すまる
39 件の小説私にあなたは必要無い
ー十年前ー 「ママ見て!今日も算数のテストで百点取ったんだよ!」 「あらすごいじゃない!じゃあ今日の夜ご飯はミユカの好きなシチューにしょうかな〜」 「ほんと!ママ大好き!」 わたしのママはやさしい わたしがテストでまんてんを取るとこうして、私にごほうびをくれる わたしはそんなママが大好きだ ママはわたしに可愛いようふくを買ってくれたり、ゆうえんちに連れて行ってくれたりもした ママのママ、わたしのおばあちゃんはママがちっちゃい頃に死んじゃったらしく、きっとママはおばあちゃんにしてほしかった事を、わたしにしてくれているのかもしれない ママはかわいそうだ だからこそ今のやさしいママがいる ー現在ー 「数学七十八点ってどうゆう事?!」 「ごめんなさい。でも、今回は平均点自体低かったから…」 「私は言い訳を聞いてるんじゃ無いの。わかったら早く勉強しなさい!」 「ごめんなさいママ。次は頑張るから…」 「そう言ってあんたの点数が上がった事一度でもあった?それに最近友達と遊びすぎよ。次の期末までは誰とも遊ばず、休日は家で勉強する事。」 私のママは優しい ママが怒っているのは私のせいだ 私が不甲斐ないからママに迷惑をかけてしまっている もっと頑張らないと もっと頑張って、もっといい点数取って、そしたら昔みたいに、ママに褒めて欲しい ママに頭を撫でて欲しい そのためには遊んでられない 私が勉強していると、LINEが来た 友達からだ 『今度の週末さ、ミカも誘って三人で遊び行かない?』 遊びの誘いか 悪いが今私はそんなに暇じゃ無い 『悪いんだけど、私行けない。だから二人で楽しんできて』 この断る作業が一番面倒だ 『そうなんだ。まさかまた勉強?偉いけどムリはしないでね』 『うん。ありがと。頑張る』 そうしているうちに、いよいよ期末テストの日がやってきた 私はいつも通り、答案用紙にシャーペンを滑らせる ふいにママの顔が脳裏をよぎった このテストで私が悪い点数を取ってしまったら、ママはどんな顔をするのだろうか 今思えば、勉強や成績以外で、ママから褒められたことがない ここで私が悪い結果を残してしまえば、ママにとっての私の存在価値すらなくなる気がしてきて、ふと怖くなってしまった 文字がうまく書けない 手元に目をやると、私の手は震えていた 怖い 大好きなママに嫌われたくない テストを続けられない 頭が回らない だめだ、このままじゃ いやだ 「はい。そこまで。手を止めて後ろから答案用紙を集めてください。」 テストが終了した 私は半分程しか書けていない答案を、後ろの席の女の子に渡した もう何も考えられない 頭が真っ白だ 後のテストもこの調子で繰り返し、低得点をとってしまう それからしばらくは、ママの顔を見ることができなかった −数日後− 「お帰りなさい。今日はテストの返却日だったよね。どうだったの?見せて」 私はママに言われるがままに、テーブルの上に答案用紙を広げた その途端、ママの雰囲気が変わった 私は取り繕うように必死に謝罪した 「ごめんなさい。次は頑張るから…今よりもっと勉強して、今よりもっといい点数取るから…ごめんなさい。」 「もういいわ」 「え?」 「これから私はあなたに何も期待しない」 「どういうこと?」 「もう私にあなたは必要ない」
はえとりぐさ
今日も誰とも会わなかった 風の音を聞きながら 湿った空気に身を任せる そんな一日だったな … あー、つまんない なんのために生きてんだっけ? 食べるため? 