sayao
20 件の小説ヒトコト
サンバイザーの鏡が割れた。 挟み込んだまま窓が閉まってしまいバリっとやってしまった。 新車ほどショックは大きくしばらくの間、撃沈。 3歳の女の子が車に乗った日のこと。 サンバイザーの割れた鏡を見てキラキラしたまんまる顔で「わぁ、鏡に飛行機飛んでる!」と言った。 その日から、なんとなく鏡のヒビが嫌いじゃなくなった。 かつてお昼の大定番だった番組に出演していた女優さんが緊張から滝の様な汗をかいていた。 ハンカチで拭っても追いつかない。 それを見た司会者が一言。 「何百回やっても私も毎回緊張します。 緊張するのは空気を読もうとするからです。無神経じゃ無いってこと」と言った。 女優さんの顔に笑顔が戻り、自信のある表情な変わっていくのが印象的だった。 円形脱毛症になった時。 いつもの美容院へは行く気になれなかった。 カットもカラーも腕は悪く無い。 もう何年も通ってるのに、、 新しいとこ探す方がむしろリスク。 なのに。 痩せた?太った? その服どこで? この店行きましたぁ? まぁ、できなくはないですよ! いつも軽ノリで話すこんな会話が今の私にはズーンと重い。 しかも無理して笑顔を取り繕いながら、 「円形脱毛症になってしまって」 と説明する自分の姿が安易に想像できる。 と言うことで、私は別の美容院へ行く事にした。 一度だけ行った事のある美容院。 いつもの美容院で予約が取れず、カラーだけしてもらった事がある。 その時、髪の状態やカラーの頻度など詳しく聞かれ、おまけに好みのカラーには染めてもらえなかった。 「今の状態でそのお色にするとかなりダメージが出て、後々お客様がお困りになると思いますので、うちではその色にはできません」 いつもの美容院で言われた事がない言葉だった。 その頃若かった私は、不満だらけでその美容院を後にした。 悩んだ時、なぜかその美容院がすごく気になった。 で、予約をとった。 「初めてですか?」 「いえ、2回目です」 「どの様になさいますか?」 「あの、ちょっとこことここに円形ができてしまって、、」 「頑張ったんですね」 「え?」 そう、その人は私の肩に手を置いて、 「頑張ったんですね」と言った。 肩の力が抜けて、涙腺が緩むのを感じた。 言葉って凄い。 何でもない一言から元気をもらったり、 勇気をもらったり、優しさをもらったり。 無骨でも、不器用でも、無口でも、ちゃんと生きてる人の言葉は短い言葉で十分届く。
処方箋
足を引きずってたら“大丈夫?”と 声をかけてもらえる。 熱で顔が真っ赤なら“無理しないで”と 気遣ってもらえる。 どうして心は見えないんだろう。 どれだけSOSを出しても気づいてもらえない。 痛みのレベルで言えばMAXで耐えてるのに。 そんな時。 心を、脳を、騙してみる。 脳は未熟な臓器でまだまだお子ちゃま。 主語を理解していないらしい。 私も僕もあなたもあいつもこいつも 脳にとっては自分に対して言われて るのと同じ。 “いつもありがとう” “よく頑張ったね” 人じゃ無くたって全然いい。 とにかく口に出してみる。 励まされても困る。 弱音ももう吐けない 頑張った自分を素直に褒めてらげられないなら、観葉植物やペット、大好きな人、何でもいいから褒めてみる。 それなら出来る様な気がする。 自分のために、優しい言葉をかけよう。 お金も努力もなーんにも要らない。 心に絆創膏を貼ってあげる。 どうしようもない時は、こんな脳の科学に騙されてみるのもいいよね。
生きる。
みんな持ってるのに出し方と見方が違うと全然違うものに映るものなーんだ? 楽しそうなヒト、不機嫌なヒト。 器用なヒト、不器用なヒト。 好かれるヒト、好かれないヒト。 誰の話?そう自分の話です。 あのヒトこのヒト、自分。 楽しそうなあのヒトは昨日の自分。 不器用なこのヒトは今日の自分。 羨ましがらなくても、もうあるじゃん。 そこに。 だから大丈夫だよ、なんて無責任な事は言いません。 損してるのは見てられない。 私に誰かが教えてくれたから、次は私が誰かに気付いてもらう番。 お節介で結構。ちょっとだけ耳貸して。 少しだけ、生きることが楽になるかも。 謝れないヒト、直ぐに謝れるヒト。 言い訳はどれだけでもつらつらと並べられるのに“ごめん”だけがどうしても言えない。 謝らせる事に成功しても、解決したのに後味悪くて“これでいいのかな”なんてまた悩み出す。 そんな自分が嫌で“さっきはごめんね”って言えたら、まだまだ自分は素直なヒト。 ここでも踏ん張る自分。だーれも得しない。謝れなかった自分より、私が悪かったのかも…と謝ってくれたあのヒトのほうが強い。 負けたくなかったのに、負けてる。 その悔しさを意地張るほうに持ってかずに“”そっか“”と今思えたら自分はえらい。 まだまだ成長株。 この積み重ね。ぜーんぶどんな事だって。 あのヒトの優しさには勝てない。 じゃー、私も、と思えたら明日は優しいヒトになる。 ほんの1ミリ。ほんの1ミリだけ変えてみる。毎日のこの1ミリが1か月後、半年後、一年後に繋がる。 する?しない?今すぐ?後で? それを実行してる、謝ってくれたあのヒトは一年後、どこまで遠くへ行ってしまうんだろう。 今、気付けたのに。 やるか、やらないか。 