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病み6割、性癖2割、フィクション2割で投稿してます。

ナポリタンを食べに

先代から引き継いで二十年続けた、私の喫茶店は、今日、最後のお客を見送った。 この二十年、世界は便利や手軽さを追求して、私の喫茶店はその逆風に抗いきれず終わりにすることになった。 誰もいなくなった店内、もう二度とここに新たにお客様が入ることはない。そう考えた途端、悔しさと惨めさで少し座り込んだ みんな、ありがとう。って去って行った。 はたして、私は誰かに何かをできたのだろうか。 窓から小さな光が差し込む 窓際の席、あの席だけが少しだけ光が刺して、僕は何となくあの頃のように席に腰掛けた。 席に座った瞬間、酷い眠気に襲われてそのまま意識を失った。 「なにこれ、綺麗な時計〜 落とし物かな......?      おっ、起きた」 「......ん?」 「いっぱい寝たね〜期末テスト、しんどかったよね〜」 「期末......テスト......」 眠たい目を擦って顔を上げる、賑やかな店内、制服姿の僕と制服姿の彼女、クリームソーダを啜る彼女が僕を覗き込んでいた 「まだ寝てる?いいよ。」 「いや、大丈夫......」 「そう?無理しすぎないでね〜君、期末前凄く追い込んでたんだから〜」 「はは、、」 何だか、懐かしい夢だな。まだ賑やかな店内、ほのかに香るナポリタンの匂い、彼女の笑顔。 きっと神様がくれたささやかなご褒美みたいなものなのだろう。 「ほら、私のクリームソーダ飲む?」 「いや、いいよ。レモンティー注文するから」 「ふ〜ん    あっ、ねぇ、進路決めた?」 「ん?進路?」 「ほら、君だけまだ出してないでしょ?進路調査票。館山キレてたよ〜」 「はは、進路ね〜 まぁ、なるように......」 少しだけ、思い出した。ほろ苦い思い出。 「進路、早く決めておかないと、呼び出しだよ〜怒られるよ〜」 「いいよ、怒られたって、進路なんて決めたって......」 それ以上は、口から出したくなかった。進路なんて決めたってうまく行きはしない。それは大人の苦しみだ。高校生ならまだ、夢を見ていてほしい。 「困るよ、君が怒られたら......」 「ん?」 「女子高生!一人で喫茶店なんて入れないって!」 「あ〜、はいはい、なら他の友達とか......」 そう言うと彼女は頬をぷっくり膨らませて僕を睨んだ 「......やだ......」 「ん?」 「君とじゃなきゃ、やだ。    この喫茶店は、君とじゃなきゃやだ。」 「......うん。」 「卒業しても、またここで二人でクリームソーダ飲みたいな〜大人になったらナポリタン食べてみたい!」 「いや、今でも食べれるでしょ!」 「今食べたら夜ご飯食べれなくなる〜」 「はは、そうだね〜」 「だから、大人になってもまたこの席で付き合って!」 「うん。大人になってもね!」 「そう......か......」 ずいぶん濃い夢だった、少しまだ目を覚ましたくない、そういえば、結局彼女はナポリタンを食べに来なかったな。 「おっ、起きた」 「ん?」 僕以外いないはずの店内、その一言で、誰の声なのかわかった、しかし、そんなはずはないと恐る恐る僕は顔を上げた 「まだ寝てる?いいよ。疲れたもんね。」 彼女は、あの頃よりも少し痩せていて肌も少しやつれている。でも、間違いなく彼女だ。 「どう......して......」 「いや〜喫茶店終わるってたまたま聞いてさ〜その〜返し忘れを返しに?」 彼女は照れくさそうに頬を掻く 「返し忘れ?」 「その〜......時計......学生時代にここで拾って返しそびれちゃってずっと持ってたから......」 そう言って彼女が差し出した時計はよく見ると見覚えがあった。 「あっ!これマスターの!」 「えっ!あの白髭おじいちゃんの?!」 白髭おじいちゃんって、彼女はそういえばマスターのことをそんなふうに呼んでいたことを思い出して笑えた 「ありゃ〜ずいぶん悪いことしたね〜マスターまだいる?」 「いや、十年前に亡くなったよ。だから今日まで僕がここの店主だったんだから。」 マスターが亡くなったこと、きっと彼女は知っているだろう。多分返すタイミングを見失って、でも返さないとモヤモヤしてこんな時間に来てしまう。全部彼女らしいなって思えた。 「そっか〜二十年、長かったね〜」 「えっ、あ〜うん。長かった......ね。二十年で、おしまいにしてしまった。」 真っ暗な店内で、思わず口を出た言葉に自分で泣きそうになってしまった。 「うんうん。君は凄く頑張った。誰にも責められないくらい。立派だったよ。本当にお疲れ様。」 学生時代より柔らかくなった彼女の笑顔、僕は堪えきれずに涙を流した。 「今はゆっくり休んでいいんだよ。君は充分やりきったよ」 僕が情けないくらい泣いている間、彼女はずっと僕の頭を撫でてくれた。 「そう言えば、お腹すいたね?」 「夜ご飯食べてないの?」 「昼もまだだよ〜」 「......じゃあ、ナポリタン作るね」 「やった〜! もう、ママに怒られないからね〜」 「だね、大人になったね。」 作り慣れたナポリタンを皿に盛り付けて、彼女の前に運ぶと、あの頃のように無邪気にかぶりついた 彼女は笑顔で凄まじい勢いでナポリタンを食べきった。 「君のナポリタン、本当に美味しかった〜。ありがとう。!」 「うん、こちらこそありがとう。」 「......これっ、これからも......君のナポリタンが食べたいな......私の為に、毎日作ってよ......」 照れくさそうに頬を真っ赤にしてそう言う彼女、これが逆プロポーズだって気づくのに少しだけ時間がかかった 「えっ、あ、その」 「君のナポリタン。これからもずっと食べたいな。」 「......うん。これからは君のためだけのナポリタンを作るよ。」 僕の喫茶店最後のメニューは、僕たちの最初のメニューに生まれ変わった。

