滲む
行き交う人々の足元からその陰を認識するのは難しいことである。親指のささくれを撫でながら柱の前で彼を待った。
彼との関係において言えば私は常連である。回りくどい言い方をするのは友人とは呼べないからだ。今日は来てくれるのだろうか。私は夜の真ん中で火をつけた。私専用の炎である。左手をポケットにしまい、お金があるか確認する。
早く彼は来ないだろうか。虫が寄ってきては振り払う。暑さに空気の重量感が増す時期だ。
待ち合わせから30分が経つ。遅いと思いつつも待つことしかできない。もう一度着信拒否の履歴を見る。充電が2%しないことに気づく。時間を潰せることもなくなった。
彼の安否が気になりだす。私の鼓動も早く動きく。汗がもみあげから一筋。伝うのを感じる。夜中でもまだ暑い。
私は彼に何があっても待つことにした。45分が過ぎた頃だ。誰かが来るまで待ちたかった。彼じゃなかったとしても。それが私にとって必要な時間だ。
1時間が経ったころだった。親指のささくれを剥がしてみたら大量に血が出てくる。何度吸っても、止まらないどころかさらに勢いを強める。手首にまで滴るほど大量である。血を擦っても滲むことなく軽やかに落っこちていく。一粒が際立っている。綺麗なワインレッドなのでより一層不快感が増した。
粒だった光がだんだんと近づいてくるのが分かった。長身の男2人のように見える。彼ではない。こもっている声で話かけられる。私と彼の共通知り合いだったようだ。2人に連れられて車に乗る際に気づく。もう夏は終わっていたのだ。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2025/10/25 16:57
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
藤原水面
ロックバンドが好きです。主にエッセイや日記を書きます。