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病み6割、性癖2割、フィクション2割で投稿してます。

一話 見知らぬ公園、雑草畑を抜けた先

お気に入りだったパン屋さんが今月で閉店する。 くしゃって笑う店主のおばあちゃんが好きで、毎日一言話すだけだけど、それが唯一私の高校生活で、笑える時間だったのに。 おばあちゃん、別に腰を悪くしたわけじゃないのにね。 学校に行くと当然私の机は男子達に戦慄されていて、どうやら今日は新しくこの街にできるラウンドワンの話で盛り上がっている。 授業時刻まで、トイレにいてやり過ごした。 下校時刻、みんな一斉に帰るあの時間が苦痛すぎるから、全校生徒から忘れ去られたみたいな旧校舎の理科準備室で空を眺めて時間を潰す。 うたた寝が長引いて、外が暗くなってから、見回りの先生の2分後ろをバレないように歩いて校門を出る。 遅くなったとて、私を心配する人などいないから、今日は家から反対の道を選んで歩き始めた。 元から知らない道だけれど、真っ暗なこの時間はより別世界のようで、心がゆっくり馴染む感覚がした。 少し歩いて、私の席でラウンドワンの話をしていた彼らが通っていた小学校が見えた。 その手前、夜でなくても人が寄りつかないような、木が生い茂った公園を見つけた。 雑多に好き放題伸び切った雑草たちは、私の身長より高くて、中に入って仕舞えば私の存在ごと隠してしまう。 怖いとは思ったけれど、二度来ないだろうという感覚が勝って、私は雑草の中に足を踏み入れた。 雑草達を掻き分けて奥に進むと、いきなり開けた空間に出て.......歪な形をしたベンチと机と、隣の高校の制服を纏った少年が一人で月を見ていた。 咄嗟に引き返そうとしたけれど、雑草をかき分ける音は、静か夜の空な綺麗に響いて、彼と私は目が合った。 「おっ、お菓子とか、食べますか?」 なれていない、それでいて何処か準備の痕跡を感じた彼の言葉に、私は観念してベンチに座る事にした。 「いつも、ここに居るんですか?」 「いえ、でも。金曜の20時くらいなら、きっと誰かはいますよ」

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じゃあ、誰が責任とってくれるの?

警察に捕まって、犯罪者として扱われるのは、自業自得、その人が悪いのだから、それで起きる不幸も仕方がないものだと思っていた。 母が逮捕されたのは、私が小学二年生の時だった。 犯罪、逮捕なんて言葉、全く身の回りに存在しない、のどかでどこにでもあるごく普通な私達の世界は一変した。 早くに父は蒸発して、女で一人で私を育てていてくれた母、そんな母が突然消えてしまった。 当時のは私は何故母が消えたのか全く理解できなくて、ただ言われるがままに施設に入れられて、まだ名前も知らない子達に犯罪者の娘としての視線を浴びた。 それまで、感じたことのない感覚が、私の心にヒビを入れた。おかしくなってしまったのは、きっとあの時なんだと思う。 施設は当然地獄で、大人達もみんな、優しいをやろうとはするけれど、根底にあんたの母親が悪いんでしょって感情が見え透いていた。 施設で、テレビを眺めているとニュースが流れた。 画面には、母が写っていた。私が見たことのないくらい凍った顔で。 母はいつ、犯罪なんてしていたのだろう。母に、そんな時間の余裕はないはずなのに。 ニュースには、容疑、否定、起訴の文字だけ、なんとなく見えた。 高校を卒業して、寮付きの県外の職場に就職した、私は施設を出た。 寮に行く前に、最後にあの日まで住んでいたマンションを見ておこうと歩き始めた。 コンビニでタバコを買って、マンションの前に着くと、私達が住んでいた部屋の扉がちょうど開いた。 中から幸せそうな笑顔で笑っう家族が出て来て、車に旅行カバンを詰めて去っていった。 「さっ、沙也加?」 懐かしいような、もうすっかり忘れてしまったような声が、髪を揺らした。 「おかぁ.......どうして?」 振り返ると、母がいた。 無期懲役のはずの母がいた。 「お母さん......悪い人じゃなかったよ.......お父さんがーー」 絞り出すように言葉を話す母、その姿は記憶の中母より、ずいぶんげっそりしていて、肌もシミが目立つようだった 「そっか......」 だから、どうしたらいいか。私はもうあなたのいない人生を十年も生きてしまったのに。 「だからーー」 もう、私の人生は、あなたといた時間より、あなたなしの時間の方が長いのだから。 「そっか、よかった。それじゃあ、元気でね。」 明確に目の前の人を傷つけた。しかし、私にはどうすることもできない これ以上、私の人生を狂わせてもらいたくない。 酷い人間だと我ながら思う。けれど、私が酷い人間だって私もみんなも知っている。 母がもう一度ニュースに出たのはそれから1ヶ月後 今回はちゃんと悪い人になってしまったらしい。

