蒼
78 件の小説蒼
不定期更新です!よろしくお願いします!ちなみに中学生です。いいねやフォローしてくださった方にはフォロー返してます! MBTIはENFP-Tでした。…書き方あってます?
ああ、素晴らしき集団思想(鳴潮二次創作)
希望のない朝が来る。動くのすら億劫になる。 支度をして、家を出る。 「いってきまーす」 返事はない。 母は疲れ切って寝ているし、父も仕事に行ったからだ。 ちらちらと道ゆく人々が私を見る。 私が、首輪をしているからだ。 私はある時から、普通の人とは違う存在になった。 いつの朝だっただろう。目が覚めたら、右腕にあざがあって。 人や物に黒い点が見えるようになった。 人には心臓の位置に。物には1番脆い位置に。 その黒い点を切ると、壊れてしまう。 私はあらゆる構造の弱点がわかるようになった。 あざを見た母が私を病院へ連れて行った。 いくつかの病院をたらい回しにされた後、出された結論は 私が共鳴者になったということだった。 途端、母の顔が少し暗くなったのを覚えている。 そして仕事帰りにそれを聞かされた父の顔は青ざめた。 無理もない。 この国で、共鳴者は差別の対象だったからだ。 共鳴者というのは、特撮ヒーローみたいなもので。 無音区という区間に発生する怪物を倒せる人達のことだった。 …と、いうことを知ったのは後の話で。 この国は、共鳴者への理解が浅かった。 結果、生まれた憶測…… 【共鳴者がいるから、怪物が出てくるんじゃないか】 共鳴者は暴走を抑えるため、首輪を着けさせられた。 これがこの国の当たり前だった。 やがて駅に辿り着き、切符を買い、電車に乗る。 〈線路上に小規模無音区が発生した為、運行が10分遅延します〉 ‘おい仕事遅刻するじゃねぇか!!ふざけんなよ’ “おい!あそこに首輪つけてる奴がいるぞ!” ‘……ったくふざけんじゃねぇ。首輪持ちは…’ 結局、私は周りの人の高圧的な視線に耐えながら到着を待った。 目的の駅に着くなり、逃げるようにしてその場を走り去った。 通り過ぎる人達に睨まれる。 やっとのことで学校に辿り着いて、教室のドアを開ける。 自分の机の上には落書き。 《迷惑女》《早く消えて?》 全部消しゴムで消す。 ノートはビリビリに破られていた。 セロハンテープで貼り直す。 鉛筆は折られていた。 家から持ってきた新しい鉛筆を使う。 …お気に入りのキーホルダーがない。 可愛いゆるキャラ、ナミポンのキーホルダー。 ……どこを探しても見つからない。外した記憶もない。 そんな私の様子を見る人たちは、私に憐れみの目を向ける。 ただ、救いの手は差し伸べられない。 自分がそうはなりたくはないからだ。 そして段々、憐れみは嘲笑に変わっていく。 気づいたのだ。集団に従った方が楽だということに。 気づけば日課も終わり、放課後になった。 私は放課後、自動販売機の後ろで隠れるようになった。 ガラガラと鳴る自販機の音は少し落ち着く。 ふと、自販機から立ち去ろうとする女の子の鞄を見た。 ナミポンのキーホルダーが付いていた。 間違うはずもない、記憶にあるものと寸分たがわぬそれが。 「あの…」 思わず声をかけてしまった。 『え?何?』 「それ、私のキーホルダーじゃないですか…?」 彼女は苛立ちながら私に言う。 『は?うちのだし。何言ってんの? ってか首輪持ちが文句言ってくんじゃねぇよ!』 彼女は突然ニヤリと笑って、首を切るジェスチャーをした。 『私が言ったら、こうなるの。わかるよね?』 「は、はい。すいませんでした…」 彼女は満足げな顔をして去っていく。 そろそろ家に帰らないと、親に心配されてしまう。 「ただいまー」 思わず鼻を塞ぎたくなる。