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ナポリタンを食べに

くじ運の人生

「海底からでも空を見るのを諦めてはならない?何それ?」 「おみくじ?」 「うん、   はぁ〜私、くじ運ずっと悪いんだよね」 「えっ?どうして?」 小夜は可奈が右手に大吉のおみくじを持ちながらそんな話をし始めて、不思議だった。 「ほら、私、どんな男とも半年以上続かないでしょ?」 「は、はぁ?」 「それにさ〜、奨学金借りてるし、先月大学除籍になったし」 「くじ運に関係ある?」 「全部、ガチャ外しちゃったからだよ〜。ガチャ運悪いくせに、こんな初詣のおみくじだけ大吉でも全然嬉しくない〜」 「は、はぁはぁ〜」 「小夜は? 小吉?! まぁ、小夜はガチャ当ててるもんね〜」 「そ、そう、かな......?」 確かに私は奨学金も借りていないし、あと三か月で大学を卒業して、同時に今の彼と籍を入れる。しかしどうやら、私は友達ガチャを外したらしい。

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くじ運の人生

お酒はまずいから

今日は、ハイボールも日本酒も全部まずくて、まずいお酒は僕を普段の何倍も酔っぱらわせて、気が付いたら見知らぬ田舎の駅で駅員さんに起こされていた 「この電車に乗ればまだ新宿まで行けますから、あと十分で出発なので気を付けてくださいね」 アルコールが酷く回って、頭がぐらぐらして、駅員さんの言葉がよく聞こえなかった とにかく、この電車に乗ればいいのか 今が何時なのか、よくわからない。 田舎といっても新宿から一本の場所だ、この電車に乗れなくとも、どうにかなるだろう しかし、夜の田舎駅は冷たい風が吹き抜ける、さっきまでの頭痛も二日酔いもみるみる収まって、体中のあらゆる感覚が鮮明になるのがわかる しばらくベンチで風にあたって、駅のアナウンスが電車の発車時刻を呼びかける までうまく力が入らない足に、無理やり力を込めて立ち上がると、反動で少し立ち眩みをして、目の前を通り過ぎようとした人とぶつかってしまった 「あ、すみません」 「いえ、」 駅の発車ベルが鳴った、電車は今にも扉を閉めようとしている 「紗枝尻 京子?」 先ほどぶつかった女性のカバンから落ちた古びた手紙をひり上げて、僕は思わず手紙に書かれた名前を口に出した 「.......えっ?」 すると先ほどぶつかった女性が電車に急ぐ足を止めて振り返った その瞬間、電車の扉が閉まり、先頭車両の車掌がこちらを呆れたように睨みつけながら電車は音を立てて動き出した 「あっ!」 「あ~......」 二人で思わず声を出して自分たちを置き去りにした電車を見送ると、さっきまで無表情だった女性は僕に怒りを隠しきれないように睨みつけた 「次の電車、待てば......」 「今のが終電です!」 お互いに初対面にしては何ラリーか飛ばした会話から始まり、普段なら人見知りで言葉が出ないはずなのに、お酒のおかげかなんの躊躇いなく会話できている自分に驚いた 「えっ、じゃあ、タクシー......」 「来ないですよ、道路ないですから」 「えっ、ここ.......」 「群馬です。酔っぱらって寝過ごしたにしては運が悪いですね、小田急ならましだったのに」 「えっ、さすがに漫画喫茶くらい......」 「ないですよ、ここ、群馬県なので」 .......群馬県、どんだけ田舎なんだよ 「え、じゃあ......」 「ここで、始発まで待ちです」 「え、駅の外は.......」 「駅の中のほうが安全です、クマが出ますから」 「おぉ......」 「はぁ~.......終電逃し史上最悪の駅なんです、群馬大霊園前駅は!」 「え?霊園?!お墓?!」 「はい、駅の外出ればクマと霊が沢山いますよ」 「.......なんてとこに......」 「これで分かりました?貴方が犯した罪の重さが」 「.......無事帰れたら、何か御馳走します」 「.......まぁ、と言ってもクマはそうそう駅には来ませんし、霊も悪い霊ばかりってこともないですから」 「はぁ、」 「この際なので、始発までお話しませんか?沈黙だとクマ来ちゃうので」 「ぜひぜひ!」 クマが怖いのはもちろんだが、手書きフォントの映画みたいな現状にドキドキする自分がいた 「どうして、こんなとこに?」 二人並んで駅のホームに腰を掛け、彼女から切り出した 「いえ、お酒を飲みすぎてしまって」 「それはわかります。じゃなくて、どうしてそんなにも酔ってしまったのですかっ?て見かけ的に、お酒好きそうじゃないから」 「見かけで分かるんですね、凄いですね。そうです。お酒得意じゃないんですけど、今日はお酒が飲みたい夜で、もう半年は飲んでいなかったので、物凄く酔いました、、、」 「お酒はダメですよ、特に外で飲むなら。おかげで帰れなくなっちゃいましたから。」 「はは、それは本当に申し訳ないです」 「いえいえ、もう怒ってません、怒っても電車はきませんから」 「はは。本当に、帰れたらご飯おごらせていただきます」 「ふふ、楽しみのしてます」 「それであなたは?どうしてこんな時間に?」 「.....お墓詣りです。忙しくて、こんな時間になっちゃったけど」 「まぁ、霊園前ですから、僕みたいにバカしなきゃお墓詣りですよね」 「でも......少し、あなたのバカに感謝しているんです。今日は、まだ何となく帰りたくなくって」 「帰りたくない?」 「なんか、まだ帰れれないなって思っていたので、本当に帰れなくてなんか納得しちゃいました」 「でも、さすがに始発までには帰りたくって仕方なくなってそうですけど」 「ふふ、そうですね、余韻とかの時間ではないですかね」 「お墓詣りって、家族とかですか?」 「......」 「言いたくないことでしたよね、ごめんなさい......」 「.......わたっーーーー」 [グウウォウ!!!] 彼女の言葉をかき消すように、野生そのもののような鳴き声がして一気に空気が凍り付いた 「.......今のって.....」 「クマですね.......」 小声で話した後、背後の気配が完全に消え去るまで、二人で口を押さえて息を殺した 「もう、行きましたかね?」 「さすがに.......大丈夫かな......」 その瞬間、張り詰めた糸がほどけるように彼女は大きく息を吸った 「こ、怖かったですね......」 「ですね、まさか本当にいるとは」 怖かった、そういう彼女はを平静を装い切れていないのがわかる、息を殺していた数分間、彼女は異常なまでに震えていた 「クマ、苦手ですか?」 「......苦手、ですね。」 「ま、まぁ、得意な人なんていませんよね~」 「.......私、クマに襲われたことが合って、人より苦手なんです」 「それは......」 「すいません、こんな話せれても困りますよね」 「いえ......守れるかわからないですけど、いざとなったら僕を身代わりにでも.......」 「それは嫌!」 「えっ.......」 「すいません、つい......」 そうか。 「そういえば、旧姓、紗枝尻だったね、京子。」 僕が京子の名前を読んだ瞬間、さっきまで怯えていた京子は顔を上げて瞳に光を戻した。 「そうか、君はもう......」 「覚えてくれていたんですね、もう何年もいらっしゃらなかったから、とっくに私のことなんてわすれているのかと」 「君のことを忘れたことは一度だってないよ。僕は今日、この瞬間まで......君を探していた。」 「......そっか、忘れたんじゃなかったんだ、よかった」 「ごめん、君の名字を貰っておいて、クマから守ることすらできない男で.......」 「貴方は悪くない。ただ私の運が悪かっただけ。でもよかった。見つけてくれて」 「たまたまだけどね、京子は、ここに?」 「母が手配してくれた。母はあなたのこと認めてなかったから何も言わなかったのでしょうね」 「......よかった、ちゃんとお墓に君がいて、山奥に一人ボッチじゃなくて、君は寂しがりやだから。」 「前よりは一人もなれたわよ。でも、.......寂しかったですよ」 「ごめん、遅くなって」 「うんうん、私こそごめんなさい、あなたがお酒飲めないのに、親戚の会に行かせて」 「......やっぱり、お酒はダメだね」 「ですね、来年、今度は家で飲みましょう。それまではお酒飲まないでくださいね」 「あたりまえさ、君と一緒でないとお酒はまずいから」 「それじゃあ、また来年」 「それじゃあ、また」 京子は手を振って風に流され優しく消えた 京子が帰った駅に朝日が差し込む 僕は涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いて、始発電車に乗り込んだ

