蒼
108 件の小説ディストピア新婚旅行
世界が滅んだ原因はもう思い出せない。 少なくとも、原因を忘れてしまうほど時間は過ぎていた。 世界中の都市が荒廃し、人類はほとんど死滅した。 3食しっかり食べられたら奇跡のこの世界で、 私は旦那と新婚旅行をする。 奇跡的に車が無事だったおかげで、私達はどこへでも行けた。 「車は空管(くうかん)にオイル塗ればなんとかなりそうだよ」 寄せ集めた瓦礫で作った部屋の扉を旦那が開けた。 「空気熱率は?」 「ちょうど良いぐらい。まだ空気が生きてて助かったよ さすがの大気自動車といえど空気がなきゃ動かないから…」 私は、隣の家だったものから持ち出した地図を広げた。 そして私は、行きたい場所を旦那に示した。 「うわぁ……」 そして旦那の運転でたどり着いた先は、東京。 滅ぶ前に観光誌で見た東京タワーが折れてしまっている。 棒状のスナック菓子のように、ポッキリと。 「これじゃ、タワーの横を通るのは無理そうだね…」 外国にあったはずのなんとかの斜塔を越える衝撃だった。 「それ、ピサの斜塔じゃない?」 私の旦那は私専門のエスパーだった。 次に、近場にある神社を訪れた。 私が観光誌で見た自然豊かな光景と荘厳さは鳴りをひそめていた。 葉は枯れ落ち、鳥居は崩れ去ってしまっている。 でも不思議なもので、本殿?と呼ばれるものは綺麗な状態で残っていた。 「なんだっけ…一礼五拍手三礼?」 「…綺麗に全部間違えてる、二礼二拍手一礼だよ」 そして参拝を終えた後、気づけば丁度お昼時。 当然、私達は空腹を覚えた。 「あれ、缶詰まだあったっけ…」 私は助手席から、後ろに積んである荷物を漁る。 ……トマト缶、コーンポタージュ…サバ缶! 「サバ缶あったよー!!」 私が旦那に向けて声を上げると、ふふと笑った。 「そろそろ缶詰も調達しないとね」 昼休憩、ということで私たちは車を走らせ公園に車を停めた。 瓦礫を退けて、その上に座る。 「さて、サバ缶開けよう!缶開けある?」 「……ない、けど俺がなんとかするよ」 私にそう声をかけながら、ぐぐぐっと力をかける。 パキッ、という音がして缶詰が開いた。 「サバ美味しいー!…さて、明日どこに行こう?」 「…まだ昼だよ?気が早過ぎない?」 「わかってないなぁ、こういう時は、早く決めておくものなの」 私がそう旦那に説くと、旦那は声を出して笑った。 「君のそういうところ、好きだよ」 「えっ…あっ……はっ、はぁ!?」 こういうことを突然言ってくるから、ずるい。 「…つ、次は海外!ピサの斜塔見に行こう!」 「1日じゃ足りないよ」 瓦礫に囲まれながら、私たちは笑い合った。
祈祷、来世
君の人生に幸あれ。 僕の生涯をはるかに凌駕する幸せな人生を送れるように。 君のしたかったことを全てできて、成功しますように。 君が愛する人と結ばれますように。 僕は君の墓前で、そう祈った。
貴女の隣に立てたなら
貴女の方が、年上。私は、年下。 その、嫌なことを全て消してしまうような笑顔に見惚れた。 きっと、貴女にとって私は恋愛対象ではないのでしょう。 ただの年下の、異性の後輩なのでしょう。 その笑顔を、私だけに見せてほしいと思ってしまうのです。 でも私では、役不足なのでしょう。 きっと、貴女にはもっと素敵な人がいます。 私より背が高くて、私より貴女のことを理解している人の方が。 なので私も1人の後輩として、接することにします。 でも、貴女の笑顔を見ると、つい溢れてしまうのです。 隠したい、貴女の隣に立ちたい、という感情が。 笑顔に魅せられただけの私は、貴女のことをよく知らない。 だから貴女をよく知る人の方が、貴女の幸せになるのでしょう。 だから、私は貴女の笑顔を見ないことにしたのです。 許してください。でないと、貴女の邪魔をしてしまう。 貴女のことを嫌いになったわけではありません。 むしろその逆、だから貴女の為に、私は目を逸らします。 私は、貴女の恋のキューピッドになりたい。 これが、私の願いです。
Lemon(二次創作)
普段、彼女が付けていた花の香水は、もう届かなくなった。 彼女そのもののような花の香りもなく 今では柑橘系…さながら、レモンのような匂いが襲う。 彼女が白線で身体の形を記録された、あの光景が焼き付く。 当たり前は、当たり前ではなかった。 家に帰ると、笑みを浮かべた彼女が優しく、「おかえり」と言う。 そして夕食を食べたあと、彼女が好きなバンドの曲を聴いて眠る。 最近、そのバンドの曲は聞かなくなった。 ファンクラブも退会した。 警察が去った後、私は頬を何度も叩いた。 これは悪い夢だ。そうしたかった。 鼻の奥にあるレモンの匂いが、夢でないと言っていた。 普段活発だった彼女でも、棺で眠っている時は静かだった。 そして、私が初めて見る彼女の寝顔だった。 話したいと思っていた秘密も、話す相手がいなければ意味がない。 そして半年が経ってもなお、私は忘れられない。 自分が思うよりずっと、私は好きだった。 彼女と過ごす日々が、彼女そのものが。 この苦しみさえ終わればと思っても、私は彼女と共にそれを乗り越えようとしてしまう。 私を絶望から救ってくれるのは、彼女だけ。 降り頻る雨の日から、私は止まったまま。 今日も、雨だった。 私の嗅覚は、あの時の柑橘系の強い匂いを、 レモンの匂いを、雨の中に捉えた。