増えるため? どれも私にはしっくり来ないな もういいや こんな分かりきったこと考えても無駄だ 今日はもう寝よう おやすみ 眩しい もう朝か あとちょっとだけ寝たかったな でもなんか今日は、久々に誰かに逢える気がする 理由なんか無い ただ、なんとなく 噂をすればいいカモが来た ちょうどいい 今日はあいつに相手になってもらおっかな あいつは私の不思議な何かに、吸い寄せられるように、こちらに向かって来た 私もなんで奴らが、私の何に吸い寄せられてるのかは、よくわかんないだけどね 強いて言えば匂いかな? そいつが私の目の前まで迫ってきた まだ まだ まだ あと少し 今だ 私はそいつに後ろから抱き付いた 今までずっと溜め込んでたストレスを抱き潰すように 少し強く抱きしめすぎたかな そいつはすぐに動かなくなった なんだ もう終わりか 久々でワクワクしてたのに 味気ないな まあいい 飽きは誰だってくる なーんてことを考えてたらもう夜か 今日は幾千もの星が宙を舞っていた この景色を、綺麗と思わなくなったのはいつからだろう? だめだ 何も感じない もう私は、誰かの夢を噛み潰す事しかできない 弄るだけ弄ったら、あとはどっかに吐き捨てる それを何度も繰り返す どうか残りの余生には、何か生きがいを見出せますように
カナブン捕まえた
「お前またそんなの捕まえたの?」 「うん。網戸に張り付いてたから。」 「…。」 「あっ。そういえばレンって虫嫌いだったよね。」 「まあ。でも、ダンゴムシとてんとう虫はいける。」 「カナブンは?」 「足がでかいから無理。」 「そうなんだ。でも顔はよく見ると可愛いんだよ。ほら。」 「わかったから、それをあまり近づけないで。」 「ごめん。ちょっと逃してくるね。」 カナブンの羽音 「あっ。」 「やべっ。」 「ちょっと待ってよ。急に飛んだんだけど。」 「ほんとだ。」 「ほんとだじゃねーよ。とりあえず窓開けて。」 「うん。」 窓を開ける音 「全然出て行かないね。」 「さっきからずっと天井をうろうろしてるだけだしな。」 「どうしよ。」 「ユズってこのまま捕まえられる?」 「無理だよ。届かないし。」 「だよな。」 「…」 「…」 カナブンの羽音 「嘘でしょ。こっち来ないで!」 「レンに止まったね。好かれてんじゃない?」 「別に嬉しくないんだけど。ちょっと、とって。」 「はいはい。…ん?」 「どうした?」 「あっ!」 「だからどうした?」 「これよく見たらカナブンじゃなくてコガネムシだ!」 「そんなこと今はどうでもいいんだけど」 虫の羽音 「うわ最悪。二匹目入ってきた。」 「そういえば窓空けっぱだったね。おっ、コガネムシ取れたよ。」 「ありがとう。その子逃がしてきて。」 「うん。わかった。」 (二匹目の方はどうしよう。というか、うちカナブン出過ぎじゃね?) 「おっ、戻ってきた。ちゃんと逃がしてきた?」 「もちろん。」 「よかった。」 「それよりあの子は、さっきの子に比べて大人しいね。」 「うん。今回のカナブンは楽にいけそう。」 「あれカナブンじゃないよ。」 「じゃあ何?コガネムシ?」 「いや、ハナムグリ。」 「どっちでもいいって。」 「ハナムグリの見た目は結構違うよ。」 「確かに言われてみれば違うような…」 「でしょー。」 ユズがハナムグリを手の上に乗せる 「よいしょっ。」 「ユズってなんでそんなに虫触れるの?この間だって、ゴキブリ素手でいってたよね。」 「あー、あれね。」 「流石にあれは引いた。」 「えー、ひどいな。」 「冗談だよ。ごめん。」 「いや。全然いいんだけどさ。私だって、これがおかしいって自覚あるし。」 「でもそのおかげで、俺がゴキブリ駆除せずに済んでるから、むしろありがたいよ。」 「そう言ってくれるとちょっと嬉しい。」 「それは良かった。」 「じゃあ逃すから窓開けて。」 「了解。」 窓を開ける音 「ばいばい。また遊びにきてね。」 「できれば俺が家にいない時間で頼む。」 「…」 「…」 「これが一期一会ってやつか。」 「そう…なのか?」
メリーを私に
ああ、夜が終わっちゃった 昨日は楽しかったな あんなに笑ったのいつぶりだっけ? 覚えてないや 毎日がクリスマスならいいのに でももう酔いも覚めちゃっし 雪も溶けちゃった 来年もまた私にメリーがやってくるのかな? そしたらまた炭酸の泡に、私のくだらない思いを預けてみてもいいのかな? 私はイエスさんのことはよく知らないし、友達でもないけど この人のおかげで、聖夜が訪れるのならば あの狭い畳の部屋で、祈りぐらいは捧げないと どうかあの夜を、世界中の誰かしらが、覚えてくれていますように 道路端に作った、土だらけの雪だるまは まだ原型をとどめていた
