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8 件の小説今日旅立つこの世界へ。(改修番)
“現在“ 屋上の柵を乗り越えて、景色を見る。 少し薄暗くなった空、明かりが灯っている住宅街、 遠くに見える海、ライトアップされている紅葉した木。 なぜ、いつも以上に屋上からの景色が綺麗に見えるのだろうか。 これから死ぬから、一つ一つの事が奇跡のように感じるのかも しれない。これから死ぬ、この言葉はやっぱり私に合わないな…。 そして私は思い浮かべる、生きるのが辛くなった、この約三ヶ月間 の事を。私の人生を大きく変えたこの三ヶ月間の事を。 “過去“ 「でさ、私、結局別れちゃったんだよね〜。」 えぇ、嘘!?、お似合いだったのに。 皆が話しているのをぼんやりと聞く。 「ねぇ、花音もそう思うよね?」 ぼんやりと聞いていたからいきなり話を振りかけられて、 反応するのが遅くなった。そんな私の様子に気づいた、未来が 「どうしたの?なんか最近花音変だよ。」 と声をかけてくれた。でも、私は定番の作り笑顔で、 大丈夫だよ!と返事した。 そう、私は大丈夫。別に辛い事なんて一つもない。 これからもそんな経験はしないだろう、そう思っていた。 そうして一ヶ月が経ち、夏休みに入った。 なぜか感じてしまう、学校に行かない事の安心感を。 夏休みは、部活に行ったり、家族と旅行に行ったり、 部活の友達と遊んだりもした。 でも、どれもこれも楽しいと感じなかった。 だって私は気づいていたから、 クラスの皆から避けられている事に。 違和感を感じたのは七月十日ぐらいから。 私が話し掛けると明らかに皆、気まづそうな視線を交わす。 あるいは、私を見て笑う人もいた。 七月五日ぐらいは友達と楽しく話していたのに、なぜそんな事に なってしまったのだろうか。 学校に行かない安心を感じたのも無視や陰口が原因だ。 ただの無視や陰口がここまで私を苦しめるとは分からなかった。 ただ一人、私の事を思ってくれる梨花という親友がいたから、 この時の私はそこまで気に病まなかったのだよう。 けど、梨花がけがで入院していた7月の前半はとても寂しかった。 梨花は小学校からの親友で、中学生になっても、私によく話しかけ てくれた。中学二年生になったら、私達は同じクラスになって、 「やった!」と二人で叫び合ったのもよく覚えている。 一人ぼっちの私に気づいて、話を聞いてくれたり、お弁当も一緒に 食べてくれたりした。もちろん、夏休みの間も不安になった時、 よくメールで私の不安も聞いてくれていた。 『明日の登校一緒に行こ!』 梨花からメールが来ていた。嬉しくて嬉しくて気づいたら私は 泣いていた。こんなメールが来てたからこそ、余計に 私は気づけなかったのだ。 私がいじめられた原因が梨花のせいだという事に。 だから、私はこの時無邪気に『うん!』と答えた。 そして次の日、私達は一緒に学校に向かった。 「花音、夏休みどうだった?」 「えぇー、普通だったかな。でも、ちょっとだけ辛かったよ、 なんでかよく分かんないけど。」 「辛かったらなんでも言ってね、何が辛かったの?」 やっぱり梨花は優しいな。私の事を考えてくれる、 大丈夫だよ、梨花、梨花がいるだけで私は生きていけるよ! 心の中で梨花に伝える、伝わったかな。 「梨花も怪我大丈夫?」 「まだ痛むけど大丈夫ー!」 そうやって話して笑いながら、学校に向かった。 夏休みが終わってから約一ヶ月が経ったけど、相変わらず クラスの皆から無視されるし、直接悪口を言われる事もあった。 でも、梨花だけは違った。 どんな事があっても、私の味方をしてくれた。 