……酒臭い… 最近、父の店の利益が減ってやけ酒を始めたからだ。 原因は分かりきっている。 私が共鳴者だから。首輪持ちだからだ。 両親は普通の人なのに。 かっこよく、あの日見たアニメのように怪物を倒して。 それで人々に感謝される……のは幻想だった。 実際のところ、得体の知れない力を得た人は避けられる。 避けられ、気味悪がられ、やがて嫌われる。 集団は異端に優しくない。 私の持ち物は黒い点まみれだった。 SNSでは共鳴者を追い出す趣旨の投稿が大量にある。 私も父みたいに酒を飲めたら、楽だったかもしれない。 もう…疲れたなぁ。
既定路線
人類。それは、神の悪戯。所詮定められた生でしかない。 終わりは足掻いて足掻いても変わることがない。 死する時も神が定めたもの。自由は不自由の錯覚。 差別や贔屓もない。世に飽きた神が始めた遊び。 神のパペット。人類は神の見せ物。 ……というのが、死んだ母がハマった宗教の戯言だ。 「馬鹿じゃねぇの?」 俺は一人の部屋で吐き捨てるように呟く。 この程度の宗教のせいで家庭が崩壊するとは思いもしなかった。 「ほんと、世の中馬鹿ばっかよ。ま、俺もだけどな。」 そう言いつつ俺は【聖書】と書かれた薄汚い本をゴミ箱に捨てた。 「はー、宗教も面白くねぇなぁ……なんか面白い事ないのかよ。」 俺の言う面白いは、普通の面白いとは違う。刺激だ。 この白黒テレビみてぇな世界に何百、何千の色が欲しい。 多分カラーテレビを初めて見た時は革命だったろう。 お、今の表現なかなかいいんじゃね? さっすが俺。センスあるわー。 よっしゃ、なんかやる気湧いてきたわ。 「暇だし外にでも出るか。」 俺は適当な服を着て外に出た。 外に出てしばらくぶらぶらしてると、見知った顔が見えた。 『あ、やっほ!』 「おお。」 『……適当に返事するな!!このやろー!!』 背中を叩かれる。さほど痛くねぇが、やめてくれ。 「悪かったって。許してくれ」 こいつは俺に色をもたらしてくれる奴だ。 だから俺はこいつを見つけると嬉しくなる。 『今日はパフェ食べに行こうよ!』 「パフェ…?お前はいいかもだが、俺男だぞ?」 第一パフェなんて食べたことがない。どうやって食うんだ。 『近くのお店がカップル割りしてるんだ!行くしかないでしょ!』 「ま、いいか。」 おい、クソ宗教。見てるか?俺は今からパフェを食べに行くぞ。 しかもカップル割りだぞ。カップルだぞ? 俺は自由だ。 『この信号渡った先だって!楽しみだね!』 「おう。」 『もう。また殴られたいの?』 「…そんな訳」 『何!?何その間!?ドM?変態さんだったの?』 「そうじゃねぇよ!!」 『冗談だって〜、全く釣れないなぁ』 はにかむ横顔がライトで照らされる。 「!?」 刹那、軽トラがこっちに突っ込んできた。 運転手は寝ていやがった。 俺は手を伸ばした。 遅かった。 聞きたくない音がした。絵の具を出しすぎた時の音に似た。 俺の視界で色が飛び散った。 信号の赤青がやけにクリアに見えた。 《自由は不自由の錯覚》…か。不覚にも、その通りだと思った。 やべぇ。もう、戻れねぇかもしれねぇ。 白黒テレビは叩きすぎて壊れちまったんだ。 変えはねぇ。砂嵐しか映らねぇ。 ハハハ… 数年後、ある宗教の幹部が突如頭角を表した。 「俺か?俺は…〈純白のリコリス〉だ。」
星憶図書館 p1
