花咲クズ

5 件の小説
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花咲クズ

小説はまったく読まない人間です

大好きなのに

人を殺した。 全部自分のせいだ。そう、理解していた。 ー 「お邪魔しまーす!」 「いらっしゃい」 優しい声が聞こえて耳が温かくなる 「ゆーくんの家はもう第二の実家よ〜」 「まったくー早く手洗っちゃって。今から作るから」 「は〜い」 付き合って3年。 未だにラブラブな私たち。 毎月、3週目の金曜日はこうしてお家デートをする。 今日は何したんだろ。そんな考えを頭の片隅にビールの缶を片手に取った。 プシュっと弾ける炭酸の音と缶が擦れる音が同時に聞こえた。 ゴクリ…1週間の疲れが一瞬で取れるほどに美味い。 「カーッ!うまーい!」 あまりの美味しさに声を上げた時、目の前にお皿が置かれた。 湯気の中で輝くもやしに、黒いブラックペッパーが沢山入っている。 「召し上がれ」 「いただきます!」 毎月恒例の、ゆーくん特製もやし炒め。 いつにも変わらず辛くて美味しい。 こんな日々が幸せで仕事も頑張れる。 ゆーくんのおかげで今週も頑張れた。 来週からも、またゆーくんのおかげで頑張れる。 私は、ゆーくんの存在に支えられてる。 本当にありがたい。 本当に大好きで、大切な存在。 でも、知っている。私は、全部知ってる。 ゆーくんは浮気をしている。 今も隣の収納で息を潜めているのも、知っている。 「ちょっと散歩しに行こっか!」 手ぶらで、暗く涼しい道を2人で歩く。 でも、聞こえてる。 ゆーくんちの、ドアの音。 きっと出ていったんだ。本当にドブネズミみたい。 「ねぇ、ゆーくん。」 「なに?」 「私ゆーくんのこと大好き。」 「僕も大好きだよ。」 「でもさ、ゆーくんは浮気してるね」 「え、え?してないよ。」 ぎこちない笑みを浮かべて、動揺しきった声をあげる。 「こんなに大好きなのにするわけないじゃん。」 だんだんと明るくなる道路。私は、 ゆーくんを押していた。 鈍い音が夜の街に響く。 でも、それ以外聞こえない。 自分の呼吸と、鈍い音が頭の中で繰り返し響いてる。 ゆーくんの情けない姿も、繰り返されてる。 ー 「ふ、2人で飲んでて、散歩しに出たんです」 「そしたら私が転びそうになって、」 震える声で言い訳した。 「本当に?浮気されて喧嘩になった、とかじゃなく?」 警察は私を疑って、何度も同じような質問をする。 「そんなことしません。本当に彼が大好きで、押したりしません。彼も、浮気なんて絶対しません」 そう言って、泣き出してしまった。 自分の意思じゃない。泣きたくないけど、泣いてしまう 「わかりました。今日はもう帰っていただいて結構ですので。お気をつけて。」 「し、失礼します」 私は嘘つきだ。本当は彼を押した。 彼も浮気をしていたし、カッとなって押した。 紛れもない事実。 家に帰って、ベッドに横たわった。 喪失感と罪悪感に押しつぶされそうで。 でも、信じられなくて、夢のよう。 私は、気づいたらキッチンに立っていた もやしを取って、彼が作っていたように、作った。 (そんなに胡椒入れるの?) (だってこれくらい入れないと薄いって騒ぐんだもん。) (わー!なんかいい匂いしてきた!) (もうすぐ出来るから座ってて) 恨んでたはずの彼との記憶が浮かぶ。 涙で視界が霞む いや、これは湯気なのか、分からない。 力の入らない手で弱々しく箸を握る。 「やっぱ、辛いなぁ…」

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ゲーム

あぁ、実にいい人生だった。 子供と孫に囲まれて、最期がこんなに幸せでいいのかねぇ、 感覚がなくなっていく。来世も娘を娘にしたいし、孫を孫にしたいわぁ、 ピピピピ、 (人生シュミレーション 貴方のスコア) スコア? そうだ。シュミレーションゲームしてたんだ。 その事実に気がついた瞬間、 さっきまでの感動、寂しさなどの色々な感情が半減していく。 「いやぁ、神ゲーだったぁ、!娘ちゃんいい子だったし!」 登場人物への感情がどんどん他人事になっていく。 「このゲームで学んだことを活かして生きていこう!」 所詮ゲームだけどね!