梨花の事を信じていた私が馬鹿だった、私の事なんて誰も 好いてくれない事なんて分かってたのに、優しくされたからって 浮かれてた私が馬鹿だったのだ。 決して梨花は悪くない。私が悪いのだ。 根暗で、性格も良くなくて、顔も中途半端で偉そうで、 自己肯定感の無駄に高い、鬱陶しい私なんか梨花にも嫌われて 当然だった。梨花が私の悪口を言って私のクラスでの居場所を 無くした。その事もよく考えたら当然だった。 私がトイレに行っている時、友達と話している梨花の声が 聞こえた。 「ていうかさ、あいつまだ私の事を信じてるよ。」 ん…?あいつ、信じてる、その単語が不覚にも私の事を言っている と勘違いしてしまう。梨花は友達、そう友達。 「え、あいつって?」 未来の声を聞こえる。 「花音だよ、あいつ私が優しくしてあげてるのをいい事に めちゃくちゃ調子乗ってるじゃん。マジでウザくない?」 「あぁ!それな!」 聞かなければいいのに、私は聞いてしまった。 「私があいつを無視しようって皆に言ったのも知らずにね。」 え…?嘘…だよね?嘘って言ってよ!私、散々信じてきたのに、 きっかけが梨花だったなんて。ドン底に突き落とされるとは この事なんだなと初めて知った。 それでも、馬鹿な私はトイレの個室を出て梨花に どうゆうこと?と詰め寄った。 梨花は最初、びっくりしたような表情をしたが、 開き直ったように、私に言う。 「そうだよ、ウザいよ花音は毎回相談ばっかりしてきてさ、 自分だけ悲しいみたいな顔、マジでウザイ、だから嫌い。」 「え、なんで?なんでそんな事言うの?」 ショックで私は梨花の服の裾を掴んだけど、梨花は私を思いっきり 突き飛ばして、一番言われたくない言葉を言われた。 「だから、嫌いなんだよ。マジで死ね、消えろ。」 私は泣きながら梨花を突き飛ばして、家に急いで帰った。 その日から私は学校に行けなくなり、毎日泣いて泣いて 過ごす日々ばかりで、日に日に体も悪くなっていった。 お腹も学校に行く時間になると、痛くなるし、重だるいし、 立ちくらみもするし。もう、私は死にたくて死にたくて 消えたくて消えたくて仕方がなかった。 梨花に裏切られてから二週間が経ち、私は久しぶりに学校に 行く事にした。勉強する訳じゃない、自殺をするため。 でも、やっぱり屋上から下を見ると、怖かった。だから、 その日は自殺しない事にした。 “現在“ でも、今日、今日は出来る。自殺ができる自信があるよ。 私は強い強いのだ。だから、自殺も出来るのだ。 私とうとうおかしくなったのかな?自殺するのが強いだなんて。 勘違いするな、自殺したくなるほど弱いんだよ、私は。 でも、死ぬ前にこの世界に言いたいことが沢山あるよ。 “世界へ“ ありがとう、生かしてくれてありがとう! 次、生まれ変わる時は私じゃない他の人になりたいです! 梨花と親友にさせてくれてありがとう! 楽しい時も生きさせてくれてありがとう! 綺麗な海を見せてくれてありがとう! 夕陽を見せてくれてありがとう! でも、お母さんにもごめんって謝りたいな。 上手く生きれなくてごめんね。 女手一つで育ててくれたのに、親孝行できなくてごめんね。 お母さんを幸せに出来なくてごめんね。 死にたくなってごめんね。 でも、お母さんと生きれて楽しかったよ。 大切に育ててくれてありがとう! 梨花、ありがとう!悩みを聞いてくれてありがとう! 梨花がいじめの原因を作ったとしても、 悩みを聞いてくれた事は嬉しかったよ! けど、梨花も許せないよ、梨花だけじゃなくてクラスの皆も。 ウザかったし、本当にいじめは辛かったし、 皆の事死ねばいいって思った事もあったよ。 でも、皆にも理由があったんだと思う。 いじめられた私にも非はあったんだと思う。 