蒼
98 件の小説ファイル8 【ふっかつのじゅもん】に関する報告書
4/5:赤松市の総合病院で発見。既に故障しており、一部配線の断線とボディの欠損が見られる。 本来の用途としては秋也院長が知るはずだが当人は記憶をなくしており、不明。 なお、その名前とボディの構造から蘇生装置の可能性が高い。 4/20:専門機関による分析の結果、この機械はある人物の記憶、特徴などを完全にコピーしたクローンを作る装置であると判明。 また装置内部にはひらがな数十文字からなる謎の文字列が表記されていた。 こちらも解析により、クローン体を構成する為のものと判明。 上記観点から死の超越はなされていないものとし、観察を終了する。
冒険の書
〈続いてのニュースです。今後は死後30年を過ぎた【冒険の書】を廃棄する方針であることが政府関係機関への調査で明らかになりました。〉 そろそろ、【冒険の書】が消える。 僕含め人はみんな、人生というRPGに夢中だ。 マルチエンディング式で、数兆にのぼる結末があるとか。 レベルは一年に一度しか上がらず、一定のレベルを過ぎるとステータスが下がる。 もちろん【ふっかつのじゅもん】なんてない。 そんなゲームを遊ぶ僕らには、人によって違う【冒険の書】が宿る。僕らに本来あったはずの器官、それの代わりとして。 そんな不思議な本は僕らの中で鼓動を刻んでいる。 そして僕らを生きさせている。 この本にピリオドが付いた時が、僕らの死ぬ時だ。 ただ、僕が見てきた中で1人だけ例外がいた。 これはただの僕と、半透明な男友達、 そしてなりより君に関する物語。 なんの変哲もない日常、だったはず。…さっきまで。 今僕の眼前で繰り広げられているのは、変顔大会。 しかも参加者1人で、先生の前でやっている。 僕以外には見えていないようで、みんな集中している。 ムカつくので、無視して集中することにした。 「あれ?もしかして俺のこと見えてる感じ?」 僕にしか見えない彼が話しかけてきた。 …無視無視。 無視し続けていると、彼は僕のノートに文字を書き始めた。 見えてる? 見えてる。なんで変顔してるの? 「どうせ見えないんだから怒られないじゃん?」 「だから見えてるうちに出来なかったことしてやろうと思って」 それが、例外な彼との初めての出会いだった。 《なぁここ分かんないから、教えてくれん?》 『いいよ優大くん。…えーっと、ああ、これ? この空欄は高熱を出して動けなくなる【フリーズバグ】だね。』 《おお、ありがとう!流石やな。》 『…いや、いやいや、そんなことないって。…ちなみに、薬を飲んで安静にしてれば、治るはずだよ。』 《いやいや、流石やで本当に。今後とも頼むわー。》 自分の席へと向かっていく優大くんを見る僕は、謎の透明人間のことで頭がいっぱいだった。 それから僕は彼と会うこともなく桜が舞う季節を過ごし、灼熱が襲う季節になった。 「やあ!春ぶりだね」 『…ああ、変顔君。』 「変顔君って失礼な…」 「一応、俺名前あるからね。」 『ふーん。』 「興味0かぁ…」 アニメをお手本にしたような落胆を見せる彼。 そんな彼の体はやっぱり透けている。 「……暑くない?アイスでも食べに行こうよ。」 『いいね。…当然変顔君の奢りでしょ?』 「変顔君じゃねぇよ!…あと奢らないから。」 なぜ僕だけに見えるのか。なぜ透明なのか。 わからない。わからないけど、このままでいいと思った。 聞いてしまうと、彼がこの青天の空に消えてしまう気がした。 『じゃあ僕が買ってくるから。400円出して。』 「はい、うーん……ソーダ味で頼むわ。」 その言葉を聞きつつ僕は彼の希望するアイスと、僕の分を買った。 〈そういえば今月末に祭りやるらしいじゃん〉 〈よかったら一緒に行かね?〉 この涼しい空間からは抜け出したくないけど、仕方ない。 