自分でしか決められない。 最初は乗れなかった自転車。 なんなら、今は立ち漕ぎだってできちゃう。 なんで? ほら、答えわかってるじゃん。 いきなり立ち漕ぎは無理だからさ、 一ミリでいい。 コツを掴めばどんどん上手くなるから。 やってみなきゃわからない。 ダメでも擦り傷かすり傷くらいなら若いほど早く治るよ。 歳取って、やったらさ、それこそ大事故。そんじゃそこらじゃなおんない。 何度も何度もぶつかって転んで傷つくけど、転ぶ練習、傷つく練習は避けて通れない。 なら、自分から迎えに行けばいい。 転ばなくなって、傷を負う前にちゃんと解決出来るヒトになれるから。 万華鏡。あのヒトのと自分のは一緒のキラキラが入ってる。 見せ方、覗き方が違うだけ。 生きる。って難しくない。 たったそれだけの事。 そう思えば少し明日が、未来が明るくなる。 大丈夫だよ。違わないから。
すず丸参上
「暑〜いいいいっ!メロがめっちゃ走るから、汗かいたよ〜ちょっとベランダで涼まるわっ」 涼むとか温まるなら聞いた事がある。なんじゃ? 涼まるってのは? 暖房とストーブのダブルで暖をとらなきゃやってられないほどの寒さのなか、旦那様ことバボは一枚、また一枚と服を脱ぎながら階段を登ってくる。 そしてパンツ一丁でまさかの極寒のベランダへ直行。 「あ〜、涼まるわ」 すず丸誕生の瞬間。 この日からのバボのあだ名はすず丸となった。 すず丸は時間があると必ず半身浴をする。携帯電話とタオル片手にウキウキで “”お風呂が沸きました“” の例の声とほぼ同時にお風呂に吸い込まれていく。 まだ3分の1も溜まっていない浴槽に気持ち良さそうに入っている事もまぁまぁな回数である。 あんなので入れるなら、むしろお湯は要らないのでは? “”お風呂が沸きました“”だけ流しといたら、空の浴槽でもまんざらでもない表情で入ってそうだから怖い。 ゲームをしてお笑いのYouTubeを観てゲラゲラ笑って、飽きると可愛い動物のYouTubeを観だす。 そして共有してくる。LINEがピーピー連続して鳴りまくり、 「このワンコうちのコに似てない?」 とさも私が観てる前提でお風呂から叫んでくる。 こっちはまだまだ家事の途中で掃除機かけてますので、対応しかねます。 もうちょい待ってな。 「長風呂ばっかしてないで、この前お願いしたやつもう取り付けてよ、2週間くらい経ってるよ」 指紋が梅干しみたいになり、出る汗ももう無いのに、まだまだしぶとくファイターのようにお風呂へ向かうすず丸に少し小言を言ってみた。 おっ!効果あるじゃん! やってるやってる!! 言ってみるもんですねぇ、ってさ、 せめてパンツ履いたら? 裸でやる?それ? 初めてタンスの部品見たチンパンジーじゃないんだからさ、そこ持ってて、じゃないよ。ねぇ? 今は便利な時代でさ、シューってするだけでお風呂掃除終わるじゃん。 なのに説明を聞かない、読まない。 シューして、ゴシゴシガシガシ。 大変ご苦労様です。 食洗機もだよ。 こうやって入れないと水当たんないからね、って何回言っても説明書を読まない、聞かない。 食洗機を使うのを諦めて、自分の出した後出し食器を1年経ってもせっせと手洗いしてるすず丸。 その労力、聞くか読むどちらかに使ったら? わからん。 ガラパゴスすず丸の”面倒“は私からすると異次元なのだ。 「あれ?ちょっと薄くなってきたんじゃない?写真とってあげようか?」 「まぁ、うちは家系で禿げるから。 諦めてる」 翌日のお風呂場にマッサージ専用のクシとシャンプー。全然諦めて無いじゃん。 「それ、きしょう、だよ。きしょう 。いつも読み方間違えてるよ」 帰省はきせいですよ。すず丸。 「真相は藪の中って、闇の中だよ。 直しといた方がいいよ」 藪の中が慣用句なのですよ。元バボ。 「職権濫用って、オレ羨ましかったんだよね、子供ながらに」 ふんふん、詳しく聞こうか? 「食券乱用だと思ってたから、大人っていいなって思ってた。どれだけでも食べていいって事だと思ってたからさ」 小学生の時の写真を見て納得。真冬でも半袖短パンのムチムチBOY この子なら仕方ない、まぁいいか。 「持ってってあげる」 「こんなゴミみたいなの、いいの?」 「まぁ、なんとかなるから」 引っ越しを手伝ってくれた時、持て余した不用品をすず丸は引き取ってくれた。 「適当に捨てるなりなんなりするから」 「ありがとう」 その数年後、2人で同じアパートに引っ越したら、見事に舞い戻ってきた私の不用品の数々のコレクション。 なんとも言えない気持ちになった。 友達だったか実家かどちらかの何かのお手伝いに出向いたすず丸。 帰ってきたすず丸はというと、、、 いつか見た光景。 すず丸はまたもや不用品回収者と化して帰ってきた。 車はパンパン。それはどちらに? え?こちら?我が家?なんで持って帰ってくるんだーーーーーーーっ! 皆様、特に何も考えてない、優しい人と結婚するとこうなります。 大型犬の散歩は結構大変。まだまだ2歳未満で子犬期の我が家のメロは体力が常に有り余っている。 そこで優しいすず丸、サッカーで鍛え抜いた脚力でメロをいつも走らせてあげるのだ。 直線をダダダダダーッ 歩道橋をダダダダダーッ 地下道をダダダダダーッ この地下道。普通に喋ってても声が響く。しかも割と長い。