だから、皆は私の事なんか忘れて幸せに生きて欲しいな。 本当にごめんね!上手く生きれなくて、 弱くて。 でも、本当にありがとう、皆ありがとう! “現在“ 梨花にもお母さんにも気持ちを伝えられた、心の中だけど。 もう私には心残りがないよ、もう死のう。 充分だ、充分幸せな時もあったじゃん。 だから、もういいんだよ、しっかり生きれたんだよ。 じゃあね、皆! そして、私は思いっきり空に飛んだ。 「花音!か、花音!死ぬんじゃねぇよ!俺、お前の気持ちまだ、 聞けてないよ、返事聞かせてよ…」 この声、陽翔だ。この声を聞いた瞬間私は今、飛び降りた事に 対して後悔した。涙も沢山溢れ出した。 だって、陽翔に伝えられてない。陽翔は一番特別だから。 だから、陽翔には直接言いたかったのだ。 陽翔の事好きだよって言いたかったの。なのに私は…。 陽翔に伝えられてない、好きだって言えてない。 陽翔、陽翔!私、陽翔の事が好きなの。 伝えたい伝えたいのに。 優しく陽翔が、かっこいい陽翔が、少しヤンチャな陽翔が、 私がいじめで悩んでる時に、どうしたんだよ?と話しかけてくれた 陽翔が、どんな陽翔も好きだったよ。 好きって気持ちを伝えてくれた陽翔も好きだったよ。 でも、私は陽翔が傷つくのを見たくなくて、 陽翔に困らせたくなくて、自分に素直になれなくて、 陽翔の告白無視しちゃったの、陽翔に 悩みを打ち明けられなかった…。 陽翔、ごめんね、伝えられなくて。私は陽翔に気持ちを伝えると 悩みを伝えると嫌われるって思っちゃったんだよ。 こんな私、知られたくないから。だから、最後に伝えなかった。 でも、伝えたいよ、陽翔の顔見た瞬間伝えられてない事に 後悔したよ、ねぇ、届いてよ、好きだって届いてよ。 陽翔に伝える、それだけなのに、もう叶わないじゃん。 話す事も出来ないじゃん。なんで、なんで私、 こんな事したんだろう。私のせいで陽翔に辛い思いを して欲しかった訳じゃないのに…。 「花音!行くなよ!死ぬなよ!好きって言ってくれよ!俺の事… 好きって言ってくれよ!」 陽翔泣かないで。お願いだから、泣かないでよ。 −陽翔ごめんね、本当にごめんね−
今日、旅立つこの世界へ。
“”現在“” 私は屋上の柵を乗り越えて、街の景色を見た。 死ぬ前なのに、こんなに綺麗だっけ?という感情しか出てこない。 死ぬのが怖いという思いもない。 こんな事になるとは思わなかった。 私が、自殺したくなるほど辛い思いをするとは…。 “”過去“” 最近すぐに疲れが溜まる。 寝ても寝ても、あくびが止まらない、寝た気がしない。 でも、友達の前だから明るくしないと! 「でさ〜、結局別れたって訳。」 「えぇ!マジで?」「お似合いだったのに!」 と話す声がぼんやりと聞こえる。 「ねっ、花音!そう思わない?」 突然私に振ってきて、驚きで声が裏返る。 何も話を聞いてなかった。でも、そんな事は言えず、 「う、うん!そうだね!」 と返す。最近、人の話もぼんやりとしか聞けない。 集中も出来なくなったような気もする。 そして一ヶ月後、私は、完全に自分の異変に気づいた。 やっぱり、疲れは取れない。 集中力も前以上になくなっている。 体も重だるいし、何より学校に行きたくないと感じる事もあった。 でも、私は決して笑顔を崩さない。 まだ作り笑顔が出来てるなら大丈夫だと思ったのだ。 ただの疲れだと、少ししたら治るだろうと、軽く考えていた。 でも、一向に良くならない。 悪化しているような気もする。 そして、私が死を決意する出来事が起こった。 私の大事な親友から裏切られたのだ。 私がトイレの個室に籠っている時、聞こえた。 親友が私の悪口を言っている声を。 