それを聞きながら僕は会計を済ませて彼の元へ向かった。 『はい、アイス買ってきたよ。』 「しっかし丁寧だよねぇ、俺どうせ透明なんだから、盗めばいいだけじゃん?」 『…これからは変顔君じゃなくて、犯罪君って呼ぶことにするよ』 「冗談だって!マジにしないでよ!」 『犯罪君さえよければ、今度花火でも見に行かない?』 「…いいよ。」 含みのある言い方だった。 『はい、チーズ!』 「……どう?上手く撮れた?」 『まあ確認してないけど撮れたんじゃない?』 「随分と適当な…」 そんなことを言いながら彼はアイスを口に放り込む。 「うっま!何このアイス!過去一美味しいんだけど!」 『そん…そんなに?』 ふと起動したスマホのフォルダに、彼の姿はなかった。 この街の花火大会は、夏の終わり頃。 もうそろそろ葉も色付くというのに、いまだに夏風は吹ききらない。 「…懐かしいなぁ。ここで俺こうなったんだよ。」 『……え?』 りんご飴でも買おうかと思っていた時だった。 彼の目は夏の夜空でもない、どこか遠くを眺めていた。 「ああ、言ってなかったっけ。俺がこんな体になった理由。……透明化バグ、って知ってる?」 僕でも微かに聞いたことのある。発生原因、不明。治療法、なし。 そんな難病、治しようがないバグだ。 「ご覧の通り、あれからスケスケになっちゃってさぁ。」 そう言う彼は傷ついた人の笑い方をしていた。 「家族から認識されない、友達といっしょに遊べない。」 「…一つ言い忘れてた。俺のバグ進行度…ステージ5なんだ。」 ステージ5…つまり、もう彼は… 「……その顔、知ってたんだ。バグが最後まで進行するとどうなるのか。」 知っているからこそ、その続きは聞きたくなかった。 「君の予想通り、医者に言われたよ。」 「【お気の毒ですが冒険の書は消えてしまいました】ってさ。」 彼はこの世界からログアウトさせられた。 それがこの場に合わぬ重さで、僕の上にのしかかってくる。 「俺の生きた記録は、もう残らない。」 そう告げた彼の顔は、どう表現したらいいのかわからなかった。 悲しみ、諦め、楽しかった思い出。それら全てが、透明な彼の中にはある。 「自分でも確認したさ。…なかったよ。【冒険の書】。」 彼は、夜空に溶けて消えてしまいそうだった。 『……消えない、よね。消えないで!』 久々に語気を荒げた気がする。何年振りだっけ。 「…」 『僕、君と過ごしてて楽しいんだ。だからさ、』 わからない。ぜんぶわからない。 彼がなぜこんな目に遭わなきゃいけないのかも。 なんで僕だけに見えているのかも。 『だから、僕の、僕の友達で、いてくれないか。』 でもこれだけは、間違いなかった。 僕が叫んだ時、花火が上がった。 彼の境遇も知らないで、まるで全てを祝福するように。 「……友達、か。うん、友達…俺が、幽霊が友達で、いいの?」 『幽霊だろうが君は君だろ、僕の友達。』 また、花火が上がった。 今度は僕らの友情を祝福するように。 「よろしく、My best Friend!」 彼の英語は、無駄に発音が良かった。 『ねぇ、そういえば……名前、なんていうの?』 翌日。親友に、そんなことを聞いた。 「やっと聞いてくれた!俺の名前はズバリ、秋也だ。」 『秋也…いい、いい名前だね。』 「ありがとう。…さて、それじゃあ…聞こう!其方の名はなんと言う?」 彼は芝居掛かったラスボスのように僕に問いかけてくる。 『僕の、僕の名前は、■■』 肌を焼く暑さはすっかり衰え、葉が色づいてきた。 「さつまいも、食いたくね?」 そんな秋也の提案で、僕は今スーパーに足を運んでいる。 「はい、■■がさつまいもを買ってくるまでに俺は3回欠伸しました。」 …イラッ。 「……ごめんって!さつまいもくれよ!」 『………はい。』 「……ちっさ!俺のだけ小さくない?」 『…気のせい気のせい。』 「…いやー、甘いなやっぱ。