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最後に選ぶ私を最後まで選んでくれてありがとう。

[〜....最初に浮かんだのはあなたのことでした。] ニュースが世界中を阿鼻叫喚の渦に飲み込む中、全く自分勝手な人だなっと思った。 しかし、そんな彼の自分勝手なんてどうでも良く思えた。私は彼に会うことにした。 彼の手紙に指定された待ち合わせ場所に行くと、普段見覚えのあるそことはまるで違う、秩序も法もない荒れ切った広場が広がっていた。 そんな広場の真ん中、もう10年は会っていないというのに、遠目でも彼だとわかる人影を見つけた。 「最後のお久しぶり〜」 何故だか不意に柄にもなくボケてしまった 「おっ.......お久しぶり、です。」 あれ、スベッたかも 「君は〜、少し痩せた?」 「そお〜そうだね。うん。痩せたかも。そっちは〜.......」 「いいよ、言いなさいな」 「太りましたか?やけ食い?」 本当にいうやつがあるか。全く、そうですやけ食いです。 「別れた理由を思い出しました〜」 「言っていいってそっちが.......」 「冗談、久しぶり〜。会えてよかった。」 「こちらこそ、来てくれてよかった」 「まぁ、あの手紙はちょっと痛かったかな〜」 「相変わらず変わりませんね〜」 彼とこんなふうに軽口を叩くのは、ずいぶん久しぶのはずなのに、まるで昨日ぶりみたいにすぐに笑えた。 「で、そっちは?今日までどんな?」 「え?知りたい?」 「聞きたいよ?その後私も話すから。」 「それなら、まぁ。時間はあるしね」 「実はこうなる前までは、東京に住んでたんだ。」 「えっ?!」 「フツーに東京でフリーターしてた。それで、こうなるってなったら、ほら、東京が一番危ない気がしてさ、だからこっち帰ってきた。」 「帰って来たって、ニュース出た頃にはもう全部止まってたのに?どうやって?」 「ん?、いやフツーに歩いたよ。400キロくらい?いろんな景色を見たね〜」 「いや、その、そりゃ痩せるよね〜凄いね。本当に」 「まぁ、元から歩くの好きだったし。それに世界がこうなって初めて世界のあるがままの姿を見たみたいで感動したよ〜」 「いや〜アクティブだね〜。でもどうしてわざわざここに帰って来ようって思ったの?」 「え?いや、だから〜」 「マジであの手紙のまま?それだけ?」 「うん。そうだよ。本当にそれだけ。この時間のためだけ。」 「いや、化け物じゃん。」 「まぁ、見ておきたかったし。うん。よかったよ。」 「はえ〜」 「で、こっちの話はこんなもんだよ?次、そっちの話聞かせてよ」 「いや、早いね。ここまでの旅路とか、これまでの人生とかまだまだ聞きたいけどな〜」 「そんなに面白くないよ。ずっと歩いて来ただけだし、死んだみたいに生きてただけだから。」 「それは私もそうだけどさ〜」 「ほら、聞かせてよ。そっちのこれまでを」 「高校であなたと別れてから、三人と付き合った。」 「ウッ」 「先言わないとね、話できないし。それで、一人目で初めてを奪われて、二人目に借金背負わされて、三人目に殺されかけて殺し返した」 「.......、、.......?ごっ、ごめん。どう、え?」 「男運ないんだよね〜私、だからもう恋愛いらないんだ。もう懲り懲り。」 「そりゃ〜そうか〜」 「だからごめんね、恋人にならないよ」 「えっ?いや、別にーーー、あれ?もう別に良くない?」 「え?いやーー、ああ、そうだったね。でも最後の最後にまた気づつきたくないな。」 「それはなと思う。もう、お互い守るものもないわけだしさ」 「そうだね〜。もう、全部どうでもいいんだもんね。」 軽口を吐いた口、不意に柔らかい感触が覆い被さった。 「どう?傷ついた?」 「うん、今日以外なら気づついたかもね。......」 「.......」 「嘘だよばーか」 唇を返すと、彼は慣れていないみたいに涙を流した 「そっか、男も泣いていいよね。 地球滅亡の日 だもんね」 「最後に選んでくれてありがとう」 「最後まで選んでいてくれてありがとう」 次第に空が藍色から、黄金色に変わる。この星が見せる最初で最後の天体ショーは、この星に宿る80億人の命を全て焼き払って、星としての命を終えた。

