ぴいじい

30 件の小説
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ぴいじい

ぴいじいです。なろうとカクヨムで活動している文系大学生 よろしくお願いします!長編・短編、両方書きます なろう:https://mypage.syosetu.com/1840847/ カクヨム:https://kakuyomu.jp/users/peagea ツイッター: @pea_gea

荷物追跡

便利な時代になったものだ。 スマホからいつでも、自分の荷物がしっかり届いているか簡単に確認できる。 おっ、俺の荷物も今はあの家へのトラックの中か。 ちゃんと届けてくれよ、大事な届け物だからな。 まあ残念なのは、箱を開けた時の、あいつら2人のビックリした面が見れないことか。 形さえ留めてないあいつらの宝物を見て、どんな顔しやがるかな。 大学時代の「借り」を、今あいつらの大切なもので返してやってるんだ。 受け取れ。

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荷物追跡

人喰いザメ

湘南のとあるビーチに、人喰いザメが出たらしい。 4人が相次いで噛まれ、そのうち1人は右足を失った。 そこにいた誰一人、サメらしき姿を見ていない。 あれからサメは行方不明のまま、5年が過ぎた。 夏の行楽シーズン、快晴の砂浜は海水浴客でごった返していた。 私は中学の同級生と一緒に、地元のこのビーチにやってきていた。 事件があったのは小学生の夏休み。あの時は誰もが怯えて、海にも簡単には近づけなかった。 今となってはそんな雰囲気はどこへやら。誰も気にしないで、みんな周囲を気にせずはしゃぎ回っている。 「久しぶりだなあ、海水浴なんて!」 同級生が懐かしそうに話した。 「サメ事件以来だよ。早く泳ぎたいなあ!」 そう言い捨てて、彼女は我先にと海の中へ飛び込んでいった。 「ちょっと! 人多いし気をつけてよね!」 「わかってるって〜!」 私の注意を真面目に受け取る様子もなく、彼女は客の間をするすると泳いで行く。 さすが彼女。水泳部なだけあって、すごくなめらかな動きだ。 気づけば自分が目で追いつけないほど、遠くの方に行ってしまっている。 じゃあ自分もと、私は足を海水につけようとした。 その時だった。 ああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!! 突然、断末魔のような声が砂浜中に響き渡った。 「サメだ!サメが出たああああぁぁぁぁ!!!!」 その声で、楽しそうにはしゃいでいた客は一気にパニックに陥った。 動きづらい水の中を、客たちは悲鳴とともにバシャバシャと砂浜に一直線に向かってくる。 私はその波に押し戻されるように、海から離れた場所に退避した。 被害者は、やはり噛まれていた。 体が砂浜に引きあげられた跡には、脚の断面から溢れる真っ赤な血液が不気味な線を描いていた。 人々は嘆き、怯え、祈りと救いを求めていた。 次は自分かもしれない。そう思うと、私も怖がらずにはいられなかった。 あれ以降、私は同級生と会えていない。遠くの方に行ったっきり、私の方へは戻ってきていないようだった。 大丈夫だろうか。もう帰ってしまったのだろうか。そんな不安が恐怖とともに襲ってくる。 ふと背後に気配を感じて、私は後ろを振り返った。 「あっ」 思わず安堵の声がでた。同級生が立っていた。 「大丈夫だった? 怪我は? 怪我はない!?」 「……」 畳み掛けて、彼女安全を確認する。しかし、俯いた彼女から応答はなにもなかった。ずっと、黙ったままだった。 「へへっ」 急に、彼女は静かに笑った。顎から鼻のあたりまで、真っ赤に染まった口元を私に見せるようにして。 私の口からは、言葉が出なかった。 その光景で、ただただ立ちすくんでいた。 「あーあ」 彼女は顔を上げると、向こうに見える海の方を見つめながら呟いた。 「久しぶりに、美味しかったのになあ……」