美味いけど、水分が…」 秋也は、チラッと僕を見る。 『…“自分で”買ってきてね?』 「イエッサー、ボス。」 うむ。くるしゅうない。 翌日。スポーツもせず、かと言って食欲も湧かない僕は、市立の図書館で本を読んでいた。 「何読んでるの?…早く帰らないと、雨強くなるよ?」 言われてからやっと、僕の鼻は雨の匂いを感じ取った。 「……ん?小説か!えーっと【太陽と月】?聞いたことないかも。」 …これはまずい。僕の悪い癖が出てしまう。 『この本、僕のお気に入りのシリーズ小説で…読み終わった後のワクワクが凄いんだよ!次どんな人が出てくるのか、どんなお話になるのか、あとキャラクター同士の絡みも面白いんだ!例えば無口なキャラ同士で気まずくなったり負けず嫌い同士で張り合ったりするんだよ。それがミニエピソードとしておまけでついてるから最後まで見逃せないんだ!!…あっ、ごめん。』 「へぇ、そんな面白いのか。読んでみようかな。」 『!?』 ひ、引かない…? 『引かないの…?』 「え?なんで?今引く要素あった?」 彼は本当に分からないようで、不思議そうに首を傾げた。 「今の俺はそんな熱中できることないからさ。羨ましいよ。」 『…よかったら、貸そうか?』 僕は自然と、そう口にしていた。 「マジ!?読みたいから貸してくれる?」 こうして、僕の本は初めて外出することになった。 彼に本を貸してから、3日経った。 本を読んでいるからなのか、最近あまり姿を見ない。 雨の匂いが襲う下駄箱近くで、僕は徐に傘を手に取った。 《さよなら〜》 そんな声がした。後ろを見ると、優大くんがいた。 優大くん、僕にもよく話しかけてくれる人。 いつもはあっちからだから、たまには僕から話しかけてみよう。 『おーい、優大くん。』 《さよなら〜》 『優大くん?』 《さよなら〜》 『…優大くん?』 《さよなら〜》 『1+1は?』 《さよなら〜》 おかしい。確実に、何かが。 よく見ると目は虚で、こっちを向いてくれない。 誰もない方向に向かって、永遠に手を振っている。 …怖くなって、僕はその場から逃げるように走り去った。 彼の声が聞こえた気がするが、無視して全力で走った。 《さよなら〜》 ああ、なんでこういう時に限って、彼はいないんだろう。 久々に、孤独を感じた。とても、懐かしかった。 翌る日、優大くんはお休みだった。 「あー!面白かったよこの本。続きないの?」 『気に入ってくれたみたいで良かった。』 僕はあの出来事を言えずにいた。 『気に入ってくれたみたいで良かった、本当に。でも新刊はまだ出てないんだよね…』 「マジかよ…楽しみに待つしかないか…」 いつもの日常は過ぎていく。異端者を置き去りにして。 冷たい風が肌を刺す季節になった。 木々はまだ化粧に慣れていないようで、葉の上から崩れてしまっている。 言い出せないまま、一年が終わろうとしていた。 あの事を言おうとすると、喉に詰まって声にならない。 なにより、酷く脆い日常を壊してしまうのが嫌だった。 「いやー、初雪なのに降り過ぎだよな…」 『いつになったら帰れるかな…』 僕のスマホを覗き込んでいた彼が、素っ頓狂な声を上げた。 「……2時間遅れ!?」 『…2時間……2時間遅れかぁ……どうしよう。』 頭を抱える彼が、ふと気づいたように言う。 「……あっ、そういや進路どうすんの?」 進路。 『バグ…バグから、人を救う仕事に就きたい。』 「…」 『君には話してなかったっけ、僕は独りだったんだ。見た目を変えても口調を変えても、結局僕から離れていく。みんな僕の前から……学校から、消えていくんだ!だから、どうせ無駄だと思ったんだ。無駄な努力なんてしないほうがいいと思ったよ! …でも、違った。そう思わせてくれたのは君だよ。』 『君を、僕の親友を、救いたいんだ。』 「…なるほど。」 