天使になった君へ
朝日が僕を照らした 眩しい… 木漏れ日から刺す光が、僕には眩しすぎた ああ、今日も寒いな 白々とした景色の中、大空に羽ばたく君が、僕を見つめていた 君は、まだ扱いの慣れていない翼を、必死にはためかせていた そんな目で見つめても無駄だよ 僕はまだそっちには行けないし、行きたくない 悪いけど、後少しだけ待ってくれ 君にもう一度触れられるその日まで 僕は君を忘れない だから 後少しだけ待って欲しい いや違うな 待てないのは僕のほうだ いつまでそこにいる気だ? 頼むから、早く降りてきてくれ もう一度その声を聞きたい ただそれだけだ 僕の願いも虚しく、君は遠い空の向こう側へ羽ばたいた 僕の天国はこれで終わり 君が落としていった一枚の羽が、僕の手に舞い落ちた 白銀に輝く、美しい羽だ その羽が、寒さにかじかんだ僕の手を、温めてくれた気がする それは、天使がくれたとびきりの贈り物のような はたまた、亡者が遺していった呪いのような いや どちらでもいい ごめんね。やっぱ自分のために生きてみたい そしたら、いつか君がしてくれたように 誰かに僕が生きた証を刻みたい それに どうせ僕は、死んでも天使にはなれない だからまあ。あれだな 「生まれ変わったら、また会おうぜ。」
堕ちるとこまで堕ちようぜ
もう貴方を離さない とうの昔に決めていたことだ 貴方が私を求めていなくても、私は貴方が欲しい それは誰でも無く、貴方が教えてくれたことだ もし貴方が私の手を振り解いても 私が諦めることはないだろう このまま地獄まで道連れだよ 私にあんなこと言ったくせに、今更逃げようだなんて いくらなんでも無責任じゃない? 二人っきりの甘ったるい部屋で、今日も裏の裏しかない愛を 私が飽きるまで語り尽くそう そうだな、その後は映画でも観ながら理想に浸ろう まったく、私は妄想だけは一丁前だな 最初は、貴方が私を縛り付けていたのに 気が付けば、私の方が貴方に依存していた 貴方のスカした顔が、少しづつ私で染まってゆく 嬉しいよ すごく嬉しい 貴方の世界に、今私が存在できているだけでね 私は初めて、貴方に何かをあげられる気がする あっ 時間だね 外で貴方を呼ぶ女の声がする さあ怖がらないで このまま修羅に墜ちよう 言ったでしょう このまま地獄まで道連れだよ
景色はもう見えない
またいつもの毎日だ 起きて食べて糞して寝る。 その繰り返し そんな普通が今の私には どんなものよりも尊いものに見える 私の毎日に、貴方はもう居ないはずなのに 今日も貴方の分の食器を用意したり 誰も居ない部屋で「ただいま」と言ってしまった おかしいよね 誰かそうだと嗤ってくれ 貴方は私の日常にほんのちょっとだけ、スパイスをくれた 次は何をくれるのかと期待したが 最悪だ 貴方は呪いを残して、私の前から消えてしまった いくらなんでも、こんな仕打ちはあんまりじゃ無い? 私は床を眺めた 貴方の足跡でも探しているのだろうか どうせもう消えて無くなっているのに いい加減前を向こう (そんなのできない) あの人のことは忘れて自由になろう (無理に決まってる) 私は有耶無耶な思いだけを抱いて 望んでいなかったつまらないエピローグに 片足を突っ込んだ
私は弱かった
私は悪くない 貴方のせいだからね あなたが離してくれないから 私もあなたを離したく無くなる 最悪だ こんなはずじゃなかったのに この環境が私を脆くする 今だって誰かが私を呼ぶ声がするのに 行かなきゃ そろそろ貴方とお別れしないと ありがとう いつも私と一緒にいてくれて 疲れているはずなのに、貴方はいつも嫌な顔一つも見せなかったよね もう時間だ でも私はやっぱり貴方と一緒にいたい 貴方と離れたくない いつも愛してるよ「布団」