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お酒はまずいから

どうせまた、地球は滅亡したりなんてしないけど

「もう会えないかもだから、今から会えない?」 三年前に別れた元カノからラインが入って、少し不吉な文面せいで、僕は急いで家を出た 彼女は、あの頃二人でよく街を眺めた、公園のベンチで待つと 午前2時 約束のベンチに向かうと、少し肩を丸めて小刻みに震える彼女がいた。 「こんな夜中にどうしたの?」 背後から呼びかけると、びっくりするくらい血の気が引いて、少し青ざめた顔の彼女が振り返った 「ちっ地球......終わるから......」 「ん?なんて?」 お化けかと思うくらい真っ青な彼女は、僕が近づくなり、僕の上着の袖を目一杯に掴んだ 「あと!二時間で地球終わる......」 「あと二時間......あっ!」 そこでようやく思い出した。そういえば今日の、4時十何分かに、なんかの予言があるとか聞いたな、と。 僕はそういうの、アホらしいと気にしていなかったけれど、そういえば彼女はそういう予言とか芸能人の不倫とか、一か月も経てばみんな忘れているような話題が好きだったな、と。 「そっか、今回はノストラダムス?だっけ?ババ・ヴァンガ?」 「うんうん......たつき諒」 また知らない名前だ、相変わらず陰謀界隈は色んな人が出てくるな...... 「で?地球終わるの?隕石?噴火?」 「うんうん......地震......」 地震で地球は終わらせられないだろ。本当に飽きないな 「で?地震が来るならなんでこんなとこに?もっと安全なとこに逃げたら?」 「地球終わるから。逃げても無駄......」 絶対捕まえる死神かよ。 「そうか、地球終わるのか〜。なら、今回は不安にならなくてもいいんじゃない?」 「えっ?!どうして?」 「だって、地球終わるんでしょ?ならそれを悲しむ人も語る人もいないんじゃない?滅亡なんだから」 「えっ?」 「ほら、未曾有の災害とかならさ?それで生き残ったら、失ったものとか命が悲しいし辛いじゃない?でも、滅亡ならみんなが全部失うんだから、自分も誰も悲しまないじゃん?」 「......理屈っぽいね」 「あっ、ごめん」 「でも、よくわかんないけど、震えはなくなった。ありがとう」 「なら、よかった」 「そうだね。どうせ滅亡して、誰も悲しまないんなら......今、この景色を見ていよう。なくなってしまって、その先どうなるかわからないけど、忘れないように」 そう言って彼女は僕の手を握りしめた。 「誰も悲しまなくても、滅亡したら君とは手を繋げないから。つないでおくね」 僕らはお互いに寄りかかりながら、手を握って街を眺めた...... 朝日が眩しくて目が覚めた。 「うっ......」 「ん?!」 「滅亡、しなかったね!」 その日、予言の時間が終わっても、僕らは手を繋いでいた。 結局その日もその次の月も地球は滅亡しなかった。 僕は陰謀論とか予言とかはあまり好きじゃない。無駄に人を不安にさせるだけであまり楽しくないから。 でも今日は、少しだけ滅亡予言に感謝をした。

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どうせまた、地球は滅亡したりなんてしないけど

私、かわいそう?

