ジグザグ

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ジグザグ

砂糖となめくじ

大好きな友達がいた。2人でよく愚痴りあっていた。 死にたいんじゃなくて消えてしまいたい。 生きてた跡もなく、足元からすぅっと。 すると通りすがりの魔法使いが願いを叶えてくれた。 彼女は紅茶の砂糖になってさらさらと跡形もなく消えてしまった。 私はなめくじになって塩の山にダイブしたけど醜い跡がぐじぐじと残ってしまった。 私に似合った最期だと思ったから満足だった。 しかし残された家族が懸命に私たちの蘇生を試みた。砂糖になった友達は魂も跡形もなくて元には戻せなかったけど、私は体の手がかりとそこに残した満足の感情があったから、あっさり蘇生されてしまった。 あっさりではなくて母がわんわん泣きながらヒステリーに世界中を駆け回って方法を見つけたことをのちに知る。父が蘇生した私に、ドロップアウトした人用の施設のパンフレットと、勉強はしておきなさい、と一言つぶやいた。私は一度消えてスッキリしたから、うん、と素直に返事した。 蘇生して帰った、その日の夕食はオムライスだった。オムライスが好物だなんて言ったのは、小さい頃でずいぶん前なのに。両親と話したことなんて最近なかったから、今の私の好物を知らないのも無理はない。そういえば好きな食べ物なんて、今は特になかった。 紅茶に溶けた友達の家族は、さめざめ泣いていた。音もなく泣いてる姿が、リアルだなと思った。 砂糖なんて綺麗な愛される物になって消える勇気は私にはなかった。 消えた彼女を尊敬するわけではないけど、取り返しのつかないことをしたとも思わなかった。生き延びた私はこれから鈍感な大人になっていくんだろう。

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砂糖となめくじ