ルルイと影売りの少女
「どこだここは?」 僕は目を覚ますと、大きな広場の様な場所にいた。 (僕はさっきまで信号を待っていたはずだ。) でも僕はここにいる。 考えられることは、あの時に僕は車に轢かれて死に、ここは死後の世界であるということだ。 辺りを見渡すと、広場の端の方に一つの屋台の様なものが見えた。 (元の世界に戻るための手がかりを掴めるかもしれない。) そう思った僕は、とりあえず屋台に向かう事にした。 その屋台の看板にはこう書かれていた。 (影屋…?) 屋台の上には黒いものが大量に並んでいた。 僕が黒いものを凝視していると、屋台の裏から一人の少女が出てきた。 「お兄さん、お客さん?」 まだ幼い声で少女が話しかけてきた。 まだ十四ぐらいだろうか。少女は少し茶色みがかった髪を結び、古びた白いシャツに、黒いスカートを履いていた。 恐らくこの世界では少女の方が長い。 もしかすると少女は、元の世界への戻り方を知っているかもしれない。 僕は少女に質問した。 「少しこの黒いのが気になってね。それより一つ聞きたいんだけど、ここはどこだ?元の世界に戻るには、どうしたらいい?」 僕の質問を、真剣な表情で聞いていた少女は、その質問に丁寧に答えてくれた。 「ここは生き物が死んだ後にたどり着く場所、いわば『死後の世界』です。ここに来たとういことは、お兄さんは何らかのことがあって死んでしまったのでしょう。でも安心してください。ちゃんと現世に戻る方法はあります。それはここで影を買い、もう一度物体になること。そうすればお兄さんはまた、新しい人生を歩むことができます。」 なるほどな。つまり 「ここにある影を買えばいいんだな。」 「はい。」 そう答えた少女の笑顔が、僕には少し悲しんでいる様に見えた。 この黒いものの正体は影だったのか。 影を売る店。だから「影屋」か。 屋台に並んでいる影は、一つ一つ形が違っていた 『バッタの影』 『猫の影』 『馬の影』 そして 『人の影』 当然買うなら人の影一択だ。 でも影は、それぞれ値段も違っていた。 人の影の値段が一番高い。 それでも生まれ変わるんだったら人がいい。 「どの影にするかは決めましたか?」 少女が僕に話しかけてきた。 「この人の影にしたいんだけど」 「人の影ですね。かしこまりました。」 そうゆうと少女は、人の影をレジに運び出した。 彼女が手際よくレジを打ち始めているのと同時に、僕は財布の中を探った。 「『人の影』一点、〇〇〇〇ウトになります。」 最悪だ。 商品の確認を僕にしてきた少女が、僕の様子を尋ねてきた。 「お兄さん、どうかされましたか?」 人の影を買うには〇〇〇〇ウト必要だ。 でも今の僕の財布には、〇〇ウトしかない。 人の影を買うにはお金が足りなかった。 「すまない。影を買うにはお金が足りなかった様だ。お金が貯まったらまた来るよ。」 そう言って店を去ろうとする僕を少女が引き止めた。 「まって。お兄さん名前は?」 「ルルイ。」 「『ルルイさん』ですね。ありがとうございます。」 そうゆうと少女は引き出しから紙とペンを取り出し、僕の名前をメモし始めた。 「名前を教える分には構わないが、なぜその必要がある?」 「ルルイさんが影を買って生まれ変わったら、 今の『ルルイ』という名前はなくなってしまう。だから少しでもルルイさんが生きた証を残しておきたくて。」 少女が笑顔で答えてくれた。 紙を見ると、僕以外にもたくさんの人の名前が書かれていた。 きっと、今までの客全員の名前をメモしているのだろう。 僕は広場の隅で雑魚寝した。 朝起きると、僕は少女の店へ向かった。 お金が貯まったわけではない。 ただ一つ、重要な事を聞いておきたかったからだ。 少女の店に着いた。 でもまだ中が暗い。 流石に開いていなかったようだ。 落胆していた僕に、ある人が話しかけてきた。 「お兄さん。お金貯まったんですか?」 昨日の少女だ。 「まだだけど、というか、お兄さんって…」 「すみません。