店主が用意した椅子に腰掛け本の入荷を待つ。 目線の先にあった本棚が突然輝き始め、本が現れた。 『えっ、今どうやって本を…?』 「星の力ってやつかな☆」 意味がわからない。 「まあまあ、とにかく気になるのを選んでみてよ」 そう言われ半ば強制的に本棚の前に立たされる。 《次会う時は、また丘の上》…《手品師オーウェン》 重厚な羊革紙に包まれた本達が目に映る。 《街角の小惑星》……《月光に手を伸ばす》… 新しい本の匂いがする。私はこの匂いが好きだ。 新たな物語の誕生の証だから。 《玉輪》……ふと、そこで一冊の本の前で止まった。 『《君の小惑星》…?』 「ん?この本が気になったの?」 横にいた店主が声をかけてくる。 「ま、ここの本は全部一級品だしね!試しに読んでみる?」 『はい。』 「……あ、でも待って、読むより良い方法があるよ」 え?本は読む以外に… 「簡単な話さ。《星の力》を借りるんだ。 ちょっと揺れるから気をつけてね。」 そう言われた瞬間視界が急に歪みだし、私はその場に倒れ伏した。 「お気をつけて〜」 微かに店主の声が聞こえた気がした。 「あれ、ここは…」 目を覚ますと、どこかの夜中の学校だった。 見ると、私は何かの事務作業をしていたらしい。 手には何かの資料が握られていた。 「観測データ…?」 それは謎の小惑星の観測データだった。それを見た瞬間、私の口から言葉が溢れる。 「これ、本当に小惑星だったら……部員増えるかもな。」 私は驚愕した。知らないはずの事実が脳から送られてくる。 資料に目を通した後、自然と手が動く。 まるでこれが必然であるかのように、黙々とタイピングする。 Enterを押した頃には、送られてくる事実を受け止められるようになっていた。 どうやら私は部員二名の天文部顧問らしい。 ……それ以降の記憶がない。何日経ったかもわからない。 どうやら私は家で寝たらしく、起床は電話音と共だった。 相手は女子部員の親だった。 受話器の向こうで相手は泣いているらしく声が震えている。 嫌な予感がした。 話している父親の後ろで母親の啜り泣く声が聞こえる。 やがて父親は重い唇を開け、一言。 娘が轢かれて死にました、と。そう私に言った。 受け止め切れるわけがなかった。 父親も冷静なような声色ではあったが堪えていたのだろう、 すぐに声が震え始め相手から電話を切った。 ……私は重い足取りで学校へ向かう。 既に校内では周知の事実となっており、直ぐに会議を行なった。 無論、私も出席したがあまり内容は覚えていない。 私ですらこうなのだ。彼の苦痛は想像を絶するものだろう。 あれから数ヶ月が過ぎただろうか。 酷暑も終わり、桜も散ったというのに、 あの時で停滞したままの、最後の部員に声をかける。 「国際天文学連合から連絡があった。あの小惑星、正式に登録されたって」 「……ほんとですか」 と、彼は私に問う。 「発見者の一人として、君の名前も載るよ。」 私は彼にそう言った後、すぐにその場を立ち去った。 きっと彼は部室のパソコンで調べるのだろう。 あの小惑星を。 私からのサプライズを受け取ってくれると嬉しいのだが。 そう考えた瞬間また視界が歪み、私はその場に倒れ伏した。 「ね、本を読むより効率的でしょ?」 ウキウキの店主が隣に座っていた。 『確かに、効率的かは置いておいて…楽しめました』 「よかったらまた来てね、次は品揃えも増やしておくよ」 私は店に背を向けその場を後にした。 星憶図書館……【星が記憶する物語】。 私はこの図書館を酷く気に入ってしまった。
星憶図書館(結果発表)
