non
292 件の小説どうせまた、地球は滅亡したりなんてしないけど
「もう会えないかもだから、今から会えない?」 三年前に別れた元カノからラインが入って、少し不吉な文面せいで、僕は急いで家を出た 彼女は、あの頃二人でよく街を眺めた、公園のベンチで待つと 午前2時 約束のベンチに向かうと、少し肩を丸めて小刻みに震える彼女がいた。 「こんな夜中にどうしたの?」 背後から呼びかけると、びっくりするくらい血の気が引いて、少し青ざめた顔の彼女が振り返った 「ちっ地球......終わるから......」 「ん?なんて?」 お化けかと思うくらい真っ青な彼女は、僕が近づくなり、僕の上着の袖を目一杯に掴んだ 「あと!二時間で地球終わる......」 「あと二時間......あっ!」 そこでようやく思い出した。そういえば今日の、4時十何分かに、なんかの予言があるとか聞いたな、と。 僕はそういうの、アホらしいと気にしていなかったけれど、そういえば彼女はそういう予言とか芸能人の不倫とか、一か月も経てばみんな忘れているような話題が好きだったな、と。 「そっか、今回はノストラダムス?だっけ?ババ・ヴァンガ?」 「うんうん......たつき諒」 また知らない名前だ、相変わらず陰謀界隈は色んな人が出てくるな...... 「で?地球終わるの?隕石?噴火?」 「うんうん......地震......」 地震で地球は終わらせられないだろ。本当に飽きないな 「で?地震が来るならなんでこんなとこに?もっと安全なとこに逃げたら?」 「地球終わるから。逃げても無駄......」 絶対捕まえる死神かよ。 「そうか、地球終わるのか〜。なら、今回は不安にならなくてもいいんじゃない?」 「えっ?!どうして?」 「だって、地球終わるんでしょ?ならそれを悲しむ人も語る人もいないんじゃない?滅亡なんだから」 「えっ?」 「ほら、未曾有の災害とかならさ?それで生き残ったら、失ったものとか命が悲しいし辛いじゃない?でも、滅亡ならみんなが全部失うんだから、自分も誰も悲しまないじゃん?」 「......理屈っぽいね」 「あっ、ごめん」 「でも、よくわかんないけど、震えはなくなった。ありがとう」 「なら、よかった」 「そうだね。どうせ滅亡して、誰も悲しまないんなら......今、この景色を見ていよう。なくなってしまって、その先どうなるかわからないけど、忘れないように」 そう言って彼女は僕の手を握りしめた。 「誰も悲しまなくても、滅亡したら君とは手を繋げないから。つないでおくね」 僕らはお互いに寄りかかりながら、手を握って街を眺めた...... 朝日が眩しくて目が覚めた。 「うっ......」 「ん?!」 「滅亡、しなかったね!」 その日、予言の時間が終わっても、僕らは手を繋いでいた。 結局その日もその次の月も地球は滅亡しなかった。 僕は陰謀論とか予言とかはあまり好きじゃない。無駄に人を不安にさせるだけであまり楽しくないから。 でも今日は、少しだけ滅亡予言に感謝をした。
私、かわいそう?
小学生時代、私だけ長袖の体操服を買ってもらえなくて、真冬の体育を半そでで受けていた それを見たクラスメイトが、「かわいそ~」と、私を笑った それがどうしてか、私には心地よくて そうか、私はかわいそうな子なんだ.......その感情だけ、みんながかわいそうと私を見るその視線だけが、枯れきった私の心を潤してくれた。 朝、目が覚めると、真っ先に、SNSをくまなくチェックする 性別も年齢も職歴も、別々のアカウントで、寝ている間に起きた、あらうる出来事を収集する そうして、あらかた集めきると、今度は発信側に回る 三十代男性無職のアカウントで仕入れた情報を、二十代女性会社員のアカウントで、四十代女性専業主婦のアカウントで仕入れた情報を、三十代男性起業家のアカウントで、それぞれ拡大解釈と少々のヒステリックを織り交ぜて、全て、被害者としてつぶやく そのあとは、xでバズっていた投稿を、海外のアカウントで、スレッズに手直しを加えて、英語で投稿する それが終わるとそろそろ........きた。 先ほど、二十代会社員のアカウントで投稿した、女性専用車両に座っていたら、気持ち悪い男がいきなり座って来て、あまりの臭さに電車を降りた、という投稿がばずった 本当は電車なんて乗っていないし、添付した画像も、仕入れた情報元のアカウントのほかの写真から、aiで生成したものだ 仕入れ元の投稿なんて、寂しい無職が、電車に乗ったら、満員電車で自分の隣だけ開いていた。そんな一文でしかない。 あぁ.......きた。 {本当に最悪ですね..... 男ってこれだから...... 風呂ぐらいはいいってほしいです...... あぁ........それは........ かわいそう} その後も、続々と私の投稿がバズる 引用同士の喧嘩や、リプライにぶら下がるゾンビ、正義ぶってお気持ち表明するアカウント、すべてが私の心を満たす道具でしかない さぁ、もっと、もっと、私を満たして 今、私が世界で一番かわいそう。 あぁ......幸せ ある朝、それは突然だった いつものように、情報収集をして、投稿を済ませても一向に、バズらない 通信障害が起きてるなんて情報はなかったし、.......何かがおかしい 慌ててスマホを開いて、Wi-Fiを切ってゲストアカウントでxを開いた....... そこには、私が持つ全部のアカウントがさらされて、中身が一人だとさらされていた 私は急いで、すべてのアカウントを削除して、布団にくるまった それから何度試しても、ダメだった アカウント一つ作るたびに、必ず過去のスクショが張られる 何が原因なのか、さっぱりわからない Wi-Fiも切った。メアドもパソコンもスマホも、全部変えた 遂には家賃を落として別のマンションに引っ越した それでも、私のオアシスは戻ってこなかった もう、限界だった。 一向に潤うことがない心 慣れた手つきで、自分で散らかした部屋を掃除しているとき、ふと、終わりにしようベランダに向かった カーテンを開けて、ベランダに足を踏み入れた瞬間、部屋の下、外に広がる道路に、男が一人、カメラを構えて立っていた 私と目が合った瞬間、男は無様にしりもちをついて逃げ出した 「あいつだ」 その瞬間、私の頭はアイツを殺すことでいっぱいになった 台所の包丁を手に取り、玄関を勢いよく飛び出す 野生の感なのか、第六感なのか知らないけど、私はすぐにアイツを見つけた この男.......デブで臭いキモ豚が私の幸せを壊した。許さない 私は逃げ惑う男を、追いかけすぐに捕まえ、男に口を開かせる間もなく包丁を突き刺した 男肉体を、包丁で突き刺した瞬間、もう何年も味わっていないあの快楽が私の体を駆け巡った 「あぁ......空が気持ちい......」 ぽっけに入っていた携帯を取り出しライブ配信を始める 男に肉体と、私 コメント欄は、いつも通りのインターネット 「ねぇ.......どう? 私ーーーー 可愛そう? 」 背後から物凄い力で、取り押さえられる 私が殺した男の顔は、思っていたより豚ではなかった けれど、仕方ないよね。 私のほうがかわいそうだもの 事件は、解明されんかった 犯人の女性は、一度の事情聴取も受けることなく自殺した 警察がいくら調べても、犯人と被害者の接点は見当たらなかった 被害者はその日、青空の写真を空がきれいだと文を添えて投稿していた