人もチラホラ。 そこを全速力で大型犬と中年男が爆音を鳴らしながら走る、走る、走る。 想像してみてください。 1人で地下道を歩いていると後ろから得体の知れない物が物凄い音を響かせながら近づいてくる、そんな感じ。 当然誰しもが驚いて、 「何今の?めちゃびっくりした!」 「今の人、引っ張られて無かった?」 「階段登る速さ、ヤバくない?!」 となる。 「もうちょっとゆっくりでもいいんじゃない?」 「いや、メロが引っ張ってくとゼーゼーして苦しそうだから、オレが合わせる」 なんという自己犠牲の精神。 見習います。 インフルであろうが高熱であろうが欠かさずに飲む私のルーティン朝のコーヒー。 すず丸がコーヒーを淹れている。 自分の分だけ。あれ?私のは? 「あっ、欲しかった?飲むなら淹れよか?」 「…」 老犬のほうのチュチュにも優しい。 トリミングは欠かさず行かせて、カメラでパシャパシャ。 リボンがかわいいねとまたパシャパシャからのご褒美チュール。 私にはというと、、、、 「今日は何処が変わったと思う?」 「簡単じゃん!ピアス!」 いえ、私は髪を15センチも切り、なんなら前髪も作りました。 わんこへの優しさを私にも少し分けていただけませんでしょうか? 大型連休となると必ず始めることがある。髭をとことん剃らない“髭グリア“ と名付けられたその儀式。 その名の通りどんだけ髭もじゃになろうが兎にも角にも剃らない。 毎朝、鏡の前でどれだけ髭もじゃになったかを確認、そして私に自慢する。 「すごい?こんなに伸びてる!」 “髭グリア“が行われるであろうゴールデンウィークが今まさに始まろうとしている。 ヤバい、これ一生書ける。 しょーもない、脈絡のない文章失礼いたしました。 何せ平和なすず丸なもので。 ちびまる子ちゃんとサザエさんに並ぶこの平凡なのに少しコミカルなすず丸は、こんな感じの紹介の仕方が1番しっくりくる気がします。 またすず丸はたびたび参上いたしますので何卒宜しくお願い申し上げます。
ヒロとひろ その弐
「ツインターボのコアラ? めっちゃ可愛いじゃん!タッタッタッターってターボ全開で走るコアラ、こうやってかなぁ?凛が乗ったらみんな振り向くよ。俺も乗ってみたいな」 どうぞどうぞ。笑ってて下さい。 ちょっと噛んだだけなのに、そんなに面白いっすか? このメルヘンでよく喋る人、近々私の旦那様になる人で、名を里中ヒロと言います。 Merryクルシミマスと絶望のカウントダウン、、、独り身にはありがた迷惑な行事を何とか乗り越え、ラジオから失恋曲が流れようものならモグラ叩き並みに消していた情緒不安定からも脱却しつつの、とあるBAR。 小麦肌に程よい筋肉。高身長で顔面偏差値は普通より高め。 「りん、ヒロを隣に座らせてやってもらえないか?」 元カノの弟なんだよ、ヒロとは続いててさ、とマスターは私の隣にメニューを置いた。 もう1人、結城君も来ていた。 ファジーネーブルを飲みながら、色んな話をした。好きな芸能人、ハマってるお酒、おすすめの居酒屋。 何でもない話をして、帰ろうとした時に、ちょっと待って!とメモを渡された。 開いてみると、 “”里中ヒロ 連絡待ってます“” 000-0000-0000 携帯つながんなかったらこっち 0000-00-0000 とある。 「待って、ちょっと待って、えっ! 何で?なんで私の前の彼氏の名前知ってんの?ええ?何?」 当然、パニック。ストーカーか?もしくはスパイ?少女漫画の世界なら運命とか必然とかそんなとこだけど、現実にはそんなどころじゃない。 胸キュンどころか心臓ドクン。心臓に悪いです。 ヒロとはそんな衝撃的な出会いだった。 名前に違和感がなくなる頃、2人で川のほとりへお散歩へ行った。 「ここにね、ここに停めといたの。 春1番が吹いて、車輪止め外れた自転車が勝手に走っちゃってこの川底にあるの。買ったばっかだよ。ほんと、見えてるのが腹立つわ〜」 悔しがる私の話を熱心に聞いてくれている。 アパートへ帰って、夕飯の準備をするためエプロンを付けた。 「りんってさ、見かけによらないよね。 初めてこの部屋来た時、料理本がズラッと並んでるから、オレびっくりした」 野菜全般あまり好きじゃなかった彼に私はハンバーグに細かく刻んで入れてみたり、大好きな揚げ物に忍び込ませたりとあの手この手で野菜を食べてもらえるよう工夫した。 ヒロの実家へ連れて行ってもらった時、 お母さんからお礼を言われた。 「野菜を食べない子だったのに、りんちゃんと一緒にいるようになって、家でも野菜食べるようになったの!ありがとう」 「これ、良かったら持ってって。家に帰って2人で食べてね」 と、いつも何か持たせてくれた。 身体のことをいつも気にかけてくれる優しいお母さん。 同棲を始めて間 もない頃、ヒロは会社を辞めるべきかどうか途方に暮れていた。 安月給、サービス残業、重労働。 忍耐強いし、物事を前向きに捉えていくヒロがそうして悩んでいるのを見ていられなくて、私は知り合いの社長の所へ出向き、事情を説明し面接だけでもしてもらえないかとお願いした。 「従業員が足りないわけじゃない無いが、りんがそこまで言うなら会うだけ会ってみるか」 と快諾してもらい、後日ヒロと社長の元へ。 「あいつと結婚するのか?りんは 頭下げて頼みに来た。