小学生時代、私だけ長袖の体操服を買ってもらえなくて、真冬の体育を半そでで受けていた それを見たクラスメイトが、「かわいそ~」と、私を笑った それがどうしてか、私には心地よくて そうか、私はかわいそうな子なんだ.......その感情だけ、みんながかわいそうと私を見るその視線だけが、枯れきった私の心を潤してくれた。 朝、目が覚めると、真っ先に、SNSをくまなくチェックする 性別も年齢も職歴も、別々のアカウントで、寝ている間に起きた、あらうる出来事を収集する そうして、あらかた集めきると、今度は発信側に回る 三十代男性無職のアカウントで仕入れた情報を、二十代女性会社員のアカウントで、四十代女性専業主婦のアカウントで仕入れた情報を、三十代男性起業家のアカウントで、それぞれ拡大解釈と少々のヒステリックを織り交ぜて、全て、被害者としてつぶやく そのあとは、xでバズっていた投稿を、海外のアカウントで、スレッズに手直しを加えて、英語で投稿する それが終わるとそろそろ........きた。 先ほど、二十代会社員のアカウントで投稿した、女性専用車両に座っていたら、気持ち悪い男がいきなり座って来て、あまりの臭さに電車を降りた、という投稿がばずった 本当は電車なんて乗っていないし、添付した画像も、仕入れた情報元のアカウントのほかの写真から、aiで生成したものだ 仕入れ元の投稿なんて、寂しい無職が、電車に乗ったら、満員電車で自分の隣だけ開いていた。そんな一文でしかない。 あぁ.......きた。 {本当に最悪ですね..... 男ってこれだから...... 風呂ぐらいはいいってほしいです...... あぁ........それは........      かわいそう} その後も、続々と私の投稿がバズる 引用同士の喧嘩や、リプライにぶら下がるゾンビ、正義ぶってお気持ち表明するアカウント、すべてが私の心を満たす道具でしかない さぁ、もっと、もっと、私を満たして 今、私が世界で一番かわいそう。 あぁ......幸せ ある朝、それは突然だった いつものように、情報収集をして、投稿を済ませても一向に、バズらない 通信障害が起きてるなんて情報はなかったし、.......何かがおかしい 慌ててスマホを開いて、Wi-Fiを切ってゲストアカウントでxを開いた....... そこには、私が持つ全部のアカウントがさらされて、中身が一人だとさらされていた 私は急いで、すべてのアカウントを削除して、布団にくるまった それから何度試しても、ダメだった アカウント一つ作るたびに、必ず過去のスクショが張られる 何が原因なのか、さっぱりわからない Wi-Fiも切った。メアドもパソコンもスマホも、全部変えた 遂には家賃を落として別のマンションに引っ越した それでも、私のオアシスは戻ってこなかった もう、限界だった。 一向に潤うことがない心 慣れた手つきで、自分で散らかした部屋を掃除しているとき、ふと、終わりにしようベランダに向かった カーテンを開けて、ベランダに足を踏み入れた瞬間、部屋の下、外に広がる道路に、男が一人、カメラを構えて立っていた 私と目が合った瞬間、男は無様にしりもちをついて逃げ出した 「あいつだ」 その瞬間、私の頭はアイツを殺すことでいっぱいになった 台所の包丁を手に取り、玄関を勢いよく飛び出す 野生の感なのか、第六感なのか知らないけど、私はすぐにアイツを見つけた この男.......デブで臭いキモ豚が私の幸せを壊した。許さない 私は逃げ惑う男を、追いかけすぐに捕まえ、男に口を開かせる間もなく包丁を突き刺した 男肉体を、包丁で突き刺した瞬間、もう何年も味わっていないあの快楽が私の体を駆け巡った 「あぁ......空が気持ちい......」 ぽっけに入っていた携帯を取り出しライブ配信を始める 男に肉体と、私 コメント欄は、いつも通りのインターネット 「ねぇ.......どう?   私ーーーー 可愛そう? 」 背後から物凄い力で、取り押さえられる 私が殺した男の顔は、思っていたより豚ではなかった けれど、仕方ないよね。 私のほうがかわいそうだもの 事件は、解明されんかった 犯人の女性は、一度の事情聴取も受けることなく自殺した 警察がいくら調べても、犯人と被害者の接点は見当たらなかった 被害者はその日、青空の写真を空がきれいだと文を添えて投稿していた

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私、かわいそう?

人が死ぬには短い階段

母は、「あなたの為」が口癖の人間だった そんなことを言っておいて、本当は問題にならいよう、迷惑にならないようにしか、私を育てないでいた 母は、結局一度も、私を見てなんてくれなかった 母の代わりに、私を見ていたのは、上の部屋に住む、紗枝ちゃんだった 紗枝ちゃんは、私より五つ上で、よく私が一人でいるのを見かけて、話しかけてくれた よくパンを買ってくれたり、私が泥だらけだと、シャワーを貸してくれた よく、紗枝ちゃんは言っていた 「私たち、いつか幸せになろうね」って 紗枝ちゃんを、階段から突き飛ばしたのは、私が中学に上がるころだった 気が付いてしまった 紗枝ちゃんは、私を愛していたんじゃなかった 私が少し元気になると、紗枝ちゃんは悲しい顔をする、私の体の痣が薄くなると、バレないように私を転ばせる 紗枝ちゃんが愛していたのは、自分よりもかわいそうな子を愛する自分自身だった 可愛そうな出ない私は、紗枝ちゃんは嫌いだった 紗枝ちゃんを階段の上から見下ろした時、最後の紗枝ちゃんの顔は、かわいそうだった 紗枝ちゃんの死体は、事故でかたずけられた 母も、紗枝ちゃんの家族も私が殺したことなんて知らない しばらく毎朝ゴミ捨て場にいるおばさんたちに、意味のない慰めを聞かされたけれど、イケメン俳優の不倫か何かで、もう誰も紗枝ちゃんの名前を口にしなくなった 紗枝ちゃんを突き飛ばしたことを結局、誰にも言わないまま、気が付けば高校を卒業していた 近所の寮付きの工場に就職して、これから毎日、週末に半額ベントを食べることだけが楽しみの人生になると、そう覚悟した頃、一通の手紙が来た [私はあなたの秘密を知っています] 手紙と一緒に、紗枝ちゃんのお気に入りの髪留めが入っていて、私の全身から血の気が引いた 次の週末、気が付けば私は、あの日紗枝ちゃんを突き飛ばした階段にいた そこは、あの頃と何も変わらない、ここで人が死んだなんて想像できない程、あのままだった.......ーー 「ひぃっっ......」 突然背中から押されて、上着の背中をつかまれたまま、階段に身を乗り出した 「どうする?ここで手を離したら、紀伊ちゃん死んじゃうよ?」 「......紗枝ちゃん......」 「なんだ、わかるんだ」 そう言うと、紗枝ちゃんは私を引っ張って戻した 「私、許してないからね」 紗枝ちゃんは、さっきまで人を突き落とそうとしていたとは思えないくらいラフに話し始めた 「.......ごめん......」 「紀伊ちゃん、私の最後の顔見て、かわいそうって言ったの、許してない!」 「......ん?」 「最後のセリフそれ?!って、今日までずっと思ってた」 「う、うん......?」 「ん?もしかして突き落としたこと怒ってるって思ってる?違うよ?」 「え?」 「あの頃のは......紀伊ちゃんに突き落とされて当然だと思うから」 「当然......」 「紀伊ちゃんが思っていた通り、私は私よりかわいそうに見えた紀伊ちゃんを利用していただけ」 「利用だなんて......」 「思ってたよね?さすがにきずいてたよ」 「......うん」 「でもね?かわいそうじゃない紀伊ちゃんが嫌いになったとかは、本当に違うの。」 「.......」 「あの頃、いい加減そんな醜い自分が嫌になって、それで距離を置いてた......」 「......」 「そうしたら、もっと紀伊ちゃんを気ずつけたね、ごめん......」 「......怒ってよ......」 「え?」 「怒ってよ!私、紗枝ちゃんのこと、ここで突き飛ばして..........殺したんだよ?!」 「........」 「私が、紗枝ちゃんの人生、終わらせたんだよ?!なんで......」 「......私が怒って、それ紀伊ちゃんが笑えるなら、幸せになれるのなら、怒るよ?  違うでしょ?」 「.......紗枝ちゃん.......」 「きっと、あの時紀伊ちゃん突き飛ばされていなかったら、もっと辛かった......私たちは、幸せになれないって、わかっていたから」 「紗枝ちゃん.......」 「紀伊ちゃん、私たち、ようやく幸せになれるね」 久しぶりに握った紗枝ちゃんの手のひらは、あの頃より小さく感じた 子供を産んでも、紀伊は私を愛してはくれなかった 代わりに私以外の、母親を見つけて、私の前から消えた そうして知らない間に、紀伊はその子を階段から突き飛ばしていた わが子が犯罪に手を染めた、不思議と誰に似たのか?なんて疑問はわかなかった 紀伊が突き飛ばした子は、紀伊が去ってあと、ほんの少し息が合った だから.......... 五年後、紀伊が就職した職場を突き止めた 手紙を送れば、紀伊は階段まで現れた 「仲良く一緒に眠らばいい、私を愛さなかった報いよ」 その階段は、人が死ぬには少し短かった。