人が死ぬには短い階段
母は、「あなたの為」が口癖の人間だった そんなことを言っておいて、本当は問題にならいよう、迷惑にならないようにしか、私を育てないでいた 母は、結局一度も、私を見てなんてくれなかった 母の代わりに、私を見ていたのは、上の部屋に住む、紗枝ちゃんだった 紗枝ちゃんは、私より五つ上で、よく私が一人でいるのを見かけて、話しかけてくれた よくパンを買ってくれたり、私が泥だらけだと、シャワーを貸してくれた よく、紗枝ちゃんは言っていた 「私たち、いつか幸せになろうね」って 紗枝ちゃんを、階段から突き飛ばしたのは、私が中学に上がるころだった 気が付いてしまった 紗枝ちゃんは、私を愛していたんじゃなかった 私が少し元気になると、紗枝ちゃんは悲しい顔をする、私の体の痣が薄くなると、バレないように私を転ばせる 紗枝ちゃんが愛していたのは、自分よりもかわいそうな子を愛する自分自身だった 可愛そうな出ない私は、紗枝ちゃんは嫌いだった 紗枝ちゃんを階段の上から見下ろした時、最後の紗枝ちゃんの顔は、かわいそうだった 紗枝ちゃんの死体は、事故でかたずけられた 母も、紗枝ちゃんの家族も私が殺したことなんて知らない しばらく毎朝ゴミ捨て場にいるおばさんたちに、意味のない慰めを聞かされたけれど、イケメン俳優の不倫か何かで、もう誰も紗枝ちゃんの名前を口にしなくなった 紗枝ちゃんを突き飛ばしたことを結局、誰にも言わないまま、気が付けば高校を卒業していた 近所の寮付きの工場に就職して、これから毎日、週末に半額ベントを食べることだけが楽しみの人生になると、そう覚悟した頃、一通の手紙が来た [私はあなたの秘密を知っています] 手紙と一緒に、紗枝ちゃんのお気に入りの髪留めが入っていて、私の全身から血の気が引いた 次の週末、気が付けば私は、あの日紗枝ちゃんを突き飛ばした階段にいた そこは、あの頃と何も変わらない、ここで人が死んだなんて想像できない程、あのままだった.......ーー 「ひぃっっ......」 突然背中から押されて、上着の背中をつかまれたまま、階段に身を乗り出した 「どうする?ここで手を離したら、紀伊ちゃん死んじゃうよ?」 「......紗枝ちゃん......」 「なんだ、わかるんだ」 そう言うと、紗枝ちゃんは私を引っ張って戻した 「私、許してないからね」 紗枝ちゃんは、さっきまで人を突き落とそうとしていたとは思えないくらいラフに話し始めた 「.......ごめん......」 「紀伊ちゃん、私の最後の顔見て、かわいそうって言ったの、許してない!」 「......ん?」 「最後のセリフそれ?!って、今日までずっと思ってた」 「う、うん......?」 「ん?もしかして突き落としたこと怒ってるって思ってる?違うよ?」 「え?」 「あの頃のは......紀伊ちゃんに突き落とされて当然だと思うから」 「当然......」 「紀伊ちゃんが思っていた通り、私は私よりかわいそうに見えた紀伊ちゃんを利用していただけ」 「利用だなんて......」 「思ってたよね?さすがにきずいてたよ」 「......うん」 「でもね?かわいそうじゃない紀伊ちゃんが嫌いになったとかは、本当に違うの。」 「.......」 「あの頃、いい加減そんな醜い自分が嫌になって、それで距離を置いてた......」 「......」 「そうしたら、もっと紀伊ちゃんを気ずつけたね、ごめん......」 「......怒ってよ......」 「え?」 「怒ってよ!私、紗枝ちゃんのこと、ここで突き飛ばして..........殺したんだよ?!」 「........」 「私が、紗枝ちゃんの人生、終わらせたんだよ?!なんで......」 「......私が怒って、それ紀伊ちゃんが笑えるなら、幸せになれるのなら、怒るよ? 違うでしょ?」 「.......紗枝ちゃん.......」 「きっと、あの時紀伊ちゃん突き飛ばされていなかったら、もっと辛かった......私たちは、幸せになれないって、わかっていたから」 「紗枝ちゃん.......」 「紀伊ちゃん、私たち、ようやく幸せになれるね」 久しぶりに握った紗枝ちゃんの手のひらは、あの頃より小さく感じた 子供を産んでも、紀伊は私を愛してはくれなかった 代わりに私以外の、母親を見つけて、私の前から消えた そうして知らない間に、紀伊はその子を階段から突き飛ばしていた わが子が犯罪に手を染めた、不思議と誰に似たのか?なんて疑問はわかなかった 紀伊が突き飛ばした子は、紀伊が去ってあと、ほんの少し息が合った だから.......... 五年後、紀伊が就職した職場を突き止めた 手紙を送れば、紀伊は階段まで現れた 「仲良く一緒に眠らばいい、私を愛さなかった報いよ」 その階段は、人が死ぬには少し短かった。
唇の感触は知っていた
恋も愛もセックスも存在してるこの世界で、どれも持っていない僕と、それ以外の人たちが、同じ感性の生き物なはずがない 確かにその全ては、なくたって生きていけないというほどのものではないけれど、確実に、根本的に感情の根っこが違う それなのに、どれも持っていない僕らは、ダダの努力不足らしい 高校の同窓会の招待状を、ごみ箱に捨てて、安酒のプルタブを開ける 半年前にコヒーを零して染みが付いた、ネクタイを無造作にほどいて部屋の端に投げ飛ばした もう、コーヒーもアルコールも初めて飲んだあの時の、十分の一も味はしない こんなにも、大人が無色だなんて、十年前に教えてもらえていたら、もっとあの頃を大切に生きたのに こんな年になるまで、うだうだ生き延びてしまうことだってなかったのに 安酒を喉に流し込みながら、眺めるバラエティー番組で、もう笑えない 明日死のう、を毎日繰り返す うるさいアラームは、頬っぺたをたたくような痛みがした 今、何時なのだろう、目を開けて、スマホを付けるまで、遅刻の確率は五分五分だ 無理やり暴れるように体を起こすと、目をこすりながら、スマホを探す 瞼がまだ空かないせいで、部屋中かき乱しながら、ようやくつかんだ携帯を、無造作にたたくが、画面が光らない。あのまま眠ったから、充電が切れている どうでもいい、どうせスーツも着たままなのだから、このまま家を出よう もう、会社に僕に遅刻を叱る人間もいないわけだし 「今日、土曜日!」 