あれはいい嫁になる」 私が別の部屋で待ってる間、社長からそう言われたらしい。亭主関白でワンマンな社長が言いそうな、社長らしい言葉だ。 お母さんからのそれとなくな重圧もあった。「一緒に暮らしてるんだったら、もう結婚しちゃえば?税金、安くなるわよ」 ん?安くなる?ええやん! なんとなく周りを固められ、なんとなくそんな気持ちになった私達は出会って1年待たずに結婚した。 家に帰るとおかえりと言ってくれる人がいる。 世間でどれだけ嫌なことがあっても、 絶対的な味方でいてくれる人がいる。 灯りのついた家にただいまと帰るなんでも無い幸せ。 そんな幸せ=結婚だった。 「今日は仕事遅かったから早く寝たら?」 「明日のこと考えずに今日は楽しかった、って思いながら寝たいから、もうちょっと映画見てから寝るよ」 ヒロらしいね。自分の弱さを知ってるからあえてそこに蓋をして自分を鼓舞する。 そこに愛は確かにあったし、将来的には結婚も視野に入れてたのは確かだけど、 やっぱり早かったね。もう少し2人を理解し合うのを待っても良かったのかもね。 仕事が軌道に乗って前のめりな私と、仕事に追われて自分を見失ってしまったヒロ。 すれ違いから別居をして冷静になろうと決めた。 私がアパートに残ってたら、お義父さんにバレちゃって、それはそれは、、 現実を受け止めたくないお義父さんが、“身内であろうと元他人に名義は貸せないっ“て凄い剣幕で怒りだしてさ、 そん時、 「俺の大事な家族にそんな口聞くな!」 って、怒鳴ったよね。あんな怖い顔、初めて見た。 その晩、お互いに本音をぶつけあって、 子供もいないし、お互いやりたい事があるんだから、一度白紙に戻そうって。 結婚に縛られてやりたい事、諦めたりして欲しくない。オレが好きになったのは、キラキラしてるりんだからだからって。 いつかまたお互い独身で、その時、その気があればまた再婚しよって。 最後の日、お花を飾ったテーブルに美味しいご飯とワインを用意してくれた。 「結婚ってどうでした?って聞かれたら、いいもんだぞ、結婚って。って オレ言える自信ある」 って言ってたけど、私もだよ。 若い2人のままごとみたいな結婚生活だったけど、私もあなたと結婚できて幸せでした。 別れて程なくして、電話が鳴った。 「地震、大丈夫だった?怖くなかった?」 もう、子供じゃないよ。すんごい大人。 でもありがとう。 そんなとこまで支えてくれてた。 大きな優しさを失ってさ、私、 名刺大くらいの禿げができたの。 右耳の上が、ごっそり無くなって前髪の辺りも一円玉くらいの大きさの禿げが出来てさ。 弱り目に祟り目ってやつ。 ヒロがどれだけ大きな存在だったのか、後から後から嫌ってほど気づいたよ。 もう、いつも甘えてた大きな逞しい背中はここにないから、ひとりで頑張らないとね。 ヒロも頑張ってるんだもんね。 ヒロもいっぱい傷を負ったもんね。 数年ぶりに焼き鳥屋で会った時、時間が足りないくらい、色んな事話したね。 あの時さ〜って笑ってしんみりして。 お店の人にさ、“仲良いご夫婦ですね“ って言われて“元夫婦です“って言ったら めっちゃ驚かれて、また笑ったよね。 ずーっと元気でいてくれる。 そう思ってた。 「もしかしたら、これが最後の電話になるかもしれないから。今でも、オレの大切な家族だと思ってるから、いや、変な意味じゃなくて、、伝えておきたくてさ。 オレ、胃癌になった。 今度手術なんだ。 けどさ、オレ体強いし全摘じゃないから大丈夫かなって」 声が出ない。1番辛いのは私じゃないから絶対泣けない。今、私が泣いたら、ひろはもっと無理して明るく振る舞わなきゃいけなくなる。 「早く見つかって良かったじゃん。 今は癌は治る時代だから、うん、大丈夫!私の知り合いもこの前、胃癌で手術したけど、今はピンピンしてるし。 体丈夫だし、絶対大丈夫だよ」 電話を切った後、不安と悲しさと失うかもしれない怖さから大声で泣きじゃくった。 あんなに泣いたのは産まれて初めてかも知れない。 手術は無事終了。経過も、治療も順調に進み、ヒロはいつもの生活を取り戻しつつある。 「まだ体は完全には戻ってないんだけど、 社長が“会社の草抜きでもしてけ“ って言ってくれてさ。 会社、ぼちぼち行くことになったよ」 この1年、本当に大変だったね。 見事に癌に勝って、今生きてくれていてありがとう。 お酒も煙草もやめなくちゃいけなくて、楽しみなくなったよ〜って苦笑してたけど、飲まなくても生きてけれるよ。 煙草なんかさ、もう時代遅れじゃん。 やめとき。 今ね、ハーブ育ててるんだ。 ミントのやつとレモンの香りのするやつ。 今度、紅茶淹れてあげるからさ、飲みにおいでよ。 私の好きなあの角曲がったとこのプリン、ちゃんと買ってきてね! お花飾ったテーブルで待ってるから。
ひろとヒロ その壱