名前聞いといてあれなんですけど、こっちの方がしっくりきちゃって。」 「別にいいけど。それより、影を買うにはお金が必要なんだよね?」 「はい。そうですね。」 「それでさ、辺りには影屋以外に店が見当たらないし、お金ってどうやって手に入れるの?」 僕が昨日から抱えている疑問だ。 影を買うにはお金が必要だ。 だが、周りには影屋以外店が見当たらない。 そんな状況の中、どうやってお金を手に入れるのか気になっていたのだ。 「そうですね…例えば運よく落ちているのを拾ったり…」 結局は運か。 がっかりした僕に、少女が悪そうな笑顔で続けた。 「あとは、他人から奪う。…とか?」 やはり争いは避けられないか。 でも運任せよりかは、ずっと手っ取り早い。 「ゴホッゴホッ…」 僕がそんな事を考えていた時、少女がいきなり苦しみ出した。 僕が少女のそばに駆け寄った。 そして、とんでもない光景を目にしてしまった。 そう。少女の指先が透けていたのだ。 「君…これって…?」 「やっぱり、そろそろみたいですね…」 「どうゆう事だ?」 「私がここに来てからだいぶ経ちます。これは私より以前に影屋をしていた方から聞いた話なんですが…」 少女は次の言葉を言うのを躊躇した。 だが覚悟を決めたようだ。 「ここに千年以上いると、存在が抹消されるみたいです…」 少女は笑っていた。 だが透け始めた指先は確かに震えていた。 僕は少女の足元を見ると、違和感の正体に気づいた。 出会った時から感じていた違和感だ。 「君、影は?」 「ありません。」 やっぱりな。 「影を持つものは、ここにはいられなくなります。」 「じゃあなんでここに来た時に君は、影を買ってさっさっと現世に戻らなかったの?」 「頼まれたんです。」 「頼まれた?」 「ええ。影屋を私の代わりに継いで欲しいと。」 「なぜ断らなかった?」 「私が断ったら、きっとあの人は、ここで寂しく死んでしまうから。」 「じゃあ自分がそうなっても構わないと?」 僕は少女の理解できない行動に怒りすら覚えた。 「もちろん私だって嫌ですよ。でも…」 続けようとする少女をよそに、僕は質問を続けた。 「君より前の影屋の人は、その後どうなったんだ?」 少女は話を遮られた事に、少し動揺していたが、質問に答えた。 「私が継いだ影屋で影を買い、そのまま現世に帰ったと思います。」 「じゃあなんで君は、その人のように後継者を探さなかった?」 「嫌だったんです…」 「?」 「誰かにこの仕事を押し付けて、自分だけ助かるのが嫌だったんです。」 お人好しも程々にしてくれ。 僕は返す言葉が見つからなかった。 でももう一つ、少女に聞きたいことがあったのを思い出した。 「君、名前は?」 少女の名前を聞いておきたかったのだ。 だが現実が、僕の前に立ち塞がった。 「分かりません。覚えてないんです…」 あまりの返事に僕は固まった。 でも確かに、千年もここにいれば、名前を忘れるのも無理ないか。 「そうか。今日はありがとう。また来るよ。」 僕はあまりの出来事に力が抜け、足を引きずるようにして店を後にした。 だが、やる事はもう決まっている。 僕は広場から出て、暗い路地を歩いた。 少女を助けるには金が必要だ。 少女が話していた通り、金を手に入れるには二つの方法がある。 一。 運よく落ちているのを拾う。 二。 金を持っている人から奪う。 正直一は当てにならない。 僕は二を試すために、人を探していた。 影屋の後継者の当てはある。あとは、人の影を買える金さえ手に入れば、少女は救える。 僕は冷たい路地を必死に走り回った。 でも人が見つからない。 僕には少女は救えないのか? 僕には少女が消えていく様を、黙って見ることしかできないのか? そんなの嫌だ あの子は誰よりも他人を思いやれる。 そんなに優しい子を見殺しになんてできない。 僕は暗い路地に一筋の光を見つけた。 人だ。 ここに来てようやく、僕と少女以外の人を見つけた。 背丈は僕より高い まともに行けば返り討ちに合うだろう。 