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もうBUMP OF CHICKENは聞けない

文化祭ステージ、3年の僕らのクラスは、ステージのセットリストのとりに名前があった。 クラスの文化祭会議で、陽キャがラストはバンドがいいなんて言い始めた。自分は司会に決まっている癖に、わざとらしく僕を見ながら勝手に決めてしまった。 きっとコイツは半年前、僕が3年前、気の迷いでネットに上げた中学時代のギターの弾き語り動画を笑っていたあの時から、ここでも笑いものにしてやろうと、そう決めていたのだろう。 だから、拒否権がないまま、ギターボーカルにされた。 他のバンドメンバーも、僕の他にろくに音楽なんてやったことのない、文化祭のグループ決めで溢れだ三人に決定されてしまった。 文化祭本番まで一ヵ月、一様作ったグループラインに[曲はBUMP OF CHICKENの天体観測にします。]っと送って以来返信がない。 というか一度も僕以外のメッセージはない。 [練習、放課後美術準備室でしてます。] 当然既読はつかない。 夕日差し込む美術準備室、一人でギターにイヤホンを指してひたすら練習をする。 プログラムにはバンドと書いてあるけれど、僕一人の笑いもショーが確定しているから、せめて一ミリでも笑いものにならないように練習する。 毎日、夏休みなのに学校に来て、一人場所を探して練習する。初めて聞いた時あれほど虜になった曲が今となっては、耳鳴りのように頭の中で響いている。 文化祭まで半月、練習のし過ぎて指の豆から膿が出た時、僕は何をしているのだろうなんて、諦めようとした。手を洗おうと廊下に出て戻ると、僕の座っていた席に一枚の手紙があった。 『午前二時、下北沢駅の踏切に待っています。』 丁寧な字でそれだけ書かれた手紙。宛名も差出人も日にちすらない。 しかし、これだけで十分だと、僕だけは知っていた。 7月26日、午前二時 下北沢の踏切は、電車がないのにも関わらず、僕みたいな人達が、ちらほらいた。 みんな同じ考えらしい。示し合わせたみたいにちゃんと雨も降らないらしい。 全人類スマホ依存症時代だと言うのに、みんな律儀にベルトにラジオを結んでいる。 流石にBUMP OF CHICKENが流行り過ぎている。 午前二時二分、踏切の人数は倍になった。僕が声をかけられたのも、丁度二分後。 「大袈裟な荷物を、背負ってきました......」 僕は目の前に現れた彼女に思わず驚いて、しばらく口を閉じれないでいた。 「天体観測......を、するんですか?」 「うん。せっかくのほうき星の夜だから。」 そう言って僕の手を引く彼女は、学校で普段見せる生徒会長としての顔とは、まるで別人だった。 「この辺で、いいかな?」 「です......かね。」 駅から少し歩いたとこの丘、雲がだだっ広く広がってまだほうき星は見えない。 「敬語、やめてよ。一様幼馴染じゃん」 月明かりに照らされた、彼女の顔をは、何処か懐かしいくて、これまで高校で生まれた距離なんて嘘みたいに、あの頃に戻れるような気がした。 「そ、そうだね......そういえば、なんで誘ってくれたの?」 「私、生徒会長だからさ、夏休みも毎日学校いるの。だから、たまにあんたがイヤホン抜いて爆音で歌ってるの聞いてたよ」 「え、居たのかよ......誰も居ないと思ってたから、歌ってたのにーー」 「でも、あんたも変わんないね。天体観測って、ずっと好きじゃん」 「そんなんお前以外知らないからいいの、どうせ一人だし、ブランクあるからせめて十八番にしたいだけだよ」 「ふ〜ん、そっか。そういえば、なんでギター辞めちゃったの?」 「まぁ〜普通に環境の変化と共に?勉強、普通にむずいし。」 「ふ〜ん、好きだったのにな〜、   あれだったら教えてやろうか?私学年一位だし〜」 「いらないよ、第一お前忙しいだろ?」 「そんなこと、全然ないよ......」 「だってお前、毎日学校来てんだろ?」 「それは......その......実は、私!ーー」 「あっ!ほうき星!」 広く広がっていた雲は風に流され、ついにほうき星が顔を出した。 「えっ、わぁっ!凄い!」 「望遠鏡、どうせなら覗いてみたら?」 「うん!」 ほうき星が見えた頃には、僕らは体以外全部中学時代に戻ったみたいにはしゃぎ回っていた。 「ねぇ、前に見た日、覚えてる?」 「あ〜3年前?くらい?」 「うん!中学の終わり。あの時も雲厚くてあんま見えなかった。懐かしいね〜」 「時間はえ〜なー」 「ねぇ、.......次も、一緒に見ようね!」 そう言って笑う彼女の顔は、もう高校生の彼女の顔だった。 あれから3年経った。気にしないつもりでいたけれど、やっぱり無理だった。 4年生大学に進学したから、別に今回は卒業とか関係ないけれど、やはり忘れるのは無理だった。 あの頃を思い出す度、ほうき星の形よりも、彼女の顔ばかり思い出す。あの日、雲の隙間から見えたほうき星、僕は彼女の横顔ばかり見ていて、ほうき星を一度も見ていなかった気がする。 あの頃使っていたラジオは捨ててしまったから、わざわざ似たようなラジオを買って、もう一度午前二時、下北沢駅の踏切に向かった。 今回、二分経っても彼女は現れない。そのはずだった。 「なんだ、約束守ってくれてんじゃん」 振り返るとそこには、3年前より化粧を覚えて綺麗になった彼女が立っていた。 「大袈裟な荷物は、もう要らないかな?」 「そんなに天体観測に寄せなくていいよ。久しぶり。」 「うん、久しぶり。今日雲厚いね。見えるかな?」 「とりあえず行くだけ行こうよ。またあの丘に」 僕らが丘に着く頃、小雨が少しづつ強くなり始めていた。 「ブルーシート、広げない方がいいかも。」 「えっ、いや!」 今度こそは、震えている彼女の手を握ろうと、手を伸ばしたのに、彼女は逃げるみたいに腕を引っ込めてしまった。 「ごめん、なさい.......」 震えた手を隠す彼女の表情に、もう僕の知る彼女はいない。 「ごめん、帰ろうか。雨、もっと強くなりそうだし」 「あの!俺!」 「予報、外れちゃったね〜」 僕は彼女の額から溢れ落ちる液体も、目を擦るたびに光る左手薬指の指輪も見えないことにした。   あれから3年、就活に失敗した僕はダラダラとコンビニアルバイトをしていた。 ネットニュースの見出しが、彗星一色に染まる、それに嫌気がさすのと同時に、もう目を背けられのだと、もう一度下北沢に向かうことにした。 あの雨の日からずっと、僕には何も見えないままでいた。あの日彼女の表情を見れなかったままの僕は、今もずっとあの日のことばかり考えてしまう。 高校で、文化祭一週間前に彼女が転校してしまったこと、それでも見に来ていてくれたこと、彼女が好きだったって言ってくれたから、なんとか音楽だけは辞めないでいられること。ずっと転校も婚約も言い出そうして言えなくて震えていたことに気づいていたこと、全部謝りたいし、ちゃんとお礼がしたい。あなたのおかげで生きていますって、ちゃんと、次こそは彼女の手を握りたい。 午前二時、雲一つない晴れ、下北沢駅の踏切は、静かだった。 時計を見ながら一秒一秒数えるたびに心臓が飛び出すほど鼓動を鳴らす。 二分、丁度きっかり過ぎてなお、下北沢駅の踏切は静かなまま。 わかっていた、約束はもうしていないから、彼女はもう現れない。 静寂の下北沢の夜空は意外によく星が見える。 「なんだ、ここからでもほうき星、見えたんだ」 「雨は降らないらしいからね〜」 そう言う彼女の声は、どこからも聞こえない。 僕は初めて、自分の目でほうき星の輝きを見つけられた。