「あいつ、花音さずっと相談してきてさー、自分だけが辛い みたいな顔してんの。まじウザイ。キモいし死ねよ。」 息が出来なかった。私の親友、友梨はどんな時でも 私を味方してくれていた。 私があんまり浮かない顔をしていた時は、どうしたの?と すぐに心配してくれた。 この一ヶ月は友梨のお陰で生きれたと言っても過言ではない。 なのに、友梨は私を嫌っていた。 その事実だけが私を苦しめた。 そして、私は不登校になった。 何もかもが嫌になったのだ。 友梨に裏切られた事だけじゃない。 家族からの勉強やスポーツに関するプレッシャー。 全然分からない勉強。 SNSでの不登校になった私に対する陰口。 それでも笑ってる私。 友梨に裏切られる私。 全部が嫌だった。全部とお別れしたかった。 食欲もあんまりないし、味もあまり感じなくなった。 自分の気持ちもよく分からなくなった。 学校の行く時間になったら必ずお腹が痛くなる。 もう、私は死ぬべきなんだと思った。 “”現在“” やっぱり最後なのに何も死ぬのが怖くない。 じゃあ最後に、この世界に伝えたい。 二度と人間に生まれたくない。 でも、十七年間生かしてくれてありがとう! 楽しかった事もあったよ! 友梨と親友にさせてくれてありがとう! でも、やっぱり死にたいな…。 生んでくれたお母さんありがとう! 命を大切に出来なくてごめんなさい。 そしてさようなら、皆! −私は思い切り空に向かって飛んだ−
性の在り方
レズビアンで何が悪い? ゲイで何が悪い? バイセクシュアルで何が悪い? トランスジェンダーで何が悪い? 好きな人や好きな格好をなぜ好きだと 言わしてくれない? 自分を殺しながら、生きる。 好きと言えないまま生きる。 気持ち悪いと罵倒されながら生きる。 変な目で見られながら生きる。 それっておかしい。 なんで、同性を好きになったり、 心と体の性が一致しなかっただけで、 こんなに辛く、悲しく、苦しい思いを しながら生きないといけないのか。 ううん、そんな事ないよ。 LGBTの方に対する世間からの偏見は すぐに変わらないと思う。 でも、自分らしく生きるっていうのが 一番大切な事なんだ。 自分を殺しながら、罵倒に耐えながら、 気を使いながら生きるのは、 どれも大切な事じゃない。 好きな人は好きって言って良い。 好きな服を着てもいい。 自分らしく生きていい。 自分を殺さなくていい。 なんだって自分の好きなようにすれば いいんだよ。 他人からの悪口は結構辛いと思うよ。 他人と違うって大変だと思うよ。 でも、自分らしく生きられないのが、 一番辛いじゃん。 だから、自分らしく生きるのが一番 大切なんだよ。 他人なんて気にするな!!
絶景スポット
俺たちが今日行こうとしている場所は 地元の人の一部しか知らない程の 秘境の絶景スポット! いざ、出発!! 行くまでの道中、何台かすれ違ったけど 結構細い道で内心ヒヤヒヤした。 なんとか辿り着き、車から降りると なんとそこは海がどんと広がる 今までに見たことの無い程の 絶景だった! 「すげぇ…」、「綺麗すぎ!」 俺たちは口々に賞賛の声を洩らした。 それ程綺麗だったという訳だ。 そして帰り道、俺たちは気づいた。 この道は対向車など通れない程、 狭い道だということに。
かくれんぼ
「もういーかーい」 「もういーよー」 今日は私含めて五人でかくれんぼをして 今は私が鬼だ。 いつもは全然見つけられないから、 今日は絶対に早く見つける! 「あ、一人目みーつけた!」 「あ、二人目をみーつけた!」 そこから私は順調に一人、二人、三人、 四人、五人と見つけていった。 今日はなんと全員を五分もせずに 見つける事が出来た。 あれ、今日って五人で遊んでたよね?