皆様の作品素晴らし過ぎませんか?順位つけられませんよ。 …まあ事前にすると決めた以上、せざるを得ないのですが…… 私は!順位を!つけたくない! 語彙力を!ください!羨ましい! はい、すいませんでした。さっさとやります。 正直、6人もの方に参加していただけるとは思いもしませんでした。改めて参加者様、そして私の活動を見て頂いているフォロワー様に感謝を申し上げます。 というわけで結果発表です。 私の「この作品ここがいいポイント」も付けてみました。(1作品につき2つ程)併せてご覧ください。 それでは参りましょう。 6位雲丹丸 音夜様作「次会う時は、丘の上」 「ここがいい!」 ・花言葉で物語をより奥深く! ・口調の変化でキャラの成長をわかりやすくしている! 5位止明/しめい様作「手品師オーウェン」 「ここがいい!」 ・詳細な説明で情景が浮かびやすい! ・手品と壮大なもののわくわくを結びつける発想! 4位涼風 葵様作「街角の小惑星」 「ここがいい!」 ・壮大なテーマと身近な物を結びつける! ・豊富な語彙から繰り出されるノスタルジー! 3位ひう様作「月光に手を伸ばす」 「ここがいい!」 ・詳細な心理描写! ・最後一文を最期にするセンス! 2位ot様作「玉輪」 「ここがいい!」 ・豊富な語彙から漂うお洒落さ! ・喋る猫という幻想を玉輪の幻想さに合わせるセンス! 1位叶夢 衣緒。様作「君の小惑星」 「ここがいい!」 ・どこか儚げで、そして青い物語!! ・変わらぬ日常に溶け出す余韻! えー、皆様ご参加ありがとうございました!! 6〜2位までの作品はタイトルのみ登場、 1位の作品は内容を一部抜粋する形で私の小説に登場させたいと思います!! これにて!「第一回星億図書館」は終了とさせていただきます! え?その口ぶりだと第二回以降もあるのかって? ………さあ、どうでしょうね? それでは、またお会いしましょう!!さらば!
追憶
新しい線香の匂い。水々しく咲く花の匂い。 まるでこの場所の時だけ止まったように、少しも変わらない。 水を受けてキラキラと輝く墓の前に青年が座った。 よ、じいちゃん。 はい、これおばさんちのお萩な。好きだっただろ? ……多分、あの頃は迷惑かけたと思う。 しょっちゅうピンポンダッシュしてたし。よくいたずらしたし。 じいちゃん、拳骨痛すぎるんだって… でも、じいちゃんは俺のこと見捨てなかったよな。 どんなに俺がやらかしても、悪さしても。 「ルールを守れ!」って一点張りだったけどさ。 あと俺に将棋を教えてくれたこともあったっけ。 じいちゃん容赦なかったな…手加減してよ。 将棋のプロになりたいって言い出したのもあの時だったっけ。 今はもう諦めたけどさ。…でも、将棋はまだしてるんだ。 今、将棋サークルのサークル長してるんだよ、俺。凄いでしょ? ……なあ、じいちゃん。話変わるけどさ。 俺、今度結婚することになったんだ。 前、俺と一緒にじいちゃんに挨拶した子だよ。 同僚なんだけど、優しくて、可愛くてさ。 俺にはもったいないような人なんだよ。 お義父さんやお義母さんも優しい人でさ。 見てよ、このスイカ。じいちゃんにってくれたんだよ。 『家の畑で取れた一番大きいやつだから持って行きなさい』って。 だからさ。今じいちゃんに挨拶してるのは、結婚報告なんだ。 ほら、光ってるでしょ?薬指。 じいちゃん、ここまで育ててくれてありがとう。 こんど、孫も見せてあげるから、楽しみにしてて。 青年がその場から立ち去った後、お萩は少し減っていた。
勇者「夏」の冒険
冒険者たちが集う酒場。そこには酒豪である勇者がいた。 「勇者様!大変です! 春皇女が冬大魔王に囚われてしまいました… このままでは、四季が崩壊して三季になってしまいます!」 勇者である夏は、キレ散らかした。 無理もない。春皇女とは結婚する約束をしていたからだ。 しかも、冬大魔王は夏より優秀だった。 美味い料理を作れて、掃除の出来栄えも文句なし。 その上スポーツ万能なイケメンで、金と権力もあった。 一方、夏は…金と権力しかなく、料理はいつもダークマター。 掃除は自動掃除機に任せきりだし、シャトルランも10回で脱落。 