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もうBUMP OF CHICKENは聞けない

興奮は喉にくる。

「先月の事件、この通りみたいだよ〜」 「えっ、うそ!あの身元不明の死体と、四人の行方不明、みたいなやつ?」 「そうそう、怖いよね〜」 カフェでコーヒーを飲んでいると、隣の席の女性客の会話が聞こえてきて、逆立つような鳥肌を抑えられなくなり店を出た。 この街の治安は、それほど悪くない。あの事件が発覚するまでは、世間の評判はその程度、特に目立つ要素はない、それでいて穏やかな空気の漂う、落ち着く街。そう言って子育てをする人も多い街だった。 しかし、先月の事件。YouTubeで過去の未解決事件特集なんかで見るような衝撃的事件は、この街のそんな穏やかな空気を一瞬でぶち壊した。 カフェを入って直ぐに出てしまったので、お茶のペットボトルを開ける。 お茶は好みではないが、脱水症状手前の体にはそれでも、恵みの水だ。 しかしやはり、口の中がお茶のままは、いささか気分が悪くい、少し歩いてコンビニで何か買おうと歩く。 途中横を、ごみ収集のトラックが通った。中には人が一人しかいない、どうやらこの街は住人が少ないようで、一人で足りるらしい。 コンビニに寄ると、妙に品数が少ない。お茶を流せる物、紙パックのミルクティーを買って店を出る。 変な店だった、品数が少なく、コピー機が異常ほどにテープで使用禁止にされていた。 コンビニから少し歩いて、警察署の前を通ったあたり、再び興奮して喉が渇く、それにチキンが食べたくなった。 次のコンビニで買おうと歩くが、忘れていた、あのコンビニは先月潰れたのだった。 コンビニを諦め、目的地に着くと、鍵はかかっていない玄関を開けた。 部屋でトイレ済ませると、もう水は流れなく、今回は仕事が早いなと感心する。 部屋をひとしきり漁ったが、予想通り収穫がない。 「それなら、ガスも止まっているか」 部屋を出て、マンションの下、ガスボンベの栓を捻って、お茶残りをガスボンベにかける 「安いお茶はダメだな〜献花なんだし、少しは高いの買えよ」 今日は歩き疲れた。 薬の副作用で関節が曲がらないから、手足ピンピンで歩かないといけない。 次はタクシーを使おう。

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夜はもう、明けないみたいだ。

夜勤明け、私はいつもの癖でカラオケボックスに入った。 朝の料金は安い。三時間で七百円、ドリンクバー付き。 理由なんてそれで十分だった。 店を出た瞬間、サイレンの音が耳に刺さった。 大きな病院が近いから、珍しくはない。 それでも今日は、音の重なり方が変だった。遠ざかるはずの音が、なかなか減らない。 帰り道はいつも同じだ。 狭い歩道に、作業用の制服を着た二人が並んで歩いている。 その後ろを、手足を不自然に伸ばした男がついていく。 距離が詰まらない。声もかけない。 膀胱が限界なのだろう、そんなことを考えた。 横断歩道のない場所で、作業服の二人が車道を渡った。 その瞬間、後ろの男が急に歩く速度を上げた。 二人が曲がって消えた路地の奥に、赤い光が異常な数で並んでいるのが見えた。 この街は、どうやら今日は少しおかしい。 次の角を曲がるのがいつもの帰路だが、通行止めになっていた。 仕方なく遠回りをする。 しばらく歩くと、ごみ収集車が四台、連なって追い抜いていった。 どの車にも、運転席のほかにもう一人乗っている。 研修だろうか、と一瞬だけ思った。 コピーを取りたくて、コンビニに寄る。 長いコートの女性が、さらに上着を頭から被り、私とすれ違って外に出ていった。 中は暑いはずなのに。 コピー機を使い終え、紙を取る。 一枚、見覚えのない紙が混じっていた。 私はそれを折りたたみ、ポケットに入れた。 読む必要はなかった。 外に出ると、警察署の前なのにパトカーが少ない。 向かいのバス停では、運休を告げる貼り紙の前で、何人かが立ち尽くしている。 最後に、ついさっきまで働いていたコンビニに寄る。 いつもと同じ照明、同じ音。 それがひどく安心で、少しだけ怖かった。 家に着くと、私は迷わずキャリーケースを出した。 荷物を詰める手は速かった。 あのサイレンが鳴っていた場所に、私は本当なら帰る予定だった。 街を出る電車の時間を調べながら、 ポケットの紙を指でなぞる。 この街では、知らないほうがいいことが多すぎる。 だから私は、知ってしまったふりをして、逃げる。