学校が嫌だ
学校が嫌だ、嫌われるから 学校が嫌だ、からかわれるから 学校が嫌だ、いじめられるから 学校が嫌だ、縛り付けられるから 学校が嫌だ、勉強が分からないから 学校が嫌だ、独りだから 学校が嫌だ、会話するのが怖いから 学校が嫌だ、裏切られるから 学校が嫌だ、比べられるから 学校が嫌だ、皆が怖いから 学校が嫌だ、悪口言われるから 学校が嫌だ、泣いたら怒られるから 学校が嫌だ、気を遣うから 学校が嫌だ、自分を見失うから 学校なんて、行きたくない…
死にたい
どうして、死にたいって言ったら怒られるんだろう? 止める人って責任取れるのかな? その人の自殺出来なかった後の苦しみが続いて、その責任が持てるのかな? 死にたい人 死んでもいいんだよ、別に。 辛い事とか苦しい事とかあったのに、「生きろ!」って言われるのは理不尽だよね。だから、死ぬのは別に悪くないよ。でも、死ぬ前に考えて欲しい。まだしたい事は残ってない?大切な人にちゃんと思い伝えた?自分のしたい事思う存分にした?それがまだ出来てないんなら、まだ自殺するのは早いよ、それがしおわったら自殺しろって意味じゃないけど、自分のしたい事も大切な人もいるのに死ぬのってもったいないやろ?いじめられてるなら、いじめてる人より長生きしたくない?自分が嫌いなら自分の事好きになりたいやろ?裏切られたなら、自分の事を裏切らない人探してみたくない?この社会って辛いことばっかだよ。 理不尽な世界だよ、不公正な世界だよ。 でも、辛くなったら、 逃げていい 立ち止まっていい 辛いって叫んでもいい 相談してもいい 泣いてもいい 学校や仕事をサボってもいい 自分のしたい事を存分にしたらいい 頑張らなくてもいい 皆は頑張りすぎてるんだよ だから辛いんだよ だから、頑張らなくていい 辛いなら、楽しかった過去をおもいだしたらいい 優しくなんて無くして生きてもいい 自分を大切にして 自分を一番に思って 自分を好きになって 自分を愛して 自分勝手になって 生きていいんだよ。 俺は皆に生きて欲しい! でも、俺の意見を押し通すのは良くないと思うから、皆にとって、悲しくない、辛くない、幸せな選択をして。生きるか死ぬかは自分が決めるもの!!
気付けなかった優しさ
「おはよっ!」 おはよ〜、今日も元気だね、皆から声をかけてもらえる。話してくれる、その幸せをほとんどの人は気づいていないだろう。私だって知らなかった、二年前までは… 「葵、おはよー!」 私の親友、夏実だ。 「おはよ、相変わらずあんたも元気だね、夏実らしくてなんかほっとした。」 「なんやそれ!」 あははは、私達の笑いが教室に響く。夏実と私は親友だ。中学校からの親友だ。容姿もよく似ている、少し高い鼻、薄い唇、くっきりとした二重瞼、少し丸い顔の輪郭、姉妹と言われても違和感が無いほどだ。お互い、クラスの中心的なポジションで、よく笑うし、明るい、ともよく言われる。 「でさ、私好きな人出来たんだよね。」 「えぇ!?」 夏実が大袈裟に驚く。いや、大袈裟では無いかもしれない、私は好きな人か出来たことがない。好きという感情ですらよく分からない、そんな人間が「好きな人できた!」と言ったら驚くのも無理ないだろう。 「え、誰?気になるんですけどー!」 「ふふふ、、教えてやんなーい。」 「ケチ!!」 夏実に脇をくすぐられる。こしょばいよ、夏実ー!観念した私が、 「わ、分かった、教えるよ!」 と言うと、夏実がわざとらしく、 「流石優しいですな、葵様。」 と言うので仕返しとして脇をくすぐり返した。 「もう、葵もやってくるなよー。で、誰なんだい?」 「えぇっと、誰にも言わないでね、湊叶(みなと)くんが好きです!」 一瞬、教室内が静まった。夏実でさえも、あれ、私変なこと言った? 「あんた、何大きな声で言ってんのよ!私も驚いたけど、それ以上にあんたのバカでかい声に驚いたわ。」 「え……」 やってしまった。湊叶くんがいないのが不幸中の幸いだった。まさか、自分の声がそんなに大きいとは思いもしなかった。 「あ、ごめん、廊下にも聞こえてたわ。葵、俺の事好きなんだ。実は俺も、葵の事好きなんだ。