと満足できない。 これから先、私は君にハグなんて絶対できやしないのに。 ハグをする以前に、君に会うことすらできやしないのに。 毎晩、私は抱き枕を君と思ってハグをする。 せめて夢の中では、君にハグをし、笑っていたい。 抱き枕、私を君という夢で包み込んでおくれ。
栞
「何の花が好き?」と、私が聞いたときに あなたは“チューリップ”と答えたよね。 それから暫くして、栞を買ったの。 あなたが好きなチューリップの押し花の栞。 花の香り付きだった。 でも、花の香りなんて一切しなかったわ。 本の香りもしなかった。 代わりに、しないはずのあなたの香りがしたの。 あなたのいない寂しさを紛らわすために買ったはずだったのに。 もっと寂しくなったわ。
昔話。
私の話をさせてください。 本当に、とてつもなく馬鹿馬鹿しくてくだらない話。 長いですが、どうかお付き合いください。 私は昔、ものすごくナルシストだった。 勉強も運動もそこそこできて、自分のことが完璧だと思ってた。 まあ実際は、全くもってそんなことはなかったのだけど。 でも、私は1人だけ、あらゆる分野で絶対に勝てない相手がいた。 それが幼なじみだった。 彼女は学年トップレベルで頭が良く、運動も当然のようにできた。 それでいて人懐っこい性格で、みんなに好かれていた。 そんな彼女を私が敵対視するのは自然だった。 彼女が習い事を始めたものは、私も競うように参加した。 ピアノ、水泳、英会話。 いずれも私が彼女に勝てるものは1つもなく、全てやめた。 小学生5年生の時、親から彼女がバドミントンを習い始めるつもりだと言うことを聞いた。 だから私は、いつも通り彼女の真似をしてすぐに習い始めた。 予想外だったのは、彼女がバドミントンを習い始めるのが小学6年生になってからということだ。 だから彼女が習い始めるまで1年間、私は必死に練習した。 全ては彼女に勝つためだけに。 そしてついに、私は、バドミントンで彼女に勝つことができた。 彼女に勝つなんて初めてだった。 とてつもなく嬉しかった。 1年も歴の差があるのだから勝つことは当然だったのだが、彼女に勝つことだけを夢見ていた私は、それだけが全てだった。 だから私はバドミントンに執着した。 週に約3回のクラブ練習に自主練、大会など。 全てに全力を注いだ。 中学に上がる頃に彼女はクラブを辞め、代わりにバドミントン部に入部した。 私もバドミントン部に入部したが、クラブは辞めなかった。 彼女は中学生になっても成績は常に上位で、運動もでき、さらには男子たちの高嶺の花のような存在になっていた。 私はというと成績は下がり、運動も酷く出来なくなった。 それでも、私はほぼ毎日、バドミントンをひたすら練習した。 それが彼女に勝てる唯一だったからだ。 中学1年生のある日のいつもの部活の練習中、ふと、彼女の方を見た。 彼女は友達と談笑していた。 汗ひとつかかずに、涼しい笑顔で。 私はそこで初めて気づいた。 彼女は最初から本気ではなかったのだ。 今までの習い事も、バドミントンも、ただただ楽しんでいただけ。 私は、死ぬまで彼女に勝てないのだ。 その時期、私は治らない膝の怪我をしていた。 大会では負け続け、彼女に勝てるかも危うい状況。 拍手や歓声のプレッシャーで過呼吸になることも増えた。 怪我はその焦りからだった。 それは日常生活でもかなり痛く、辛かった。 でも彼女に勝つためだと思って耐えた。 でも、もうどうでも良くなった。 私は彼女に勝てるか危うい理由を、全てを、怪我のせいにした。 そうすればこのくだらない実力も、今までの馬鹿なことも隠せると思ったのだ。 部活は参加はしたものの、ずっと見学や談笑、つまりサボりを繰り返した。 そんな私を見かねてか、彼女は私に注意をしてきた。 「誰のせいでこうなったと思っているんだ。」 と、怒りが湧いたが自分の勝手な感情だと思い、堪えた。 その日以降、私はあからさまに彼女を避けた。 サボりを幾度となく繰り返しても、私のくだらないプライドは消えなかった。 だから後輩に負けた時、初めて泣いた。 当たり前だ。 くだらない理由でバドミントンから逃げている私と、純粋な気持ちでバドミントンを楽しんでいる後輩。 どちらが勝つかなんて分かりきっていた。 周りには泣いている理由を膝が痛むからと説明し、いつものおちゃらけた感じを取り繕ったが、悔しさと自分への怒りで涙が止まらなかった。 