普段の彼とは違い、真剣で、そして落ち着いていた。 「…そういや、優大のやつ大丈夫かな。」 『……』 「もう何日も来てないし…」 『…』 「……ああ。そういうことか。」 彼は、僕の方に向き直る。 『…え?』 「……もう少し早ければ、まだ間に合ったかもしれない。」 『…え?』 『…え?』 ……っ!?口が、勝手に開いた。 勝手に、喋った。 「そう。それが、俺が見えた理由。」 「俺も■■も、バグ。バグそのものだったんだ。」 彼は一息で言い切った、彼は一息で言い切った。 間違いなく、僕もバグそのものだった、と。 「【NPC化バグ】。」 「…約十年前から、流行り始めたバグ。……感染源不明の奇病。」 「そして、このバグこそが、■■を孤立させていた原因。俺と出会った、理由。」 空気は乾燥し切っていて、冷たかった。 ごめん。 そんな言葉が、嫌いだ。 避けられてきた僕にとって、それは呪いの言葉だ。 好きな子への告白も。遊びに行こうとした誘いも。 断って、みんなみんな、消えていく。 それが、僕のせいだったなんて。 僕が、悪かっただなんて。 …そう思うと、ちょっとおかしかった。 『…そっか。僕が悪かったのか、僕が悪かったのか!』 僕は、久々に笑った。心の奥底から。 「でも、俺は違う。俺は、俺だけは、■■を孤立させない。」 『…違う。秋也もそうだろ!バグは…バグは併発する。』 これ以上、仲のいい人を不幸にさせてしまうのは、嫌だ。 手袋を脱いで、投げ捨てた。 指の感覚がなくなっていく。…どうでもいい。 『秋也、教えてくれて、ありがとう。ありがとう。』 ちょうど、バスが来た。 僕は道路に身を投げる。 「…待って!俺が…俺が、悪かった!」 『さよなら、楽しかったよ、My best Friend。』 我ながら、下手くそな発音だった。 これで僕の【冒険の書】は、終わった。 あれ。僕は■■…じゃ、ない? 僕は、読んでいた冒険の書をその場に落としてしまった。 「僕は……いや、俺は?僕は?名前…■■、■■…違う。いや、合ってる?僕の名前は…■■…」 《おい、いい加減、目覚せや。》 「……優大くん。」 《お前は、■■じゃない、冬矢じゃない。秋也。》 「……あき、や。」 俺は、秋也? 「ああ…そうだ。思い出した。」 俺はゆっくりと上体を起こす。 《今日やろ。お前にとって、一番大事な日は。》 白く反射する床を歩く。 「…」 《ま、まず最初に俺を救ったのは、いい判断だったっちゅーことやな。》 そう言う優大の胸には聴診器が垂れ下がっている。 《……なあ。一応聞くが。》 優大は俺の前に立った。あの頃とは違って、よく見える。 《いいのか。あれを使って。…【ふっかつのじゅもん】を。》 「…なんのために、俺が俺の体を治したと思ってる? それを、【ふっかつのじゅもん】を、使うためだよ。」 俺の着ている白衣が少し揺れた。 《記憶が混同するほど強い薬を飲んだ直後だぞ。 もう少し休んだ方がいいんじゃないか。》 「…いや。もう十分休んだ。俺にとっての太陽を復活させる時だ。」 もし、冬矢の【冒険の書】が破れていたら。考えたくもない。 やがて俺たちはドアの前に立つ。 【関係者以外立ち入り禁止】 俺は躊躇いなく、その扉を開けた。 …我ながら、禍々しい機械を作ったと、そう思った。 【ふっかつのじゅもん】。俺はこの機械を、そう名付けた。 死の理を破るのは、容易ではない。 元々、人間には不可能とされていた、死の超越。 それを、今から実行する。 冬矢の冒険の書と、【太陽と月】最終巻。 それと、俺の記憶。 これが【ふっかつのじゅもん】を起動させる条件。 「優大、レバーを引いてくれ。」 〔第一段階、完了。次に、頭をアーム部に接続してください。〕 俺は椅子に座る。 それを検知したアームが俺の頭を掴んだ。 「優大、あとは任せた。」 俺は開始ボタンを、押した。 〔第二段階、完了。対象者の蘇生を実行します。〕 〔ぬけあろみふやこてんしるわぎおまへよくせざにぼれのむうそりがつえねはをゆちもきさめらごかいひとのくだすばじぷ〕 〔最終段階、成功しました。〕 『………』 ああ、俺は何をしていたんだろう。 目の前には、俺より遥かに年下の少年が立っていた。 『…ただいま。My best Friend、変顔君。』 どこか聞き馴染みのある、それでいてとても 下手くそな英語だった。