別れた彼氏と同姓同名の人と付き合ってたことがありますか? って、フツーはあり得ない話。 ところが、こんな数奇な出会いが私にはあった。 まず、その壱はひろから。 関西弁の面白いお兄さん、川田さんは神戸出身の旅行会社のインストラクター。 意気投合し「今度、幼なじみと一緒に遊びに来るから」と電話番号の交換をした。 幼なじみの里中ひろを連れて来た川田さん。私も高校時代の友達のかすみを誘って、 4人でいざ観光へ。 どんな話をしていたのか、もうすっかり忘れてしまったけど私とひろはなんだか気が合って、漫才の掛け合いのようなノリツッコミで一気に距離が縮まった。 三寒四温でまだまだ夕暮れは肌寒い。 海を前に上着を忘れた私は寒さに根負けして「上着取って来ても良い?」 とひろに聞いた。 ひろは自分の上着を脱いで、私にそっと掛けてくれた。 と、突き刺さる視線。川田さんだ。 お前な〜と小突かれながらひろは何処かへ連れ去られて行った。 そんな温もり残るジャンバーが淡い恋の始まりだった。 サッカーが好きで釣りが趣味で家業を継ぐひろはどちらかと言うと無口で、余計なことは話さず凸凸と喋る。 当時、何年も付き合った彼女と別れて間もなかったひろは、恋愛するにはまだ早かったようで、近づけば近づく程埋まらない溝が私を拒んでいたように思う。 加えて、マイペースで多忙なひろとは月に一度会えれば良いほうで、、今すぐにでも“彼女”になりたい私はある行動に出た。 「今週末に大阪の友達に会いに行くんだけど、その子が仕事終わるの遅くて。 夜の高速って慣れてないから怖いし。 少し時間あったら、その間だけでも会えないかな?」 待ち合わせ場所に指定されたはホテルとスーパー銭湯とパチンコの隣接する大きな駐車場。 そこに車を停めて、ひろの車に乗って食事をし、ドライブへ出かけた。 有名な夜景スポットだ。他愛のない話をして、話のネタに困り出した頃、ふとこの車がミッションな事に気づく。 「ミッションって難しい?」 地獄の始まりだ。運動音痴で覚えの悪い私は、ひろ先生のご指導の元、ミッション車を運転する羽目になったのだ。 余りの恐怖でミッションをどう乗りこなしたのか全く覚えていない。 「時間ええの?そろそろちゃうか?」 「もうちょっと大丈夫」 「遅なると怖いんやろ?」 「うん」 「大阪行きのインターまで送るから、後ついてきいや」 「ガム、まだ噛んだとこだから味が無くなったら行く」 今みたいにずーっと味の続くガムなどない時代。すぐに無味無臭になった。 言い訳の無くなった私は渋々大阪行きのインターへ誘導されて行く。 嘘なのに。 大阪なんか行かないし。 まだ一緒に居たいのに。 運転席が僅かに空いて、ここを真っ直ぐ行けと身振り手振りで説明してる。 わかりました。帰ります。 帰りますヨーダッ 名残惜しく手を振って、ヒロを見送ったあと、私はインターの前で動けないでいた。 寂しさの余韻に浸る間もなく気づいたのは、私は大阪行きのインターではなく、自分のお家へ帰らなきゃ行けない。なのに、乗り口が全く分からない。 方向音痴が知らない土地で迷子になったのだ。 自業自得。 嘘なんか吐かなき良かった。。 まだ赤信号で信号待ちしていたヒロの車 目掛けて、クラクションを何度も鳴らし た。 驚きを隠せない顔で、ヒロは戻ってきてくれた。 「ごめん。私、嘘ついた」 「何を?」 「大阪行かないの」 「え?」 「会いにきた」 「なんしてんのや!あほやな」 高速の高架の下、ひろは私をぎゅっと抱きしめ頭をポンポンして、 「危ないから、もうこんなことするな。 オレが行くから」 その日、初めて彼の家に泊めてもらって迎えた朝。私は彼女になった。 ヒロはお酒が強くて、赤いキャップで兵隊のおじさんのウオッカ、もしくは強そうな水牛のラベルのウォッカにオレンジジュースを混ぜて、カクテルにして飲む。 下戸な私には理科室の、あの匂い。 ずいぶん年下の私はめいいっぱい背伸びしたいお年頃で、やめときゃいいのに、 「飲める?」 「これ美味しい!」 と無理して飲んで、夜中にコソッとトイレでリバース。まぁ、きつかった。 溜め息。 以前、好奇心で聞いてしまった元カノの話。 今になってどーんと私に覆い被さる。 聞かなきゃ良かった。 記憶のそこに居座り続ける元カノ。 会うたび大きくなる。もはやひろの後ろに背後霊のごとく、いる。チラチラよぎって目を逸らせない。 7年も付き合ってたこと 今でも連絡を取り合ってること 見えない敵との独り相撲、会えない寂しさもピークに。クライマックス、私はKO負け。 別れた話を切り出したいつかのクリスマスイブ。私の代わりに雪がシンシンと降り注いでいた。 2年後、私は神戸へ旅行に行った。友達と買い物して、夜景を見て、片手にはビール。 私はホテルの窓から夜景を見ながらひろを思い出していた。 「元気してるのかな?」 プルルルル、プルルルル 「もしもし、ヒロ?急にごめん」 「ええけど、どないしたん?」 「いや、元気にしてるかな?ってふと思って」 「あいかわらず、ぼちぼちやってる」 何故ふと電話したのか、ひろの声を聞いてわかった。 ひろという1人の人を嫌いになっていない事。 付き合ってる時は苦手だった無口も、案外居心地がいい事。 何でもないあの電話をしたあの神戸の夜。 それから20年以上経った今でも、ひろとはたまに一緒飲んだりメールしたりしている。 男女に友情なんてない、と言われればそうかもと思うし、あると言われたらそうかもと思う。 これほどジェンダーレスな時代に、意味のない不毛な議論だ。 あれから何度か一緒に飲んだ時、ヒロの人生がどのようなものだったのかを幾つか話してくれた。 厳しいおとんで、頑固者だった。 怖すぎて、目の前でタバコを吸えたのも四十後半過ぎてからだと言う。 