鱗
2 件の小説濁と純 彼side
最近、ずっと、体調が悪かった。 病院に行ったら、癌 ステージ3だった。 生存率は44% 微妙な数字だった。 生きるか死ぬか、まだわからない。 だけど、死ぬぐらいなら大人しく一人で死にたい。 誰にも迷惑をかけなく、一人で…。 そして、今日、彼女に別れを告げようと思う。 診断された日から彼女の様子がおかしかった。 もしかしたら診断書を見られたかもしれない。 彼女は、自分のことを大切に思ってくれていて、自分が癌になったことを言ってしまうと、心配をかけてしまうかもしれない。 もし、自分が死んだ時、彼女は立ち直れないかもしれない。もういっそう、迷惑をかけずに、別れて、心配をかけたくない。 なんて、自分も彼女を愛しているからこそ、「別れよう」という言葉が出ない。 不安だ。 展望台に着いた頃には彼女との会話は途絶えた。 多分、何かを察したと思う。 いつ、別れを告げようか考えていると、彼女と目が合った。 彼女は、なにか、決意をしたような表情をしていた。 彼女の表情を見て自分も、別れを告げることを決意した。 「大切な話がある。」 自分はまず、彼女に、診断書を見たか確認した。「見たよね?」 彼女は「見たよ」そう言った。 あぁ…。 自分はこの時から記憶がなくなった。 なんて言ったのか、なんと言われたのか。 ただ覚えていることは「別れよう。」そう言ったことだけだった。 それと、「自分のせいでごめん」とただひたすらに謝り続けた。 記憶が戻ったのは、彼女と別れたあと、彼女を通り過ぎた頃ぐらいだった。 彼女に、呼ばれるかもと少し期待をしたが、その期待はすぐに消えていった。 自然と涙が出ない。 泣けない。涙が出てこない。 振り返っても彼女が見えないくらいになるまで歩いた。 彼女が振り返っても見れなくなった瞬間に涙が溢れた。 多分実感したんだ。 別れたことを。もう戻れないことを。 2年間、彼女と一緒に過ごしてきた。 思い出が頭から、離れない。 忘れたいけど、忘れられない なんて自分勝手なのだろうか。 その瞬間花火が上がった。 空がきれいだ。彼女も同じ花火を見ているのだろうか。 その時、スマホが光った。 彼女かと思って、期待を胸に抱きながら、スマホを見た。 ただの広告だった。 スマホの待ち受けに写っている、寝ている彼女の写真を見た。花火を見ながら、声が枯れるまで泣き続けた。 もう、戻れない彼女との思い出を振り返りながら。 自分勝手でごめんね。
濁と純
付き合って2年の彼氏がいる。ただ、2年も付き合っているからこそ、お互い見えて来るところもあった。ただ、最近の彼は、私に見せる笑顔がなくなってきた。表だけ笑って裏では笑っていない、そんな笑顔だった。 不安に思って、彼氏のスマホを見た。 本当に、彼氏のスマホを見ることはいけない行為だったと思う。だけど、それより不安の方が強かった。彼氏のスマホを見て私は驚いた。 後日、彼氏に今日行きたいところがあると言われて、誘われた。 着いた場所は、カップルで人気の展望台だった。 展望台に着いた頃には、彼と私に会話が無かった。 沈黙の中、私は綺麗夜景を見た。少しだけ彼の顔を見ると、彼と目が合った。 彼の顔には、不安が混じった笑顔を向けてくれた。 そして、何かを決意したように彼は「あのさ、話がある。」そう言った。 何かを言われるのかはどことなく分かっていた。 彼は「見たよね?」そう言った。 私は彼のスマホを見てしまった。彼からしたら見られたくなかったことだと思うし、そんな人が彼女だったら嫌だと思う。 「見たよ。」そして彼は口を開いた「見ちゃったら仕方ないよね、ごめん別れよう」いざ言われると、決意していたのに、悲しさの方が大きくて、目の前が真っ暗になった。 初めてできた彼氏で、沢山思い出もあった。 だからこそ、もう、彼との思い出がこれから作れなくなるのが怖かった。 彼はただひたすらに謝り続けてくれた。 私が、悪いことをしたのに。 なぜ彼が謝り続けるのだろう。 私は彼の提案に対して、頷くこと以外できなかった。 頭の中で、ひとつの映画が流れてきた。 それは、私と彼の出会いと、たくさんの思い出が流れた。 だけど、彼の前では泣けない。 泣かない。 絶対に。 彼は、私の返事を見て、「今までありがとう」 そう言って、私を通り過ぎた。 今、彼を止めて置かなければ、今、彼とちゃんと話さなければと思った。 だけど、私は言葉が出なかった。 今更、話したところで彼の考えは変わらないかもしれない。 そう思った。 そう思った頃には彼はいなくて、ただただひたすらに涙が零れた。 彼のスマホを見た。彼の待ち受けには、私の寝顔が映っていた。 いつも写真を撮るとこが苦手な私に内緒で、私の写真を撮っていた、私が寝ているところを。 彼からの愛は感じていた。 彼から、送られる愛には、濁りはなくて、透き通っていた。純粋な愛を私にくれていた。 私は、無我夢中で走った。少しでも、彼に追いつきたかった。だけど、当たりを見渡しても彼の姿はなくて、ただ私は、息を切らして、近くにあるベンチに座りながら、花火を眺めた。 去年も、昨年も彼と見た花火を、今年は私一人で、眺めた。