自己紹介(質問返答式)
1.ノベリー始めてどのくらい? 約一年二ヶ月の新人です! 2.ノベリー始めるきっかけは? 暇つぶしのスマホゲームで出てきた広告を間違って踏んだのがきっかけです! 3.好きな作家さんは? 一番好きなのはカンザキイオリさんです! 読み進めるほど世界観に入り込めておすすめです! 4.自分が書いた中で1番お気に入りの作品は? 「銀杏」です!個人的に最高傑作だと思ってます! 5.2番目にお気に入りの作品は? 「餡もナイト」です!しょうもないネタ作品です。 6.アイコン途中で変えたよね? 元々自分で撮った写真だったんですが、もっとわかりやすいアイコンの方がいいかと思い変更しました! 7.「蒼」の名前の由来は? うーん……勘です。特に由来はありません! 8.自分の作品達を一言で表すなら? 「ひとくち小説」ですかね、サクサク読めるよう意識して書いてます!
第4回NSS 哀しみ
2人だけの秘密基地。またこの場所に来るなんて。 草が鬣のように靡いているこの草原で、君と出会ったんだ。 夕日が差す、ちょうど今みたいな頃だった。 ねぇ、君も覚えてるよね。 初めて知ったんだ。体の底から湧く暖かさの名前を。 嬉しいって言うんだって。君が教えてくれたんだよ。 綺麗な花の冠を作ってくれて、その時から…君といると、嬉しさに包まれた。 今はもう枯れちゃったけど、ちゃんと被ってきたよ。 他にも、色々なことを教えてくれたよね。 楽しさ、悲しみ……喧嘩したこともあったっけ。 その度に、僕は学んだ。そのおかげで今、ここにいる。 …でもね。まだ知らないことがあったって気づいたんだ。 この胸に穴がぽっかり空いた感じ。 そして悲しい時みたいに、心がきゅっとなる。 暖かくもなくて、少し寒い。 そして、君の笑顔が僕の中で溢れて止まらないんだ。 君の姿、君の動き、君の声。それが溢れるんだ。 他の人は教えてくれないんだ。知ってるはずなのに。 …君はどうして死んじゃったのかな。 なんでこの場に立っているのが、僕だけなのかな。 いつもみたいに教えてよ。これが、どんな名前なのか。
過去は病
「おっはよーございまーす!」 教室の扉を開けて早々、そんなことを言ってみる。 皆は口々に今日も元気だなお前は、と言いながら笑ってくれる。 …… よかった。 僕は自分を偽っている。 じゃなきゃ、みんなと仲良くなれないからだ。 昔から暗い人間だった。暗い人間と関わりたくなんてないだろう。 だから僕は自分を偽ることにした。 これでよかった。これでよかったはずなんだ。 なのに…無性に寂しくなる。 それでも僕は楽しいふりをした。 みんなに求められてる僕にならなきゃいけないから。 いつからだろう。反応がないのが怖くなったのは。 いつからだろう。自分がわからなくなったのは。 僕は楽しいはずなのに、寂しさが僕を襲う。 やめてくれ。僕は楽しいんだ。 そう、楽しいんだ。友達と一緒に笑い合える。 その一瞬一瞬が、青春で、楽しくて… そうだろ?楽しいんだろ?僕。
立夏、また君が飽和する。(ボカロ二次創作)