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唇の感触は知っていた

恋も愛もセックスも存在してるこの世界で、どれも持っていない僕と、それ以外の人たちが、同じ感性の生き物なはずがない 確かにその全ては、なくたって生きていけないというほどのものではないけれど、確実に、根本的に感情の根っこが違う それなのに、どれも持っていない僕らは、ダダの努力不足らしい 高校の同窓会の招待状を、ごみ箱に捨てて、安酒のプルタブを開ける 半年前にコヒーを零して染みが付いた、ネクタイを無造作にほどいて部屋の端に投げ飛ばした もう、コーヒーもアルコールも初めて飲んだあの時の、十分の一も味はしない こんなにも、大人が無色だなんて、十年前に教えてもらえていたら、もっとあの頃を大切に生きたのに こんな年になるまで、うだうだ生き延びてしまうことだってなかったのに 安酒を喉に流し込みながら、眺めるバラエティー番組で、もう笑えない 明日死のう、を毎日繰り返す うるさいアラームは、頬っぺたをたたくような痛みがした 今、何時なのだろう、目を開けて、スマホを付けるまで、遅刻の確率は五分五分だ 無理やり暴れるように体を起こすと、目をこすりながら、スマホを探す 瞼がまだ空かないせいで、部屋中かき乱しながら、ようやくつかんだ携帯を、無造作にたたくが、画面が光らない。あのまま眠ったから、充電が切れている どうでもいい、どうせスーツも着たままなのだから、このまま家を出よう もう、会社に僕に遅刻を叱る人間もいないわけだし 「今日、土曜日!」 まだ頭が起きていない、味のしないアルコールをがばがば飲んだせいで、一歩足を踏み出すだけで、脳が揺れるように痛む どうやら、僕のアルコール依存症は、遂に幻聴まで引き起すようで、高校時代、一度だけ恋をした彼女の声がした まぁいいか、今日が土曜でも、そうでなくても......彼女が土曜というから、今日は土曜なんだ...... 目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った 体内の水分が沸騰してしまうくらいに、体が熱い それに体全部が鉛のように重たくて、ベットに横になったまま起き上がれない 「お、やっと起きたね~」 なんだ、これは夢か、それともかな縛り?どっちでも構わないけど、もう少しお酒の量は減らそう 「ねぇ?聞いてる?」 聞こえてるさ、でも体が動かないし、どうせ夢なのだから、僕は返事をしない 「もう......一週間も寝ていたんだよ.......死んじゃったのかと思った......」 なるほど、そういう設定か、我ながらこの頭にどれほどの妄想力が残っていたのか、自分が恐ろしい 「キスでもしたら......さすがに起きるかな......」 avを見るのもほどほどにしよう ん.......チュッ。 ......っえ......柔らかい...... 今見ているのが、夢かどうか判断するときに、感触があるかどうかなんて話がある 今、確かに僕の唇は、彼女のあの柔らかさを感じ取った 「あれ?ほんとに死んでる?」 死んでるかもしれない。あの頃狂うほどの恋をした彼女にキスをされた、感触まであるそんな妄想が目の前で起きている。死因はアルコールか? 「まあいいよ、もう少し寝ていてね。ずっとそばにいるからね」 彼女のその声で、僕は再び眠りに落ちた 目を覚ますと、僕は高校時代の制服を身にまとって、あの頃の教室で一人、居眠りをしていた これは間違いなく、夢だ。 起き上がって、日めくりカレンダーが目に入った......卒業式、前日...... 僕は考えるより先に、足が動いた、これが夢だって関係ない。彼女を救えるのなら、それで...... 屋上に着くと、彼女は、上履きを脱ぐ瞬間だった 「あはは、この瞬間って、ドラマとかにはないよね......」 僕はあの時、この光景を下で見ていた 「何か用......かな?......あはは......」 下手くそな嘘笑いも、愛おしい。彼女はこの時いじめられていて......この後死ぬ。 「ごめんちょっとーーー」 「ごめん、少し話さない?」 彼女に声をかけると、少し迷惑そうに笑った 「死ぬんなら、その前に何をしてもどうだっていいでしょ?」 僕の言葉を聞いた彼女は、もう一度上履きをはきなおした。彼女の眼は、瞳の奥から僕を睨みつけていた 「ね、ねぇ.......」 「ここまで、見ていたよね?いまさら何?」 「.......そうだね、全部見ていた......見ていて何もしなかった。」 「私、今から死ぬんだよ?君含め、みんなの今日までの結果、私はここで死ぬ」 「もう、遅いかな?」 「遅い?なに?本気で助けたいだなんて、思ってるわけ? 違うでしょ?たまたま見かけたから、今死なれると、具合が悪いってだけでしょ?」 「そう......だったよ。僕は死のうとした君を、助けなかった」 「なに?」 「そのせいで、十年後、僕が死にたい人生を送ることになる」 「ねぇ、何の話?」 「あの頃、もう少し僕が強くいられたら、君は死ななかったんだ」 「はぁ.......」 「だからーーーー」 「あーもういいよ、聞くだけ無駄。私の死んだ後で、好き放題喋ってな」 彼女はそう言って、立ち上がった 「ちょっ!」 僕は無理矢理に彼女を押し倒した 「ちょっと、これってセクハラになるんじゃないの?」 「なればいいよ。セクハラでもなんでも、それで君が今日死なないのなら」 「......なにそれ......」 「言葉で君を変えられないのならーーーー」 僕は勢いで、彼女の唇にキスをした 「うそっ!」 「これで、死ぬ気は失せた?」 「さいってい!」 僕が最後に見た彼女の顔はリンゴみたいに真っ赤で、唇の感触は柔らかかった 「お、お寝坊さんだ~」 ベットの横、彼女は僕をのぞき込んでいた 「君は......」 「おかえりなさい。」 あの日、真っ赤だった彼女の顔は、とてもきれいに大人になっていた 「ねぇ?ファーストキスを奪っておいて、勝手に一人で死ぬつもり~?」 「いや......」 「責任、まだ残ってるよ?」 どうやら僕は、まだ死なせてもらえないらしい 「私が死ぬまで、死なせないから」 彼女の唇はあの日から変わらない。