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もう見つけられない幸福の先。

人といる時、人身事故で電車が止まったら、笑うようにしている。 バカみたいに笑って、ふざけて、この後を考えて足を進める。 もう、そんなことが癖になっている。 給料をATMで全部下ろして、お気に入りの映画館に向かう。 途中、行き先を変えてもいいと電車に乗っていたけれど、どこも気分じゃない気がして結局11時開始の映画に5分遅刻して入った。 小走りで息を上げたまま入って割には、映画が名作過ぎて直ぐにのめり込んだしちゃんと感動した。ショーシャンクはやっぱりいい。 次の映画に行こうと液晶を見たら、今が映画館の閑散期なことを理解させられ、そっと劇場を後にした。 別に何を食べたっていいのだけれど、結局初めての店が怖いから、いつものてん屋で一番安い天丼を食べた。 映画を探して目処を立ててみたり、行ってみたい場所を検索したりしたけれど、なんか全部面倒に思えてきて、chatgptにお台場行けって言って貰って、りんかい線に乗った。 お台場に行く時、必ずレインボーブリッジを歩いて渡るのだけれど、あいにく第三月曜、遊歩道の休館日だったから、踊る大捜査線の駅で降りた。 なんとなくでお台場の砂浜に歩いて......悲しくなった。 カップル見てとかじゃない、そんなのは慣れている。 視界が、視力が、明らかに落ちている。 綺麗な、見晴らしのいい景色を見れば見るほど、己の怠惰の報いを味わされる。 もしかしたら、かなりひどいかもしれないし全然なんでもないかもしれないけれど、保険が使えないから、眼科には行けないし、もう全部どうでもいいと思う。 考えたとて、変わることなんてこれまでもこれからも、少なくとも僕の人生には存在しないから、もうどうでもいい。 どうせ考えなくたって、全ては勝手に変わって行く。 夕日に感動できなくて、暗い気持ちになってしまったから、テキトーに映画を見ようとした。 けれどお台場の映画館は、4dxのチェンソーマンしかやっていなくて、まだ見れていないけど倍の値段は払いたくないから、諦めた。 ダイバーシティで天丼を食べようと思ったけれど、ダイバーシティも休んでいて、明らかに今日がダメな日なことを痛感した。 もうヤケになって、テキトーに歩き始めた。このまま帰らないことだけ決めて歩く。 駅から少し、日本人に合わなくて一年で潰れることが決まったイマーシブの前に、寂しく佇むブランコベンチがあったから、座ってみた。 意外にいい。 なんか凄く落ち着くし、イヤホンから大森靖子のMUTEKIのアルバムを流し始めたらここまでの無感情がすこ時だけ解けた。少しだけ、この先の不安とか、人生への飽きが薄くなった感覚がした。 20分ブランコに揺られ、アルバムをそのままに歩き始めて、ビックサイトの近くも通って、有明コロシアムまで来た。 正直、豊洲まで歩く流れだ。 しかし、兄の帰りを考えると、今かもしれないと焦っていた。 有明コロシアムから橋を渡ると見覚えのある公園に辿り着いた。豊洲pitの東京公演前、ファン一同で色紙を書いた公園。 ここだなっと、大森靖子のMUTEKIからtayoriのmagicに変えてゆりかもめに乗った。 後一駅分だけ、ゆりかもめに揺られて、豊洲から流れるように有楽町線に乗って兄の会社の最寄りで降りた。 降りて早々帰りますスタンプが来て、かなり奇跡だと思った。 急いでメリーさんごっこして遊んでみたら、なか卯の前で合流できた。 最近兄は疲れている。会社もそうだが家族の問題を一人でなんとかしている。 奢ると言ったらなか卯の上のつけ麺屋に流れた。 全然入ると思っていた大盛が想像の倍で終盤兄貴に上げて店を出た。 兄貴いわくこの電車に乗れば乗り換えなしで最寄りって電車に乗って新宿を超えた頃、突然電車が減速して、電車から追い出された。 隣の駅で、誰かが飛んだらしい。 僕は、最大限ふざけるようにした。 人身事故の次の瞬間、全ての電車がため息で満たされる。それがしんどくてならないから。 なんだコイツって周りに思われながら、兄貴にずっとちょっかいかけて、振り返え運行を駆使して、満員電車でブルーハーツを聞いて、またふざけて最寄りまで裏道みたいな技を使ってたどり着いた。 飛んだ人に対して、自分は憎まない、ため息をつかない側の人間です!ってアピールしてるみたいでキモいって勿論わかってはいるけれど、どうしたって飛んだ人に対して憎しみとか苛立ちなんかは、僕にはもう抱けないから、こうするしかないのだと思う。 飛んだ人に対して、過度にわかるずらはしたくないし、されても困ると思う。だから、飛んだ人を憎まないが、僕にとっての飛んだ人への向き合い方なんだと思う。 日付が変わる少し前、ようやく家に着いて、風呂に入ると兄は寝ていて、ようやく体に積もる疲労を実感する。満員電車もMUTEKI散歩もずいぶん疲れた。 きっと、この先もっと世界はぼんやりするだろうし、幸福も薄味になっていくだろうけど、どうでもいい。 どうせ考えたって、変えられない。

