のアリス
10 件の小説溶けていく氷のように消えてなくなってしまえたら
私さ。言ってなかったんだけどさ。 少しの沈黙。 もう20年来の私の親友。 昔も今も明るい笑顔は何も変わってないように見える。 ただ、時の流れと共に彼女なりの経年劣化、いや経年美かもしれない。 独特な雰囲気を漂わせている。 昔も今も変わらず私の大好きな親友だ。 フッと決心したような目をこちらに向け淡々と話し始めた。 私さ、旦那とセックスレスなんだよね。 親友は氷の溶けきったアイスコーヒーを1口喉に流し込む。 えっ。いつから?? 咄嗟にでた。 そして私の中に親友のご主人が即座に思い出される。 恰幅のいい陽気な男。 いつも親友と出かけたり飲みに行ったり仲睦まじい夫婦だなとずっと思っていた。 2人のセックス事情までは考えたこともなかった。 うんとね。もう10年はたつかな。何かさ、愛されてないとか女として見られてないってこと認めたくなくて誰にも話せなくてさ。 恥ずかしいとか惨めとか色んな気持ちがあったんだと思う。 再びアイスコーヒーに目を向け中身が入ってないことを確認してストローで溶けた氷をつつく。 でもなんか今日あんたの顔みてたら急に話せる気がしたんだよね。 てかさ、うちもなんだよね。 私はスーッと胸が軽くなったような気がしてなんのてらいもなく言葉が出た。 親友は少し驚いた表情をみせた。 ええっ。あんなに仲良しなのに?いつも2人でお出かけしたり飲みいったりしてるじゃん!! 私は吹きだしてしまった。 私もあんたからセックスレスて言われた時同じこと思った!あんなに仲良しなのにって! そして私も同じ理由で誰にも話せなかったんだよ今まで。 そう伝えた。 2人で笑った。 それはもう面白いとかそういうことではなくて。 世界中に突然誰もいなくなって、たった1人になってどうしようどうしようってパニクってる時に親友が不意に現れた。例えるならばそれくらいの安心感にも似た気持ちだったのかもしれない。 女として見てもらえないのつらくなかった?? 親友はもう言葉を選ぶ様子はみられない。 心の声を吐き出そうとしているように見えた。 辛かった。初めの数年がほんとにやばかったな。 旦那に殺意すらあったもん。 私も、もう言葉を選ぶつもりはなかった。 それこそネットで検索しまくってさ、どうしたら解決するんだろ?てそればかり考えてた。 話し合った方がいいとか自分からその話はしてはいけないとか誘っては行けない、たまには自分から誘ってみろとか下着を変えろとかマッサージから始めろとかね。 一気にまくしたてる。 親友は少し前のめりになりながら。 わかる!!私もそうだった。あれがいいと言われたらそれを試して失敗して。 それの繰り返しだったな。でもなんにも効果はなくてさ。 お金出してセックスレス解消サロンみたいなのに入ったこともあるんだけど結局は精神科に夫婦カウンセリングいけって。 そこでやめたわ。 フフフッと笑いながら話す親友。 私もうんうん力強く頷いた。 まさかこんな所に同士がいたなんて思ってなかった。 私がかわいかったりさ、胸がもっとおっきかったり、若ければこんなことにはならなかったのかな。 旦那に言われたんだよね。 おまえだからできないんだよって。 ガツガツすんなよって。 胸が締め付けられるかと思った。 私も全く同じようなことを言われていた。 眠い、今日は疲れてる、休みの前の日じゃないと無理。 散々言い訳を告げられてきて、挙げ句の果てに言われた一言。 私の心を殺した呪文。 辛かったよね。めちゃくちゃわかる。。 そういうと泣けてきた。 私だけ辛いと思っていた。 そうではなかった。親友もこの辛さを抱えていたのだ。 親友も涙を浮かべていた。 あんたも私もさ、悪くないよ。 そんでついでに旦那も悪くない。 飲みたくもないもんとか食べたくもないもん無理矢理口の中突っ込まれて飲み食いさせられたくないだけで。 泣き笑いする親友の笑顔は昔と変わってないようでやはりどこか昔と違う。 なんて例えよ。 まあ確かに無理矢理、食べたくもないもん口に突っ込まれて飲み込めって言われたら恐怖よね。 私も笑ってしまった。 下手に慰めてこない。 そして誰のことも悪く言わない。 私は親友のそういうところにずっと救われてきた。 昔も今も。 うんうん。そんなことされたらトラウマなるわ。 確かにね。 話したいことも聞きたいことも本当はもっとたくさんあったはずなのに。 私達はもう何から話せばいいのか何を聞けばいいのかよくわからなかった。 離婚するの? 沈黙の後、唐突に出た質問はそれだった。 きっと私が1番悩んでるところ。 そこが自分でも思いがけず不意に出てきた気がした。 質問した瞬間に自分の気持ちがわからなくなった。 自分こそ、そこを悩んでいるんだと確信した。 期待を込めた目で親友を見つめる。 親友は目を伏せてううぅんと何やら困り顔をしている。 少ししてパッと顔を上げた。 離婚、離婚かぁ。 たださ、1つ言えることはさ。 