まだ頭が起きていない、味のしないアルコールをがばがば飲んだせいで、一歩足を踏み出すだけで、脳が揺れるように痛む どうやら、僕のアルコール依存症は、遂に幻聴まで引き起すようで、高校時代、一度だけ恋をした彼女の声がした まぁいいか、今日が土曜でも、そうでなくても......彼女が土曜というから、今日は土曜なんだ...... 目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った 体内の水分が沸騰してしまうくらいに、体が熱い それに体全部が鉛のように重たくて、ベットに横になったまま起き上がれない 「お、やっと起きたね~」 なんだ、これは夢か、それともかな縛り?どっちでも構わないけど、もう少しお酒の量は減らそう 「ねぇ?聞いてる?」 聞こえてるさ、でも体が動かないし、どうせ夢なのだから、僕は返事をしない 「もう......一週間も寝ていたんだよ.......死んじゃったのかと思った......」 なるほど、そういう設定か、我ながらこの頭にどれほどの妄想力が残っていたのか、自分が恐ろしい 「キスでもしたら......さすがに起きるかな......」 avを見るのもほどほどにしよう ん.......チュッ。 ......っえ......柔らかい...... 今見ているのが、夢かどうか判断するときに、感触があるかどうかなんて話がある 今、確かに僕の唇は、彼女のあの柔らかさを感じ取った 「あれ?ほんとに死んでる?」 死んでるかもしれない。あの頃狂うほどの恋をした彼女にキスをされた、感触まであるそんな妄想が目の前で起きている。死因はアルコールか? 「まあいいよ、もう少し寝ていてね。ずっとそばにいるからね」 彼女のその声で、僕は再び眠りに落ちた 目を覚ますと、僕は高校時代の制服を身にまとって、あの頃の教室で一人、居眠りをしていた これは間違いなく、夢だ。 起き上がって、日めくりカレンダーが目に入った......卒業式、前日...... 僕は考えるより先に、足が動いた、これが夢だって関係ない。彼女を救えるのなら、それで...... 屋上に着くと、彼女は、上履きを脱ぐ瞬間だった 「あはは、この瞬間って、ドラマとかにはないよね......」 僕はあの時、この光景を下で見ていた 「何か用......かな?......あはは......」 下手くそな嘘笑いも、愛おしい。彼女はこの時いじめられていて......この後死ぬ。 「ごめんちょっとーーー」 「ごめん、少し話さない?」 彼女に声をかけると、少し迷惑そうに笑った 「死ぬんなら、その前に何をしてもどうだっていいでしょ?」 僕の言葉を聞いた彼女は、もう一度上履きをはきなおした。彼女の眼は、瞳の奥から僕を睨みつけていた 「ね、ねぇ.......」 「ここまで、見ていたよね?いまさら何?」 「.......そうだね、全部見ていた......見ていて何もしなかった。」 「私、今から死ぬんだよ?君含め、みんなの今日までの結果、私はここで死ぬ」 「もう、遅いかな?」 「遅い?なに?本気で助けたいだなんて、思ってるわけ? 違うでしょ?たまたま見かけたから、今死なれると、具合が悪いってだけでしょ?」 「そう......だったよ。僕は死のうとした君を、助けなかった」 「なに?」 「そのせいで、十年後、僕が死にたい人生を送ることになる」 「ねぇ、何の話?」 「あの頃、もう少し僕が強くいられたら、君は死ななかったんだ」 「はぁ.......」 「だからーーーー」 「あーもういいよ、聞くだけ無駄。私の死んだ後で、好き放題喋ってな」 彼女はそう言って、立ち上がった 「ちょっ!」 僕は無理矢理に彼女を押し倒した 「ちょっと、これってセクハラになるんじゃないの?」 「なればいいよ。セクハラでもなんでも、それで君が今日死なないのなら」 「......なにそれ......」 「言葉で君を変えられないのならーーーー」 僕は勢いで、彼女の唇にキスをした 「うそっ!」 「これで、死ぬ気は失せた?」 「さいってい!」 僕が最後に見た彼女の顔はリンゴみたいに真っ赤で、唇の感触は柔らかかった 「お、お寝坊さんだ~」 ベットの横、彼女は僕をのぞき込んでいた 「君は......」 「おかえりなさい。」 あの日、真っ赤だった彼女の顔は、とてもきれいに大人になっていた 「ねぇ?ファーストキスを奪っておいて、勝手に一人で死ぬつもり~?」 「いや......」 「責任、まだ残ってるよ?」 どうやら僕は、まだ死なせてもらえないらしい 「私が死ぬまで、死なせないから」 彼女の唇はあの日から変わらない。
その先でも、僕らは永遠を共に生きる
目を覚ますと、満天の星空が、ただそこで輝いていた 重たい体を起こして、あたりを見渡すと、見慣れない暗闇にに包まれた公園、冷たいけれど、消して悲しくはない風が吹く中、僕は一人眠っていた ここにどうやって来たのか、これまでのことを思い出そうとすると、貫くような痛みが頭を刺して、思わず頭を押さえた 「ようやくこれで全員か」 背後から聞き覚えのない声がして振り返ると、僕とそれほど背丈も、顔だちも変わらない青年が、僕を見ていた 「あの......ここは......?」 「まぁ、全部説明するから、とりあえずついて来いよ」 初対面だというのに、彼には全くと言っていいほど、恐怖がなかった、それどころか、少しの信頼感まで感じた。 だから僕は、疑いもせず、彼の後ろをついていくことにした 「これで十人、これでようやくスタートラインだ」 彼に連れられ、僕は立派な図書館の中にいた 図書館の真ん中、綺麗な円形のテーブルを囲むように、僕を含めて、十人の僕と同い年くらいの、男女が囲んでいた 「よし! それじゃあ、よーい、スタート!」 彼が手をたたいた瞬間、他のみんなは一斉に散らばって、彼のほうを見ると、彼は表情一つ変えないまま笑顔で、僕に向かって、拳銃を向けていた 「ごめんな」 彼が小さく漏らした瞬間、身に覚えもないほどの反射神経で、いつの間にか握っていたナイフで、彼の銃を握る左腕を切り飛ばした 突如、引き裂かれた腕の断面から、止まることを知らない血の波に微塵も動揺しないで彼は、倒れこんだまま、僕を見つめた 「そっか......どうしたって......やっぱりお前なんだな......なぁ、殺せよ。この答は全部終わればわかるからさ、ちゃんと最後まで......」 彼が何を言っているのか、なぜだか冷静にそれを飲み込めた自分に驚いた 「じゃあな、楽しかったよ......」 僕の腕は、彼の目に誘われるように、彼の心臓にナイフを突き刺した 彼の死体を見て、僕にら悲しみが、溢れた。 大切な何かを、自分の手で壊した。