足りなくなった夏(ボカロ二次創作)
生きて、生きて、そして死ね。 君の生きた証拠は、笑顔と…これだけだ。 肌を撫でる夏草も、あの太陽の温度も、 サバイバルナイフの重みも、花火の音も忘れた。 「夏」は終わった。新しい、夏が訪れようとしている。 「夏」が君を忘れた状態で、またやってくる。 だんだん、君という存在は不足する。 最早、君という存在を示すのは僕だけになった。 あの笑顔を、あの言葉を、あの声を。 それを知るのは、僕だけだ。 夏という水溶液の中、君という成分を持つのは、僕だけなんだ。 僕は、君の言葉に生かされていた。 『生きて、生きて、そして死ね。』 今は、自分のために生きている。 自分のために、生きれている。 そのきっかけを与えてくれたのは、君だ。 ……瑠花に言って、菊の花を供えておいた。 君は、もう本当に死んでしまうから。 ああ、だんだん意識が溶けていく。 君の代わりに、今度は僕が「夏」に溶ける。 君が僕の中で生きていたように、僕も瑠花の中で飽和する。 君という存在の見届け人になれたことが、嬉しい。 『生きて』 君が、僕の頭の中を支配する。 僕の人生は、僕のために、君を忘れさせないためにあった。 僕らは、気づけば草原に立っていた。 君は綺麗で、泥も付いていなかった。 『世界に2人だけみたいだね』 あの畑沿いの道路で言ったことを、また言ってみせる君。 僕は、あの頃と同じように、君を抱き寄せた。 今回のキスは、痛くなかった。 君と共に夏へと溶け出そう。 今度は、最後まで一緒だ。 だから、一緒にいこう。 終わらない、終わることのない、終えられない、 あの頃の夏へ。
個性
手癖、喋り方、目線の動かし方。 笑い方、泣き方、生き方。 それには昔、「個性」があった。 その人の中のその人らしいもの。つまり、その人「らしさ」。 困った時に髪を掻くとか、風呂上がりは牛乳じゃないと…とか。 それらが人によって違う。当たり前のことだ。 でも、そんな「個性」は交わって、交わって、交わりすぎて。 その人「らしさ」も、誰かを真似たもの。 「個性」は、とっくに「個性」ではなくなった。 例えば、僕が今こういう考え事をしてる時。 手を組んで考える。 それも、僕「らしさ」。でも、らしくはない。 これは祖父からの遺伝だと、僕は知っている。 言わば、僕は祖父のコピー。この「個性」においては、模造品。 そんなコピーだらけの人生を、ただのコピー、二番煎じではなく新しい可能性を信じて、生きる。 だから僕は、僕「らしい」動作で扉を開けた。
贈夏(ぞうか)
夏よ。 私は、夏が好きだ。 果てしない暑さと共に訪れる涼しい風と、 青空の下でするスポーツが好きだ。 私は、夏が好きだ。 公園でこだまする蝉の鳴き声も、 小さい子供たちがアイスを食べている光景も。 風鈴の音が聞こえる。蝉と合唱をしている。 風が吹き抜け木々がざわめき、口々に歌声の感想をこぼす。 ああ、夏よ。 私は夏が好きだ。 果てしない夏と共に訪れる懐かしい光景と、 それを思い出させる夏空の青さが。
歴史
普通の人間に生まれたかった。 貴族がいいだなんて、高望みはしない。 ただ、普通の人間に生まれたかった。 花を愛でてみたかった。 「魔王!貴様を倒す!」 『…』 「魔物を生み出し、数々の人の命を奪った貴様を!」 『…』 私は、両腕を広げた。 『私の弱点、首のドクロ。刺して?そしたら死ねるから』 「…お望み通り刺してやるよ!」 彼は、聖剣を私のネックレスに突き立てた。 魔物。私が生み出した、生物。 でも生み出したくて生み出したわけじゃない。 角が生えていて、紫色の肌をした私は 両親によって森に捨てられた。 最初はみんな友好的だったから、楽しかった。 でもどうして、こんなことに… 『ねえ、勇者』 紫色の血を吐き出した。 「……なんだ」 勇者は睨みながらも私の声に応じてくれた。 『私ね』 「…」 『普通の女の子に、なりたかった』 強い光が、私の視界を消し飛ばした。 こうして、伝説の勇者によって、 魔物を生み出した悪しき魔王は討ち滅ぼされたのです。 めでたし、めでたし。
