新規ユーザー

2 件の小説

新規ユーザー

Fusion

肘から下の神経を慎重に繋ぎ合わせると銀色の5本の指は自分の意志と反する事なく動かすことができた。 但し料金を安く済ませるため肌色の皮膚や熱い冷たいなどの不用な感覚や見た目の問題は無視することにした。 代わりと言ってはなんだが握力は200kgまで握ることができ硬質な素材でできているため拳を叩き込めば木材ぐらいは粉々に粉砕することができる。 少し前までは人間と同じような動きができるAIロボットを低コストで量産することを目標にしていたが、技術の著しい向上により、人間とAIを融合する方が合理的でありその他の問題例えばAIに人間が仕事を奪われるというような心配はいらなくなった。 そして私のように体の部位なども少しずつ機械化して行く方が合理的であるという考え方が浸透してきている。 結局、人間であるということは自分が自分であると認識できるかどうかということだったのかもしれない。 いくら感情というものがあっても他人と自分の区別がつかないようでは話しにならないからだ。 昔はロボットというと空を飛べたり指からミサイルを発射することまで想像されていたが実際にはそんな必要は全くなく人間が生活する上で何かを選択する時にその解決策をいくつか自分で考える訳だがその際のどの案が最善かAIが示してくれればいいだけなのだ。 人間はいくら年月を経て体験する事で得た事柄を少しずつ忘れてしまうが、AIと融合する事で映像としてもデータ蓄積ができるのだ。 人間とAIが融合しているおかげでカーナビのようにAIにその都度、指示をされる訳じゃないので自分で考えているように思えるのが受け入れられている一番の理由かもしれない。 更に言語というものが人の脳とAIが融合しているおかげで壁となることがなくなった。 実は人間よりAIの方が柔軟で文化や人種や性別はただ認識に過ぎないのだ。 しかし、今問題となるであろうと考えられている事がある。 国や宗教など隔てるものがなくなり全てが尊重される世界には何が残るんだろうと。

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屋上

先生が弾いているピアノの音が聴こえている学校の屋上に僕はいる。 目を閉じると鍵盤を弾く滑らかな先生の指が浮かんだ。 授業ではこの曲を教えてもらった事はないが、ショパンの幻想即興曲だと先生は言っていた。 先生はこの曲が1番好きだと言っていたがそれは僕も同じだ。 と言ってもこの曲以外に僕は知らない。 目を開けると秋の空は筋の様な雲が風にゆっくりと流されている。 先生はどんな気分でどんな感情でこの曲を弾いているんだろう? 一度先生に聞いてみたことがある。 秘密としか先生は言わなかった。 秘密と言った先生の表情は不思議とその瞬間にだけ 自分と同級生の女の子のように感じられた。 先生の、秘密なんてたいした事ないでしょ、ケチだな教えろよ。 先生はすぐ答えずもったいぶってるみたいに僕の目を覗き込みながら、「やだ」と言った。 僕は先生の頭を小突きたい衝動に駆られたが 先生がピアノでショパンを弾いてる時、俺は学校の何処で必ず聴いてるからどんな気分で弾いてもいいから失敗するなよ、と言った。 もしかしたら、先生は今、僕が聴いているのを意識していてくれるのかもしれない。 そう思いまた目を閉じると僕は自分が微笑んでいるのが分かった。

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