でも仕方ないと、わかった。 人を殺した自分に動揺する心よりも、次の目的地がわっかているように足を進める自分のほうが、心を多く占めていた 次の目的地、事務室 扉を開けた瞬間、長い髪のの少女が、こっちを見て、少しだけ驚いて、あきらめをかみ殺すように手に持っていた携帯端末のスイッチを押して、 「さようなら 大好きだったよ!」 そう告げて、彼女は自ら、喉元に拳銃を押し当てて引き金を引いた 訳も知らないまま、目の前で二人の人間が死んだ しかし、僕の瞳から、涙が流れ落ちた しばらくそこに立ち尽くしていると、四人の男女が事務室の扉を開けた 「俺はさ、まだ認めたくはないんだよ......」 そう言うと、強気で、しかし芯のある、彼は一人僕のほうに日本とを切りつけてきた、僕はそれを小さなナイフで受け流して、もう片方の手に持つ最初の彼の銃で彼を撃ち殺した 「きっと、これが結末なんだよ、これで終わりよ」 そういって、気の弱そうな、優しい彼女は自ら自分の右手に握られていたし榴弾の栓を抜いた 爆風に飛ばされ、建物の外に出ると、建物の入り口横、小さくたたずむベンチに、気配りができて、愛され屋の幸と、しっかり屋で、周りがよく見えていた健が手をつないだまま、眠りながら死んでいた 爆発で、酷く壊れた僕たちの図書館前、冷たく寂しい風が僕の頬を掠めた 「久しぶりだな......」 「そうだね、久しぶりだ、悟」 僕の前には最後の一人......悟が一人立ちふさがった 「ここまで来たのなら、全部思い出したってことかな」 「全部......思い出したよ」 「そうか、それじゃあ最後だ、最後、この場所で、俺との一騎打ちで」 そう言うと僕と悟は拳銃を構えて、お互いに撃ち合い始めた、体にしみ込んだ感覚でお互いに攻撃を交す、しかしほんの少し、少しずつ、僕が優勢になり、悟の拳銃を僕の弾が、弾き飛ばした 「やっぱり......お前なんだな......ごめん......」 そう言って悟は自ら引き金を引いた その瞬間、空を包み込む闇はたちまち晴れて......次の世界は......荒廃していた 僕らは、十人、この空間、図書館と公園だけが存在する世界に隔離された 最初は何一つわからなかった 喧嘩もした、泣きあって悲しみあって、僕らはみんな幸せだった 結局、お互いに本当の名前も、ここに来るまでの記憶もないけれど、それでも、心に残った深い傷が、十人でいる日々が癒してくれていた もういっそ、このまま一生十人で生きていこう、十人でそう決めた矢先、あるメッセージを見つけた それは、ぼろぼろの紙に書かれた、十人の、かつて僕らのように、ここにいた者たちからのメッセージ そこには悲しみ、後悔、憎しみ.......そしてそれらを全て超えるほどの、仲間たちへ愛 その紙の最後、私たちはここで十人、誰も一人にならないように、死ぬと、そう終わっていた その紙と別に一枚、憎しみと悲しみの嘆きが詰まった紙を、僕だけが見つけていた 「殺し合いをしよう」 みんなにそう告げた次の夜、僕は意識も、記憶も失って、そこで眠っていた この世界に一人だけ、最後に一人、全員同時に死のうと必ず誰かが残る 最後の一人がここで永遠になり、九人が救われると、その紙には書いてあった だから、みんなを殺すことにした もっとスマートにできれば、こんなにも悲しまないで済んだのだけれど、きっと僕の意識がない間に、あの紙が、みんなにバレたのだろう だから、みんな、僕が目を覚ますのを待っていたんだ みんな、優しいから。僕を一人にしないために、全員が、まだここにいた。 これから、途方もないほどの無限を荒廃したここで一人、暮らす しかしこれでいい、みんなが幸せなのだから。 この不幸の連鎖が二度と起きないで済むのなら、僕は無限だって惜しくない どうか九人の未来に、光が指しますように。
始発までのテロリスト
本当なら、自分一人で死ねるなら、それでよかった。 でもね、一人では死ねなかったからさ、 悪者になって、正義に殺されるんだ 「よし」 横長のボストンバックのチャックを閉めて、足音一つ立てずに家を出た 外はまだ闇に包まれていて、心地よかった 私の右肩にかかるボストンバックは、女子高生の自分の体には、あまりに不自然だけれど、それを不審に思う人たちはまだ眠っている あと一つ、このかばんを持って、私が山手線の始発に乗れば、すべてが終わるーーー 「ねぇ?ずいぶん大きなカバンね?」 「え?」 不意に背後から聞こえた女性の声に、驚いて振り向くと、その拍子にするりと右肩のボストンバックを奪われた 「ちょっ!返して!」 「お~これまたよくできてる~」 私のボストンバックを奪った女性は、鞄を上下に揺らしながら、興味を示していた 「ちょっ!それ、危ないから!返して!」 「ん?なんで危ないのかな~?」 「......」 爆弾ですだなんて、言えるはずはなかった。しかしこのまま万が一に爆発しかねない 「と、とにかく!ーーー」 「爆弾......上手にできてるね~」 彼女の口から、[爆弾]という言葉が出た瞬間、背筋が嫌な汗が通って、心臓を思いっきり掴まれたような感覚がした 「とりあえず、少し話そうか?」 彼女のその誘いを、断れるはずはなった。 「とっとと、警察なりなんなりに突き出してください!」 二人で線路横の公園のベンチに座って五分、彼女はいやらしいほどにそれから何も言わないままで、私がもう限界を迎えてしまった 「ん~とりあえず警察はいいかな~」 「え、ならどこに......まさかこれで脅して......」 「いや、それもいいかな~」 「なら!ーーー」 「ちょっと、お話がしたいな~と?」 「あっ......そうゆうのですか、ならいいです。不運ですがあなたに見つかってしまった手前もう失敗ですから、自分で警察に向かいます」 「.......やっぱりね~ なら脅す。このまま私の隣を去っていくのなら、私はあなたに余社はしない。」 「卑怯ですね......」 「爆弾テロjkには叶わないかな~」 私は彼女の言うまま、もう一度ベンチに戻った 「って言っても、もう一回ありきたりなカウンセラーみたいなことしても無駄だよね~?」 「ですね、ああいうカウンセラー、私大っ嫌いです!」 「おお~なかなかだね~ なら、そうだね」 「え?」 そう言うと彼女は立ち上がって、私の正面に立った 「私の名前は、館川 聖 .......十年前、東海道新幹線爆弾テロ事件の犯人だよ」 館川 聖、思えば彼女の名前を、テレビの再現ドラマで見たあの日から、私のレールはどんどん外れていったのかもしれない そのテレビ番組では、館川 聖という名前は仮名で、完全に悪人として、その事件の最悪を回避したjr職員をヒーローにして、奇跡の物語として語られていた しかし私は、たった一人であれだけのことをした、館川 聖という存在に妙に惹かれて、その日から、暇さえあれば事件の記事を、隅々まで調べていた。 