蝉の声。喉が渇いて、上手く声が出ない。 陽の光は、あの頃と変わらない。 あの日君から受けた言葉の真意を、僕はまだ知らない。 冷水を流し込む。懐かしくて、遠かった。 氷を口に入れて転がす。今年もまた、夏がやってくる。 焼けたアスファルトに染み込んだ記憶。 一歩一歩、全てがあの日の旋律を刻む。 急に視界が揺れて、君が笑って、そして話しかけてくる。 《生きて、生きて、…… 僕は君に手を伸ばしていた。 『…どうしたんですか?東さん。』 …違う。“彼女”が立っていた。 「ああ楠田さん。…それで、なんでしたっけ。」 口中の氷は溶けていた。 《真面目だね〜、ノートにちゃんと書くなんて》 「……っ!」 違う。“彼女”であって、君ではない。 『この五角形のパネル、角が気になるんですがどうやって…?』 「それはあそこのカット機で…ああ、丸めるなら細い刃の方がいいですよ。」 『何度もすいません…ありがとうございます!』 君は溶けた。いないのが当たり前になった。 でも夏は、君が共に歩んでくれる。 《生きて、生きて、そして死ね。》 夏の青空の下、君は僕のそばに着いてくる。 また、夏が来た。 君が飽和する、夏が。
記憶は水球の中
銃の所持が合法化されてから、何年経っただろう。 最初は政敵を潰すため、しだいに民間にも飛び火していった。 結果、数年前まで私の視界の前を遮っていたビル群はその影もなく 今では私の足に踏まれる石ころほどの瓦礫になってしまった。 夕陽が私をまっすぐ照らす。あたりに散らばったガラスの破片が光っていた。 日も沈みかけた頃、野宿先を探していた私の視界に玩具屋が見えた。 その廃墟に転がり込んで、適当な木材に火をつける。 パチパチと音を立てて燃える火をただ見つめる。 火を見ていると、泡が浮かぶように思い出が弾けて消える。 もういつの頃のものかさえ覚えていない。 まだ眠れそうにない。こういう時は夜風に当たるのが1番だ。 私は再び立ち上がり、周囲の探索に出た。 暫く歩くと、まだ壊れていない棚を発見した。 その棚から私はシャボン玉銃を見つけた。 町中の鉄筋が浮き彫りとなる前は、よく遊んでいた気がする。 徐に外に出て、シャボン玉銃を使ってみる。 星の光に照らされたシャボン玉は綺麗だった。 マフラーが欲しかった。 私はそれをただ夢中に眺めていた。 『シャボン玉飛んだ、屋根まで飛んだ…』 …… もうここに屋根なんて一つもないのに。
蒼の読書感想文1
※このシリーズは、蒼が読んだ本の感想、考察を蒼なりの視点でまとめたものです。 未読の方、読破済みの方、どちらでも楽しめるようにしていますので、是非ご覧いただけますと幸いです。 どうも蒼です。今回は「あの夏が飽和する。」の感想ということで、私なりの視点で感想、考察をお送りします。 まず簡単に作者のカンザキイオリさんについて僭越ながら説明しますね。 カンザキイオリさんは岩手県生まれで、ボカロpとしての活動をメインにされている方です。 ※ボカロp=ボカロ曲を作っている人という認識でお願いします! また小説家としての活動も行っており、今回の本はカンザキイオリさん自ら執筆したものとなっています。 「あの夏が飽和する。」はカンザキイオリさんの小説デビュー作であり、同名の曲も作曲されているため公式のボカロ小説となっています。 大まかにはこんな感じです! それでは次ページから感想コーナーに入ります! まず、上から目線の評価で申し訳ないのですが “人間の本質”をとても上手く書いているなと思いました。 人のいい部分も、悪い部分もしっかり表した上でそれを一つの物語として完結させることができるカンザキイオリさんの凄さをひしひしと感じました。 そして物語にも没入できるようになっていて登場人物と一緒に一喜一憂することができます! …ちなみに私は泣きました(2敗) 私はこの本のことは、「カンザキイオリさんの人生に対する価値観そのもの」だと思っています。 それぐらい内容が深く、そして考えさせられます。 読み終えた後の清涼感と虚しさが最高の一冊です。 ぜひ、皆さんも手に取ってみてはいかがでしょう?