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ピザ

「ピザって無限に言ってみろよ」 冗談で言ったのは9歳の時のこと。 あれから随分と時が経った。 もう地球にいる人間は2人だけ。 もうすぐ僕らは死ぬ。 死ぬまで言い続けるなんてなんてやつだ。 彼に感激しながらそのまま僕は眠った。 目が覚めると白く、美しくてとても眩しい場所にいた。 ここが天国とやらか。 気がつくと老人と羽の生えた男児が前にいた。 「よくここまで来たな。 今から生まれ変わりの準備をするから目を瞑って座ってなさい。」 老人はそう僕に告げた。 僕はその命令に従うと気づいた時には知らない女性に抱えられていた。 そうして僕は順調に育っていった。 彼のことなんて忘れかけいた5歳の誕生日 公園で“ピザ”とずっと言っている子供に出会った。 母親は飽々している様子だった。 僕はその子供に近づいて聞いた。 「ねぇ、ここは?」 「ピジ。」

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想像

「私宇宙人なの。」 彼女が僕の隣でそう呟く。 彼女はそう言うが、にわかに信じ難い。 宇宙人の存在を完全に否定するわけではないが、 僕の同級生として日々を過ごし、僕の隣に座り、僕の肩に頭を乗せているこの“可愛い彼女”が「宇宙人」だなんて、ありえない話だ。 だいたい、なぜ人間の姿でここにいるのか。なぜ、とこのまま話し続けると長くなりそうなのでやめておこう。 「へぇ〜、いいね。」 僕はそう答えることしか出来なかった。 彼女はその返答に驚きはせず、クスッと微笑んだだけだった。 「じゃ、私帰るね。また来るね!」 そう言って彼女は帰っていった。 彼女らしくない嘘は僕を動揺させたが、同時に僕を喜ばせた。 決して変態というわけではない。もう一度言うが、僕は変態というわけではない。 決してだ。断じて違う! 僕がふと時計を見ると0時を回っていた。 「もうこんな時間か。そろそろ寝よう。」 布団に入るとドアが開き、彼女が部屋に入ってきた。 眠気で動けない。 その瞬間僕は悟った。 彼女の嘘は 嘘ではないのだ。 彼女は最初から僕に嘘などついていなかったのだ。 僕が想像する宇宙人とは違っただけだ。 逃げなかった後悔などしていない。 愛する人の手で死ねるのだから。 彼女は最初から僕に嘘などついていなかったのだ。 そんな思考を頭に巡らせているうちに 彼女はあの可愛らしい姿が嘘だったような、恐ろしく、美しい姿で 僕の首を食いちぎった。 彼女は不味そうな顔をして 意識が朦朧とする僕を置いていった。

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適当な君と

生徒たちの騒がしい声とうるさい蝉の鳴きごえが聞こえるお昼休み。 涼しい日陰に2人きり。 黙々とお弁当を食べていると、すずが口を開く。 ー 「2人で心中するの。どう?」 「そうしよっかぁ」 きっと、私は今ぎこちない顔をしている。 全てが終わるというのに何故か軽々しい君。 そんな君が大好き。そんな想いはそっと私の胸にしまう。 「何その顔笑」 「なんでもない!」 ー ひぐらしが鳴く頃にローファの音を響かせる。 「もうすぐ着くよ!」 これから2人で死ぬっていうのになんだか楽しそうで、ちょっぴり死ぬ怖さが和らいだ。 それでもやっぱり死ぬのはこわい。 正直まだ生きていたいけど生きているのは辛いし苦しいから。 揺れるスカートと白い肌。風になびく真っ黒な貴方の髪の毛。 もう少しで全てが終わる。 覚悟は決めている。 心残りはない…はず。 「私将来ゆーちんとシェアハウスしたーい!」 「できるかなぁ…でもさでもさ!」 小学生が横を通る。 小さな2人は笑い声をあげて踏切を渡る。 「ね、ねぇすず。やっぱりやめない?」 私は震えながらそう言った。

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