しかし、事件の記事をいくら調べても、館川 聖に関する情報は何一つ見つからなかった 唯一、女性で、うなじに事件の時にできた深い傷があるということだけ。 そうして今日、十年前聖ちゃんが爆弾を仕掛けた日に、私は爆弾と共に死ぬ......はずだった...... 「あなたが館川聖だって証拠、何かあるんですか?!」 だから、目の前の彼女が聖ちゃんの名前をかたるが許せなかった 「え~証拠~?」 彼女は少し戸惑いながらも、後ろを向いて長い髪を肩に寄せて、うなじを見せた 「こんなんしか、当時の証拠?みたいなのはないかな~?」 彼女が髪をどけてうなじを見せようとした瞬間、どうかそこに傷一つないでほしいと願った。彼女のうなじにあの傷があれば......あってしまえば、今、目の前に立つ彼女がまぎれもなく私のあこがれの聖ちゃんだと証明してしまうから...... 「って、こんな傷、何の証拠にもならないよね~」 「......あと三センチ。 右にそれていたら、頸動脈に突き刺さって、命はなかった.......」 「え......?」 認めたくなんてなかった。私の尊敬して大好きな聖ちゃんが、まだせいぜい10歳程度しか離れていないこんなおばさんだなんて...... 「うそ!そんなはずない!!!聖ちゃんは!!聖ちゃんはもっとかっこよくて! 今もどこかでぶっ飛んだことして生きてるんだもん!!!こんなクソ田舎の幸薄そうなおばさんが私の聖ちゃんなはずがない!!!!」 まだほんの少ししか色のついていない空の下、私の声は静かな夜を切り裂いた 「.......」 「聖ちゃんは、聖ちゃんは!.......」 私の言葉は、そこで使い切ってしまって、次の言葉はもう喉から出てこなかった....... 「そう......やっぱりそうだよね......」 目の前に立つ彼女が聖ちゃんだって、本当はもうわかっている。でも、認めたくない一心で、私は大好きな聖ちゃんを傷つけた 「すいません.......やっぱり私、もう警察行きますね......酷いこと言って、申し訳ございませんでした......どうかお元気で......」 私には、もう目の前の彼女の顔が見られなくて、逃げるように鞄を持ち上げたとき......私の腕を強く握りしめられた。 「私の名前は、前島 冴子。館川 聖はあの日に新幹線の中で死んだの.......」 自分がした行為によって、結果的に死人も損害も出なかったけれど、17歳のあの行為は、まぎれもなく犯罪だったと、私は永遠に心に刻み込んでいた。 時々新幹線を見ると、罪悪感で死にそうになるけれど、その度あの時抱きしめてくれた車掌さんと、今でも月一で電話をくれる刑事さんのために生きようと思えた あの事件から十年、私と同じ目をした少女を街で見かけて、直感的にこの十年は彼女の過ちを止めるための十年だったと感じた もし彼女が、私......偽りの館川 聖を崇拝しているのなら、間違いなくその日は同じだろうと待ち伏せした 予想通り彼女が、十年前と同じ日の朝に現れて、私は足に目いっぱい力を入れて声をかけた 彼女は、私が生み出した犠牲者なのだから、私が責任を持つ。 「聖ちゃんが死んだ......?何言って!」 「館川 聖は、全部架空の存在だから......あの日起きたことは、誰一人誇れるような話じゃないんだよ......」 「嫌だ!嫌だ!そんな話聞きたくない! 聖ちゃんはかっこよくて、一人で世界と戦って......」 私は力尽きて、彼女にもたれかかった 「ごめんね、私はあなたが思うようなかっこいいい存在じゃない。あの日新幹線にいたのは、臆病で自分勝手な、未熟な女子高生だったの......」 それから私は、彼女の話を泣きながら聞いた。大好きな聖ちゃんを失った悲しみで、正直聞き取るのに必死だったけれど、どうしてか彼女の言葉は、私の心にすんなり届いた 「ごめんなさいね、あなたの子の爆弾。私が警察にもっていくね。もとはといえば、聖がいなければ、あなたもここにいないのだから」 そう言って立ち上がる彼女の腕を必死に掴んだ 「え?」 「勝手に......勝手に全部自分のせいにしないでくださいよ!!! この憎しみ、この爆弾は!私の!聖ちゃんへの愛の結晶!!私でだけのものだ!!」 「でも、このまま警察にいったら、もう戻れないよ?」 不安そうな彼女の顔が少しむかついたから、思わず一発殴った 「ぃっいった!」 「こ、これで私は、暴行犯です......!」 「......ふふ、なんだそれ!、意味わかんない」 彼女は少し私をにらみながら笑った 「警察なんて怖くないです! 友達っとなら、何だって怖くないです」 喉から必死に出した二文字は、さっきの拳よりも彼女を驚かせた 「あの......冴子さん......私、あなたと友達になりたい.......です」 恥ずかしくて死にそうだったけれど、何とか差し出した私の右手を見て、彼女は涙を流した 「私と......友達?......聖じゃなくて、冴子と?」 「当たり前です......あんたは冴子、聖じゃない」 硬く握った冴子の手は思ったよりもあったかった 今から警察署に行くというのに、私たちは笑顔で歩き始めた 「あ、電車」 「始発なんて、誰も乗ってないよね~」 「まぁ、ですね~」 「ほんと優しいよね~」 「え?褒めても何にも出ないですよ~?」 「はぁ?おばさんって言ったのまだ許してないからね?しばらく引きずるから?」 二人でボストンバックを持って歩く日の空は、もうすっかり輝いていた。
メンチカツの味 忘れる
初めて喧嘩をしたのは、僕がコロッケを買い忘れて返った日 僕たちらしいな、なんて思ったりしたけれど、それ始まりだけで、時期に恋人から夫婦になるという時期に、どんどお互いの摩擦が火種になった。 [いつものベンチ、来て] 仕事終わり、駅から歩いていると彼女から久しぶりのラインが来た いわゆる倦怠期のような僕達に、頻繁に連絡するなんてありえなかった。 いや、浮気はしているけれど、バレているはずはないのだから、僕には彼女が何故怒っているのかわからない。 [わかった] 返信してしばらく歩いていると、小高い丘のいつものベンチに彼女は座っていた。 僕を見つけるなり、少し冷たい目で僕を隣に座らせた。 「なんでーー」 「ねぇ、いつからメンチカツが好きになったの?」 予想外の話題に驚いた、彼女は僕がメンチカツの方が好きなことに恨んでいたのか 「いや、この間たまたま見つけてさ〜あのお肉屋さんコロッケもいいけどメンチカツもーー」 「いつから!?」 「えっ......ーー」 「先月から、だよね......」 「え?うん......」 「私達、付き合ってもう半年か......来月、式だよ?」 「うん、楽しみーー」 「浮気、楽し?」 