付き合おうぜ。」 まさかの湊叶くんにも聞かれてたとは、え、湊叶くんも同じ気持ちだったの?聞き間違いだよね、うん、そうだよね。 「え、私の事好きって言った?」 「言ったよ、もっとしっかり聞けよな。もう一度言う!俺は葵が好きだ!」 ヒュー、カップル成立!、あの二人付き合うと思ってたんだよね、などなと、クラス中からお祝いの言葉が聞こえる。でも、私はそんな所じゃなかった。私のあの思い出したくない過去に君はいるのに、なんで君まで私の事を好きになっちゃうの?私達は本当は関わっては行けないのにね。でも、私はそんな事より、両想いだということに対して喜んで、 「私も好きっ!私でよければ!」 そう言って湊叶くんと付き合うことになった。 次の日の朝、クラスに行くと、皆から、おめでとう、とか、どうゆう所が好きになったの?とか聞かれて、有頂天だった私は全部に答えた。 「湊叶くんの優しくて男らしくて、自分の事よりも人を優先してるとことか、あと、顔とか!!」 夏実からも当然祝われた。嬉しくて気づいたら泣いていた。その日の放課後一緒に帰ろ、と湊叶くんから誘われた。 「皆から祝ってもらって嬉しいよな。」 「うん...」 私は喜んで良いかよく分からなかった。 そんな様子に気づいたのか、 「え、まさか俺の事好きじゃなかった?ごめん、強引だったかも。」 そう言ってきたので、私は違うよ!と分かるように首をブンブンと横に振った。 「そっか、良かった!」 「うん!」 湊叶くんも喜んでいたらそれでいいんだよね、湊叶くんから笑顔を消すのが怖くてやっぱり聞けなかった。 「あ、そういえば俺の事、湊叶でいいよ。なんか、くん付けだと距離感あるような気がするから...」 湊叶くん、いや、湊叶の頬がみるみる内に紅潮する。少し可愛い... 「うん!分かった、じゃあ私も葵って呼んでって、あんたもう、葵って呼んでんじゃん。馴れ馴れしいなぁ。」 「いいだろ。」 「まぁいいけど。」 あれ、少し湊叶が変だ。どうしたんだろうか。 「湊叶、どうし…!」 私が言う前に口を塞がれた、湊叶にキスをされたのだ。キスをされた後に湊叶は私の事を強く強く抱きしめて、 「お互い、呼び捨てで呼んだ記念だ。」 そう、耳元で囁き、もう一度キスをした。ファーストキスの相手が湊叶で良かった。それでも私は考えてしまう、湊叶とどういう関係でいればいいのか…と。しかし、そんな事よりドキドキの方が勝って良かったと思う。せっかくのキスをもっと楽しまないと。私はそこから帰るまでの記憶が曖昧だ。湊叶にキスされた事とか、耳元で囁かれた事とか、湊叶にされた事の全部がドキドキして寝るまで心拍数がいつもの2倍だったように感じた。その次の日もさらに次の日も私達は一緒に登下校をした。たくさんの事も話した、けれど、お互い中学生の時の事は話さなかったけど。でも、毎日が楽しかった。 「おはよ!」 朝、家族に挨拶をする。今日は休日なので、湊叶に会えないのは寂しいけど、お母さんが居るのでそこまで孤独を感じていない。私の家は母子家庭で、お父さんは私が生まれてすぐに交通事故で死んでしまったらしい。お母さんはお父さんを車で引いた人に、泣きながら怒鳴って、その場所はお母さんを止めるのに必死だったそうだ。私も友達からお父さんの話を聞く度に会ってみたい、と思うけど、お母さんが居るから寂しいとそこまで感じていない。お母さんに湊叶の事を話した。実は高校入ってからずっと好きだった事も、初恋はただの一目惚れだった事も、一年生同じクラスになって嬉しかった事も、付き合ってからもうすぐ一ヶ月経つことも全部話した。 「え、嘘...あんたに好きな人なんていて、付き合ってたんなんて…衝撃だわ。湊叶くんって同じ中学校だったでしょ?」 ドキリ、心拍数が一気に上がる。それでもなんとか平静を装い、うん!と大きく頷く。 「へぇ、その時は何も思わなかったの?」 「思わなかったよ。だって、嘘みたいだけど一回も見たこと無かったんだもん。」 お母さん嘘だよ。我ながらどうしようもなく、下手な嘘だ。一目惚れというのは嘘だ。なぜなら、お母さんの言う通り私と湊叶は中学校が同じでクラスも三年生の時同じだった。