サッカーも続けたいし、仲の良い連れ達も次々と進学する事が決まる中、広い世界を見てみたかったひろは、高校卒業と共に自動的に家業を継ぐ事に抵抗した。 大学に行きたいと直談判するも虚しく、 「お前が今継がないのなら、2度と継がせない」 と、おとんは大激怒しひろの夢はその場で砕け散った。 朝は陽の上がる頃から、夜は日が暮れても後一仕事。台風や長期の休みは仕事に影響が出るから、気がおけない。 釣りにゴルフに地元の消防のお手伝い、 おかんの病院への送り迎え。 「お前、すごいな」 ってたまに言うけどさ、ひろもすごいよ。立派だよ。 そういや、この前の人 、素敵な彼女さんだったね。 田舎で、いろんな事情があって一緒になれないこと、、複雑で繊細だから私からは触れられないけどさ、そこら辺の仲悪い夫婦より、ずっとずーっといい夫婦に見えたよ。 大事なものがそこにあるから、紙切れ一枚どーってこたぁない。 寂しい思いさせちゃダメだよ。 どれだけ長い仲になっても、女心はきちんと受け止めて大切に扱う事。 わかった?わかったら、数々の無礼を許してしんぜる。 こんな男になんで、今でも連絡したり、会ったりしてくれるのか?って聞いたよね。 親身になって寄り添うだけが優しさじゃない。 無関心を装う優しさもある。 グッと我慢して生きてきた人にしか出来ない受け止め方がある。 私の持ってないとこ、ひろは持ってるからだよ。 明日、メールで返すねって言っといて、 こっちに書いちゃってごめんね。 確信犯ですが、、 了解得たから、まぁ、いいよね♬ 今度、お礼に一杯おごるからさ。 強そうな水牛のラベルのウオッカ、ぶら下げてそっち行くから待ってて! じゃあね!ひろ!またね!
不幸なんて誰が言った? 感動編
綿飴、お面、たこ焼き。 いよいよ21世紀の幕開けに向けて、 カウントダウンの花火があがろうとしている。 世界中の人がこの世紀の瞬間に立ち会おうとしていたその頃、 私は仲良し4人組で食っちゃべりながらその時が来るのをワクワクしていた。 胸に光るそれは何? 石を囲むシルバーにはラブと刻まれている。 「これさ、似合うかな、と思って」 ほいっ、と無造作に渡す彼は目をチクタクさせてなんだか落ち着かない。 「なになに?」 濃い紺色の長細いケースの中に誕生石のアクアマリンが光っていた。 「これ、私に選んで来てくれたの?」 「結構、照れ臭いもんだね。ああいうとこってさ、サイズまでわかんねぇからペンダントなら、いいかなって」 「つけてよ」 「えぇ?やだよ、やったことねぇし」 「早く!」 「自分でやれって、もう!」 「どう?!似合う?」 「まぁまぁ」 「ちゃんと褒めてよ」 「だから、まぁまぁ」 「そう?そんなに似合ってる?」 手元の鏡でアップを見てニヤニヤ、洗面台で見てニヤニヤ、全身鏡に映してニヤニヤ。 ニヤニヤが止まらない。 飛びっきりのプレゼントじゃん! ハァー♡嬉しすぎて震えるくらいだよ! 飛びっきり?はぁー?あれ、こんな歌あった様な気がするな。 気分良いし歌っとくか。 って著作権の関係上、替え歌もダメらしい。うずうず。。。そこで質問です。 もう、飽きたと思う方は1を まだ許せると思う方は2を どちらでも無いと思う方は3を押して最後に♯を押してください。ピーッ 清楚で綺麗なペンダントを身につけても 選曲がまだ演歌!ちょ!演歌じゃないし! これ違う、違うわ、このしつこいめんどくささはあれだ、おじいちゃんの血だわ、これ。 どれ、そこの彼氏や、わしが手相みてやろうか?わしはな、昔、それはそれは怖いえり学園というところに通っておってのぉ、泣く子も黙る@/_#/? 逃げて!彼氏!この人、一回心酔し出すと30分はこっちの世界に戻って来ないから!早く、いい、いいってば!ごちゃごちゃ言ってないで逃げろーっ! と、こんな風に彼氏にもらった大切なペンダントが胸元で光ってる。 「建舞してるよ!行こうよっ!」 餅やお菓子などが夜空から降ってきて、皆が、こっちこっちー!もっと投げてー!と盛り上がっている。 負けじと参加していた私の胸元へ、餅を追いかけるのに夢中になったおばちゃんが激突してきた。 すみませんっ! あっ、大丈夫です! おばちゃんは餅を求めて人混みの中へ。 放送が始まった。 5分前、3分前、、 5!4!3!2!1!happy new year!! 冬空に真っ赤な花火が勢いよくあがっては咲き誇っている。 しのちゃんがトイレに行きたいと言うので、こんな大勢の中はぐれるのは嫌だし、私も着いて行った。 そして鏡の前。 いつ?どこで?なんでないの? あの時、絶対あの時だ!だって、それしか考えられないじゃん! 「無い、無いの!どうしよ。まだもらったばっかだし、大事な、クリスマスのさ、もう、どーしよ」 さっきいた場所に戻って砂を掻き分けて探してみる。どこにも光らない。 私は涙が止まらなくて、しゃがみ込んでしまった。 友達らは少しづつ移動してはまた探して、と熱心に探し続けてくれている。 「やるだけのことはやろうよ」 「もう見つかんないよ。埋もれちゃってたらわかんないもん」 完全に拗ねてる私を尻目にせっせと探してくれる友達に頭が上がらない。 「どうしたの?」 「友達がペンダント落としてしまって、なんか、ぶつかられた時に千切れたみたい」 「どんなやつ?」 