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人喰いザメ

除夜の鐘

消えて、消えて、また消える。 見ていても何も感じない。 鐘をつけば消し去ってくれるというけれど、特別大きな何かが消えるわけでもない。 あーあ、私も早く、消し去りたいな。 振り返ってみれば、私のうしろには誰もいない。 私で最後か。 そうであってほしいと思っていた。巻き込みたくなかったから。 101、102、103。 ゴーン、ゴーンと音が響き渡って一段ずつ階段を上がっていくたびに、なぜか心臓の鼓動が大きくなる。 怖くない。怖くないのに。そうやって暗示をかけて、どうにか自分自身を落ち着かせた。 105、106、107。 前の人がつき終わって、ついに私の番が来た。緊張しながら、綱を手に取る。 どんどん鼓動が加速して、鼻呼吸が荒くなり始める。落ち着け私、これで終わりなんだから。 スー、ハー 最後に大きく息を吸って、私は大きく勢いをつけて鐘をついた。 そして私は消し去った。私自身を。 新年が、私抜きで始まる。

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除夜の鐘

カフヱイン

今日も客はいない。 薄暗い電球が照らす中、私はカウンター前の薄汚いキッチンに立っていた。 大人の雰囲気が漂うジャズをスピーカーから流しながら、私はハンドルを強く回す。 ガリガリと音を立てながら、中の豆が削れていく。 この感触と音。これがコーヒー職人としてのやりがいだ。 味わえるのは、真に豆と愛し合った者だけだろう。 やがてハンドルが空回りすると蓋を開け、粉々になった中身をペーパーフィルターに注ぎ込む。 そこに沸騰させた湯を、上からポタポタと、水滴を踊らせるように垂らす。 すると粉からぶくぶくと、何か大きなものが底から込み上げてくるように、小さな泡が溢れ出してきた。 素晴らしい。豆たちは今日も私を愛している。 そして泡が出なくなり始めたあたりで、私からの目一杯の愛で豆たちを湯に溺れさせる。 フィルターの底から大量の愛の産物がこぼれ落ちてゆく様子は、いつまで経とうが見飽きない。 私が愛を注げば注ぐほど、豆たちは大量に黒い産物を滴らせる。 だからある程度で止めなければならない。注ぎすぎて逆に味がしなくならないように。 私と豆たちの、小さな愛の証拠。 純白の陶器に溜められたその証拠に、私は口づけをして一気に飲み込んだ。 ああ、感じる。少し甘くて、酸っぱい。ちょっとビターだけれども。 じわじわと思い出される、あの日の記憶。君たちに初めて触れた時のことを。 だから、やめられない。 今日は何度、君たちと口づけを交わしただろう。 でも、少しだけ休ませてくれ。 もう10日も、寝ていないのだから……

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カフヱイン

あなたたち

あなたたちを愛していた。 だから、あなたたちに愛されたかった。 滑るような艶やかな輝き。そこから漂う自然の香り。 僕はそれだけで、幸せになれた。 なんでだろう。昔はものすごく嫌いだったのに。 あなたたちは、拠り所のない僕の、最愛の友人になってくれた。 僕が愛していたから、ずっとその愛を感じて幸せにいられるように、 僕はあなたたちに四方から囲まれる空間を作った。 何段もの木の棚の中に、背を向けて並ぶあなたたちを見るだけで、 ずっとずっと、僕は癒されてきた。 時に触れて開けば、大量の黒い記号が僕の顔を目掛けて大群で襲いかかってくる。 それは僕をいじめるものではなくて、自分に知ることのできる喜びを与えてくれた。 新世界への扉が、ガチャッと音を立てて開く音がした。 ずっとずっと、これに包まれていたい。そう思えた。 だから今でも、こうしていたい。 本望だよ。上から降りかかってきたあなたたちに押しつぶされて死ねるなんて。 どこか遠くで、置き忘れた携帯から不愉快な警報が鳴り響く。 左右上下に床が動いて、あなたたちはどんどん落ちてくる。 僕は、あなたたちを最後まで愛したよ。 そうか。 あなたたちは、僕を最後まで愛してくれたんだね。