何度も顔を見かけてる、委員会も同じだった。でも、お母さんは知らない、ううん、高校の同級生の皆も知らない、私は中学校の時から湊叶の事が好きだったという事を、そして、私と湊叶は本来会うべき人じゃない事も。でも、お母さんは、納得したようだった。嘘なのに。 「葵、私を見て。」 気づいたらお母さんが近くに来ていた。 「あんた、嘘ついてるよね?」 え…?なんで…?まさか気づいてるの?嘘つけてなかったんだ。私の考えを読み取ったように、お母さんはえぇ、と頷いた。 「だって、葵と湊叶くん同じ委員会だったじゃない。しかも、中学校で見かけた事ないってある訳ないじゃん。あんたの友達の明莉ちゃんのお母さんから聞いたわよ、葵が湊叶くんの事好きだって。葵が中学生の時にね。」 明莉の名前が出た瞬間、自分でも驚く程に動揺した。震えているのが伝わった。 「…それが何……?」 お母さんは私の言い方に少し驚いたが、 「ねぇ、葵が中学生の時に何があったか教えてくれない?」 私の頭に血が上る、ダメだ、ダメだって思っても、私は怒りを抑えることが出来なかった。 「私だって隠し事だってあるよ!何もかも言えるわけないじゃん!!私の事をなんにも知らないくせに…」 お母さんに対して叫んで、私は部屋に急いで飛び込んだ。思い出したくなくて、辛くて、悲しくて、涙が溢れてくる。 私の過去に初めて触れようとしたお母さんにどうしようもなく腹が立つ。 私の過去、特に中学生の時はどうしようもないほどにぐちゃぐちゃだった。小学生の頃は皆と仲良くて、親友もいて、毎日のように遊んだ。中学一年生から中学二年生の二学期までも小学生の時よりは回数は減ったものの、よく遊んでいた。でも、中学二年生の三学期から私は女子からハブられるようになった。「遊ぼ!」っと誘っても、「無理、話しかけてくんな!」と言われてしまう、あるいは一日中無視されてしまう。中学三年生になったら終わると思ったら、その逆でいじめが悪化した。無視に加え、カバンや私の所持物を隠す、蹴る、殴る、身に覚えのないデマを流される、結構酷かった。どうしようもなかった。抵抗する気も失せた。でも、私の親友だった明莉はそんな私とも仲良くしてくれて、いじめの事も聞いてくれた。とても嬉しかった。でも、ある日の休み時間私は最悪の事を聞いてしまう。 「それにしてもあいつ馬鹿だよね、葵。あいつ毎回明莉に愚痴ってるけど、明莉のせいでいじめられてるっつうの。」 え…?嘘でしょ。明莉が何か言ったの?私達親友だったんじゃなかったの? 「明莉が、葵、皆の事ブスって言ってたよー、とか、無視しようとか言ってたくせに、偽善者ぶりやがって。明莉もうざいよね。」 は…う…うぅ…明莉に裏切られた、デマ流されて私はいじめられた。嘘って言って。ねぇ、嘘って言ってよ。信じたくないよ。私…信じてたのに…。酷いよ!ひ酷いよ…明莉、私の人生奪って。許せない…私はもう、生きる意味なんてないと思った。やっぱり死ぬべきだと。そして屋上に行った、もう何もかもどうでもよかった私は屋上に行ったら早く死ねると思ったんだと思う。私が飛び降りようとしたのも止めてくれたのが湊叶だった。そして、私にかけてくれたあの時の言葉を今を一言一句覚えている。 「死ぬな!お前は死ぬべきじゃない!もっと自由に生きろ!ごめんな、俺、何も出来なくて。気付かないふりをしてた。本当にごめん!でも、お前、葵は死ぬ立場じゃないよ、もっと生きていいんだよ!俺が言ってきてやるよ、やめろって。葵、優しいじゃん、人の気持ちにもよく気付いてあげるし、そんな人が死ぬの俺、悔しいんだ。だから、俺が全部受け止めてやる。辛かったら逃げていい、立ち止まってもいい、他の人より出来なくなってもいい、好きな事に熱中してもいい、まずは自分の体、心が大事だ。自分を大切にして生きろ。他人よりも自分を大切にして生きろ、自分勝手に我儘に迷惑だってかけていいんだよ。俺、葵好きなのに……。死んじゃったらやだよ。」 そう言ってくれたんだ、泣きながら湊叶は。嬉しかったし、私の事を好きになってくれる人が居てとても嬉しかった。