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その先でも、僕らは永遠を共に生きる

目を覚ますと、満天の星空が、ただそこで輝いていた 重たい体を起こして、あたりを見渡すと、見慣れない暗闇にに包まれた公園、冷たいけれど、消して悲しくはない風が吹く中、僕は一人眠っていた ここにどうやって来たのか、これまでのことを思い出そうとすると、貫くような痛みが頭を刺して、思わず頭を押さえた 「ようやくこれで全員か」 背後から聞き覚えのない声がして振り返ると、僕とそれほど背丈も、顔だちも変わらない青年が、僕を見ていた 「あの......ここは......?」 「まぁ、全部説明するから、とりあえずついて来いよ」 初対面だというのに、彼には全くと言っていいほど、恐怖がなかった、それどころか、少しの信頼感まで感じた。 だから僕は、疑いもせず、彼の後ろをついていくことにした 「これで十人、これでようやくスタートラインだ」 彼に連れられ、僕は立派な図書館の中にいた 図書館の真ん中、綺麗な円形のテーブルを囲むように、僕を含めて、十人の僕と同い年くらいの、男女が囲んでいた 「よし! それじゃあ、よーい、スタート!」 彼が手をたたいた瞬間、他のみんなは一斉に散らばって、彼のほうを見ると、彼は表情一つ変えないまま笑顔で、僕に向かって、拳銃を向けていた 「ごめんな」 彼が小さく漏らした瞬間、身に覚えもないほどの反射神経で、いつの間にか握っていたナイフで、彼の銃を握る左腕を切り飛ばした 突如、引き裂かれた腕の断面から、止まることを知らない血の波に微塵も動揺しないで彼は、倒れこんだまま、僕を見つめた 「そっか......どうしたって......やっぱりお前なんだな......なぁ、殺せよ。この答は全部終わればわかるからさ、ちゃんと最後まで......」 彼が何を言っているのか、なぜだか冷静にそれを飲み込めた自分に驚いた 「じゃあな、楽しかったよ......」 僕の腕は、彼の目に誘われるように、彼の心臓にナイフを突き刺した 彼の死体を見て、僕にら悲しみが、溢れた。 大切な何かを、自分の手で壊した。でも仕方ないと、わかった。 人を殺した自分に動揺する心よりも、次の目的地がわっかているように足を進める自分のほうが、心を多く占めていた 次の目的地、事務室 扉を開けた瞬間、長い髪のの少女が、こっちを見て、少しだけ驚いて、あきらめをかみ殺すように手に持っていた携帯端末のスイッチを押して、 「さようなら    大好きだったよ!」 そう告げて、彼女は自ら、喉元に拳銃を押し当てて引き金を引いた 訳も知らないまま、目の前で二人の人間が死んだ しかし、僕の瞳から、涙が流れ落ちた しばらくそこに立ち尽くしていると、四人の男女が事務室の扉を開けた 「俺はさ、まだ認めたくはないんだよ......」 そう言うと、強気で、しかし芯のある、彼は一人僕のほうに日本とを切りつけてきた、僕はそれを小さなナイフで受け流して、もう片方の手に持つ最初の彼の銃で彼を撃ち殺した 「きっと、これが結末なんだよ、これで終わりよ」 そういって、気の弱そうな、優しい彼女は自ら自分の右手に握られていたし榴弾の栓を抜いた 爆風に飛ばされ、建物の外に出ると、建物の入り口横、小さくたたずむベンチに、気配りができて、愛され屋の幸と、しっかり屋で、周りがよく見えていた健が手をつないだまま、眠りながら死んでいた 爆発で、酷く壊れた僕たちの図書館前、冷たく寂しい風が僕の頬を掠めた 「久しぶりだな......」 「そうだね、久しぶりだ、悟」 僕の前には最後の一人......悟が一人立ちふさがった 「ここまで来たのなら、全部思い出したってことかな」 「全部......思い出したよ」 「そうか、それじゃあ最後だ、最後、この場所で、俺との一騎打ちで」 そう言うと僕と悟は拳銃を構えて、お互いに撃ち合い始めた、体にしみ込んだ感覚でお互いに攻撃を交す、しかしほんの少し、少しずつ、僕が優勢になり、悟の拳銃を僕の弾が、弾き飛ばした 「やっぱり......お前なんだな......ごめん......」 そう言って悟は自ら引き金を引いた その瞬間、空を包み込む闇はたちまち晴れて......次の世界は......荒廃していた 僕らは、十人、この空間、図書館と公園だけが存在する世界に隔離された 最初は何一つわからなかった 喧嘩もした、泣きあって悲しみあって、僕らはみんな幸せだった 結局、お互いに本当の名前も、ここに来るまでの記憶もないけれど、それでも、心に残った深い傷が、十人でいる日々が癒してくれていた もういっそ、このまま一生十人で生きていこう、十人でそう決めた矢先、あるメッセージを見つけた それは、ぼろぼろの紙に書かれた、十人の、かつて僕らのように、ここにいた者たちからのメッセージ そこには悲しみ、後悔、憎しみ.......そしてそれらを全て超えるほどの、仲間たちへ愛 その紙の最後、私たちはここで十人、誰も一人にならないように、死ぬと、そう終わっていた その紙と別に一枚、憎しみと悲しみの嘆きが詰まった紙を、僕だけが見つけていた 「殺し合いをしよう」 みんなにそう告げた次の夜、僕は意識も、記憶も失って、そこで眠っていた この世界に一人だけ、最後に一人、全員同時に死のうと必ず誰かが残る 最後の一人がここで永遠になり、九人が救われると、その紙には書いてあった だから、みんなを殺すことにした もっとスマートにできれば、こんなにも悲しまないで済んだのだけれど、きっと僕の意識がない間に、あの紙が、みんなにバレたのだろう だから、みんな、僕が目を覚ますのを待っていたんだ みんな、優しいから。僕を一人にしないために、全員が、まだここにいた。 これから、途方もないほどの無限を荒廃したここで一人、暮らす しかしこれでいい、みんなが幸せなのだから。 この不幸の連鎖が二度と起きないで済むのなら、僕は無限だって惜しくない どうか九人の未来に、光が指しますように。