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あなたたち

菓子工場の真実

とある工場の悲惨な内部事情についての報告。 それは某著名な菓子メーカーの所有する工場で、都市から離れた田園地帯の一角に社屋を構えていた。 表向きは何も異常はなさそうで、とても清潔感の保たれている敷地だった。 早速、我々調査団は工場内へと潜入した。 「よ〜〜うこそぉいらっしゃぁいましたぁぁぁーー!!」 異常に出迎え人のテンションが高い。我々ひとりひとりの手を握っては力強く振ってくる。まるで小学生だ。この時点で、我々は彼らになんらかの異常が起きていることを察知した。 建物の中へ入る。特に飾りっけのない素朴なロビーを過ぎると、大きな更衣室のようなものに通された。そこでいちいちうるさい従業員たちに急かされながら、我々は白いウェアを身に纏った。 「こぉれからご案内しますねぇ〜」 諸々の準備が整ったところで、我々は生産ラインのある製造セクションへと足を踏み入れた。 驚いた。 案内役の従業員とは裏腹に、彼らはただ黙々と目の前の作業に従事しているではないか。約100人の製造員が、一心不乱に取り組んでいる。とても勤勉のように見えた。 しかし、その感動は一瞬にして砕かれた。作業員たちに少し近寄ってみたのだが、何かおかしい。しっかりと手は動いているのだが、目が死んでいる。本当はロボットではないのかと一瞬疑ってしまうくらいに、彼らの目は生気のないもので瞳はピクリとも動かなかった。 彼らの左手には、パン生地でできたような球体。その中央部分を、右手で持った麺棒の端を使ってぐいぐいと押していき、穴を開ける。穴が開いた球体はレーンに戻され、次から次へとレーンで流れてくる球体を手に取っていく。 我々は気付かされた。 そうか、こんなにも冷酷で虚無なものだったのか。だからこんなにも狂ったような人間しかいないのか。 これが噂の、 球体から穴をくり抜いてドーナツにするバイト……

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菓子工場の真実

夏のかごめ

  かーごめーかーごーめー どうも、皆さんこんにちはー、AKIMAS TVデェス!って言っとりますけどねー 本日は、ホラー企画で、最近噂の、徳島の山奥の古民家に、お邪魔しておりますー なんかここ、とんでもない霊が、出るらしいんですよー   かーごのなーかのとーりーはー カメラさん、いないんですよ。予定空いてないからって。だから今日は完全に、ひとり、デェース! それにしてもねー、中、めっちゃ暗いですー。障子とか、イロリ、っつーんだっけ、はまあまあ見える感じかなー   いーつーいーつーでーやーるー まあね、俺にしちゃあさ、こんなん怖くないですよー。所詮霊なんて言われてもさ、信じれないしー。 …… なんか床、めっちゃミシミシ言ってますけど、ダイジョブかいなこれ。 よし、じゃあ今度はこのお襖の部屋、入ってみようと思いまーす!   よーあーけーのーばーんーにー うわっ、涼しっ! なんか襖だけで分かれてるのにここだけめっちゃ寒い…… おっ、窓あるやんかー。こいつか、犯人は! ちょっと明るくなってきましたねー。夏だし、朝4時半とかかな、今。 部屋はねー、ちょっと狭い感じかなー。畳10枚ぐらいですねー。   つーるとかーめがすーべったー えっ、何これ! 何この絵! びっくりしたわぁー! 鶴と…… 亀? でも待って、なんか赤くなって…… 待って待ってこわっ、急に電話鳴ったわ…… しかも知らん番号よ、え、出てみるか? もしもし?  「うしろのしょうめん、だーあれ?」

