小鳥遊

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小鳥遊

ただの小娘。少し気取りたかっただけ。

最後の手紙

『拝啓、世界一大切な人へ』  そんな言葉から始まる手紙。丸っこく大きさに少しばらつきのある字。  君が書くその字がとても好きだった。字だけじゃない。君の笑う顔も、たまに行く散歩のときに繋いだ手も。全部、全部好きだった。  君の病気を知ったのは去年の夏だった。  病気について教えてくれたあと、『ごめんね』と何回と何回も謝ってくれた。だけど、君が謝ることなんてなんにもない。私は、何度も 『私が君の代わりに病気だったら良かったのに』と泣きながら言った。  そうしたら、君はこう言ったんだ。  『もしこの立場が逆だったら、僕は耐えられないよ。だって君が苦しむ姿は見たくないから。だから、僕で良かったって思うんだ』 って。  更に泣いてしまった。君の優しさに泣けてしまったんだ。  今年の春。君は近くの大きな病院に入院した。病状が重くなってしまったからだ。  週に三、四回はお見舞いに行った。その日あったことを話したり、りんごを一緒に食べたり。  私ができるのは、笑顔を君に見せることぐらいだった。  ある日、私が病室に行くと君は少し悲しそうな顔をしていた。病気のことを言ってくれたときのように君はゆっくりと口を開いた。 『病気、治らなくなったんだ』  なんで世界はこんなに残酷なんだ。私はもうなにも考えられなくなった。 『死ぬまで、ずっと一緒に居るから』  強くでも優しく、私を抱きしめてくれた。 『じゃあ、また来るね』 『うん』  これが私と君の最期の会話だった。  病院から連絡が来たのは、私が帰ってきてから1時間後。病室に入ると君の家族とお医者さんがいた。  ベットの上で目を閉じた君。 『ねぇ、起きてよ…』 つい、そう言ってしまった。   君がもう、目を開けることはないのに。  病室から出る前、君のお母さんから一枚の封筒を貰った。  お母さんは 『お家でゆっくり見てね』 と言った。  家に帰ってソファーにそのまま座る。封筒の中から便箋を取り出すと、見慣れた字がならんでいる。  普段、手紙なんて書かない君。 『拝啓、世界一大切な人へ』  そんな言葉からはじまる、私にだけ捧げてくれた愛の言葉。

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最後の手紙