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その先でも、僕らは永遠を共に生きる

始発までのテロリスト

本当なら、自分一人で死ねるなら、それでよかった。 でもね、一人では死ねなかったからさ、 悪者になって、正義に殺されるんだ 「よし」 横長のボストンバックのチャックを閉めて、足音一つ立てずに家を出た 外はまだ闇に包まれていて、心地よかった 私の右肩にかかるボストンバックは、女子高生の自分の体には、あまりに不自然だけれど、それを不審に思う人たちはまだ眠っている あと一つ、このかばんを持って、私が山手線の始発に乗れば、すべてが終わるーーー 「ねぇ?ずいぶん大きなカバンね?」 「え?」 不意に背後から聞こえた女性の声に、驚いて振り向くと、その拍子にするりと右肩のボストンバックを奪われた 「ちょっ!返して!」 「お~これまたよくできてる~」 私のボストンバックを奪った女性は、鞄を上下に揺らしながら、興味を示していた 「ちょっ!それ、危ないから!返して!」 「ん?なんで危ないのかな~?」 「......」 爆弾ですだなんて、言えるはずはなかった。しかしこのまま万が一に爆発しかねない 「と、とにかく!ーーー」 「爆弾......上手にできてるね~」 彼女の口から、[爆弾]という言葉が出た瞬間、背筋が嫌な汗が通って、心臓を思いっきり掴まれたような感覚がした 「とりあえず、少し話そうか?」 彼女のその誘いを、断れるはずはなった。 「とっとと、警察なりなんなりに突き出してください!」 二人で線路横の公園のベンチに座って五分、彼女はいやらしいほどにそれから何も言わないままで、私がもう限界を迎えてしまった 「ん~とりあえず警察はいいかな~」 「え、ならどこに......まさかこれで脅して......」 「いや、それもいいかな~」 「なら!ーーー」 「ちょっと、お話がしたいな~と?」 「あっ......そうゆうのですか、ならいいです。不運ですがあなたに見つかってしまった手前もう失敗ですから、自分で警察に向かいます」 「.......やっぱりね~   なら脅す。このまま私の隣を去っていくのなら、私はあなたに余社はしない。」 「卑怯ですね......」 「爆弾テロjkには叶わないかな~」 私は彼女の言うまま、もう一度ベンチに戻った 「って言っても、もう一回ありきたりなカウンセラーみたいなことしても無駄だよね~?」 「ですね、ああいうカウンセラー、私大っ嫌いです!」 「おお~なかなかだね~   なら、そうだね」 「え?」 そう言うと彼女は立ち上がって、私の正面に立った 「私の名前は、館川 聖 .......十年前、東海道新幹線爆弾テロ事件の犯人だよ」 館川 聖、思えば彼女の名前を、テレビの再現ドラマで見たあの日から、私のレールはどんどん外れていったのかもしれない そのテレビ番組では、館川 聖という名前は仮名で、完全に悪人として、その事件の最悪を回避したjr職員をヒーローにして、奇跡の物語として語られていた しかし私は、たった一人であれだけのことをした、館川 聖という存在に妙に惹かれて、その日から、暇さえあれば事件の記事を、隅々まで調べていた。 しかし、事件の記事をいくら調べても、館川 聖に関する情報は何一つ見つからなかった 唯一、女性で、うなじに事件の時にできた深い傷があるということだけ。 そうして今日、十年前聖ちゃんが爆弾を仕掛けた日に、私は爆弾と共に死ぬ......はずだった...... 「あなたが館川聖だって証拠、何かあるんですか?!」 だから、目の前の彼女が聖ちゃんの名前をかたるが許せなかった 「え~証拠~?」 彼女は少し戸惑いながらも、後ろを向いて長い髪を肩に寄せて、うなじを見せた 「こんなんしか、当時の証拠?みたいなのはないかな~?」 彼女が髪をどけてうなじを見せようとした瞬間、どうかそこに傷一つないでほしいと願った。彼女のうなじにあの傷があれば......あってしまえば、今、目の前に立つ彼女がまぎれもなく私のあこがれの聖ちゃんだと証明してしまうから...... 「って、こんな傷、何の証拠にもならないよね~」 「......あと三センチ。    右にそれていたら、頸動脈に突き刺さって、命はなかった.......」 「え......?」 認めたくなんてなかった。私の尊敬して大好きな聖ちゃんが、まだせいぜい10歳程度しか離れていないこんなおばさんだなんて...... 「うそ!そんなはずない!!!聖ちゃんは!!聖ちゃんはもっとかっこよくて! 今もどこかでぶっ飛んだことして生きてるんだもん!!!こんなクソ田舎の幸薄そうなおばさんが私の聖ちゃんなはずがない!!!!」 まだほんの少ししか色のついていない空の下、私の声は静かな夜を切り裂いた 「.......」 「聖ちゃんは、聖ちゃんは!.......」 私の言葉は、そこで使い切ってしまって、次の言葉はもう喉から出てこなかった....... 「そう......やっぱりそうだよね......」 目の前に立つ彼女が聖ちゃんだって、本当はもうわかっている。でも、認めたくない一心で、私は大好きな聖ちゃんを傷つけた 「すいません.......やっぱり私、もう警察行きますね......酷いこと言って、申し訳ございませんでした......どうかお元気で......」 私には、もう目の前の彼女の顔が見られなくて、逃げるように鞄を持ち上げたとき......私の腕を強く握りしめられた。 「私の名前は、前島 冴子。館川 聖はあの日に新幹線の中で死んだの.......」 自分がした行為によって、結果的に死人も損害も出なかったけれど、17歳のあの行為は、まぎれもなく犯罪だったと、私は永遠に心に刻み込んでいた。 時々新幹線を見ると、罪悪感で死にそうになるけれど、その度あの時抱きしめてくれた車掌さんと、今でも月一で電話をくれる刑事さんのために生きようと思えた あの事件から十年、私と同じ目をした少女を街で見かけて、直感的にこの十年は彼女の過ちを止めるための十年だったと感じた もし彼女が、私......偽りの館川 聖を崇拝しているのなら、間違いなくその日は同じだろうと待ち伏せした 予想通り彼女が、十年前と同じ日の朝に現れて、私は足に目いっぱい力を入れて声をかけた 彼女は、私が生み出した犠牲者なのだから、私が責任を持つ。 「聖ちゃんが死んだ......?何言って!」 「館川 聖は、全部架空の存在だから......あの日起きたことは、誰一人誇れるような話じゃないんだよ......」 「嫌だ!嫌だ!そんな話聞きたくない! 聖ちゃんはかっこよくて、一人で世界と戦って......」 私は力尽きて、彼女にもたれかかった 「ごめんね、私はあなたが思うようなかっこいいい存在じゃない。あの日新幹線にいたのは、臆病で自分勝手な、未熟な女子高生だったの......」 それから私は、彼女の話を泣きながら聞いた。大好きな聖ちゃんを失った悲しみで、正直聞き取るのに必死だったけれど、どうしてか彼女の言葉は、私の心にすんなり届いた 「ごめんなさいね、あなたの子の爆弾。私が警察にもっていくね。もとはといえば、聖がいなければ、あなたもここにいないのだから」 そう言って立ち上がる彼女の腕を必死に掴んだ 「え?」 「勝手に......勝手に全部自分のせいにしないでくださいよ!!!  この憎しみ、この爆弾は!私の!聖ちゃんへの愛の結晶!!私でだけのものだ!!」 「でも、このまま警察にいったら、もう戻れないよ?」 不安そうな彼女の顔が少しむかついたから、思わず一発殴った 「ぃっいった!」 「こ、これで私は、暴行犯です......!」 「......ふふ、なんだそれ!、意味わかんない」 彼女は少し私をにらみながら笑った 「警察なんて怖くないです!   友達っとなら、何だって怖くないです」 喉から必死に出した二文字は、さっきの拳よりも彼女を驚かせた 「あの......冴子さん......私、あなたと友達になりたい.......です」 恥ずかしくて死にそうだったけれど、何とか差し出した私の右手を見て、彼女は涙を流した 「私と......友達?......聖じゃなくて、冴子と?」 「当たり前です......あんたは冴子、聖じゃない」 硬く握った冴子の手は思ったよりもあったかった 今から警察署に行くというのに、私たちは笑顔で歩き始めた 「あ、電車」 「始発なんて、誰も乗ってないよね~」 「まぁ、ですね~」 「ほんと優しいよね~」 「え?褒めても何にも出ないですよ~?」 「はぁ?おばさんって言ったのまだ許してないからね?しばらく引きずるから?」 二人でボストンバックを持って歩く日の空は、もうすっかり輝いていた。