浮気の二文字が彼女の口から出た瞬間、僕の心臓は梅干しのように目一杯萎んだ 「えっ?浮気?」 「あのお肉屋さんね、メンチカツは夕方にはもうなくなってるの、必ず。」 「えっ?いや、そんなことーー」 「私、毎日あなたが帰る前にコロッケ食べてるんだよ?」 彼女の声にはもうあの日のような暖かさはなく、冷え切った呆れと悲しみと怒りが複雑に混ざっていた。 僕は、あんなに大好きだった彼女の顔が今は見れないでいる。 なんて言葉を繋げれば、まだこのまま彼女の隣にいられるのか、僕にはわからない。 愚かな過去の自分を、ひどく恨む 「一回だけ、チャンスをあげますーー。」 「はい......」 「今後一切、メンチカツは食べないこと。」 彼女はやはり可愛くて、愛おしい。 「はい。二度と、メンチカツは食べません。」 「これから毎日、飽きるくらいコロッケを食べさせてあげるね?メンチカツの味なんて二度と思い出せないくらい。」 彼女の声に、今まで感じたことのない闇を微かに垣間見た 「はい!この話ここでおしまい!」 彼女はケロって立ち上がって歩き始めた 「結婚式、楽しみだね〜」 その日、明日からも毎日永遠にコロッケを食べるために、生きようと誓った
コロッケ 一個でいい
付き合いたての彼女と、ばったり帰りの駅で会った。 珍しいこともあるもんだね〜なんて言って一緒に彼女の家までの帰り道を歩く 帰宅時間真っ盛りな駅前商店街は、いつもなら少し面倒だなんて思うけれど、今日は自分も商店街の賑やかさの仲間になれている気がする 「あっ、ここのお肉屋さん、コロッケ美味しんだよ〜」 「へ〜知らなかった。よく来るの?」 「うん!毎日帰りに買って食べてるよ!ごめんね〜」 「ふふ、いいねそれ」 「でしょ!一緒に食べよ〜」 そう言って彼女はお肉屋さんに立ち寄った。 「コロッケ、二つください!」 「はいよ〜 あら、ごめんね〜コロッケ残り一個しかないや〜」 「え〜」 「いいよ、一個二人で分けようか?」 「うん! コロッケ、一個ください!」 「毎度〜」 二人できた、お肉屋さんに少しやらしい目で見られながらコロッケを受け取る。僕が分けようと手を伸ばした時 「ハムッ! はい、これで半分こ〜 美味しい〜」 僕の手にあるコロッケを彼女は可愛く一口噛んで嬉しそうに笑う 「あ〜......結婚してください?」 「えっ、?!結婚?!!」 「いや、その〜君の笑顔をずっと隣で見ていたいな〜と、」 「〜ほぉ、うん。結婚。よろしくお願いします。」 二人で手を繋いで返った商店街、僕は一生コロッケの味と夕焼け空を忘れない。
As long as you smile
私の彼は、売れない小説家だった。 彼の小説は、誰にも読まれないまま。 私だけ、彼の書く小説が大好きで、私の感想を恥ずかしそうに聞く彼の姿を見て、このまま時が止まっていてくれたらいいのにって思った 今日、彼の小説の三部作の最終章、「涙を流す女」の発売日 しかし、世界中どこを探しても、彼の小説は、書店には並んでいない 彼の小説は、呪われた小説として未完のまま、永遠に語り継がれる 私と彼だけが、あの小説が完結した世界で死ぬ 今日、名作ミステリー、「As long as you smile」の完結編が二十年の時を超えてついに発売される 未完のまま度重なる事件により、一時は最終章の発売は完全に頓挫したが、二十年の時を経て、遂に発売される。 僕は、その発売セレモニーにカメラマンとして参加した 会場は歌舞伎町のゴジラ前の通りを目いっぱい溢れんばかりの最終章の発売を心待ちにしたファンたちを詰め込んで開催された ファンたちは、当時学生だったファンや、最終章に関する一連の物語に引かれた、若いファンたちもいた 彼らは、皆、最終章の発売を心待ちにして、遂に今日、この日にこの目でそれを体感できることに興奮していた しかし、皆、それだけではないことを、全員が、自覚していた このミステリーの最終章には、もう一つ未解決事件がある。 ファンたちは、今日この日、その事件の完結を目にできると、二十年の時を超えて、かつて胸躍らせたその物語に、また興奮していた しかし、最終章は、その日も全国の書店に並ぶことはなかった 二人の人間の死によって、最終章は、もう一度闇に頬無理去られた 事件は、まだ終わらなかった 最終章は、おじいさんが一人で営む、田舎の小さな書店にひっそり並べられていた それがあの最終章だと、発見されるまで、80年と、7人の命が犠牲になった 最終章が全国の書店に並んだ日、書店のおじさんは亡くなった 八人目の犠牲を持って、この事件は完結した。 「As long as you smile」 あとがき 「涙を流す女」 私の彼女は、よく笑う子だった 沢山笑う彼女のそばにいると、自分も少し笑えているような気がして、そんな自分のことを少しはましに思えて、少しだけ生きて居ようと思えた 彼女に告白されたとき、嬉しかった、でも彼女が昔より笑わなくなってしまうような気がして怖かった。 彼女は、もうあの頃のように笑わない 私から出る死の空気が、彼女から笑顔を奪った 彼女が笑わないままでは、死ねないと思った 彼女に半分強制でお酒を飲まされた夜、僕はふわふわしか心地で、昔話をした それを聞く彼女は、あの頃のように晴れやかな笑顔をしていた 私が小説を書き始めたのは、その時からだった 小説は、書き終わるたびに、彼女にだけ見せて、その度見せる彼女の笑顔のためにまた書いた ある日、彼女が私の小説が出版されると嬉しそうに言ってきた 私には、意味が分からなかった。それでも、彼女が笑ってくれるのなら、かまわないとそう思った 彼女は、もう私に笑ってくれない 代わりに私の本を持って笑っている ようやく、死ねるようだ 私は取りつかれたようにペンを握って、最終章を書き上げた この作品で、私は死ぬ。 彼の小説を、インターネットで目にしたとき、恐怖と怒りと悲しみでぐちゃぐちゃになった それの犯人は、当然彼ではないし、私でもない。 結局最後までその真相はわからなかった しかし、インターネットに公開されていた、彼の作品たちは、皆に称賛されていて、少しだけ嬉しく思った 何か手掛かりをと思って、ネットのコメント欄に掲載されていた、出版依頼をしている電話番号にかけてみた 一回直接会いたいと言われて出版社に向かった その日は、最悪だった お金の話ばかりされて、私から口を光る権利はまるでなかった 結局、連絡先だけ渡して逃げるように帰って、彼に会わないまま一人で泣いた 翌月、あの出版社から、メールが来た 次の週に彼の小説が書店に並ぶと 私はその日食べたごはんを全部吐き出した 出版社のメールの最後に「小説は誰かに読まれて初めて完成します。私たちがこの作品を関せしさせました」と。 彼の作品は、私たちの中でとっくに完成していた。 