自分が惨めで、悔しくて、死にたくなった。 2年生になり先輩が引退する時期、新しい部長と副部長を私たちの代から決めた。 部長は優しくて人に教えるのに長けている部員。 副部長は幼なじみである彼女だった。 私は同学年の中では2番目にバドミントンが上手かったので、自分が選ばれるのではと少しだけ思っていたのだが。 私は、やはり、彼女には勝てない。 私の汚れた思いを周りに悟られぬよう、後輩や仲間にも“いつも怪我を誇張してサボっている不真面目なやつ”というキャラを取り繕った。 膝の怪我は、私のことを嘲笑うかのように本当に悪化していった。 バドミントンはできなくなってしまったが、部活には参加した。 後輩たちの拙いシャトルを追う姿を、瞳を、見るのが好きだったからだ。 羨ましい目で後輩たちを見る私自身が、とても惨めだった。 いっそのこと嫌ってみようかなとも思ったが、無理だった。 3年生になり、顧問が変わった。 熱血タイプの体育教師と、前からいたバドミントン好きな古臭い考えのおじいちゃん教師。 熱血教師は私の普段の態度を見て、私の怪我が嘘だと信じたらしかった。 熱血教師は私を更生させようとした。 足を使わないストレッチをしつこくやらせてきた。 おじいちゃん教師は理不尽の多い人だった。 「昔は〜」「だから女は、男は〜」と。 控えめに言って、私はふたりが大嫌いだった。 「何も知らないくせに。」と、何度も叫んでやりたかった。 なにしろ、あの人たちが顧問になってから、後輩や仲間が純粋に楽しむ表情が少なくなったのだ。 私はバドミントンを、顧問を、部活をより嫌った。 でも部活にはできるだけ参加した。 みんなの瞳が好きだったから。 少しして、1年生が大量に入部してきた。 体育館には4コートしかないため、1年生は先輩に譲る形で、主に外で練習した。 大会前なこともあり、みんな1年生には時間を割きたくないようで、顧問や部長は練習内容を伝えたらすぐに体育館へ戻った。 私は練習ができない代わりに、率先してひとりだけで1年生の指導をした。 ほぼ全員がバドミントン未経験者。 本来なら自分たちの待遇に不満が生まれるはずなのだが、何も知らない1年生たちは素直だった。 やはり、私はその純粋な瞳が好きだった。 だから全力で指導した。 もしかしたら嫌われているかもしれない。 でも、私のように汚れた感情で動いて欲しくなくて、一人ひとりに向き合った。 まあ、これも私のくだらないエゴなのだが。 私たちは受験期になり、引退式があった。 引退式でも、私は不真面目な部員を演じた。 3年生が一言ずつ言う場面では「私は沢山サボったから、あなたたちはこんな風にはならないでね。」と、冗談交じりに言った。 でも、結構本心だった。 顧問たちは終始眉をひそめていたが、私は、わざと顧問の目を見ようとしなかった。 でも心の中では「私はお前たちの思い通りにはならなかったよ。ざまあみろ。」と、ずっと嘲笑っていた。 きっと、彼女はそんな私を冷めた目で見ていたのであろう。 そして私たちは部活を引退した。 5年間やったクラブもやめた。 だからもう1、2年生との関わりもなくなった。 (引退後の夏祭りで後輩たちと偶然出会い、一緒に周り、その内のひとりの男子からアプローチを受けたりと様々なことがあったのだが、それはまた機会があれば。) 部活やクラブを引退し、バドミントンをしなくなると、虚無感に襲われる日々が続いた。 バドミントンを辞めてから、私は彼女と以前よりも仲良くなった。 私は今までのことは何も無かったかのように接した。 彼女も今まで通りに接してくれた。 もう、私は彼女に執着しなくなった。 バドミントンを彼女のように楽しみたかった。 でもできなかった。 くだらないプライドのせいで、いつの間にかバドミントンが大嫌いになってしまった。 もう、バドミントンは体育の授業で取り扱う程度しかやらなくなった。 本気でやっていないはずなのに、先日、バドミントンの授業で過呼吸になりかけてしまった。 頑張って耐えたものの、手や足の震えが止まらなかった。 異常だと感じ取った友達が心配してくれたが、私は以前と同じように笑ってはぐらかした。 まだ私には、あのくだらないプライドが残っているのだ。 いつになれば、純粋な気持ちでバドミントンを楽しめるのだろう。 