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もう見つけられない幸福の先。

夜勤貴族の帰り道

夜勤のシフトを週2から週3に変えて、格段に休みが減った。 朝から気合い入れてはしゃぎまくれる100パーセント休日はもう月曜しかなく、夜勤前後に何もしないといとも簡単に1週間がスカスカになってしまう。 これではまた鬱っぽくなってしまう。 だから、夜勤明け、空が晴れていたら家と反対に歩くことにした。 冬は空に雲が少なく、空気が澄んで遠くまで鮮明に見渡せる。 バイト先から少し歩いた場所。 大和ハウスの失敗作が寂しく佇んでいる、ここがお気に入りだ。 大和ハウスの失敗作...具体的には約4年前にできたばかりの綺麗な商業施設のくせに一階に携帯屋と多目的会議室、2階に電気屋、三回はくら寿司しかなく、全体の半分がすでに空きテナントの人より鳥の方が多い商業施設だ。 夜勤終わりとなるとくら寿司も電気屋もまだやっていないが故に、この施設には本当に誰もいない。 だから、僕はここが物凄く落ち着く。 この場所は、三階のテラスから富士山の雪の部分だけが見える。 実家は富士山も海も見えないおもんなシティーだったから、私はこの二つへのコンプレクスが人一倍高い。 誰もいない三階テラスのベンチから、富士山を眺めて、街の喧騒をBGMに本を開く。 まだ寒いからあんまり長く居られないけど、この場所で自由に息をする。 なんか、土日は幸楽苑が9時から空いてるらしい。 これは、行くっきゃない。 毎日通るたびに指を咥えていたラーメン屋、昔実家の徒歩圏内にあって、母が年末KinKi Kidsを見に行く時だけ父と兄と三人で食べた幸楽苑。 平日は10時からなのに休日は9時らしい。 意を決して扉を開くと安定に客は誰もいない。 お好きな席にお座りくださいと言われたから、窓際に座ってみた。 座るまでちょっと緊張が抜けなかったけれど、注文がタッチパネルだったので、一気に肩の力が抜けた。 最近マックもすき家もタッチパネルになった。 技術の進化バンザイ! あとは大手シネコンさん、貴方達だけです。コーラ買うのに30分並びたくない。予告見たい。頑張って! 夢中でメニューを眺めていると、ずいぶんあの頃とは違って、ラーメンに塩、醤油、味噌があるし、ざるラーメンとかもやってる。ネタ枠のカルボラーメンは流石にボケ過ぎる。お笑いやん。 なんとなくで塩ラーメンにして、餃子も少し悩んだが流石にはしゃぎすぎかなと、塩の大盛り600円を頼んだ。 エグ、やっす。 運ばれてきたラーメンは、600円にしてはよくできすぎている、幸楽苑さん、頑張りすぎです。 レンゲを持ってスープを飲んで、ひとしきり麺を啜った......あれ......スガキヤ......? 先週実家から戻った今だから気づけたのかもしれない。これ、限りなくスガキヤのあの味に近いかもしれない。 実家を出る時、しばらく食べれなくてホームシックになるからと一週間で3杯食べたあの味が......家から徒歩30分......ちっちゃい革命が起きた。 もう、実家には帰らないかもしれない......美味い。 ラーメンを平らげて店を出ると、少しだけ世界がお日様の匂いに包まれていた。ダニが死んだ匂いって話ではない。 お腹がいっぱいになると、意外にもう満足で帰ろうと思えたから、真っ直ぐ家に向かった。 どうやら幸楽苑の反対に歩いたとこのビックエコーは平日朝割で三時間770円らしい。 次の晴れの予定は埋まったな。 ラーメン屋で夢中で啜っていた時、向かいの離れた席に父と息子みたいな二人が座ってラーメンを頼んでいた。 朝一番、父と二人のラーメン。自分自身のいつかの記憶をくすぐられた感覚がして、少し寂しくなった。 私の父は、もしかしたら来年もう父親ではないかもしれないから。もう、自分には訪れない幸せが目の前に現れて、少しだけ寂しい感じがした。