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夏のかごめ

コートのあの子

とにかく、彼女が来てよかった。 あれから一度も学校に来ていなかったのに、今日突然遅刻して姿を現した。 あれから全く変わらない姿のまま、再会を喜ぶ友人たちと楽しそうに会話している。 声をあげて笑うと、校内でずっと着たままでいる分厚そうなコートが揺れ動いた。 「それじゃ、あとでね!」 彼女はそう言うと友人たちの輪から抜け出し、上へと続く階段をまた登り始めた。 俺はすかさず追いかけた。 久しぶりに見た彼女の姿を発見した時、俺はなぜか彼女と話したいという大きな衝動に駆られた。 ずっと心臓を押さえつけていた何かが疼き出して、上へ行け、声を出せ、と本能が叫ぶ。 でも、話せない。タイミングもわからないし、何を話せばいいのかも。 だんだん近づいてきた。あと7段ほどの差まで、彼女は近づいていた。 「あ、あの!」 勇気を出して声を出した。 彼女は足を一瞬ピタッと止め、俺と視線を交える。 何か言葉が出るはずだった。少しでもいいから、話さないと。 適当に挨拶でもと、俺は口を開けようとした。 しかし、彼女は俺を待つ素振りも見せず、今度は急足で階段を登り始めた。 「ま、待って!」 咄嗟に俺も背中を追う。 彼女は最上階まで到達したところで、そのまた上へと続く階段を駆け上がっていった。 その先は、ほとんど日常的には使われない屋上スペースへつながっている。 俺は彼女が辿ったルートをそのまま、屋上への階段を登った。 この先には、外に出る扉がある。 俺の目が扉を捉えた時には、彼女の背中との距離はあと少し…… えっ? なんだ、あれは。 不意に、俺は立ち止まった。 その隙に彼女は扉を開けると、勢いよく外へと飛び出した。 俺は衝撃を受けた状態のまま閉まりかけたドアに手をかけ、思い切り押し開けた。 いない。 彼女の姿はない。 心地よい秋風だけが吹くのみだった。 俺は数秒前の記憶を呼び戻した。 そうだ、俺は見たんだ。 コートの下からチラッと、黄金色の毛の束がぶら下がっているのを。

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コートのあの子

オブリヴィオン

僕は知らない。 何もわからない。 みんなああだこうだ言うけれど、僕にはちっともわからない。 変なことを言えば人が笑顔になるのがわからない。 流れゆく目の前のメロウな映像を見て、人が涙を流すのがわからない。 何かをもらった時に「ありがとう」なんていう暗号を用いるのがわからない。 自分のものを壊されたときに大きな声で怒鳴るのがわからない。 ジロジロと見られて顔を赤らめるのがわからない。 ゲームに負けて地面にうずくまるのがわからない。 本当に、何もわからない。 だからそこに見える人たちが、寝ている人が木の箱に入れられていくのを見て泣くのが、僕にはわからなかった。 寝かせたのは、僕なんだけどなあ。

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オブリヴィオン

無人島からの手紙

拝啓、あなたへ。 今あなたが読んでいるこの手紙は、どこかもわからない無人島から送っています。 話せば長くなってしまうのですが、どうか読んでいただきたいのです。 私の乗っている船が、4ヶ月前に転覆しました。私は波に飲み込まれ、気づいた時には知らない無人島まで流されていました。ただ生きていたことだけ幸いだったと思います。 島を散策しても他の乗組員は誰もおらず、どうやらこの島にいる人間は私だけのようだとわかり、私は最初は絶望のどん底に沈んでいました。しかしそんな状況においても、私は生きようと決心したのです。 島の木になる実、そこらの草、なんとか濾過した海水や雨水、虫。口にできるかもしれないと思ったものは片っ端から食べて生活を営み続けてきました。1人だけというのは寂しいですが、その分いろいろなことに自由に挑戦できたのが大きな楽しみでした。 しかし、私はやってしまいました。毒を飲んでしまったらしく、体を壊してしまいました。おまけに食べられそうなのは、もはや見つかりません。食べ尽くしてしまったのです。 この手紙が、私の生きた証明になるようにと願い、見知らぬ地のあなたに手紙を書きます。 でも心配しないでください。私は元気にやっています。 なぜなら、私は骨になった今でも島中を駆け回っていられるのですから。

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無人島からの手紙