私はいつまでこんなものに縛られ続けるのだろう。 勝手に燃えて、燃え尽きた馬鹿な女。 永遠にそれが私なのだ。 本当に、馬鹿な女なのだ。 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 ちなみに、私はバドミントンをする選択をしたことを後悔していません。 たしかに、バドミントンを本当の意味では好きになれませんでしたが、バドミントンを通じて繋がった人たちの縁は、たしかにかけがえのないものなのです。 なんだか全然まとまらない最後になってしまいますね。 これを書いている最中に、何度も何度も、自分が惨めで泣きそうになりました。 感情のままにこれまでの文章を書いてしまったので、きっと分かりづらい箇所も多々あると思います。 ごめんなさい。 ですが、これを書くことができて本当によかったです。 馬鹿な女の話に最後まで付き合っていただき、本当に、本当にありがとうございました。
第一章「ある男。」
いつもの通勤路の曲がり角。そこにそのカフェはある。 周りの都会感とはかけ離れた、温かみのある、小さなログハウス。 そこを通る度に、自分の煙草の匂いが香ばしいコーヒーの匂いでかき消される。 コーヒーは苦くて飲めないが、それが不思議と心地よかった。 私がその店だけがもつ雰囲気に魅了されたのは、約3か月前だ。 ある日の朝、大寝坊をした挙句に通り雨に襲われた私は、全てを諦めて会社に休みの電話を入れた。 その時、目の前の店の存在に気づいた。 雨の湿気さを感じない、焼きたてのパンの匂いとコーヒーの香りが、朝ご飯を食べ損ねた私の胃を刺激させた。 私は何も考えずに店に入った。 チリンっ。 扉に付いていた鈴の音に不意に驚いてしまった。 「いらっしゃいませ。」 美しい女性の店員がひとり、私のことを待っていたかのようにタオルを差し出した。 それが彼女、近藤 梓(あずさ)との出会いだった。
銃声
たまに拍手が怖い。 バドミントンの公式試合。 ラリーが終わるごとに、拍手が上の応援席から聞こえる。 相手の席からも、私の席からも。 失点したことを、相手が、こっちが嘲笑っているのか、はたまた仲間を激励しているのか、プレーに感心しているのか。 私には分からない。 でも、それが混ざった拍手の音が怖い。 拍手がまるで銃声みたいで、身体を撃ち抜いてるみたいで。 拍手を聞いて、試合中に過呼吸になることもあった。 たまに拍手を綺麗だという人もいる。 たしかに、あの中には純粋な意味の拍手もあるのだろう。 私もその意味の拍手をしたことは何回もある。 というか、日常生活の中での拍手は怖くない。 あの広く閉鎖的な空間で、独りで聞く拍手だけが怖い。 とてつもなく怖い。 シャトルを追おうとしても、視界が涙で滲む。 これをとれなかったら、また、あの銃声が鳴り響く。 なのに足がすくむ。震える。 見えない。呼吸ができない。もう聞きたくない。 拍手に埋もれているはずの励ましの言葉も聞こえない。 誰も助けてなんてくれない。
それでも書いて、
書いて、書いて、書き直して。 伝えたいことは決まっている。 それを言葉にすると、どんどん捻って捻れまくって。 結果的に本当に伝えたいことが分からなくなっていく。 「何て書こうとしたんだっけ。」 としばしば思う。 何と表せば良いのか、何に言い換えれば良いのか。 どんどん分からなくなって「もういっか」と匙を投げてしまう。 伝えたかったこと。 その意味がなくなってしまう。 でも、人々は伝えようとする。 本当に伝えたいことは伝わらないかもしれないのに。 違う意味として伝わってしまうかもしれないのに。 場合によっては非難されてしまうかもしれないのに。 人々は諦めない。 私も諦めない。 諦めるつもりはない。 伝えようとすることに、意味があるのだ。 たとえ、伝わらなくても。 それでも、それでも。
嘘だよ。
意味のない嘘って愛だと思うの。 なにそれ、急に。意味わかんない。 そう? あなたが1番わかってると思うのだけど。 なんで。 だって、あなた泣いてるでしょう。 泣いてない。 いいえ泣いてるわ。 それを言うならあなただって泣いてる。 違うわよ。 もうにっこにこよ。 笑顔どころか、涙でぐちゃぐちゃになってるよ。 そんなことないわ。 嘘だね。 彼女は涙を拭き取らずに微笑んだ。 ほらぁ。 ね、愛でしょ?