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夜勤貴族の帰り道

花束みたいよりも早い方。

『細田守?人?知らない』 『え?サマーウォーズ見たことないんですか?』 『え?知らない』 『じゃあ、時をかける少女とかも?』 『知らない』 『えっ、夏何で感じてるんですか?』 『え?そんなに有名?』 『かなり前から。アニメとか見ますよね?』 『アニメ監督なの?押井守とかならわかるよ?』 『今の子にそれは共通言語として使えないかもです、僕は花束見てるので分かりますけど』 『花束?』 『花束みたいな恋をした、恋愛映画です。有村架純と菅田将暉のビジュ以外ありふれた恋愛を描く映画です。』 『押井守関係ある?』 『初めて出会うシーンで、押井守が出てくるんです。押井守いましたねが共通言語で仲良くなるみたいな』 『だいぶ押井守関係ないね、』 花束って言葉を聞いて、ハッとした。 深夜2時過ぎ、お客の存在なんて気にしないで喋る店員と私達しかいない空間、もしかしたらここが花束なんじゃないかって。 そういえばあの映画のモデルすぐ近くだし、彼は今多摩川沿いに住んでいるらしい。 偶然ってあるものだなっと。 25の誕生日を迎えてすぐ、友人に勧められ恋愛映画を見てしまった。 柄にもないくらいその映画にのめり込んでしまい、見終わった後、感動も早々に焦りが押し寄せてきて、衝動的にマッチングアプリをインストールしてしまった。 マッチングアプリの右も左も分からないまま触っていたら、来週の土曜、駅で待ち合わせることになってしまった。 勿論後悔はしたが、焦っていたし、いくら顔を知らない相手とはいえ、約束をした以上行くしかない。 その日は、買うか迷っていたコートをポチッて眠りについた。 失敗だった。 マッチングアプリも新品のコートも、私の人生全部大失敗。 なんかいい人そうだなっと、緊張していた四時間前の私をビンタしてやりたい。 失敗するかもなんて日に、新品のコートなんて下ろすんじゃなかった。 23時38分、夕食は食べていたけれど、吉祥寺駅前のファミマでファミチキを二つ買ってかぶりついた。 渋谷のラブホ街から逃げるように走ってきた疲れがどっと肩にのしかかる。こんな時間にもうバスはない。 家まで歩けなくはないが、最寄りとは違うせいで気が重い。しかし一人でタクシーは乗れないから、歩き始めた。 夜道の散歩は、若かった頃に少しした程度だったから、人気のない夜道がこんなに怖いだなんて知らなかった。 怖い、帰りたい!っとなる頃にはそこそこ歩いてしまって駅は遠いし、コンビニも近くにない。 だんだん足が重たくなって、歩幅が小さくなって、少し開けたバス停のベンチに縋るように座ってしまった。 歩いていた時は得体の知れない恐怖に怯えていたけれど、バス停から見る夜の景色はただ静かで落ち着いていた。 あ〜、これしばらく動けないな〜って、正直座る前に気がついていたけれど、案の定もうこのまま空が明るくなるのを待とうかなんて思っていた。 「もしかして、佐渡さん?」 なんの音もしないはずの夜の街で、音一つ立てないで名前を呼ばれ、流石に体が跳ね上がった 「あっ、すいません、驚かせました。佐藤です、高2で同じクラスだった」 「......佐藤......?大樹?」 「いや、健太の方です、地味な方」 「あっ......」 気まずい。たった1ラリーで高校時代、あなたはじゃない方でしたよって言ってしまったし、本人も自覚していたみたいでより気まずい 「まぁ、覚えてないですよね、もう6年も前ですし」 「いや、覚えてる覚えてる、体育祭、実行委員だったよね〜」 「それは大樹の方です......」 「ごめん......」 帰りたい。というか死にたい。どうしてこんな真夜中に6年前のクラスメイトと、こんな気まずい空気にならなければいけないのか。 「それで、佐渡さんはここで何してたんですか?」 「えっ?迷子」 「迷子?」 既に失礼をし過ぎて、もう彼にどう思われてもいいように思えたから、馬鹿みたいに本当のことを言ってみた。 「帰れなくて座ってたんですか?」 「そう、足痛いし、夜怖いからもう朝までここにいようかなって」 「それは災難でしたね、でも風邪ひきますよ?」 「もう今日全部が風邪みたいなもんだから、どっちでもいいかな」 「はぁ?」 やばい、流石にわけわからん女過ぎる、流石に失礼しすぎたか。 「それで?佐藤くんはどうして?」 「僕は、散歩です。今日一日全く外に出なかったので、罰散歩です。」 「バツ散歩?バツの字に歩くとか?」 「あ、いや、罪と罰の罰です。自分への戒めです。」 「あ〜なるほどね〜」 「よかったら......帰ります?  方向......一緒なら。」 「方向?甲州街道方面だけど?」 「おっ、同じです、多摩川あたりです」 「......かなり歩いたね?!」 「まぁ、罰なので」 「なら、うん!お願いしようかな。」 「よろしくお願いします。」 変わった人だった。まぁ、こんな夜中に散歩している人が変わっていないはずはないけれど、こんな変わった人、高校のクラスメイトにいたのかと驚いた。6年前の記憶の佐藤くんのイメージはせいぜいたくさん本を読む人だったから。 「お仕事、何してるんですか?」 「最近までフリーターだったよ、先月辞めた」 「......」 「趣味とかあります?」 「映画とかかな?あ、でも最近映画館バイト落ちすぎて行ける映画館少ないんだよね......」 「高校の同級生、他に連絡とか取ってる人います?」 「前はとってたよ、でもこの前の同窓会で元カレの田中に怒鳴ってから誰にも会ってないかな〜」 ......ダメかも知れない。 あまりに私に地雷が多過ぎる....なんだか佐藤くんに申し訳なくなってきた。 「佐藤くん?コンビニ寄ろうか?」 「はい。でも僕、罰散歩なんで財布ないですよ?」 なかなか派手なことをするな、何かあったらどうするつもりなのか。 「いいよ、コンビニくらい奢るから。たくさん申し訳ないし。」 「えっ、なら......」 セブンの揚げどりが食べたかったけれど、丁度目の前にファミマがあったので、国道沿いのファミマに入った。 『いや、それはね?演劇だがら。三谷幸喜とか、宮藤官九郎のって訳じゃないんだから。』 『あ〜そういえば三谷幸喜の脚本って全然受けないらしいね〜』 『そりゃ若い人の話は書けん!って自分の若い頃の話書いてるおじさんですから、脚本家ってよりニュースのコメンテーターってイメージですよ』 凄い、ちょっと凄過ぎる。 店内に私達が入って一ミリたりとも衰えないマシンガントークを繰り広げる。しかも内容がまるでファミレスみたいで、ここはレストランではなくてマートな訳で...... 「何買うんです?」 「ん?水とか?お酒とか?」 「ご飯は買わないんですか?お腹空いてないです?」 「酒はご飯でしょ?」 『俺さ、ハリーポッター見たことないんだよね〜』 『たまに居ますよね。あなた』 『ん?』 『あれでしょ、パスタは好きだけどサイゼ行ったことない、みたいな。』 『ん〜   あっ、スターウォーズも見たことない』 『マックも行ったことないの?!』 やはり凄い。少しデカ過ぎる二人声は逆に妙に緊張や居心地の悪さを考えさせないでいてくれた。 「やっぱり、お酒も買います。」 「えっ?飲めるの?」 「今日は飲める日みたいです。」 カゴを持ってレジに着くとファミチキが一つ寂しく残っていた。 「お願いします   あと、ファミチキ一つ」 カゴを渡した瞬間、さっきまでのファミレストークが嘘みたいな接客スマイルで店員はレジを打った。 彼は会計が終わるまで私の後ろで申し訳なさそうな顔をして、店を出ると「ありがとうございます。」と律儀にお礼をした。 「うち、来る?」 「えっ?!」 「多摩川よりは近いからね。それに、今日はお酒飲める日なんでしょ?」 「   はい!」 彼は少し照れを漏らして笑った 「ウチでラーメンズのDVDあるから見る?」 「あっ、はい!」 どうやら彼と趣味も合いそうだ。 あのうるさい店員に少しだけ感謝した。 今日は花束よりロマンスな夜だった。