顔面もお世辞にも良いとは言えない。 なんだろう、この格差は。 世の中はあまりにも無常である。 そんな素性を隠し、顔面も後ろの建物が歪むほどの加工をして、 やっと取り付けた婚約なのに… 加工なしの素の顔面が加工済みの夏より良い冬大魔王。 姫がお近づきになろうものなら、婚約破棄待ったなし。 逆玉の輿作戦も粉々に砕け散り、全てが水の泡になってしまう。 どうしたものか。 勇者は閃いた。 冬がいい所を姫に見せる前に倒して仕舞えばいいのだと。 勇者は欲望の赴くまま、旅に出ることにした。 どこまでも続くと錯覚させるほど広い草原を人力車で駆けていると、狐面の刺客が勇者を襲った。 誰だ、と勇者は口に出した。 『某は秋。冬様の命で、お主を殺しにきた。 容赦はせぬ。…覚悟いたせ』 そう告げるなり、秋は刀を振り下ろす。 勇者は咄嗟にバックステップで距離を取る。 秋は瞬時に距離を詰め追撃を加える。 勇者も反射的に剣を構え、刀と剣が交差する。 火花が散るほど強い衝突。金属音が大地を揺らす。 勇者が打ち勝ち、秋の体を刀と共に弾く。 秋は少し体勢を崩した。逃さまいと、勇者は剣を振う。 『南瓜突き』 刹那、秋は握った刀を勇者に突き出した。 鋭い突きを直に受けた勇者はその場に倒れ伏した。 『中々だったぞ、勇者殿。』 秋は被っていた面をとった。 かなり歳を取っている様に見えるが見た目は整っている。 『だが…己の欲望に忠実すぎた。それが主の敗因… 次は善人に生まれ変われ。さすれば四季は守られよう』 倒れ伏した勇者に秋は刀を突き立てた。 やがて、王宮では結婚式が開かれた。 春と冬、この二名の結婚式だ。 互いに容姿が美しいことからお似合いだと国中の噂になり、 ラブラブな様子のSNSを確認するのは国民の日課となった。 また、秋は2人を守るボディーガードとして雇用され 写真に写り込んでしまった時の姿があまりにイケオジだったためにファンクラブが結成された。 現在では100人を超えるファンがいるという。 10年後、太陽の紋章を持った赤子が生まれた。
0キル暗殺者
夜風が頬を撫でる。 ビルに輝くネオンが眠ることを知らず照らし続ける。 「さっっっっむ!?」 私は名だたる暗殺者の影武者だ。本日初出勤! 「うえー、めっちゃ寒いじゃん…外出るんじゃなかったよぉ。」 寒さで肩が震える。 「こたつでぬくぬくしたかったよ。」 あああの暖かさがすでに恋しい…もうやだ帰りたい 「ターゲットとか来たらどうしよう…」 銃やナイフなんて使い方わかんないし… この通信機?もどうやって使うの? 『こちらオメガ、聞こえるか?』 「ひやっ、ひゃい!?聞こえます!!」 『……影武者がこんなことでは困るぞ。』 急に聞こえたんだししょうがなくない…? 「本物のデルタさんはいつ帰ってくるんですか!?」 早く帰りたい… 『それに関してだが…明日から、君がデルタだ。』 「えっ…?」 『彼は今日の作戦中に殉職した。』 「ええええええ!?!?」 周りの人たちは、私の声にびっくりしていた。…恥ずかしっ 『驚くのは分かるが…突然大声を出すな、目立ってしまうだろ?』 「……すみません。」 『まあ何はともあれ、これからよろしく頼むぞデルタ。』 「あ、あのー…」 『どうした?』 「こたつ入ってもいいですか…?」
月桜