発売日、私は彼の前で笑った 全てを背負って、私は彼を守ると誓った 彼の作品が、書店から消えるその前に、彼が私の前から消えた。 彼がよく私の感想を聞いて笑っていた机の上には、ブわつい紙束が置かれていた それは、彼が寝る間も惜しんで取りつかれるように書いた、ベストセラーになった彼の作品の最終章の原稿だった。 私には使命ができた。 この使命の先に、彼はいない。 私はまだ、死ぬわけにわいけない。 あの出版社が力業で最終章を発売しようとした前夜、私は彼の小説を勝手に出版して、彼を殺した編集著を、ナイフで刺し殺した。 それから、逃げるように田舎に消えて、時が来るまで、田舎で彼との子書店を営んだ 彼の作品が世に出そうになるたびに、私は首謀者を手にかけて、私手は、三人の血で汚れていた 三度の事件による発売停止は、彼の小説を未完の名作に仕立て上げた そうして二十年、ようやくすべてが終わる 彼の小説をの発売記念のセレモニー、想定道理行われたセレモニーで、私は彼の作品の通りに、出版社の社長を刺して、自らの喉元に重工を突き付けて引き金を引いた。 その日、私は何年振りかに笑えたような気がした。 私の母は、私の父の最後に書いた小説になぞって、最後まで全うしてこの世を去った 私の父は私がまだ母のおなかの中にいる時に、死んだ 父は小説家だったらしい 母が、時々一人で泣いているのを、私は気が付いていた 決して私の前では泣かなかった母が、唯一三回だけ、私の前で涙を流した 私が二十歳になった時、母はおめでとうとありがとうとごめんねを言って私の前から消えた それから私は死ぬまで、母の書店を守り抜いた その本が世界に飛び立つ時、母の使命と私たち家族の物語は終わった 最終章には三人のあとがきが添えられた 彼らがその先で、笑顔であることを願う。
僕たちは、天才じゃない。
僕たちは天才じゃない。 そう諦められた人間から、順に大人になって行く 小学生の頃は誰しも自分は天才だった でも中学になれば、自分よりなんだってできる奴を一人や二人は見て、自分はそいつの下位互換でしかないことに気がつく。 高校にもなれば、自分を天才だとまだ諦めていない奴が痛々しくて、それをアザ笑うようになって、ふとそんな自分が、まるで過去の自分を笑っているようで、そんな嫌な感覚を振り払うように、他人を仲間と呼んで、群れの中で自分を肯定する。 大学に入ると、なぜだかまた自分が天才だと思うようになる。 大学生で、天才だと叫ぶと、周りより1ミリだけ上に行けるだ。 後から振り返れば、なんにも凄くない社会人が、ちょっと周りと違う奴を1ミリだけ上に持ち上げる。 そうやってできた大学の空気が、大学生という言葉に詰まっているがむしゃら、痛々しさの正体だろう。 だから、大学生になると、もう一度僕らは天才になれる。 そいつと初めて出会ったのは、一年でなんとなく入ったゼミの飲み会。 大学生故の内容が1ミリもない飲み会の空気に当てられて、外の空気を吸おうと居酒屋を出ると、そいつは向かいの電柱に口の中を全部吐いていた。 いや、吐くならそんな見えるとこじゃなくて店の横の細い路地にしなよって声をかけると、中にいる他の奴らとは違って、ふこし怯えながら謝って、そのまま走り去った。 変な奴だとは思ったけれど、変じゃない大学生なんていないから、そこまで気になりはしなかった。 次の日、演劇サークルの新歓で、あいつに会った。 大学の演技サークルだ、みんな我先にって、自分を他の奴とは違うってアピールしている中、そいつだけ端の方でもじもじしていた。 僕は演劇サークルに入ることに決めていたから、こいつと会うのは最後だろうって思った。 新歓の終盤、三年の先輩が即興でペアを組ませて軽く劇をやってもらうと言って、何かの因果か、僕はそいつとペアだった。 最初は何をするのか訳が分からなくて困ったが、何組かやるうちにそんなにちゃんとした物をしなくていいってわかって、そいつに耳打ちで、昨日の居酒屋の前の件をやろうと言った。 僕らの番が回ってきて、そいつが昨日みたいに倒れ込んで、ゲロを吐く演技をし始めて、僕が昨日みたいに、そんな邪魔になるようなとこじゃなくて、店の横の路地にしなよって言った。 その瞬間、さっきまで震えていたそいつは、目に確かな力を込めて僕を睨む 「邪魔......?俺が吐いてる場所が、たまたま店の前の通りで、俺にとっては店も道路も電柱も、そっちの方が邪魔なんだけど?!」 「......」 それまで流れていた、ぐだぐだした空気を切り裂くようなそいつセリフに僕は圧倒されて何も言葉が出なかった。 「俺からしたら、あんたも世界も全部邪魔だよ!」 カット! 三年の先輩の言葉でピリついた空気は元に戻り、さっきまでの震えたそいつ戻った。 「今日は、ありがとう。」 新歓のあの場で......僕は帰ろうとしたそいつを呼び止めないわけにはいかなかった。 「い、いや、ごめん。いきなり変なことして......」 「いや、凄かったよ。圧倒された。」 「へへ、嬉しいな......」 「凄かったよ。君、演技サークル入るんだよね?俺も入るからさ、これからよろしく。」 僕が手を差し出すと、そいつは僕の手を握らなかった 「いや、僕はサークル、入らないよ。演劇もやらない......」 「勿体無い」 「えっ?」 咄嗟に僕の口を出た言葉に、そいつは首を傾げた。 「勿体無いよ、せっかくあれだけ演劇凄いのに」 本当は人を褒めるのは好きじゃないけれど、今目の前でそいつが演劇をやらないと言うのに、僕は勿体無いと、引き留めたかった。 「いや、演劇サークルのあのノリ......ついていけないよ。あのサークル、演劇の為ってより、飲み会するための口実で演劇やって流みたいな感じがして......」 「......なっら! 俺と二人で劇団立ち上げない?」 「えっ?」 自分でも何を言っているのか、まぁ、どうせ断られるだろうし、僕も少しあの飲みサーの空気は嫌に感じていたから、まぁ、言ってみただけだ。 「二人で劇団......いい!やろう!」 「えっ?!」 「僕、長谷部翔太、これからよろしく」 僕はそいつに差し出された手を少しだけ躊躇いながら握った。 さっきまで怯えていたそいつの目に光が宿った。冗談で言った言葉で思ってもないことになったが、二人だけで劇団。なんだか特別を感じて、それもいいと思えた。 その日、僕たちは僕たち二人だけのサークル「ペリカンの卵」を立ち上げた。 劇団をやるとはいえ、二人だけだと何かできることの方が少なく、演劇サークルが他にある以上、まともに講堂も使えないから、とりあえず僕の住むマンションで毎晩二人で話し合った。 結果、とりあえず二人だけで一公演やろうと言う話になり、平日の、誰も見にこない時間に講堂の使用許可を取って、一回目をやることになった。 