永嶋。

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永嶋。

初めまして֊ ̫ ֊普段はメイドやってます☕️ ショートショートが好きです。 のんびり書いていきたいと思います⠉̮⃝︎︎

貴船菊

「シュウメイギクを見に行きましょう」 妻が珍しく私を誘った。旅行だなんて何年ぶりだろうか。 私は妻の実家の近くのシュウメイギク畑に訪れた。 辺り一面シュウメイギクの花で溢れていた。 桜のような淡い桃色の花弁だが、儚さは無く、むしろ力強く咲いている。その姿は妻と重なって見えた。 「まるで君みたいだな」 私なりの褒め言葉。妻は花を見つめ、流石と呟いた。 「…でも貴方にも当てはまるのよ」 意味がわからず眉をひそめると、妻は少し間を空けてから口を開いた。 「花言葉、“永遠の愛”って言うの」 「ほう、詳しいな」 なんだ、突然。言葉にするのは気恥しいから花で愛を伝えようとしてくれているのだろうか。発想は馬鹿らしいが可愛いところもあるじゃないか。 その後は特にこれと言った会話もなく、妻は延々と続くシュウメイギクをじっくりと観賞していた。それにしても、 「全部同じだな」 そう呟くと、妻は力ない歪んだ微笑を浮かべていた。そんなにこの花が好きだとは。来年の記念日は花屋にこの花束をつくらせよう。喜ぶ妻の姿が想像できる。 その日の私は柄にもなく浮かれていた。 ・・・ その3ヶ月後、妻は行方不明となった。 警察にも捜索願いを出したが、最後の情報がホテル街の監視カメラに映った姿のみで未だに発見されていない。 あの映像を思い出しただけで動悸と目眩がする。 一体、何故。 俺は妻の為に尽くしてきた。確かに仕事が忙しくて構ってやる時間は少なかったかもしれない。女のいる店だって行っていたが、それも仕事の内。家にいて自由な時間が多くて何不自由ない生活をさせてやっていたはず。それを何故、不倫なんか。 「“永遠の愛”だと言わなかったか」 力なく嗤う。これが“永遠の愛”だと。 …本当にそうなのだろうか? ふと、あの花が気になった。 急いでスマホを取り出し、シュウメイギクの花言葉を検索する。 「ああ、そういうことか」 検索を終えると、メッセージアプリを開き、無視していた妻のメッセージを見た。 『分かって欲しかったです』 いつ見ても腹立たしい。何を言っているんだ?こいつは。 “わかって欲しかった”だなんてそんなの俺が言いたい。こんなにも大切にしていたのに。 「何年も共にいるというのに何も分かっていないとはな。」 常々言っていたが、あいつは本当に救いようのない馬鹿だな。 怒りのままに既読無視を決め込んでいたが、ある程度時間が経つと案外冷静になる。そして情があった相手がいなくなるとまあまあ寂しいものだと思い知った。 そういえば、もしかしたら妻は言う程馬鹿では無かったのかもしれない。 というのも、いなくなってからのこの数ヶ月間、家のことを自分でするようになったが、なかなか上手くいかない。 ゴミ捨てと掃除をしないとすぐに虫がわくし、布団も洗う物だと知らなかった為に放置してカビ臭い。スーパーは遠いし、食材は思っていたより高い。 車を持っていない妻はどうやって移動していたのだろうか。そもそも普段、家事以外は何をしていたのだろうか。 もしかして分かっていなかったのは。 だが、しかし。 私は一通だけ返事を打つことにした。 『分かって欲しい』

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貴船菊

同じ顔

小説で出てくるグロテスクなシーンで、“鮮血が弧を描く”という表現をよく見かける。 ありきたりと思われがちだが、あれは素敵な表現だと思う。 想像力に欠ける俺でも容易く想像できる。作者の優しさが伝わる。 そう、だから だから、人体のどこかしらの血管が束になっているところを切ると“そうなる”と、たかが一小説の言葉を鵜呑みにしていた。 目の前で見ている“これ”は一体何なんだ。 “弧を描く”?そんな優しいものじゃない、脈拍に合わせて波打つように血が噴き出て止まらない。 喚き声と共に鮮紅色の血が辺りに撒き散らされる。 やがて叫んでいた声は絶え絶えで聞きとれなくなり、徐々に光を失っていく瞳を見て足が竦む。 そんな俺を横目に彼女は何かを呟いたが、自分の心臓の音が五月蝿くて聞こえない。口の動きも微かでよくわからない。 「…ごめ、今、なんて、」 必死に声を振り絞って聞こうとして、ハッとした。馬鹿だ。 俺はあまりの状況に自分の事ばかり考えていた。 泣き虫な彼女がこんな場面を見て正気な訳がない。 自分を奮い立たせ、何とか足を動かして彼女の涙を拭こうと顔に手を伸ばしたが、止めた。 彼女は驚くほど恍惚とした表情を浮かべていたからだ。 │││なあ、何でそんな顔をしているんだ? キィー…ンと高いモスキート音のような耳鳴りがする。 目の前で人が死にそうになってるんだぞ?なのになんでそんな表情を、わからない、何故?…ああ、耳鳴りも心臓も五月蝿い、五月蝿い、五月蝿…… 頭を抱え、俯くと血溜まりに自分の顔が映った。 その瞬間、今まで五月蝿かった音が嘘のように全て消え、彼女の言っていた言葉がわかった。 「…同じ、顔。」

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同じ顔