藤原水面
2 件の小説滲む
行き交う人々の足元からその陰を認識するのは難しいことである。親指のささくれを撫でながら柱の前で彼を待った。 彼との関係において言えば私は常連である。回りくどい言い方をするのは友人とは呼べないからだ。今日は来てくれるのだろうか。私は夜の真ん中で火をつけた。私専用の炎である。左手をポケットにしまい、お金があるか確認する。 早く彼は来ないだろうか。虫が寄ってきては振り払う。暑さに空気の重量感が増す時期だ。 待ち合わせから30分が経つ。遅いと思いつつも待つことしかできない。もう一度着信拒否の履歴を見る。充電が2%しないことに気づく。時間を潰せることもなくなった。 彼の安否が気になりだす。私の鼓動も早く動きく。汗がもみあげから一筋。伝うのを感じる。夜中でもまだ暑い。 私は彼に何があっても待つことにした。45分が過ぎた頃だ。誰かが来るまで待ちたかった。彼じゃなかったとしても。それが私にとって必要な時間だ。 1時間が経ったころだった。親指のささくれを剥がしてみたら大量に血が出てくる。何度吸っても、止まらないどころかさらに勢いを強める。手首にまで滴るほど大量である。血を擦っても滲むことなく軽やかに落っこちていく。一粒が際立っている。綺麗なワインレッドなのでより一層不快感が増した。 粒だった光がだんだんと近づいてくるのが分かった。長身の男2人のように見える。彼ではない。こもっている声で話かけられる。私と彼の共通知り合いだったようだ。2人に連れられて車に乗る際に気づく。もう夏は終わっていたのだ。
夢と人と自然
自分には羽が生えていないことに深く絶望します。飛びたい気持ちを揺すると粉のように振り落ちるのです。 高いところに行きたいと思い、歩道橋を登ります。標識と視線が合います。私よりも大きい。それは脅威で、今にも支配されそうです。 ダイナミックな字や記号には形容し難い支配力があるのです。 見下ろす自動車やトラックは小さく見えます。もはや弱々しく、運搬するためだけの奴隷にみえてしまうのです。交差点で止まっているのが、道に迷ってしまった子犬のようで愛でたくなります。 標識になった私は同期の信号機くんと一緒に、案内してあげます。子犬たちは譲り合える偉い子たちでした。 見上げると太陽との距離が近くなったように思えます。太陽と私の間を二羽の鳥が通り過ぎるのでした。