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花束みたいよりも早い方。

スズナリの横の公園顔したベンチで。

今日、運命の人と別れることができた。 別れなって周りには散々言われていたし、自分でも別れたくないわけではなかったけれど、なかなか言い出せなくて、決定的な問題も起きていないなかったから、なんだかんだ別れないままでいた。 別れようって言う為に、話があるって彼に連絡をしたら、「スズナリ横で話そう」って どうして付き合っていたのか、どうして別れていなかったのか、思い出した。 彼はフリーターで、バイトは週2のくせに殆ど家にいなくて、家賃も光熱費も食費も、私が養う。私のヒモだった。 かと言って掃除も洗濯も料理も、何もしないしありがとうはない。 どうして付き合っているか。の問いから目を背けるのに必死で、目を背けたい理由を忘れていた。 スズナリ横、小さな街頭一つに照らされた公園顔したベンチに、彼は既にハイボールを開けてふけり顔で待っていた。 「お待たせ」 話しかけると、手に持っていた手帳を閉じて私を見た 「いいアイデア浮かんだから大丈夫」 「そっか、よかった。」 長引いたら、別れられない気がした。 「じゃあ、俺たち結婚しよう!」 流石にバレていた。バレていたし、その上で結婚......ならファミレスだったし、私達は花束みたいな恋もしていないよ。 「ねぇ、今だけ。あなたと話したいな」 本心だった。 「私は、あなたが好きな脚本家じゃなくて、あなたと話したい。あなたの気持ちが知りたいよ」 「......それは......」 「あなたは、小林賢太郎にも坂本裕二にもなれないんだよ。」 別れようよりも、彼を傷つける言葉を口にしてしまった。 彼との出会いは、本多劇場 久しぶりの合コンが期待外れで、酔い足りないままなんとなく入った。 埋まりきらないつまらない演劇を見た帰り、流れ込んだビィレバンの端で、店員さんの手作りポスターの写真を撮っていた。 エッセイを書く人かな?なんて思って見ていたら、見るもの見るもにときめいていて、どうやら下北沢初めての人だったようだ。 きっと、今日の演劇も彼の目には輝いて見えたのだろうな。 興味が湧いて、強引に居酒屋に連れ込んでみたら、意外に趣味が合って、彼は脚本家志望で、さっき演劇も実は意外に面白くなかったようで、彼を気に入った。 それから何回か、下北沢で遊ぶようになって、いつの間にか付き合っていた。 一緒に何度もスズナリや本多で演劇を見て、トリウッドで映画を見て、名前だけ見てライブハウスに入って見たりして、彼との下北沢は、いつもより空気が軽くて居心地が良かった。 しかし、彼は少しずつ変わった。 彼も、私も天才ではない。 しかし、彼は天才への憧れを、捨てられないまま歳だけを重ねていった。 別れようと言いたかったのは、彼が天才を諦められるように。 私達は、あの日つまらないと言い合った劇団の脚本家にもなれやしない、凡人なんだって。 「俺は、いつか必ず」 「いつかって、いつ?」 「......」 「脚本、結局一番も最後まで書き切れたこと、ないよね?」 「いや、それは......」 「私達、もう直ぐ30になるんだよ。もう、バカではいられないよ。」 「天才なら!」 「あなたは! 天才なんかじゃない。」 「......天才じゃないのなら......」 「え?」 「天才でないと、受け入れてしまったら......全て、無駄だってことになる......全部、愚かで済まされてしまう。......もう、止まれない」 「無駄なんてことは、きっとない。かけがえのない瞬間だったことは間違い無いよ。私達は、下北沢の夜で笑い合ったあの日々の先に生きている。あの頃、私達は天才だったんだよ」 「まだ、天才にはなれないのかな」 「まだ、わからないけれど。私はもう苦しいかな」 「......僕は、まだ捨てられない。」 「......わかった。それじゃあいつか、本多劇場に招待してね。つまんないって笑ってやるから。」 「いつか、必ず」 振り返らないで坂を登った。 私は天才じゃ無いし、きっと彼も...... けれど、彼はきっとこの先もこの街に生きている。

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スズナリの横の公園顔したベンチで。