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メンチカツの味 忘れる

初めて喧嘩をしたのは、僕がコロッケを買い忘れて返った日 僕たちらしいな、なんて思ったりしたけれど、それ始まりだけで、時期に恋人から夫婦になるという時期に、どんどお互いの摩擦が火種になった。 [いつものベンチ、来て] 仕事終わり、駅から歩いていると彼女から久しぶりのラインが来た いわゆる倦怠期のような僕達に、頻繁に連絡するなんてありえなかった。 いや、浮気はしているけれど、バレているはずはないのだから、僕には彼女が何故怒っているのかわからない。 [わかった] 返信してしばらく歩いていると、小高い丘のいつものベンチに彼女は座っていた。 僕を見つけるなり、少し冷たい目で僕を隣に座らせた。 「なんでーー」 「ねぇ、いつからメンチカツが好きになったの?」 予想外の話題に驚いた、彼女は僕がメンチカツの方が好きなことに恨んでいたのか 「いや、この間たまたま見つけてさ〜あのお肉屋さんコロッケもいいけどメンチカツもーー」 「いつから!?」 「えっ......ーー」 「先月から、だよね......」 「え?うん......」 「私達、付き合ってもう半年か......来月、式だよ?」 「うん、楽しみーー」 「浮気、楽し?」 浮気の二文字が彼女の口から出た瞬間、僕の心臓は梅干しのように目一杯萎んだ 「えっ?浮気?」 「あのお肉屋さんね、メンチカツは夕方にはもうなくなってるの、必ず。」 「えっ?いや、そんなことーー」 「私、毎日あなたが帰る前にコロッケ食べてるんだよ?」 彼女の声にはもうあの日のような暖かさはなく、冷え切った呆れと悲しみと怒りが複雑に混ざっていた。 僕は、あんなに大好きだった彼女の顔が今は見れないでいる。 なんて言葉を繋げれば、まだこのまま彼女の隣にいられるのか、僕にはわからない。 愚かな過去の自分を、ひどく恨む 「一回だけ、チャンスをあげますーー。」 「はい......」 「今後一切、メンチカツは食べないこと。」 彼女はやはり可愛くて、愛おしい。 「はい。二度と、メンチカツは食べません。」 「これから毎日、飽きるくらいコロッケを食べさせてあげるね?メンチカツの味なんて二度と思い出せないくらい。」 彼女の声に、今まで感じたことのない闇を微かに垣間見た 「はい!この話ここでおしまい!」 彼女はケロって立ち上がって歩き始めた 「結婚式、楽しみだね〜」 その日、明日からも毎日永遠にコロッケを食べるために、生きようと誓った

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