僕は路地に転がっていた小さなハシゴを手に取った。 そして 僕は男の頭を殴りつけた。 男の頭からは血を流していたが、まだ逃げるだけの力があったようだ。 僕は男に飛び掛かり、立てなくなるまで男の頭を何度も殴った。 『あの子を救いたい』 ただその一心で。 僕は男の財布の中身をのぞいた。 〇〇〇〇ウトか。十分足りるな。 僕は広場に着くと、真っ直ぐに影屋に向かった。 僕はその時、自分では気づいていないだけで、相当疲れているようで、途中で地面に倒れ込むようにして寝てしまった。 朝起きると僕は、男の財布を持って影屋に向かった。 『これで少女を救える』 そう思うと心が躍った。 僕は影屋に着くと、舐め回すように中を覗いた。 そして、少女が中で倒れているのを見つけた。 僕は少女に駆け寄った 「お兄さん…?」 今までの様子とは明らかに違った。 昨日までは、指先のみが透けていたのに、今ではもう肘から下がなくなっている。 そして、今も侵食が進んでいた。 僕は握りしめていた財布を少女に見せた。 「お兄さん…それは?」 「金だよ…。これで君の影を買う。そうすれば君は助かるんだろう?」 「影屋は…どうするんですか…?」 僕が当てをつけていた影屋の後継者。 それは 「影屋は、僕が引き継ぐ。」 少女の目が、涙で潤んでいた。 「嫌…です…」 やっぱり。 君ならこうゆうと思っていた。 「そんなの嫌です…!私はお兄さんに生きて欲しい…だってお兄さんは…優しい人だから…」 「僕も君に生きて欲しい。」 そのためなら僕がどうなっても構わない。 これが影屋を引き継ぐと決めた、君も同じ気持ちだったんだろうな。 「このお金は…お兄さんが自分のために使ってください…。」 そうゆうと少女は、金を僕の手に握らせてきた。 体の侵食が、さっきよりも早くなっている。 もう片腕がない。 気づけば、侵食は膝下まで進んでいた。 もうこの子には、時間がない。 「君は生きたい?」 少女は首を縦に振った。 侵食が腰下まで進んでいる。 「大丈夫です…影なんか無くても…きっと生まれ変われる…ねえ、お兄さん…もしあっちで会ったら…また…友達になってください…」 侵食が胸の下まで進んでいた。 「もちろんだ。」 少女は今までで一番曇りのない笑顔を、僕に見せた 少女は生まれ変わって、また死んだらきっと、もう一度影屋を引き継ごうとするだろう。 もう一度少女が地獄を見るのであれば、ここで事切れるのが、少女にとっての救いなのではないか。 この千年間は寂しかったんだろうな。 この子にもう一度地獄を見せたくない。 「最期に君に名前をつけてもいい?」 「名前…?」 「君が生きた証を僕も残したい。」 とうとう顔も透け始めた。 「君の名前は…『シオン』だ」 「私の名前…シオン…ああ、そう言うことか…ハッハッ…お兄さん…洒落た事しますね…」 少女…いや、シオンが僕のこめた、名前の意味に気付いたようだ。 「ルルイさん…ありがとう…」 そろそろ侵食が完了してしまう。 「またね…」 シオンは腕の中から消えてしまった。 ーエピローグー 「あの、現世に戻るためには、影が必要って聞いて、影を買いたいんですけど。」 「分かりました。この中から選んでください。」 「えっと、じゃあ、『人の影』で。」 「かしこまりました。『人の影』一点〇〇〇〇ウトになります。」 「あっ、すみません。少しお金が足りなくて。また来ます。」 「あの、君名前は?」 「『シオン』です。」
花は枯れる
「物事にはいつか終わりがある」 人はいつか死ぬ 恋は必ず終わる 雨もいつか止む 花はいずれ枯れる 枯れない花があるとすれば それは、輝く事を忘れた偽物だ 死体は土に還る 人はすぐに忘れる 日はいつか沈む 夜はいずれ終わる 砂はやがて落ちる 酔いも覚める 根は腐る 葉は落ちる 咲きっぱなしの花を抱きしめたまま、地球は回り、時は進む あんなに楽しかった夜も、今ではもう幻だ こんな事を嘆いてる暇はない 私達は、白紙の明日を歩いていく