四宮結季
4 件の小説新年の御挨拶
新年明けましておめでとうございます 相変わらずの投稿頻度ですが誠心誠意を込めて物語を綴ってまいりたいと思います 今年一年も四宮結季をどうぞよろしくお願い致します
日常
十二月。 それは聖なる月。 『アイツらマジで嫌い』 「急にどしたの…??」 いつものように「僕」の隣を歩く『理沙(りさ)』が口を開く。 『なんか最近、バカップル多くないか?』 「…急にどうしたの?」 『いやなんか明らかに増えた気がするし、見ててムカつくし』 「まぁ、分からんでもない」 確かにここ最近、教室やら、廊下やらと色んな場所でカップルを見る気がする。 その中には所謂“バカップル”という奴らも少なくはない。 十二月という時期に乗じて増えるという現象は未だに謎としか思えない。 『んでよぉ、そいつらの馬鹿っぷりがさぁ…』 とまぁ、こんな感じの話をしながら帰路を辿るのが僕ら日常だ。 それから少し歩いて家にたどり着く。 鍵を開けてドアを開ける。 「『ただいまぁ』」 そうして“2人で”玄関をくぐった。 『さぁ、今日の夕飯は何がいい?』 「別になんでもいいよ」 『それが1番困るんだが?』 むぅっとほっぺを膨らます。 そんな動作が可愛いのは言うまでもないので口にはしなかった。 「どうせ何作っても理沙の料理は美味しいんだもん。何か1つに絞る方が無理だっつーの」 『…お前、今日の夕飯無しな…』 そう言ってキッチに向かって走り出す理沙を見ながら思わず… 「事実を言ったまでなんだがなぁ…」 と呟くのだった。 「ご馳走さま」 『お粗末さま、っと皿下げるの手伝ってくれ』 「あいよ」 彼の返事を耳に机の上の皿をキッチンに運ぶ。 彼が残りを冷蔵庫に入れたり、皿を移し替えたりする横で私は洗い物を済ませる。 これが私たちの日常だ。 『あ、終わったら風呂行っていいぞ。もう湧いてっから』 「りょーかい」 そう言って手元にあった皿を冷蔵庫に入れ、彼は風呂に向かった。 『ふぅ…』 洗い物を済ませ、リビングのソファに身を放り投げる。 すぅーはぁーっと息を吸う。 彼の匂いがする。 …幸せだなぁ…… 同棲を初めてしばく経つが彼を嫌になったとこはない。 むしろこの時間をもっと一緒に過ごしていたいくらいだ。 もっと一緒にいて、隣で笑い合って、くだらない話をしながらご飯を食べて… 考えるだけでキリがない。 『あいつもそう思ってくれてると嬉しいなぁ……なんてな…』 帰宅時の会話を思い出す。 きっと私もアイツらと同じ部類なのだろう。 ただアイツらは感情が表に出すぎているだけなのだろう。 根本的な部分は同じなんだろう。 『…さぁてと……』 そろそろ彼も風呂からあがる頃だろう。 ソファから起き上がりキッチンに向かう。 彼の好きなココアでもいれてあげよう。 理沙と入れ違いで風呂から上がるとソファーの近くのローテーブルにマグカップが置いてあった。 ココアが入っていた。 風呂上がりにココアというのは僕の昔からのルーティンだったりする。 風呂上がりのコーヒーや牛乳と同じ感じだ。 「ふぅ…」 1口含んだココアは少しのほろ苦さの後から甘さが広がった。 「…美味いなぁ……」 マグカップをテーブルに戻し、ソファーに腰をかける。 先程まで理沙がソファーで寝転んでいたのかクッションにがへこんでいた。 理沙の頭があったであろう部分に手を当てる。 撫でるような動作をすると理沙が喜ぶ姿が見えた…気がした。 理沙と暮らし始めてしばらく経つが苦に感じたことはない。 理沙のおかげで満たされる日々に幸せを感じるばかりだ。 理沙のおかげで僕は幸せを感じている。 だが理沙はどうなのだろうか。 心配性の悪い癖である。 理沙は僕との暮らしに幸せを感じているのだろうか。 満たされているのだろうか。 僕は理沙の為になれているのだろうか。 『上がったぜ〜』 風呂から上がり、リビングに戻ってきた理沙の声で我に返る。 『ん?なんか考え事でもしてたのか』 「いや、なんでもないよ」 『…そうか』 何かを察したのか追求はしてこなかった。 そうして理沙は自分のココアを作り、マグカップを僕のやつの隣に置いた。 そして… 『よっと…』 ソファーに座る僕の足を枕にして理沙はソファに寝転んだ。 驚く僕を見る理沙と目が合う。 「ちょ、おま…」 『んだ?減るもんじゃないしいいだろ?』 「まぁ、そうだけどさ…」 『ならいいじゃん。あと…』 そう言って理沙は僕の手を取った。 その手を頭に当てて… 『ほれ、なでなでしなさい』 と言ってくるのだった。 言われた以上やらない選択肢はないので頭を撫でる。 髪の擦れる音と共に髪の匂いが広がる。 2人のお気に入りの匂いのシャンプーの匂いが。 『にへへ、いいもんだな』 「…」 理沙の笑顔を見て顔が赤くなるのを感じる。 それを悟られたくなくて目をそらす。 『どした?また考え事か?』 「いやなんでもないよ」 改めて思う。 幸せだ。 きっとそれは理沙も同じなのだろう。 きっと僕が幸せだと思っている間は理沙も幸せだと思ってくれているだろう。 そんなことを思いながら理沙に対して僕は笑顔を返した。
春の色
春が終わった 季節が秋から冬に変わる そんな時期に、だ 長いようで短いかった春 彼らはこれを“セイシュン”と言った “青い春” と書いて “青春” 一緒に眺めてきた春は青色だったみたいだ 青空のような水色なのか、海のような深い青 水のような透き通る青なのか、夜空のような群青か 彼らにはどんな青が映っていたのだろう え?私にはどう見えたのかって? 私の春は何色だったんだろうね 使ってたサックスみたいな色 その塗装の剥げた下地の色 アイツが使ってた楽器の色 夏の大会の頃の生き生きとした葉の色 一緒に帰った夜の色 その時に見えた月や星の色 怒って赤くなった誰かの顔の色 私の春がどんな色なのかは私も知らない 知るつもりがない というのが正しいかな どんな春であろうと、大事で大切な春だったから
秋の夜空
「秋は嫌いやな」 隣にいる君はそう呟いた。 変わり映えのない今日の終わりが見え始めた下校時間。隣で自転車を押す君がそう呟いた。部活終わりの空は日が沈んでいて、雲に隠れた月明かりと近くの街灯だけが静かにこの場の二人を照らしていた。君の顔はよく見えなかった。いつものようで、どこか違うような。ただ、声が少し震えている。そんな気がした。 「なんでかはわからんし知らん。秋の綺麗な月も好きやし、紅葉で染まる景色も好き。けどそれ以上にこの時期が嫌い。」 自転車の錆びたチェーンの軋む音がガラガラと音をたてる。 「苦しいんよ。なんでかは知らん。ただただ苦しい。こう…なんて言うか……喉が詰まりそうで、今すぐにでも吐きたい。吐き出してしまいたい。けどそれがでんのよ。できんのよ」 気づくと月を隠していた雲は流れていた。今宵は満月のようだ。その月明かりが君の顔を照らしていた。ぎこちない笑顔に見えた。 「なぁ、俺はどうしたらいいよ?」