雪は止む事を知らず、時は刻々と過ぎて行く。 雷雨や陽は天で怠惰を極め、月は昼夜問わず煌々と照る。 この雪山には【月桜】(げつおう)と呼ばれる桜の木がある。 月の光さえあればどんな環境下でも咲く、ここにしかない桜だ。 「今日も元気に咲いておる…」 その木の下に、一人の老人が立っていた。 髑髏が飾られた杖を支えにしながら老人はその場にしゃがんだ。 「見ろ…覚えているか。勇者。…私はまだ……生きているぞ」 咳き込んだ彼の手袋には紫色の液体が滲んでいた。 「やはり貴様が正しかった……生憎、吹雪で見えないが…」 人魔の共存。それが勇者の理想だったという。 「この山の麓には…集落ができている。人と…魔族の、な。」 冷たい凍土の風が吹き荒ぶ。 「貴様は、自分で生き方を選んだことは…あるのか?」 一瞬の静寂の後、何に縋るでもなく、彼はそう呟いた。 「私は…周りに担ぎ上げられ、気づけばああなっていた…」 彼は煙草に火をつける。 「貴様が生きていた時代なら…葉巻やパイプ製だったか。…時代の流れというのは、面白いものだろう?」 数分が経ち、煙草の火が消える。 木の幹を背もたれにして雪の上に座った彼は、杖をその場に倒してしまう。 「……最後に、一つ。もう一度、貴様と争いたかった…」 月は煌々と照る。昼夜問わず、この雪山を月光が覆い尽くす。 吹雪が止み、遥か彼方までの景色を映し出す。 この物語を最初に聞いた吟遊詩人は、こう呟いたという。 『皆線路の上、そしてその線路を引くのは…月だった』
「もしも」(ボカロ二次創作)
もしも、僕が、今晩のカレーを残さず食べたなら良かったのかな。 そうしてれば、笑顔のままだったかもしれないのに。 僕が残したから、君は顔をしかめて 「もう食べなくていいよ」って言って寝ちゃったのかな。 もしも、僕が虐められて、殴り返せるような人だったらな。 あの子にはできるんだろうな。もちろん君も。 僕にも、それがあれば、君の笑顔がもっと増えてたかも。 もしも、僕がもう死んでたら、君とは初めから会ってなくて。 君は、僕に気づかず、幸せに暮らせてたかもしれないのに。 もしも、僕が、抵抗できれば、君と笑えたかもしれないのに。 もしも、僕が、嘘つきならこんな僕のこと叱ってくれるのかな。 「嘘ついちゃダメ」って、言ってくれたのかな。 もしも、僕が、正直者ならこれが最後だって信じてくれたかな。 きっと信じてくれたよね。君のことだから。 でも、現実は、正直者でも嘘つきでもない半端者なんだ。 理想を語るだけの空っぽが、僕なんだ。 もしも、僕が、生きてたなら君に聞かせるために作った歌 歌わせてよ。恥ずかしいけど。
ウルブス
高層ビルのガラスが光を受けて反射し輝いている。 その光源は太陽ではなく1人の少女によるものだった。 「あー、学校だる。休みてー」 寝癖がついたオレンジ色の髪を直す気は毛頭ないのだろう。 彼女は目を擦りながら目覚ましを止める。 彼女の名はセレヌスという。 「やべ、もうこんな時間かよ!」 彼女は早着替えを済ませるとドアを蹴り破って外に出た。 「……このままじゃ間に合わねぇ」 彼女は大きく跳躍した。 〈お、おいあいつ壁を走ってるぞ!?〉 「よっと!」 彼女は高層ビルを次から次に飛び移っては駆けていく。 着々と学校に近づいていく彼女の元に大きくなったハエのような生物が近寄ってくる。 《待っていたぞセレヌス!今日こそは貴様を…》 「雑魚風情がでしゃばってきてんじゃねぇよ!【花粉光環!】」 彼女は両手を合わせ手から輝く花粉を発射する。 《なんだこれは……思考がまとまらない……》 「へっ、お前は花粉アレルギーみてぇだな。しかも重症の!…そんなんじゃ私に挑む資格もねぇ。とっとと帰れ!」 そう言うと彼女は大きなハエを蹴り飛ばし地上に落とした。 無事学校まで辿り着いた彼女は、持ってきていた櫛で髪を整え校門を通る。 『セレヌス。……遅刻ギリギリだぞ。これで9回目だ』 校門には制服を着た几帳面な男子が立っていた。 「へへ、さーせん」 『全く……しっかりしてくれよ。俺の彼女なんだから』 「ちょっ……秘密だって言ってんだろ!」