第9回N1 また警報が鳴る
海と見紛う程青色に澄み切った空。太陽の光が眩しい。 そんな夏の日。僕は木陰のベンチに座って海を眺めていた。 波は穏やかで優しかった。光を反射して輝く海は綺麗で、持ってきたアイスが溶けかけてしまうまで見惚れていた。 「坊主。1人か?」 海を眺めていたら、隣家の魚屋さんが話しかけてきた。 「ここの海、いいだろ?俺がガキの頃から変わらないんだ」 アイスを口に入れる。空が少し曇り始めた。 「昔っから俺の親父はあの海で遊ばせてくれたんだ…懐かしいよ」 おじさんの嬉しそうな顔を横目に、僕はまたアイスを口に入れた。 「…ああ、途中から独り言みたいになっちまった。 坊主、お前にとってこの海はなんだ?」 優しい笑顔で聞いてくれる。 ……警報が鳴った。《津波がやってきます!逃げてください!》 その警報を聞いた瞬間、おじさんから腐敗臭がした。 太陽は身を隠し、鉛色の波が押し寄せてくる。 座っていたベンチは壊れて、建物は崩されて。 …またこの夢だ。あれから20年は過ぎたのに。 あの日から僕は、あの警報の音を忘れられない。 あの町で生き残ったのは僕1人。父も母も生きているかさえわからない。 僕は、生き残ってよかったのだろうか。 あの町は、今どうなっているんだろう。それすら分からない。 僕は夏がやってくると、必ず夢を見る。 幸せが音を立てて崩れる、そんな夢を。 さっきのおじさんも、飴をよくくれたおばさんも、あの日いなくなった。彼らが愛した海によって。 その人たちが何か悪いことをしたわけでもないのに。 津波の映像はもう見たくない。警報も、聞きたくない。 それでも夏が来るたび、僕は必ず聞くことになる。 あの人の悲鳴を。車のクラクションを。流されて行く人の声を。 押しつぶされた人の声を。必死な警報を。 …僕やあの人たちが何をしたっていうんだ。 神様、いるなら教えて。僕達は、僕達が、何をした?
飢餓
あの日見た夕日の輝きは忘れない。 今日の夕日はあの日に似た、美しい色だった。 どんな宝石でも生み出せない、色褪せない輝き。 一年ぶりに墓石の前で手を合わせる。 彼女が好きだったカーネーションを墓の前に供えながら。 君は、飢餓で死んだ。飢餓といっても言葉通りの意味じゃない。 愛に飢えてたんだ。愛のせいだ。 愛のせいで、君は死んだ。 僕は君のおかげで救われた。 両親のいない僕にとって、君こそが愛そのものだった。 僕の心は満たされた。僕はそれで満足してしまったんだ。 「辛い時は、泣いていいんだよ。泣いてみよう?」 僕は、君から教えてもらったんだ。 辛さも痛みも、全部吐き出せる魔法を。 今の僕は、昔とは違う。嫌なことは拒否できる。 主張の発表だって怖くないし、脅しにだって屈しない。 今の状態で、昔に戻れるなら。 僕自身を犠牲にしても君を救いたい。 君には色んな道がある。そう教えてあげたい。 でもそれはきっと、絶対叶わない。 君が死んでから、40年は過ぎたんだ。 君と一緒に読んだ漫画に出てきた宇宙船が造られたり、空を飛べる機械とか、友達とどこでも話せたりする機械もできた。 そんな時代を君と一緒に過ごせないのは、辛いんだ。 君と一緒に色んなことをして、色んなところに行きたかった。 でも、もう遅い。今気づいたって、過去は戻らない。 だからあの時、最後に君が顔を見せてくれた時。 辛そうな表情をした君に、僕は言えばよかったんだ。 愛に飢えてた君に、僕が言える言葉が一つだけ、 なんの事情も知らない僕が言える言葉が たった一つだけ、確かにあったんだ。 もう遅いけど、君にこの言葉を送りたいんだ。 君に届いてくれると嬉しいな。 辛い時は、泣いてみよう?