自由の翼
「おい、席につけ。出席取るぞ」 『えー、もうちょい待ってよ、先生』 「おい」 俺は、そういいながら教室の扉を開いた。 そうだ。…あいつらはもういないんだったな。 【卒業おめでとう!】 …黒板には、そう書かれている。桜の絵と共に、綺麗な字で。 『あー“お”の字ミスったぁ』 〈何してんの…明日で完成だよ?〉 『ごめんって委員長、許して?』 ……何年教師をやっても、これだけは慣れない。 この、あいつらと過ごした最後の証拠。 この黒板の絵を、あの瞬間を、消すこと。 これが卒業生の担任、最後の仕事。 あいつらは今も元気だろうか。 上手くやっているだろうか。 そんなことを考えていると、教室のドアが開いた。 《あれ、青間先生。何してるんです?》 「…黒川先生」 《……ああ、なるほど。そういうことですか》 黒川先生は、黒板消しを手に取った。 「やめ…」 《…青間先生。私はね、最後のホームルームで卒業生にこう言ってるんです。【未来を楽しみなさい】って。先へ進んでいくんですよ。あの子たちは。私達にはもうない、新しい可能性を求めて成長していくんです》 《私も、若い頃はこうでしたから。気持ちは分かりますよ。…でも、それを見送る立場の人間なんです。私たちっていう、教師は。だから、見送る立場の人が、過去に縋ってちゃいけないでしょう?》 《だから、あなたの手で消してあげてください》 《あの子たちは多分、過去じゃなくて、未来であなたのことを待ってますよ。》 黒川先生は、黒板消しを教卓の上に置いた。 《あの子たちの、最後の未練を、消してあげてください》 《私は、職員室で待ってますよ》 黒川先生は、そう言って教室を後にした。 【卒業おめでとう!】 【卒業おめでと】 舞う桜の花びらが、消えていく。 【卒業おめで】 【卒業お】 過去の籠ったこの文字を、消していく。 【卒業】 【卒】 消し切った。…俺の視界はぼやけていた。 『先生へ。まずは、今までありがとう。 私が学校に行けたのは、先生のおかげだよ。 毎日毎日、私の家まで来てくれてさ。 ほんと、先生らしい。この際だから言うけどさ。 バカだよね。』 『でも、嬉しかった。ちゃんと卒業もできたし。 …先生、今までありがとう。 また、何年か後に成人式で。…ちゃんと来てね』 《未練を残しながら、人は進んでいくんです。 後悔もあります。でも、人は前に進むんです》 「…そうですね」 《その未練を少しでも減らすのも、私達の仕事ですよ。…青間先生。》 黒川先生はそう言いながら、俺の机に缶コーヒーを置いた。 「…ありがとうございます」 俺は缶コーヒーを飲みながら、手紙をしまった。 俺も、黒川先生も、あいつらにとっても。 【卒業おめでとう!】 この言葉は、未練であり、後悔であり、思い出だった。 俺はかけがえのない青春に、終止符を打った。
私の推しを語りたい
どうも、蒼です。 まだ6月の頭なのに台風が発生している異常気象ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。 私は元気です! というわけで今回は私の推しについて語ります。 私の推している作家さんは「カンザキイオリ」さんです。 同時にボカロPとしても活動している方で、 作詞・作曲・編曲を1人で行なっている楽曲がほとんどです。 カンザキイオリさんが作家として出版された三作品は全て読んでいます! 私の創作活動の原点と言える方です。 もし私の人生を語ったら、確実にこの人の名前は出てきます。 「人生発展途上」「人生満了未遂」 これはカンザキイオリさんの曲に出てくる歌詞なんですが… 私は思いつく気がしません! 何をどうしたらこの表現が思いつくんでしょうか。 そんなカンザキイオリさんの楽曲・作品は一言で言うと 深いです。 人生の意味や生きる意味、同性愛をテーマにした作品が多く、聞いたり読んでいてとても考えさせられます。 表現もえげつないです。最初の数行で人をダイソンのように吸引します。 「昨日人を殺したんだ」 これはカンザキイオリさんの曲の冒頭、最初の歌詞です。 聞きたくなりませんか? あとカンザキイオリさんの作品に出てくる人って「生きてる」んですよ 感情とか、考え方っていうんでしょうか。 それがすごく馴染んで、それでいて個性的なんです! そんなカンザキイオリさん激推しの私がおすすめするのは 「あの夏が飽和する。」です。 以前の読書感想文などでも話はしたかと思いますが本当に好きです。 読んだ後の清涼感、虚しさ、そして他も全て混ざった感情が味わえます。 ぜひ同名の曲を聴いた後で、読んでみてください。 以上、私の推し、カンザキイオリさんについてでした!