「細いチェーンのアクアマリンがついてるやつです」 「僕ら、こっち探すから」 男の子のグループが手伝ってくれた。 探してくれてる人数が一気に3人から8人になった。 いつまでも泣いていられない私も参加して9人。 それを見て、帰路に着こうとしていた人達が2人、3人と集まってくれて、それに気づいた市の運営の若い男の人がこっちへ来て、事情を知り、マイクを持ってこう言った。 「この中に、大事なものをなくした方がいます。楽しい思い出を持って帰ってもらうまでが私の仕事です。みなさん手を貸して頂けませんか?」 会場のランプはすべて足元に向けられ、そこにいた人達が横一列に並んで一歩一歩探しながら進む。 知らない人の何かのために、こんなにたくさんの人が助けてくれてる。 寒いし、時間も遅いのに、ここにいる人達はなんでこんなに優しいんだろ。 「あったーっ!あったよ!!」 おじさんの手には私のペンダントがかかげられてる。 ワァーっと拍手が沸き起こって、皆が良かった良かったと笑顔。 ペンダントを無くした時よりもっと大粒の涙が溢れてまた止まらなくなった。 「良かったね」 「うん」 帰りは友達みんなで皆さんにお礼をした。 「残るね、記憶に。」 「みんな優しかったね」 「私、感動しちゃったもんね」 「うん」 寒い体をカップラーメンで温めながら、 そんな会話をして、私達も家路についた。 いつか、みーーーーんなに知ってもらいたかった、こんな話です。 私の友達、あの町の市役所の方々、そこにいてくれた方々、その節は本当にありがとうございました。あの時のペンダントはまだ、私の宝物です。
不幸なんて誰が言った?凛の作文より
私のお父さん わたしのお父さんは、とうめい人間です。 きゅうにきえたり、あらわれたりします。 お母さんが、おこっているときかなしそうなとき、お父さんはとうめい人間になって、きえてしまいます。 ごはんのときおちゃわんとおはしが、うえによこにうごいているから、ここにいるとおもいます。 お父さんの、たからものを、りんが見つけたのがよくなかったとおもいます。 りんは、なつ休みにうみでひろったピンクの貝がらをはこにいれて、たからものの、かくし場所をさがしていました。 お父さんの押し入れの、おくのほうに、 ていねいにおきました。 もう一つ、はこがありました。 ワクワクしてりんはじぶんのおへやにいって、すわってそのはこをあけました。 おりがみみたいな小さなかみに、女の子のおなまえとすうじが書いてありました。 おかしもあります。お父さんは、しごとがおそくなったときに、チョコレートや小さなおかしのふくろをもって、帰ってきてくれるから、りんにくれるのを、わすれていたんだとおもいます。 きいろい、四かくのふくろを、やぶると、へんな匂いのするゼリーのついたフーセンみたいなものが、はいっていて、がっかりしました。 にじいろのガムが食べたかったな。 とおもいました。 お母さんが、しゅくだいを見にきました。りんはちゃんとやったのにお母さんは、ケーキをたべさせてくれませんでした。 お母さんは、フーセンのはいったりんのゴミばこを、おへやからもっていって、お父さんにぶつけてないたり、おこったりしています。 「どこにあったの?」とお母さんがいうけど、りんのかいがらが見つかってしまうのでだまっていたら、 「早くいいなさい」とおこられました。 お父さんは、りんよりももっとすごくいっぱいたくさんおこられていて、 かわいそうでした。 ごめんなさい。りんがそこにかくしたからお父さんのたからものが、お母さんに見つかってしまいました。 それからずっと、お父さんはとうめい人間になりました。 お母さんは、りんにケーキを、焼いてくれなくなりました。 知らない女の人に、お母さんはないて、 おはなしをきいてもらって、少しだけわらいました。 その女の人の、かさは大きくて、レースがついていて、りんのハンカチに、よくにているなとおもいました。 お母さんがわらっているじかんがいっぱいになったので良かったなとおもいました。 あの女の人がまた来てくれたらいいな、とおもいます さいとうりん
不幸なんて誰が言った? 最終章
好き、嫌い、好き、嫌い、好き、好き、大好き♪ ひとひらひとひら千切られて行く花びらは、、おーい!聞こえますかぁ? ってか、それさ、夕飯用の春菊の葉っぱ。 そんなことはどーでもいい乙女は妄想劇場のお花畑をスローで走っている。 名前を口にしただけで甘ーいメルティーキスの味がお口いっぱいに広がる。 19歳の立派なお嬢さんになった元おなごはとろける様な恋の真っ最中だ。 高校を卒業してからは車の免許も欲しいし、車も買わなきゃ、、で、せっかく誘ってもらった卒業旅行きは断る他無かったけれど、就職もしたし貯金をする余裕も出来た。 念願の旅行貯金も希望額まで到達。 今、手元のパンフレットを見ながらどこに行こうかと幸せな悩みに頭をかかえてる。 料理もきちんとできるようになったし、お化粧もお洒落も手抜き無し。 好きな音楽の趣味もすっかり今時になり、マイラバ、グローブ、大黒摩季。 ママさんから届いた荷物を抱えながらスピーカーでトキちゃんに近況報告。 なおちゃんの可愛い赤ちゃん抱っこさせてもらってほっぺにチュ。 