強がりとかではなくて本心なんだけどね。 もう私も今更、旦那とセックスする気になれない。 て、いうか旦那とセックスする自分が想像つかないんだよね。 青天の霹靂。 共感しかなかった。 私もまさに同じだったから。 悩んだのは初めの数年。 そのうちにないことが当たり前になっていき、旦那とのセックスは私の中で想像すらできない異次元のモノとなってしまった。 だからさセックスレスだからって離婚する必要はないのかなて私は思ったかな。 いま! この瞬間にね! 親友は少し晴れ晴れとした顔をしているように見えた。 あんたいい質問してくれたわ。 親友はスッキリした笑顔を見せて残っていた氷を口に含んだ。 確かに。 確かにそうだね。 私も残りのアイスコーヒーを口に含む。 離婚はパワー使うからさ。 借金あるわけじゃなし、浮気してるわけでもなし! バツイチの親友はそう語った。 確かに。彼女の1度目の結婚は壮絶なものでそれに準じて離婚までのストーリーも壮絶だった。 この話はまたどこかで話せたらと思う。 親友の許可が取れたら。 私達は店を出た。 駅まで歩き、じゃあまたね。 そう言って歩き出した親友。 昔より少し丸くなった背中がどんどん見えなくなる。 人混みに紛れて。 何も解決してない。 状況は変わっていない。 でも心の中は広く晴れ渡り清々しい気持ちでいっぱいだった。 今日、親友に会えてよかった。 本当に心からそう思えた。
徒然なるままに
愛されていないと感じたのはもう遥か昔。 私はイラナイ子供だった。 ただ、彼らの承認欲求を満たすだけの存在。 褒められることは無いが期待は遥か天の上。 できて当たり前。 冷たい4つの瞳はそう物語っていた。 私はこの家の子供ではない。 そう言い聞かせながらずっと過ごした。 寂しくて満たされなくて泣いた夜。 幾度となく重ねられた夜。 誰も何も愛せない。 彼らと同じように。
残り物
電話が鳴った。 あの人からで私は即座に電話にでる。 待っていたことがバレないように少し落ち着いた低めの声を出す。 −もしもし?どうしたの? 少し間を空けてあの人の声。 −頼んでた○○やってくれた? −終わってるよ。あのね今日ね 話したいことが沢山あって混乱してしまう。 あの人は無言で何秒か耳を傾けてくれてたように思う。 でも即座に切られる。 いつも通り。 残ったのは虚無
虚無
勝手に先回りして不安になる事も、 昔を思い出して悲観することも。 無理やり先回りして幸せを想像する事も、 昔の良かったことを思い出す事も。 何もしたくない。
そうやって
あなたに愛されない私には価値がないなんて ばかげてる。 あなたに愛されていても そうじゃなくても 私は私で。 あなたが私を愛してくれないなら 私もあなたを愛せないだけで。 そうやって人は自分に折り合いを付けていくんだと思った。 窓の外の晴れ渡った空を眺めながら。
偽愛
私より可愛いあなたの同僚。 毎日挨拶を交し他愛もない冗談を言い合う。 きっとあなたは彼女を好きになる。 彼女の顔に姿に胸に癒され いつかあなたは私より彼女を選ぶ。 あなたの元カノ。 最近よく会うけど綺麗になっていた。 きっとあなたは彼女を好きになる。 昔より綺麗になったあのこに見惚れ いつかあなたは私より彼女を選ぶ。 小銭を貸してくれた取引先の女性。 困った時にサッと助けてくれた。 きっとあなたは彼女を好きになる。 優しくて気が利く女性に徐々に惹かれ いつかあなたは私より彼女を選ぶ。 生まれたときから幼馴染。 お互いの過去を全て知ってて。 あなたはずっと今もこれからも彼女が好き。 いつかじゃなくてこの瞬間。 あなたは私じゃなくて彼女を選んでいる。 可哀想なあなたは決して選ばれないだけで。 でもあなたの心は彼女だけを想っている。 そんなあなたを好きな私が1番惨め。 あなたに選んでもらえたはずなのに。
憧憬
俺が笑わせるから。 そう言ってくれたあの日のあなたは もういない。
最後の恋
これが最後の恋。 本気でそう思った。 あなたが愛しくて愛しくて。 他には何もいらない。 そう思っていたのに。 あなただけを信じてたのに。 あなただけを愛していたのに。 それは淡雪のようにスーッと溶けていった。
ハルカカナタ
女の子が産まれたらハルカ。 男の子が産まれたらカナタ。 キラキラ目を輝かせてあなたは私にそう言った。 どちらも叶わなかったけど。 あの日のあなたを思い出すと ただ、ただ泣けてくる。
チューインガム
不快な音がする。 クチャ クチャ クチャ もう味も匂いもしないチューインガム。 ひたすら咀嚼するあなたは色褪せた虚ろな昔の写真のよう。 規則的に聞こえる不快な音が私の心を蝕んでいく。 あぁ。 でも私も同じか。 無機質な存在のあなたの隣にいる私も。 私たちは味も匂いもしない無機質なチューインガム。 もう膨らむことはできない。 なのに前にも後ろにも進めない。 ひたすら無機質なチューインガムを噛み続けているだけ。 これからもずっと。