ずっと独りだ、裏切られて、どこにも居場所がないって思ってたのに、こうやって居場所を作ってくれて嬉しいと感じてたはずなのに、私はやってしまったんだ。 湊叶を殴ってしまったんだ。そして、最低な言葉を吐いた。 「あんたも偽善者か。うざいんだよ、私の気持ち分かんないでしょ、どんだけ辛いか、逃げれる訳ないじゃない!!あんたが私の立場だったらできる?安全圏から見守っておいて、俺は好き、とか言って自分の好感度上げようとしたんでしょ。マジでうざい。あんたみたいなのが一番嫌い、マジで…消えればいいんだよ、あんたも、いじめてきた…奴らも、陰で笑ってる奴らも…。邪魔…どっか行ってよ。あんたなんか……嫌いだから!」 うん、そうだ。お母さんが知らない訳ない。あんな事して、家に電話かかってこないわけが無い。それでも、お母さんはあえて怒らなかったのだ、私はそのお母さんの優しさでさえ、いじめられてきたっていう理由で無かったことにしたんだ。最低だ…私。お母さんにも湊叶にも謝らないと、私の為を思って言ってくれたのに。なんで気づかなかったんだろう。皆の優しさに。私の勝手な理由で傷つけて、距離をとって。 「絶対に変えてみせるよ。」 そう決意した。こんな私から変えてみせる。辛かった事は一生消えない、いじめられたという過去も消えない、大切な人を傷つけた過去も消えない。でも、私は変えたいの。こんな過去に縛り付けられる自分を。過去が最悪だったら、今を最高に生きたらいいじゃん!傷つけたなら、傷つけた分を優しさで返したらいいじゃん!!なんで、そんな事にすら気づけなかったんだろう。ホント、私バカだな。楽しく生きる、それだけなのに。 「お母さん!!」 私はお母さんに抱きついた。抱きついたまま、私は大声で泣いた。 「うわ!葵どうしたの?」 お母さんが心配そうに声を掛けてくる。 十分ぐらいたったけど、お母さんはまだ抱きしめてくれていた。お母さん大好きだよ。落ち着いてしっかり言葉を届けよう!!自分の気持ちを! 「お母さん大好きだよ...私の事守ってくれて......ありがとう。私の心を尊重してくれてありがとう!私いじめられてたのが…ぅ…辛くてそれどころじゃなかったんだ……ご、ごめんね。それと昨日も、自分の過去に触れられると思ってつい大声出しちゃった…。ほんとにごめんなさい。ほんとっ……に…ごめんなさ…い… う、うわぁぁん…!ごめん…なさい。」 せっかく落ち着いたのにまた泣いてしまった。お、お母さんも…鼻をすすりながらお母さんは話した。 「お母さんもぉ…ごめんなさい…。あなたの気持ちをしっかりと…考えられなかった。うぅ…ほんとにごめんね。……辛かったら私に話して!葵の事、私が一番分かってるんだから。辛かったよね、葵だけに耐えさせてごめんね…。」 「いいってばぁ…!」 2人揃ってもう一度泣いた。私達って弱いな。学校に行く時間が近づいてきたので、私は学校に向かった。お母さんは泣きながら、見送ってくれてとても嬉しかった。やっぱり私まだまだだな…。こんなに優しい居場所があったのにそれに、気づけなかったなんて。 学校に続く坂道で私が大好きな後ろ姿が見える。湊…! 「みなとぉ!!」 「葵!!」 私は思いっきり湊叶に抱きついた。 「湊叶!ごめんね、私、湊叶に最低なことしちゃってた、本当は中学生の時に謝らないといけなかったのに、本当にごめんね。私、あの時湊叶がいなかったらこの世にはいなかったよ。湊叶、私を助けてくれてありがとう。それとね、私、湊叶大好き!!湊叶、私支えるから、湊叶が私を支えてくれた分、湊が辛かったりしたら助けるから!!」 流石に涙は出なかったけど、湊叶は号泣していた。湊叶、そんな顔しないでよ。 「いいよ……!俺、葵が…生きてくれて嬉しい…好きって言ってくれ嬉しい。俺も葵の事大好きだ。俺も…あの時いじめに気づけなくてごめんな。ほんとにごめんな…。うぅ……あれ、泣いてるじゃん、俺。泣かせんなよ、葵。それとさ、俺も助けるから支えるから、葵、俺と二人でこの先の幸せを掴みに行こう!俺と葵なら絶対に行ける!!」 「うん!掴もう!」 私、幸せだ…もう、死にたいなんて思わないよ!頑張って生きるよ!優しさもたくさん返すよ!大切な人を絶対に守るよ!