これから色んなことが起こるだろうし、泣きたくなることも嬉しい事もたくさんあるんだろうな。けど、人生って悪くない。 この幸せの翼を無くさないよう、大切に生きよう。 時は令和5年。 「コーヒーまだある?」 「飲んじゃった。淹れようか?」 「ニュース何見てたの?」 「またやってるな、と思ってさ。 コーヒー、私ももう一杯飲もっかな」 今の私にとって、こんなもの。 一瞬グッと思い出して一瞬で忘れる。 みんなそうだといいな。 少しでも、今が幸せであってほしい。 私は破られて以来、書くことのなかった真っさらなノートを開いた。 20歳までの私の物語を書いてみよう、と。 あっ、そうそうコーヒー淹れなきゃ。 終 少し唐突に終わりますが、ご存知の様に我が章は添加物無しが売りですので、20歳までの人生ではこれ以上は絞り出せません。 あと、主人ことすず丸が私の不幸話はいつ出るのか?おちゃらけが多すぎでは? 飽きられない様、そろそろ1人くらい死人だしたら?などとうるさいので、、 この辺りにしておかないと、この物語では無く、本当に殺人事件が起こりますので大変遺憾ではございますがご理解の程、宜しくお願い申し上げます。 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。 20歳以降の物語はですね、えー、おほん、今まで通りに順を辿って書きますと、難ありでしてアダルト、薬物、ギャンブルなどと大変見苦しく年齢制限もかかってくるかと思いますのでご想像にお任せしたいと思います。←嘘です。 20歳以降の物語はまた別の章でお会いしましょう。 そうそう、書き忘れです。 照れくさいので読んでもらっても、読まなくてもどちらでも。 出口はこちらです。 入り口はこちらへ。 「普通の生活をさせてあげられなくて 悪かったと思ってる」 車の中でポツンと母が言った。 「そんなの。謝られても困る」 ドラマのようにはならないし。 抱き合って泣きあってなんてしない。 今でもあの宗教が忌々しいし、 子供を産まなかった選択に後悔のひとかけらもない。 あれから色々あったし。 やっと言わなくなったね、三代先まで何ちゃら、って。笑うしさ、冗談言うなんか500年ぶりじゃない? なんか腑に落ちないんだよね、 手紙にするからさ、 いつか読んで。 母へ 母、私はあなたをお母さんとは呼びません。えりさんです。冷たい言い方だよね。 私は母を母親だと思っていませんでした。1人の人間、そう思わなかったら 私はやってられなかったから。 母も母がいるから子供で、女で、妻で、 母。この4人を一つにした人間が、そう えりさんです。 私は子供の頃のえりさんに会ったことがありません。 1人の女性として不器用に生きる女のえりさんには会いました。 妻のえりさんはお世辞にも良い妻では無いと思います。 母のえりさんは目も当てられない。 満たされないものを満たされない場所でどれだけ探しても、それはそこには見つからない。 えりさんの中の4人の人間達はどうしてそれに気づかなかったの? 私は気づけたから、今こうしてえりさんに聞いてるんです。 えりさんは憎みを何度も暖めて苦しみを誰かに与える事で過去を消し去ろうとしました。 大失敗。自分が1番苦しかったでしょ? そんな風になりたくてなったんじゃ無いもんね。 えりさんは不幸です。 私がはっきり言ってあげます。 泣いていいよ。 抱きしめてあげます。 えりさんがずっと放置して乗り越え無かった壁を、私はこうして乗り越えて来たから。 もう過去の私はとっくに成仏してるからさ。 おいで。聞いてあげるよ。 あのさ、普通って、本当に幸せかな? 私はそうでも無いと思ってます。 こんな人生、なかなか味わえないし、私のここまでの人生で出会った人たちは、普通じゃ出会えなかったから。 それとね、そうでも無いないなんて言えてる私の中にはさ、えりさんのDNAがある訳だよね。 そう思える子、その子はえりさんの子なんだよ。 持ってないよりいいじゃん、早く来れるよ、こっち側に。 子供の頃のえりさんから順番にしてよね。 私だってそこまで大人になれてないから。 じゃー、気長に連絡まってます。 ちゃんと電話してよ。番号変わってないから。 バイバイ
下を向いて歩こう
重力のせいじゃない 重くて深ーい何かのせいで 空を見上げれない時もある いいんだよ それで。 立ち上がりたい時 上を向け!っていうけどさ そんな力残ってないもんね だから、下を見てごらん 悔しくて涙した人 辛くって立ち止まる人 そんな誰かの足跡がいっぱいついてる どこかの誰かさんの頑張った足跡 目を凝らしてみて 大きい形 小さい形 ね、見えたでしょ 今、立ってるそこは 誰かさんが進んだ道 頑張って前に前に歩いて来た道 足跡をたどってごらん 明るい未来に続いていくから 嘘つき? そんな訳ない? じゃーさ、あと一歩進んでみてよ 早くここにおいで でさ、一緒に上を向こう p.s 自分のことより家族のことを1番に考えて、なんでもどんなときでも笑顔を忘れない私のとっても大切なお姉ちゃんみたいな存在のるいさん、るいさんの大切な人の為に作った詩です。 何にもできないけど、ここで見守らせてください。 そして、自分のことももう少し大事にしてね。 そう願う妹もどきより