脚本は、前から少し書いていた僕が書いて、フライヤーを長谷部が作って、大学の掲示板に貼って、二人でビラ配りをした。 たくさんバカにされたし、演劇サークルにもしっかり目をつけられたけれど、長谷部と二人でビラ配りをしている時は、なぜだか全て楽しかった。 公演当日、震える長谷部の背中を強く叩いて、幕を開けた 正直0人だと思っていたけれど、冷やかしと演劇サークルの偵察で、十数人客がいた。 公演中は、とても演劇を見るような空気ではなかったけれど、僕と長谷部は下手くそながらに全力で演じ切った。 アンケートは冷やかしと脅迫しかなかったけれど、初舞台をやりきった高揚感だけで、僕たちには充分お釣りがくるような気がした。 それから僕らは月一で毎月公演をした。 客は10人を超えることはなかったけれど、二人だけで演劇に向き合う毎日が凄く生きてる心地がした。 9月の公演終わり、演劇サークルのサークル長が公演終わりの僕らに来週のうちの公演に出てほしいと、話をしにきた。 公開処刑の誘いなことくらいはわかったけれど、長谷部は珍しくやると即答したから、出ることになった。 その日は、長谷部はいつもより緊張していた。 最悪な空気の中、どうしたって貶されるのは目に見えていたけれど、僕らは舞台に上がった。 演劇サークルの公演に出てから、僕たちの定期公演の客は倍以上になった。 思えばその頃から、長谷部にファンがついていることに、僕はうっすら気がついていた。 年が明けて、新入生が入ってくる。 僕らは新歓の波の中、二人でダンボールで作った勧誘ボードを持って必死に勧誘した。 結果、新入生は、7人も入った。 みんな口を揃えて、演劇サークルに勝ちたいと。 長谷部先輩の演技を見て来ましたと言った。 どうやら、演劇サークルのゲスト出てた回がYouTubeに上がっているらしく、長谷部はインターネットで話題になっていた。 新入生が入って、それまでの劇団はもうなくなった。 毎月公演をして打ち上げで飲んで、何人か抜けたりして半年くらいした頃、長谷部が初めて脚本を書いたから、来月はこれをやろうっと、僕に持ち出して来た。 わかったやろうって、即答できなかった。 正直毎月脚本を書いていてわかる、僕にそのセンスはない。だから脚本を誰かがいてくれるのは、凄く助かる。助かるのだが......この脚本で来月やったら、全てが終わるように思えた。 結局、長谷部の願いを承諾して、その月は長谷部の脚本でやることになった。 わかっていた。 わかっていたけれど、やっぱり長谷部の脚本の回は、僕の回の何倍も拍手が多くて、アンケートも好評だった。 その次から、また僕の脚本に戻したけれど、アンケートも後輩たちもどこか不満そうだった。 僕らが三年に上がって、新入生を入れた新体制の1回目、僕は長谷部に脚本を書くように言った。 その日から、僕は脚本を書くのをやめた。 三年になってすぐに、バイトで足の骨を軽く怪我して一週間入院した。 なんてことなかったけれど、一週間ぶりに向かう稽古場は、少し遠かった。 それから僕はテキトーな理由で稽古を休むようになった。 毎月やっていた公演を初めて無断欠席したのは、8月、長谷部には、親が倒れたって嘘の連絡を入れたけど、本当は二日酔いで起きられなかっただけ。 その日から僕は、稽古場に行くのをやめた。 毎日友達と呼ぶほどに、信頼もしていない同級生とバカみたいに酒を飲んで、二日酔いのままなんとか単位だけを取って、キャンパスで長谷部に会わないようにすることだけ、必死だった。 12月、定期公演のチケットが完売したらしいと聞いて、僕は初めてウィスキーを飲んだ。 もう、全部忘れたい。 これ以上、...... 四年の7月、いつもの飲み仲間の中から初めて内定が出たやつのお祝いで、僕らはあの居酒屋で飲んでいた。 お祝いなんて言っているけれど、本当はほぼやけ酒で、今日も記憶が無くなるまで飲むつもりだった。 今日はいつもの居酒屋じゃなくて、たまたま近かったから入った、ゼミ新歓で飲んだ居酒屋で、僕は普段より早く酔ってしまい、フラフラなまま、店の外に出て、向かいの電柱に向かって、汚いスーツに少し染み込ませながら、全部吐き出した。 「吐くならそんな見えるとこじゃなくて店の横の細い路地にしなよ」 何ヶ月ぶりに聞く声、顔を上げると、僕を見下ろす長谷部がいた。 「酷いスーツだね、それで就活は無理だよ」 「う、うるせぇ......は、長谷部はーー」 「おれ、大学辞めたから。」 「えっーーー」 「これからは舞台の上で生きていくよ。」 「ーーーそっか。 すげぇ、なー」 「それで、俺、新しい劇団立ち上げたから。演劇とコントをやる劇団。」 「えっーーー じゃあペリカンの卵はーー」 「12月のが最後で、休止してるよ。それくらいは知ってると思ってた。」 「あっ......」 「それじゃあな。俺、お前の酒癖嫌いだったよ。」 そう言って長谷部は僕の前を去っていった。 僕の人生がこの先どんな道を辿ろうと、今日以上に死にたいと思った日はないだろう。 結局僕は四年の11月にギリギリで内定をもらえたブラック企業に行くことになって、長谷部が新しい立ち上げた劇団は、大学生劇団としては異常な人気を誇り、選手ローカルの深夜番組に出たりしていた。 大学を卒業して、終電ギリギリに帰って、スーツのまま酒を飲んで、そのまま揺れるように痛い頭で出勤する毎日を生きていた僕は、まだ長谷部の劇団の公演を見にいけていない。 長谷部の劇団は、最近コントで関西のお笑いショーレースで決勝まで行ったり、名だたる芸人たちが出るコント番組で肩を並べていた。 長谷部がテレビに映る度にビールの缶をテレビに投げていたから、僕のうちのテレビはもうぼろぼろだ。 もう、やめてほしい。 殺してくれ...... あれから五年経って、長谷部の劇団が、演劇公演でついに全国を回るらしい。 僕は気がついたら、上野に居た もう、全部終わらせたかったのか、気がついたら今日長谷部の劇団が初演を迎える劇場の前に立っていた。 我に帰ってしばらくぶらぶら、大学の近くを歩いて......また劇場の前に着いた。 あの頃、二人でたった講堂とは比べ物にならないぐらいの客が、長谷部の劇団のグッズを片手に劇場に入っていく。 僕が帰ろうと背を向けた瞬間、スタッフが慌てて僕のところに駆け寄ってきた。 「も、もしかして、ペリカンの卵の方ですか?」 何十年ぶりに聞いた名前、僕はスタッフに案内されて、劇場の中に入った。 二階席の通された席には、ペリカンの卵様と書いた札が置いてあった。 劇場が暗くなって、幕が上がると、舞台に立つ長谷部の姿が見える。 慣れた動きで首を上げた長谷部は、僕の方を見て、目が合うと少しだけあの頃の長谷部に戻ったように見えた。 「そうか、僕は天才なんかじゃない......」 幕が降りて、拍手に包まれた劇場 ポストーの出演者の欄に、僕の名前はない。